食品ロスの問題とは?世界各国と日本企業・政府の対策事例を交えて解説

2022.10.26

2021.07.07

世界や日本での食品ロスの問題や食品ロス削減のための取り組みについて解説する。食品ロスで廃棄される食品は、基本的には、「本来食べられるのに捨てられてしまう食品」のことを指す。

国連が発行している2020年版「世界の食料安全保障と栄養の現状」報告書によると、飢えに苦しむ人の数は2019年に約6億9,000万人にのぼり、2018年から1,000万人、5年間で6,000万人近く増加したと推定している。

日本や欧米諸国では出生率が低下しているが、途上国を中心に世界全体では人口が増加傾向にある。そのため、これからもさらに飢餓に苦しむ人が増えていくこと推察される。食品ロスで生じる「食の不均衡」が解消は、飢餓問題解消の一助になると期待されている。

また食品ロスは廃棄のプロセスで地球環境への負担がある上、生産の過程で利用された水などの資源を無駄にすることになる。このようなことから食品ロス削減を目指すさまざまな取り組みが各国の政府によってされている。企業としてどのような取り組みがなされていのかも併せて解説していく。

食品ロスとは

まず食品ロスとは何か、そして世界での食品ロスの現状について言及したい。食品ロスとは、本来食べられるものを捨てることだ。

それは、食品を生産するために使用された土地や水、エネルギー、人材といった資材を無駄にしていることにもつながる。消費されない食品を生産することで経済的な損失が生じるだけではなく、無意味にCO2が排出されている。

食品ロスの統計を見る上で注意したいことは、食べるものとして生産されたものが飼料等としてリユースされた場合もカウントされることだ。人間が食すために作られたものはできるだけ食料として利用することが理想的だと考える。

また、2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の17の世界的目標の12番目の目標で、食品ロスの減少が目標に設定されている。

具体的には、『2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる。』という目標が設定されるなど、食品ロスは世界的に解決すべき課題としての認識が広まっている。。

世界の食品ロス:先進国における食品ロスの現状

ヨーロッパと北アメリカでは1人あたりの年間の食品ロスが280〜300kgだ。消費者によって廃棄される量が1人あたり年間95〜115kgで、後進国の6〜11kgと比較すると著しく多いことがわかる。

小売店や消費者の段階でまだ食すことが可能な状態で、廃棄される量が多い。防止策としては、小売業者が必要とする人に寄贈することや消費者の食品ロスに対する知識を啓発することだ。

世界の食品ロス:後進国における食品ロスの現状

サハラ以南アフリカと南・東南アジアでは、1人あたりの年間の食品ロスは120〜170kg程度。ヨーロッパと北アメリカしかし食料の不足している後進国にも食品ロスの問題がある。消費段階での食品ロスはほとんどないが、収穫から流通、貯蔵の段階での食品ロスが多い。

後進国は、南・東南アジアなど高温高湿地域であることから、腐敗による品質低下などが理由だ。また、貧しい農家は現金が必要なために、まだ未熟な作物を収穫してしまい経済価値を失ってしまう。

防止策としては、農家を組織化し、生産と流通の改善と市場の規模を拡大するなどだ。組織化することで、流通においても合理化されて流通の過程での品質劣化を防ぐことが可能になるだろう。

日本における食品ロスの現状

農林水産省による『食品ロスの現状』2018年によると食品由来の廃棄物等の量は2,531万トンで、そのうち可食部と推定される量は600万トンだった。内訳は、事業系食品ロスが324万トン、家庭系食品ロスは276万トンとなっており、家庭で排出する食品廃棄物が半分近くを占めている。

年間の食品ロスの量を1人あたりに換算すると日本は約50kg。これは1人あたりの米の消費量に匹敵する量だ。

確かに世界の先進国と比較して多い数字ではない。しかし日本の食料自給率は38%しかないことを考えると、日本は、大量の食料を諸外国から輸入しながら、大量に破棄していることになる。

