ザ・トップマネジメント Wolt Japan ナタリア・ヒザニシヴィリ ゼネラルマネジャー

2024.08.30

競合を意識するより、ユーザー、パートナーにとってのベストを追求、「ラストマイル」はウォルトが担う

――Wolt(ウォルト)の概要、グローバルと日本の状況について。

ヒザニシヴィリ ウォルトは、フィンランドのヘルシンキのスタートアップとして2014年に創業した。今年で10年目となる。日本での事業展開は20年、ちょうどコロナパンデミックの時期であったわけだが、日本市場においてオペレーションを始め4年目になる。

14年の創業以来、さまざまな国、さまざまな市場に拡張しようとしているところで、「ウォルト」ブランドとしては、いまは27カ国で展開している。ちなみに米国のドアダッシュを親会社として持つため、同社が展開している地域を含めると全31カ国での事業展開となる。

もともとは食品のオーダーを受けて(提携するレストランから)デリバリーをする事業から始まったが、その後、ビジネスをさまざまな領域に拡張をし始め、例えば生鮮食品やグロサリーなど小売業にも拡張している。「ポケットの中のショッピングモール」となることを標榜し、必要なものを何でもすぐにアプリで注文でき、お届けできるようサービスの質を高めている。

そこからまた、さらにビジネスを拡張する形で、「Wolt Drive(ウォルトドライブ)」を始めたという流れになる。このウォルトドライブでは、ウォルトのアプリやウェブサイトでなく、店舗が自分たちのウェブサイトで受注したものをウォルトがすぐに配達するという事業者向けサービスだ。

――自社で実際に料理を作って、配送することはしていないのか。

ヒザニシヴィリ われわれが常に念頭に置いているのは、「地域の事業者をサポートしたい」ということ。そこで、地域の事業者、飲食店に貢献できるサービスは何かを考えたときに「消費者からの注文を店舗につなぎ、商品をデリバリーする」というラストマイルをつなぐサービスを提供しようと考えたのが原点。

そういうことで、われわれがレストランを所有しているわけではないし、何かを調理をしているわけではない。各都市には、それぞれの地域に根差したビジネスをしている事業者・店舗があり、そうした事業者や店舗とパートナーシップを組み、彼らをサポートするのが、われわれのビジネスモデルである。

――食品にターゲットを当てた理由は。

ヒザニシヴィリ まずはサービスのデジタル化をしたかったということが一点。一般的に、飲食業界はデジタル化が進む余地がまだまだ大きい。業界のデジタル化を推し進める上でわれわれが貢献できる要素が大きい。

また、「食事」は、人が1日の中で行うことの中で頻度が高い行動の1つ。皆さん、平均的に1日に3回は食べる。そういった意味で、食事という頻度の高い行動に深くかかわるサービスを提供することで、事業者や店舗におけるわれわれのサービスの採用も促進され、パートナーと共に自社も早い成長が見込めると考えた。

ウォルトドライブを使うことで、事業者は「商品販売」に集中できる

――現状の日本の業容は。

ヒザニシヴィリ 日本市場では、現在24都道府県、41カ所でオペレーションを行っている。日々、サービスの提供エリアを広げようとしているし、またオペレーションの進化にも努めている。さらに新しいパートナーの獲得にも注力しながら、日本市場における事業を伸ばしていきたいと考えている。

パートナーというのは、われわれのプラットフォームに掲載してくれる店舗、そして、われわれのBtoB(対事業者)のサービスを使ってくださる事業者など、われわれのサービスを利用してくれるお取引先さまという意味になる。

――現在、注力するウォルトドライブ事業とは、具体的にどのようなサービスか。

ヒザニシヴィリ ウォルトドライブは、非常に高品質なデリバリーサービスを提供する事業者向けのサービスである。レストランや小売店が自身のチャネルで注文を受け、顧客への商品のデリバリーだけをウォルトが請け負うというものだ。

パートナーは、特に初期の投資をすることなく、ラストマイルデリバリー、つまり、注文された商品を顧客に配送することができるようになる。従来であれば、レストランや小売店は自分たちで配送担当者を抱え、車両の準備や地域設定など配送に関する全てを自分たちで準備する必要があった。

しかし、ウォルトドライブを利用すれば、そのような準備を一切必要とせずに顧客への配送が実現できる。その分、ウォルトドライブを導入したレストランや小売店は、商品の販売や調理など、彼らのコアビジネスに集中することができるということだ。

――ウォルトドライブ事業は、既存の事業であるマーケットプレイス(市場)と何が異なるのか。

ヒザニシヴィリ われわれは、3つの方向性を戦略の柱としている。1つ目はレストランのマーケットプレイス、2つ目はより新しい領域として小売店のマーケットプレイス、そして3つ目がウォルトドライブになる。

