なぜ、サンドラッグはBrazeを採用したのか? オンラインをベースとした情報の一元管理への転換

2022.08.10

サンドラッグはドラッグストア、調剤薬局、ディスカウントストアを全国44都道府県で1250店以上展開。さらにウェブ、アプリの販売チャネルを通じたEC(電子商取引)も展開している。

同社では、コロナ禍の影響などによってお客の購買行動が変化、多様化したこともあって、店舗、アプリ、ECなど複数のチャネルでの横断的な購買がされるようになっているという。今回、中長期な視点から、お客を深く理解し、お客の行動データを基に店舗、アプリ、ECなどの複数のチャネルを通じてお客1人1人に寄り添ったコミュニケーションの実現を図るため、Brazeを採用した。

今回、Brazeの採用に至った背景や今後の狙い、さらに「そもそもECをどう考えたらよいのか」といった点について同社執行役員EC事業部事業長の田丸知加氏に聞いた。

インタビュー

田丸知加

サンドラッグ執行役員EC事業部事業長

ECとリアルの融合には情報の一元管理が必要になる

——今回、Brazeを導入したきっかけは。

田丸 昨年の11月からサンドラッグに執行役員として着任し、EC事業部の立て直しに着手している。

これはサンドラッグだけの課題ではないが、昨今のECとリアルの融合ということで日本の小売業、海外の小売業が取り組んでいる中、お客さまの情報を一元管理して、お客さまに対して適切なコミュニケーションを取るというソリューションが必要だということが前提にある。

ドラッグストアはお店で薬剤師や美容部員とやり取りをするなど、密なコミュニケーションがもともと必要な小売りだ。そうしたことをデジタルで実現しようとしたときに、いろいろなツールを拝見する中で、結果としてBrazeの場合は、お客さま1人1人、情報を欲しいタイミングにリアルタイムで対応でき、さらにカスタマイズの機能がたくさんあって拡張性があるということで、サンドラッグのニーズに応えられるツールと考え、今回導入することにした。

——店舗のデータとECのデータが一元管理できないといったことが課題としてあると。

田丸 これは日本のどこの小売りもそうだと思うが、まずリアルの店舗が前提にあって、どうしても後から来たECは外付けになっていて、かつ個別で運用している。それゆえに融合ができていない。

Brazeではそれを一元管理ができる。例えばお客さま1人で考えたとき、お店で買ったり、ECで買ったりといったカスタマージャーニー、購買行動がものすごく多様化している。

さらにSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などチャネルも無数にあることにもBrazeは対応できる。

——導入は進んでいるか。

田丸 いま、プロジェクトを走らせている段階で、少しは始まってはいるが、本格的に運用しているわけではない段階だ。

お客さまは、人によってアプリを開く時間が違っていたり、メールを良く見る人もいれば、アプリのプッシュ通知を見る人もいれば、お店に行ってからアプリを見る人もいるなど、タイミングも行動もまちまちだ。

その中で、お客さまに的確なタイミングに、的確なデバイスでコミュニケーションができるという点には期待している。

——カスタマイズもできる。

田丸 拡張性がある点、無限に広げられる点、がちがちに決まっていないところが逆に良いところと考えた。

——カスタマイズの管理は難しくならないのか。

田丸 まず、戦略、やりたいことを決めて、それに必要なことは何かということで、ドリルダウンしていくだけなので、難しくないとは思っている。やりたいことさえ決められれば、後はそこに何を持ってくるのかというところになるが、それはそれほど難しくないと思う。

「オンラインをベースにオフラインを考える」発想に転換する

——サンドラッグは今後、方向性としてどのようなところに向かうのか。

田丸 サンドラッグは専門性を重要視していて、健康だったり、美容だったり、ときには漢方のアドバイザーだったり、いろいろな専門性がある企業。その専門性を生かしたお客さまとの密なコミュニケーションをやっていくことを考えている。

いま、多くの企業はEC、アプリ、SNSをばらばらに展開していると思うが、「あるチャネルで一斉に」といったことでなく、SNS、EC、お店などいろいろなチャネルで的確にコミュニケーションを図っていきたい。