食品ロス対策のために作られた日本の法律

食品ロスを減少させるために日本政府は法律を施行するなどあらゆる取り組みをしている。食品ロスはただ食品を無駄にしないというだけではない。上述の通り、食品ロスを減少することは、環境への配慮にもなるのだ。

食品ロスはゴミとして処理すると二酸化炭素が増加して環境の破壊の原因となってしまう。焼却したあとで残された灰を埋め立てることも環境に悪影響を与える。またゴミ処理事業経費が増加しており、国内全体で年間2兆円だ。

その上、世界には充分な食事が摂れず栄養不足になっている人が9人に1人の割合で存在している。これから人口が増加していき、2050年には20億人の増加により約97億人になると推測されているため、食品不足はもっと深刻になるはずだ。

そこでここでは、食品ロス削減のためにどのような法律が施行されているのかを見ていく。

食品ロス削減推進法で各自治体への影響

食品ロス削減推進法とは、正式には「食品ロスの削減の推進に関する法律」と名付けられ2019年10月に施行された法律だ。食品ロス削減のために国だけではなく、地方自治体ができることを明確にしている。

学校や地方公共団体との連携によって、食品ロスの削減についての正しい知識を普及することが目的だ。学校では備蓄食材を利用して子ども達に備蓄をすることの重要性を教育する。

例えば岐阜県土岐市で、小中学校の給食で「命を守る訓練・救給カレーの日」を決め、非常食のレトルトカレーを年に一度食べるといった取り組みをしている。

その他の取り組みでは、家庭で食品が無駄にならないように、余った食材や料理を使ったレシピを消費者庁がクックパッドで紹介している。ポテトサラダ入りお好み焼きなどユニークなメニューが豊富だ。

食品リサイクル法

2001年に施行された食品リサイクル法は、環境保護をしながら廃棄される食品をリサイクルし廃棄量を減少することを目的とする法律だ。食品産業に関わる事業者が食品を製造または加工している過程で発生する余剰品を再利用、または飼料や肥料などにリサイクルすることを義務付けている。

その結果、食品リサイクル法によって再生利用した量は1,218万トン。内訳は以下の通りだ。

  • 飼料化:904万トン
  • 肥料化:207万トン
  • エネルギー化等:107万トン

「エネルギー化等」は、メタン・エタノール・炭化というプロセスによって燃料や還元剤、油脂を製造している。

世界の食品ロスに対する対策

世界では食品ロスという意識のない時代から食品ロス対策にもなる習慣がある。例えばアメリカでは昔からレストランで余った料理を犬のために持ち帰るという「ドギーバッグ」が習慣になっている。

しかしそれだけでは不十分で年々食品ロスが増加している。そのため世界各国では政府が中心になって食品ロス削減のために対策を練っている。どのようなことをしているのかを見ていきたい。

EU:余剰する前に補償金

豊富な食料は同時に市場に出ると余剰してしまう可能性がある。それよりも市場に出る前に有効利用することをEUでは奨励している。

例えば、イタリアのエミリアロマーニャ州は1万1,000軒の農家がいる。豊作のときは市場に作物が集中しすぎる可能性がある。そこでエミリアロマーニャ州はEUのシステムを利用し、2012〜2020年の間に36トン以上の果物や野菜を寄付し、約1,800万ユーロの補償金を受け取った。市場での作物の値段も下がらず、多くの利益があった。

フランス:2025年までに食品ロスを半減することを目標に

フランス政府は食品ロス削減を目標にする協定で、2025年までに食品ロスを半分まで削減することを目標にすると発表した。そのために「EGALIM」といった法律を制定した。内容の一部を紹介する。

  • 400㎡以上の食料品店は余剰商品を廃棄することを禁止し慈善団体に寄付を義務付け
  • 年間売上が5,000万ユーロ以上の食品産業の事業者及び3,000食以上を販売する事業者も廃棄することを禁止する寄付義務をもつ
  • 廃棄し肥料にする前に、優先的に食品として利用することを推奨
  • 2021年7月1日よりレストラン等でのドギーバッグの義務付け