最初の2つ、レストランと小売店のマーケットプレイスというのは、ウォルトのアプリやウェブサイトにメニューや商品を掲載してもらう仕組みのことだ。消費者は、アプリなどウォルトのプラットフォームを使って注文し、その注文がレストランなどに送られ、その後、われわれによってラストマイルのデリバリーが行われる。

一方で、ウォルトドライブに関しては、デリバリーの品質、スピードなど含め、最初の2つと同じようなラストマイルのデリバリーサービスが提供されるものの、ユーザーがレストランなどが自分で持っているウェブサイト、アプリ、あるいは電話はその他のチャネルで注文する点が異なる。店舗は自らのチャネルで注文を受け、その注文についてウォルトのドライバーがユーザーに配送する流れとなる。

これは、レストランや小売店にとっては利便性が非常に高い。というのは、やはりレストランや小売店で、配送に関するシステムなどをいろいろと準備する必要がないからだ。また、自分たちで配送を行ったり、配送業者を手配する必要もない。

そういった意味で、本来それにかかってしまっていたかもしれない時間を、注力すべきビジネスに振り向けることができる。「ベストな状態の商品を販売すること」に注力することができるようになるという意味で、利便性は非常に高いと考えている。

――いま日本の特に大手企業のレストラン、小売店でウォルトドライブを活用している企業にはどのようなところがあるか。

ヒザニシヴィリ 大手から中小企業まで幅広く活用している。例えば、レストランであればすかいらーくグループ、くら寿司、小売店でも大手コンビニエンスストアが導入しているが、必ずしも大手だけではなく、中小企業でも導入が拡大している。

自前の注文のシステムを持たない企業の場合、われわれが提供する新サービスとウォルトドライブを組み合わせて、ウェブオーダーを受けられる仕組みを作ることもできる。特に中小企業などは、なかなか新しいテクノロジーを使ったシステムを構築するためのリソースをお持ちでない。そうした事業者でもウォルトのサービスを導入することで、最新のテクノロジーを活用したソリューションを簡単に導入できるようになっている。

一方で大手に関しては、ユーザーは例えばすかいらーくの自社プラットフォームを通じて注文する。それら自社プラットフォームはウォルトドライブと連携しており、その後、ウォルトがラストマイルのデリバリーを担当することになる。

ウォルトドライブはわれわれにとっては新しいビジネスライン(事業分野)だが、採用する企業が多く、非常に早い成長を遂げている。素晴らしいチームの努力と素晴らしいパートナーのお陰ではあるが、導入がかなり伸びていることからも、日本のマーケットに非常に合ったプロダクトだと思っている。

――中小企業にとって、マーケットプレイスを使う代わりにウォルトドライブを採用することにどのようなメリットはあるのか。

ヒザニシヴィリ その企業のニーズに応じて、われわれはそれぞれのニーズにあったソリューションを提供している。例えば、マーケットプレイスに店舗を掲載するメリットは、その中小企業は特にマーケティングに対して投資をすることなく、ウォルトのマーケットプレイスを通じて集客ができる。

一方、中小企業であっても、自分たちですでに一定の顧客層があり、自分たちの既存のチャネルで集客はできるが、配達基盤の整備が負担になっているという場合、ウォルトドライブを使えば、自身の(集客)能力を最大限生かしながら、彼らの顧客に対してより良いサービスを提供できる。われわれとしては、それぞれ異なるニーズに対して、適切なソリューションを提供することが重要だと考える。

物流の「2024年問題」は、ウォルトの重要性を高める

――いま、物流の「2024年問題」と言われているが、ウォルトとしての受け止めは。

ヒザニシヴィリ 長距離ドライバーの稼働時間の上限規制によって、長距離輸送を担うドライバーの数がより多く必要になっている状況と理解している。この影響で、中距離、短距離を担っていたドライバーが、長距離ドライバーの労働市場にシフトしている動きが見られている。

すると、今度は中距離・短距離輸送の配送を担うドライバーが不足するようになり、ラストマイルも含め、配送を行う企業にとってはドライバーを確保することが困難な状況が生じている。このような企業にとっては、ラストマイルの配送においてウォルトを活用することで、配達人員を需要に応じてフレキシブルに確保することができる。つまり、ウォルトのサービスがより重要になってきており、このためにウォルトドライブへの注目が高まっている。

――つまり、ウォルトにとってはビジネスチャンスであると。

ヒザニシヴィリ ウォルトは地域の事業者と共に成功することを目指している。地域の事業者が向き合う問題に、われわれはソリューションを提供できる。ぜひ地域の企業が継続的に顧客に商品を届けられるよう貢献したい。

