加速するDXは小売業をどう変革するのか?|先進事例と併せて解説

2021.02.18

更新:2021.03.30

2020年のビジネス分野の流行語大賞をもらえそうなほど、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」というワードを見聞きした人は多いはずだ。それというのも、コロナ禍をきっかけに、デジタルシフトに本腰を入れなければ、いよいよ存続を危ぶまれる企業が増えてきたからだろう。いうまでもなく、DXの波は流通業界にも押し寄せている。

小売業におけるDXの現状と課題

●小売業においてDXが必要な理由

最近では、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」というワードを、よく見聞きするようになったのではないだろうか? DXとは、クラウドサービスやAI(人工知能)といったITを活用することで、ビジネスや生活の質を高めていくことを指す。スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授らが、2004年に提唱した概念といわれている。

経済界でもDXが普及しており、例えば、インターネットを使って、リアル店舗の商品を在宅でも購入できるようにしたり、オフィスワークをリモートワークに転換したりする企業が増えている。

経済産業省は、2018年に公表したレポートの中で、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することと、DXを定義している。

ネット通販の動向をAIで分析してマーケティングに生かすなど、小売業も続々とDXを取り入れている。労働人口の減少や働き方改革による生産性の低下、消費者ニーズの多様化や細分化による販売効率のダウンなど流通業界を取り巻く環境は厳しくなっており、DXがそうした難題を解決する武器として、期待されているわけだ。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大で接触を回避したい心理が国民に広がったといった背景もあって、小売業のDXにも拍車がかかっているようだ。

では、小売業がDXを実施すると、ビジネスモデルや業務フローなどは、どう変わるのだろうか? 具体例から考えてみよう。

例えば、店頭のスタッフが接客する代わりに、ロボットやデジタルサイネージ(電子看板)が情報提供をすれば、顧客満足度の低下を食い止められる。IoT(モノのインターネット)によって商品情報とPOSデータや販売履歴データを連動させれば、顧客管理や販促に展開できる。「RFタグ」(RFIDの記事を参照)やセンサーを活用すれば、万引き予防のようなセキュリティ管理も可能になる。

店頭だけでなく、バックヤードの仕組みも変わる。物流業務にAIやIoTを導入すれば、物流センターやバックヤードでの搬入・搬出作業を自動化することもできるだろう。店頭の販売データや受発注データ、在庫データもリアルタイムでマッチングできるようになり、高精度の需要予測や販促、販売ロスの削減などにもつながるわけだ。

そうしたデータの集積・分析によって、経営層の判断や意思決定のスピードアップといったメリットももたらす。さらに、DXによって小売業だけでなく、卸やメーカーのデータもシームレスにつながれば、製品を無駄なく、効率的に生産・供給できるようになるなど、サプライチェーンの最適化にも結びつく。流通業界全体の競争力アップが、期待できるわけだ。

小売のDX化に欠かせないOMOとは?

ところで、小売業のDXにまつわる情報については、「OMO(Online Merges with Offline)」というワードも頻繁に出てくる。両者には、何の関係があるのだろうか?

OMOとは、ネットショッピングといったオンラインでの消費行動と、リアル店舗での買い物といったオフラインでの消費行動を融合する、販売手法や小売り形態を指す。ネット時代に対応した小売業の新しいビジネスモデルとして今、注目されている。

OMOに似ている概念としては、「O2O(Online to Offline)」や「オムニチャネル(Omnichannel )」がある。しかし、O2Oは、オンラインからオフライン(リアル店舗)に消費者を誘導する販売手法や小売形態、オムニチャネルは、リアル店舗やカタログ、ECサイトといった複数の販売チャネルで消費者と接点を持つ小売り形態であって、いずれかの販売チャネルを消費者に選んでもらうという点で、OMOとは異なる。OMOは、オンラインもオフラインも自由自在に使い、小売業と顧客が双方向でやり取りできるようにして、利便性や販売効率を高める仕組みなのだ。

ネット通販を利用する消費者が増えているが、“リアル店舗派”という消費者もまだ大勢いる。ただし、リアル店舗派も、ネット通販を必ずしも使わないわけではない。いつもはSMに足を運ぶ主婦でも、雨の日に買い物をしたいときや、飲料やお米などのかさばる商品を買いたいときには、ネットスーパーを利用するケースがある。

OMOでは、例えば、こんな販促が考えられる。鮮度が重視される魚介類は、リアル店舗での販売が中心だが、急な大雨が降って、店頭の売れ行きが落ち込んだとしよう。そこで、スマートフォンのアプリを使って、来店してくれた顧客に「雨の日割引きサービス」をすると告知してみる。とりわけ、仕事帰りによく店舗に立ち寄る顧客には、ヒットする可能性が高い。一方で、雨の日には店舗に来ないが、大の魚好きの顧客には、ネット通販のお試しサービスとして、「ボーナスポイント還元」といった特典をつけてみるといった具合だ。

実は、小売業がOMOを実現するには、DXが不可欠になってくるのだ。上記のような販促を仕掛けるにしても、DXによって詳細な顧客情報のほか、リアルタイムの販売データや在庫データが共有できていないと、実効性が上がらないからだ。

小売企業がDXを推進した場合のビジネスメリット

では、小売業がDXを推進した場合、どのような経営上のメリットが得られるのかを考えてみよう。

スタッフへの正確で迅速な情報伝達

店舗スタッフへの情報伝達では、トランシーバーや店内放送、スタッフルームの掲示板といった、さまざまな媒体が使われているケースが多く、タイムラグや情報の行き違いが生じやすい。伝達する情報をデジタル化し、コミュニケーションツールをスマホやタブレット端末に集約すれば、そうした問題は解消できる。