イタリア:政府と慈善団体が取り組む食品ロス削減

イタリアではもともと余剰食品を貧しい人たちに寄付することが盛んだったが、それでも食品ロスが増加しているため、2016年8月19日に食品などの寄付に関する法律を施行し、さらに寄付をしやすい環境を整えた。

また 2014 年に2月5日が「食品廃棄予防の日」と制定され、マスコミも含め多くのキャンペーンをしている。

このような流れから多くの団体が食品ロスを削減する動きを見せている。カトリック教会としての援助活動をしているカリタスの1団体であるカリタス・アンブロシアは、アムブロシアの食堂(Refettorio Ambrosiano)を運営している。60トンの食品を回収し、2万食以上の無料の食事を提供できた。

日本企業の食品ロスへの対策

多くの日本企業は食品ロス削減のためにさまざまな対策をしている。ここでは、その中で特に食品ロス削減に力を入れている日本企業を紹介する。

吉野家:全店舗で年間合計3,447トンの牛脂を回収

吉野家ホールディングスでは、全店で食べ残しを定性的かつ定量的に記録・分析を行い、そのデータに基づいて味のブレや厨房オペレーションの改善を行って、食べ残しを減らす取り組みをしている。

また、発生した食品残さ(食べ残しおよび厨房調理くず)は、店舗ごとに飼料化・肥料化などによる食品リサイクルを実施。牛丼商品の調理過程で発生する牛脂についても、100%リサイクルを全店(離島を除く)で実施している。

店舗で回収した牛脂は、全国10ヵ所の物流センターに運搬・収集され、その後、飼料や脂肪酸、製品原料、発電燃料として再利用するため、関連会社へと売却を行っている。

2017年度は、全国1,200店舗(2018年2月末)から収集した牛脂が年間合計3,447トン・229,805本の脂缶として出荷されている。

参考:https://www.yoshinoya-holdings.com/csr/compliance/society/topics.html

グリコ:食品ロスのための新商品開発など

グリコは食品ロス削減に積極的な企業で、以下のような取組をしている。

  • 品質管理を徹底して賞味期限を延長する
  • フードバンクへの寄贈(ヨーグルト、ジュース飲料、ビスケット、レトルト食品等)
  • 社員食堂のテーブルに農林水産省による食品ロス削減キャンペーンのマスコット『ろすのん』による啓発のためのテーブルトップ設置
  • 工場の食品残渣の有効利用(豚を育て豚肉を社員食堂で使用、食品残渣で肥料を作り保育園の菜園で使用)
  • ふぞろい品のアウトレット販売
  • コロナの影響でいちご狩りの中止によって余ったいちごを利用した「カプリコミニ大袋<いちご狩り>」を発売し、生産者の食品ロス削減に貢献

参考:https://www.glico.com/jp/csr/about/environment/foodloss/

ニッスイ:社員も参加する食品ロス削減イベント

ニッスイではイベント等を通して社員の啓発活動に力を入れている。

  • フードバンク『セカンドハーベスト・ジャパン』への食品の寄贈。セカンドハーベストから児童養護施設や母子支援施設等に配られる
  • 生ごみ処理機を導入し、工場で発生したキャベツの不要部分を自社で処理・肥料化
  • ニッスイ「缶切り部」での食品ロス削減についての啓発活動:備蓄食材である缶詰を利用した調理法のクラスを実施し、従業員・消費者(子どもも含む)が参加
  • 宴会料理を食べきる活動:参加人数×100円を国連WFP(World Food Programme:国連世界食糧計画)に寄付
  • ニッスイ本社フードドライブの実施:フードドライブとは自宅で贈答品などで余っている食材を持ち寄ってフードバンクに寄贈すること。
  • ニッスイの海外グループ会社であるシテ・マリン社(フランス)では、スマートフォン・アプリ「Too Good To Go」を導入し余剰商品を安く販売