――一方で、人手不足が叫ばれる中、配送パートナーの確保に課題はないか。

ヒザニシヴィリ まず、ウォルト側では配達に関するアルゴリズム(計算方法)を常時、進化させている。そうすることで、配送パートナーにより効率的に配送をしていただけるようになる。より短い時間で、より多くの場所に商品を届けられるよう、日々テクノロジーを進化させている。

――配送パートナーには、若者、主婦などどのような層が多いのか。応募状況はどうか。

ヒザニシヴィリ (配送パートナーの層については)登録時に属性を登録していないので、そうした統計は持っていない。ただ、いろいろな方がいることは確かだ。

特にいまのところ人手不足の状況は見受けられない。配達パートナーが少なくなっているというような状況ではなく、何か懸念しているということはない。

――日本のクイックデリバリーではUber Eats(ウーバーイーツ)の存在感が大きい。先日も小売業との取り組みを強化するために、店舗でウーバーイーツのドライバーが買物代行する新機能の「ピック・パック・ペイ」も発表した。その辺りの動きをどう見ているか、どう差別化していく。

ヒザニシヴィリ 詳しいことは分からないが、パートナーが抱える問題を解決するサービスを提供していることは素晴らしいと思う。

他社との差別化については、それほど意識していない。どちらかというと「いかにお客さまが喜んでくださるサービスを提供するか」、さらに、「いかにパートナーさまに対して最適なサービスを提供するか」に注力している。ユーザーさまにとって正しいと思うことをやっていきたいと思っているし、常に改善できるように努めている。

例えば、ウォルトが提供するカスタマーサービスに対する、お客さまからの評価、フィードバックは非常に良いものであり、そういった意味では私は非常に誇りに思っている。

外注に依存せずに、社内のチームが実際にカスタマーサポートを提供しているわけだが、他にも例えばプロダクトチーム、エンジニリングチームも国内にいて、アプリの機能の拡張など、常にプラットフォームをさらに利用しやすいものとするために努めている。

ウォルトは、日本のお客さまのニーズに合ったサービスをフレキシブルに提供していきたいと考えている。単純に良質なものというよりは、「われわれとしてベストなもの」「本当に素晴らしいサービス」を提供していきたい

そのために常にイノベーションを起こし、ユーザーさま、パートナーさま、さらに配達パートナーの皆さまに対しても良いサービスを提供していきたいと考えている。

クイックコマースが今後のEコマースを方向付ける

――ウーバーイーツは日本でのサービスを16年9月、東京から始めたが、ウォルトは20年3月、広島から始めるなど対照的だ。あえて地方都市から始めた狙いは。

ヒザニシヴィリ そもそも、われわれのサービスは決して大きな都市だけで提供するべきでないと考えている。このため、同様のサービスがまだ行き渡っていない地域で、かつ、われわれがサービスを始めるにあたって最も合っている地域ではないかということで広島から始めた。

その後、東北や北海道でサービスをローンチしたが、地域の店舗の皆さまはすぐにわれわれのサービスを採用してくださるようになったし、また、地域のユーザーの皆さまからの評判も非常に良い。このため、幾つかの都市において、ウォルトは店舗のセレクションでナンバーワンにもなっている。

――日本のクイックコマースは今後どうなっていくと考えるか。

ヒザニシヴィリ 日本でサービスを開始してから4年間、クイックコマースの動向などを見てきたが、やはりクイックコマースの在り方は、世界の中でもいろいろと良い形で形成されてきているのではないかと考えている。

世界の中でも、非常に早く伸びている領域であると考えているし、今後のEコマース(電子商取引)を方向付けるものであると考えている。

やはり人々は忙しい。なかなか外に出て、買物をする時間を探す、見つけるのも非常に難しい状態ではないかと思う。なるべく買物をする時間を減らして、他のことに時間を費やしたいという方も多いのではないか。例えば、ご家族といっしょに過ごす時間とか。

――日本では、少子高齢化で高齢者の自動車運転免許の返納もあり、地方の買物困難者の増加が予想される。それに対して、クイックコマースの役割も大きくなるのでは。

ヒザニシヴィリ われわれのサービスを提供することを通して、地域に貢献したいと考えている。サービスの品質は常に進化させ続けていきたいと思っており、地方のそうした課題にも対応していきたいと考えている。

例えば、生鮮を含む食品や日用品などのデリバリーなど、われわれとして地域の課題解決に貢献できることは大きい。地域のニーズに応えて行くことが、非常に重要なことだと考えている。

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