人事研修システムの簡素化

スタッフの勤怠管理でタイムカードを使用している場合、打刻忘れが多い、データ集計作業に手間がかかるといった難点がある。勤怠情報をデジタル化すれば、打刻忘れが激減し、データ集計作業の負担は大幅に軽減される。また、モバイルに研修用動画を配信したり、作業マニュアルを電子化したりすれば、必要なときにいつでもモバイルでデータを確認でき、集合研修も減らせる。密の状態を避けなければならないコロナ禍では、大いに役立つ。

セキュリティ対策の強化

例えば、「万引きGメン」を巡回させる代わりに、顔認証機能の付いたスマートカメラを導入すれば、店内の“要注意人物”を容易に識別できる。近くのスタッフのモバイルに通知して、警戒させたり、声がけさせたりするといった、効果的な対策が打てる。

棚卸しや検品などの業務効率化

商品の棚卸しや検品でRFIDを活用すれば、箱の中にある商品のデータも、リーダライタで外側から確認できるため、作業にかかる人手や時間を大幅に圧縮できる。在庫の中から、消費期限が迫った商品をピックアップし、売価変更で売り切ることもできる。前項の万引き防止にも使えるといわれている(RFIDの記事を参照)。

新しい買い物経験の提供

スマートカメラを活用すれば、どんな顧客が、どこの売場でどんな商品をカートに入れたのかといったデータを逐一、把握できる。デジタルサイネージや顧客のスマホなどを通じて、売場を通過する顧客に、近くの棚のおすすめ商品情報を知らせるといったこともできる。また、店内の顧客の動きから、最適な棚割りやレイアウト、スタッフの配置を割り出すことも可能だろう。

キャッシュレス化

キャッシュレスは、金銭のデジタル化である。小売業にとっては、レジ締め作業の手間や時間が大幅に省けるといったメリットが大きい。顧客にとっても、現金を持ち歩かずにスムーズな決済ができるといった、新しい買い物価値を享受できる。

外国人労働者の即戦力化

多言語対応機能をモバイルに搭載すれば、日本語の習熟が不十分な外国人も、スタッフに組み込むことができるようになり、人材確保や人件費の圧縮にプラスとなる。インバウンド顧客の対応にも活用できる。

小売企業におけるDX先進企業の事例

●ローソン

2020年9月に、次世代型コンビニエンスストアの実験店「ローソン Model T 東京ポートシティ竹芝店」をオープン。Telexistenceが開発する遠隔操作ロボット「Model-T」が品出しなどの軽作業を行う。

東京ポートシティ竹芝は、店舗業務の効率化を目指し、国家戦略特別区域計画の特定事業として認定を受けている。東京ポートシティ竹芝店は、ロボットによる店舗業務の省力化と品出し精度の検証のため、TX社の子会社が直接加盟店オーナーとして店舗を運営。そのため店舗デザインは、宇宙船を彷彿とさせるような近未来的なデザインになっている。

●三越伊勢丹ホールディングス

自宅にいながら、アプリを介してワンツーワンで販売員とつながるサービスを、2020年6月から実験的に始めた。専用のアプリをスマートフォンにダウンロード。スマホアプリ内でチャットやビデオ通話を使って接客受けることができる。そのままリモート決済まで可能。

伊勢丹新宿店のランドセル売場では、オンラインチャットによる相談受付やズームによるオンライン接客のテストも実施。

●イオン

2020年4月にオープンしたSM「イオンスタイル有明ガーデン」では、顧客自身がスマホで商品をスキャンし、専用レジで会計する「レジゴー」を都内で初めて導入。新しい買い物体験を提供する。天井に設置したカメラのデータを、買い物しやすい売り場づくりに反映させる。

●SECURE AI STORE LAB

監視カメラシステムや入退室システム等のセキュリティソリューションを提供する株式会社セキュアは、住友新宿ビル地下1階に未来型無人化店舗「SECURE AI STORE LAB」が7月13日にオープン。

利用者は事前に、氏名、クレジットカード情報などを入力して会員登録を行い、初入店時に店頭のカメラを利用して顔情報を登録する。一度顔認証が完了すれば、入店から退店、決済まですべて顔認証のみで済ませることができる。

アイスタイルトレーディングが運営する「アットコスメニッポン」と提携しており、「アットコスメニッポン」の化粧品を購入することができる。

小売業におけるDXの今後

2020年6月20日付の日経新聞によれば、米調査会社が、2020年のDXの世界市場(支出額ベース)が前年比10%以上拡大して、約1兆3000億ドルになる見通しと発表したという。

新型コロナウイルスの感染拡大による経済縮小の影響も受けているものの、幅広い業種でDXの増加傾向は続いているそうだ。日本でも、リモートワークの定着などが進んでいて、デジタルシフトは不可避といえる。小売業も、DXの推進が成長のカギを握りそうだ。

まとめ

労働集約型の小売業では、ほかの業種に比べて、DXはこれまで立ち遅れがちだったと考えられる。しかし、コロナ禍が引き金となって、社会のデジタル化が加速している。そうしたニーズの変化に対応できなければ、もとより小売業は生き残れない。

逆にいえば、小売業には、顧客情報と商品情報の統合・解析、それによる販売効率化、接客のデジタル化など、DXによる改善の余地は大きいといえる。いち早くDXを制した小売業が、消費市場の覇者となるかもしれない。

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