参考:https://nissui.disclosure.site/ja/themes/140

山崎製パン:食材を使い切るための工夫

山崎製パン株式会社は食を大切にする試みに熱心な企業として、農林水産省や公益財団法人流通経済研究所のサイトでも紹介されている。

  • 流通のシステム管理を充実させることで、製品を作りすぎない(受注生産)
  • 科学的根拠に基づいて賞味期限の延長
  • 未利用食料の有効活用
    山崎製パン株式会社では、食品廃棄物と呼ばずに未利用食料と呼んでいます。資源として有効利用しようという意志の表れです。
  • フードバンクへの寄付(フードバンクから各福祉施設・団体へ食品が寄贈される)

未利用食料の有効活用の例を紹介する。

まるごとバナナではバナナを利用するが、製品の大きさを統一させるためバナナの切断が必要だ。切断出されたバナナを練りこんでバナナ風味のバウムクーヘンを作っている。

またサンドイッチを作った時に切断される食パンの耳で「ちょいパクラスク」や業務用パン粉を作る。業務用パン粉は「大きなメンチカツ」に利用される。

参考:https://www.yamazakipan.co.jp/shakai/kankyou/01.html

キユーピー:酸素を減らす技術で賞味期間の延長

キユーピーはマヨネーズの賞味期間を延長するために技術を進化させており、従来の10ヶ月

から12ヶ月に延長された。マヨネーズの賞味期間の延長は次のような技術を利用している。

  • 真空ミキサーの利用で製造中に酸素を混ぜない
  • 容器が多層構造で空気を通さない
  • 絞り出し口にアルミシールを貼り、空気を遮断した状態で販売
  • 口部に窒素を充填し空気を遮断
  • 材料の植物油から空気をできる限り取り除いたロングラン製法を採用

参考:https://www.kewpie.com/blog/2020/03/1730/

食品ロス減少のための日本での新事業

食品ロスを減少させることは、環境に優しいだけではなく企業にとってもメリットがある。廃棄が少ないということは、それだけ商品の経済価値が高くなるということ。そこで食品ロスを減少するための新事業も出てきている。

廃油リサイクル

廃油をリサイクルして各種プランクトン飼料や畜産用飼料、堆肥原料、タイヤ、石鹸などにリサイクルされていく。レストランやお弁当屋さんでは、廃油に凝固剤を使って固めて捨てていたが、もっとリーズナブルに廃棄できると喜ばれている。

賞味期限の延長が可能になる容器開発

例えば枝豆は1日しか保たなかったが、開発した容器を利用すれば4日になる。すでにアメリカ・アジアに進出、欧州への進出も準備中だ。

フードシェアリングサービスアプリの開発

デンマークで開発されたフードシェアリングサービスToo Good to Goは、欧州全体で利用が広がっているが日本でも同様に開発が進む。アプリを利用すると余剰食品を必要な人に安く販売できる。次のようなアプリがよく利用されている。

  • TABETE(タベテ)
  • Otameshi(オタメシ)
  • No Food Loss(ショクヒンロス)

食品ロス削減に貢献する通販サイト

レストランやテイクアウトのお店で余った食品を捨てずに済むように、通販サイトが増えている。スウィーツに特化したCake.jp OUTLETや一流料亭・旅館の味を届けるTASTE LOCALなど、ユニークなサイトが多い。

食品ロス削減は政府と企業が一緒に

食品ロス削減のための日本をはじめとした各国の対策について紹介した。政府の方針を受けて多くの企業も取り組んでいる。食品ロス削減は、食料を有効利用し食料が不足している人にも行き渡るようになるだけではなく、無駄に地球環境への負担をかけないことにもつながる。

無駄になった食品を焼却するときにCO2が発生し、灰を埋め立てることも環境悪化の原因だ。できれば食品は食品として再利用できるように、余剰食品をユースフルに利用していきたい。しかしどうしてもできない場合は、飼料・肥料などその他のことに利用し完璧に廃棄しないような取り組みを政府だけではなく、企業もしてほしい。

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