私はアマゾンに16年ほど在籍していたが、アマゾンもいま、アメリカではリアル店舗に手を出し始めている。また、前職はウォルマート・ジャパンであった西友ということで世界の小売りを見てきた。

その視点で日本の小売りを見ると、どこの会社もどうしてもリアルとネットが分断しているように見える。アメリカ、あるいは中国もそうだが、彼らは「オンラインがベースで、オンラインの中にオフラインがある」という構想になっている。

リアルからECを見ると全然違う世界のように見えるかもしれないが、オンラインの世界をメインにしてオフラインにも転用する、つまり、オンラインの仕組みをメインに小売りを運用していくことを前提にしている。

オンラインをベースにオフラインに使う、つまり、これまでの一般的な考え方とは逆になる。リアルがあってECを追加でやるのではなく、ECがメインにあってそれをリアルが使う。ウォルマートがそこに転換して、成功しているという事例もある。

日本の小売業はリアルがメインのためやむを得ないとは思うが、リアルの基幹システムをDXで入れ替えをするとか、アプリを作ったり、SNSでクーポンを配るといったことをやっているが、そこで大きな成果、イノベーションが生まれたかといえば、生まれていないのではないか。それはここに原因があるのかなと思う。

オンラインベースの大きな枠に向かって進んで行こうとしたときに、コミュニケーションのツールではBrazeが、やはり一元的にUIとして管理できるという点でも良いと考えている。ビッグピクチャーがある中の1つとして、今回採用するに至った。

——やはり、一元管理、リアルタイム性は大きいか。

田丸 お客さまも、アプリを使っていたり、ウェブを使っていたり、SNSを使っていたりとさまざまだと思うが、自分にとってあまり必要がないときに結構コミュニケーションが来るなど、割と情報があふれている世の中になっていると思う。

そのあふれている情報の1つとして扱われるとコンバージョンが悪くなるので、リアルタイムに見ているときに、スポットでコミュニケーションすることが今後、非常に重要になってくると思う。

お客さまによって、アプリを開く時間も違うし、メルマガを見る時間も違うし、プッシュ通知も集中してくると、読み飛ばされてしまう可能性もある。

——ドラッグストアでは健康という点でも、コミュニケーションが重要な業態であるが。

田丸 サンドラッグ店舗で健康相談もしているし、ECでも医薬品を買うときに薬剤師とやり取りするなど、いろいろ相談しながら買えるというのは、やはりドラッグストアならでは。

そういったところに関しても、お客さまに合った健康相談のご案内であったり、いろいろなイベントのご案内も将来的にはできると思っている。

——サンドラッグも今後はオンラインをベースにリアルを考える方向に転換するイメージか。

田丸 アイデアはたくさんある。

ECのビジネスで使える機能をオフラインで転用できることを前提に、いろいろな改善をいまちょうど行っている段階だ。

——どうしても発想として、リアルを基準にECを追加するという考え方になりがちだと思う。

田丸 組織も分かれており、ECだけこぢんまり、各モールに出店して、細々と運用しているといったところが多いと思う。

——今後、Brazeに期待することは。

田丸 やはり「カスタマーエンゲージメント」ということが、言葉としてはあるが、なかなか見えづらい。顧客第一のコミュニケーションを取ることによって、結果的に数字的なものは後から付いてくると思っている。お客さまがどれだけエンゲージメントを高めて、満足いただけるかというところが、非常に変わってくるのではないかと期待している。

田丸氏は、7月12日に開催されたBraze主催の年次イベント「FORGE Japan 2022」でも登壇した

Brazeの概要

その人に合った最適なコミュニケーションをリアルタイムで実現

消費者へのメッセージ配信をより精緻に行うカスタマーエンゲージメントプラットフォームの提供を事業領域とするBrazeは、2011年にニューヨークで創立され、20年11月からは日本でも事業を開始している。

現状、グローバルでは約1200社、国内では25~30社の取引先を持ち、取引先の業界はリテール、Eコマース、レストラン、フードデリバリーなど流通業にとどまらず、メディア、エンターテインメント、金融業界など多岐に渡る。

今回、サンドラッグがBrazeを導入したポイントとして、「一元管理」と「リアルタイム性」を挙げることができる。

一般的に、消費者へのメッセージは個別に対応した方がよいが、当然ながらそれを追求するとどうしてもエンジニアを含めた人員の工数が増える。また、そのバリエーションが限定的になりがちといった課題がみられる。対応するためにはそれなりの時間もかかるだろう。

社是として「Human Connection(人と人との心触れ合うつながり)」を掲げるBrazeは、まさにそれらの課題を解決することを目指し、新たなソリューションを提供しているという。

一般的にリアルでの対面であれば、相手の状態を考慮に入れながらコミュニケーションができるが、ことオンラインでのコミュニケーションの場合、相手の状態が見えづらい。そのため、その人に関係のないメッセージを一方的に送ってしまったり、見ていないチャネルで送ってしまったり、同じメッセージを複数のチャネルで送ってしまったりと、必ずしも相手の状態を理解した上でのコミュニケーションにならないという問題が起こりがちだ。

Brazeの社是である「Human Connection」には、「オンラインでもオフラインでも相手のことをしっかり理解した上で、その人に合った最適なコミュニケーション、最適な体験をリアルタイムに提供していく」という意味が込められている。

マーケティングは日常的に消費者にメッセージを送るものだが、一般的にその効率性を追求するがゆえに、本当にその消費者がそのメッセージを受け取るタイミングであるのか、欲しいコンテンツであるのかはあまり考慮されないのが現実だ。

その点、Brazeは視点を「消費者」に置く。消費者1人1人の理解を深めた上で最適な情報を提供することに主眼を置き、一方的にメッセージを送るのではなく、より消費者の心情に沿った形でコミュニケーションすることで、エンゲージメントを高めて行くことを目指すわけだ。

その上で、データを活用したマーケティング手法としてカスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)からカスタマーエンゲージメントプラットフォーム(CEP)への進化を標ぼうする。

CRMではデータを収集し、統合するが、それでは実際、それを活用できているかという点では疑問符が付く。CRMの進化の過程を追えば、まずはデータを集める段階があり、続いてそれに基づきつつも、パーソナライズ化されていないCRMが行われ、次第にそれが過去の行動をトリガーとしたCRMに進化してきた。

Brazeではそれをさらに、リアルタイムにパーソナライズ化されたCRMとして、それを「CEP」と定義し直し、目指しているということになる。

「人・消費者中心」ということで、消費者がいまこの瞬間、どのようなメッセージを、どのチャネルで受け取りたいかを理解することで、消費者の体験価値を高め、ロイヤルティを向上させ、最終的にライフタイムバリュー(LTV)を高めることで収益に貢献することが目標になる。

1つのプラットフォーム、UIで、小売業担当者だけで運用可能

各チャネルでシステムやデータベースが分断されていることは往々にしてあるが、その場合、例えばメールを見たか見ていないかを把握することなく、別のチャネルから別のメッセージを送ってしまうことが起こる。仮にデータの移行ができたとしても、時間やコストがかかることが多い。

Brazeの場合は、それを一元管理ということで、外部連携を含め1つのプラットフォームにあらゆるチャネルのデータを集約していることが強みだ。1つのユーザーインターフェース(UI)で無理なく使えるものになっている。

アプリのデータ、メールを開封したか、しないか、どのウェブページを見たかといった情報を全て一元管理でき、その上でそれをセグメント化し、それぞれのセグメントごと、さらに1人1人にパーソナライズされたコミュニケーションが徹底できるという。

それによって、ある消費者が複数のチャネルでどのような動きをしているかを把握できる他、リアルタイム性が高まることも大きな強みとなる。

例えば、店舗、もしくはECで買った商品の割引キャンペーンが翌日に送られてきたりすると、お客にとってその企業の印象は悪化するだろう。一元管理、リアルタイム性が重要であることはこうしたことに表れる。しかも、それがオンライン、オフライン問わずに行われることに強みがある。

小売業の場合は、店舗という拠点が広範囲に分散している他、1つの店に来店するお客も多数になるため、その数は膨大になるが、その辺りについても対応できる体制がシステム的に構築できているという。

例えばセグメントを作るといった施策を打つ際も、小売業のマーケティング担当者が設定からの運用ができるため、スピード感を持った施策の実施が可能になるという。

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