スマートシェルフとは?最新の開発・導入事例を交えて解説

2022.10.24

2020.12.22

流通業界でも最近、デジタル技術を活用した各種の“スマート”なITシステムが、続々と導入されるようになった。そうした中、セルフレジやスマートストアなどとセットで、「スマートシェルフ」なるものが取り上げられる機会が増えた。そこで、どんな仕組みなのか、どんな役に立つのか、そして、今後は普及していくのかといったことを紹介する。

スマートシェルフとは?

AIやIoTといったデジタル技術の発達によって、人間がいなくても自動で高度な機能を担える「スマートハウス」や「スマート工場」が普及している。そうした中、流通業界では、在庫管理を効率化する「スマートシェルフ」という新しいITシステムが、注目されるようになった。

シェルフとは“棚”のことで、店舗のバックヤードや陳列棚、倉庫のラックなどに収納されている商品を、ITの活用によって個別に自動管理できるようにした仕組みだ。

スマートシェルフでは、一般に「RFID」と呼ばれる通信システムの一種を利用する。RFIDは、商品名や価格、製造年月日といった商品の電子情報を入力した、「RFタグ」という大きさ数ミリほどの記憶媒体を商品に取り付ける。RFタグのメモリは、電波などによって非接触で電子情報を入力したり、消去したり、書き換えたりすることができるようになっている。そして、「リーダライタ」という機器をRFタグの方向にかざして、RFタグの電子情報の読み取り(スキャン)を行ったりするのだ。

商品情報を管理するITシステムとしては、「バーコードシステム」がお馴染みだが、RFIDには、既存のバーコードシステムにはない、さまざまな長所がある。

長所の一つ目は、RFタグとリーダライタが離れていても、電子情報をスキャンできること。電波の周波数帯によっては、数十メートル以上離れていてもデータを読み取れるシステムもあるという。バーコードシステムのように、RFタグを貼り付けた商品を手元に近づけなくても、電子情報を読み取れるので、作業効率が飛躍的にアップする。

二つ目は、複数のRFタグのデータをまとめてスキャンできること。商品を一つひとつスキャンしないといけないバーコードシステムとは、作業効率が比べ物にならない。

三つ目は、RFタグが容器の中に入っていても、電子情報を読み取れること。例えば、段ボールの中に、RFタグがついている商品が詰め込まれていた場合でも、段ボールを開けずに、RFタグの情報をスキャンできる。段ボールから商品を一つひとつ取り出して、スキャンしなければならないバーコードシステムとは大違いなのだ。

四つ目は、RFタグが汚れていても、電子情報の読み取りができること。バーコードシステムは、バーコードが汚れたりすると、データが読み取れなくなってしまうが、リーダライタは、RFタグ内部のメモリからデータを読み取れるので、表面の汚れなどには影響されない

RFIDを搭載したスマートシェルフであれば、例えば、棚卸し作業では、一つひとつの商品のデータが一括してチェックできるため、作業にかかる人手や時間を大幅にカットできる。

商品の在庫状況をリアルタイムに把握できるため、受発注作業の精度が上がり、在庫や食品ロスなども削減できる。在庫の中から消費期限が迫った商品を抜き出し、売価変更で売り切るといったMDにも使える。盗難防止といったセキュリティにも応用できるだろう。

少子高齢化による人手不足や働き方改革、それに伴う人件費の高騰などに、流通業界は悩まされている。店舗や物流センターの業務を効率化し、顧客満足度の高いサービスを少人数で提供することが求められているが、スマートシェルフは、そうした課題解決の一助になりそうだ。

そのほか、スマートシェルフは、図書館の蔵書の貸し出し管理、病院での医薬品の管理など、幅広いジャンルでの活用が進められている。

スマートシェルフの導入メリット

それでは、流通業界が、スマートシェルフの導入によって享受できるメリットについて、もう少し詳しく検討してみよう。

1.在庫をリアルタイムで確認できる

例えば、店頭の商品の陳列棚をスマートシェルフに切り替えたとしよう。これまでは、「このアイテムは今、何個並んでいるのか、品切れになっていないか」といった具合に、店員が売場を見回ってチェックする必要があったが、スマートシェルフならその必要がない。店頭の在庫情報は、知りたいときにすぐに入手できる。さらには、万引きのチェックなどにも役立つだろう。

2.在庫を適正化できる

店頭の在庫情報をリアルタイムで把握することができれば、欠品を防ぎやすくなる。在庫が一定量を下回った場合、アラームを設定して追加発注することもできる。欠品がなければ、機会ロスを回避できるし、顧客満足度のアップにもつながる。反対に、余剰在庫があれば、タイムセールなどで商品の回転を速め、廃棄ロスを防ぐことも可能だ。

3.コストが圧縮できる

店頭の在庫管理や棚卸し作業が大幅に効率化できるので、省力化が可能になる。労働力不足の解消、人件費の圧縮にもつながる。

4.顧客サービスが充実できる

店舗スタッフの多くは、事務処理や品出しなどの作業に追われて、来店した顧客と接する時間がなかなか取れない。しかし、スマートシェルフで業務が効率化できれば、接客できる時間が増え、サービスレベルも向上する。そうすれば、顧客満足度も高まる。

5.在庫情報を顧客と共有できる

スマートシェルフの活用を進めれば、店舗スタッフだけでなく、顧客にも在庫情報を提供することで、利便性を高められる。例えば、会員登録した顧客には、スマートフォンに人気商品の在庫状況や入荷のタイミングなどを通知するといったサービスが考えられる。顧客満足度のアップにも役立つ。

スマートシェルフの開発・導入事例

実際に、流通業界でスマートシェルフがどのように活用されているのか、企業のケーススタディを見てみよう。

事例①:カルチュア・コンビニエンス・クラブ

2011年にオープンした「代官山蔦屋書店」に、RFタグ約80万枚を用いた販売・在庫管理システムを構築した。

新システムは、同店の書籍やDVD、CDなどにRFタグを装着し、RFタグ読み取り用の棚アンテナを取り付けたスマートシェルフのほか、RFIDと電子マネーに対応するセルフレジ、スマートゲートなどと組み合わせたもの。これまでバーコードを用いて人手で行っていた入荷検品やレジオペレーション、在庫位置情報管理の精度や作業効率が大幅に向上する。

特に貸出しの多い新作や人気商品は、スマートシェルフでの陳列を行い、RFタグの情報を定期的・自動的に読み取ることで、在庫状況の共有や販売データとの整合を迅速に行うことが可能となった。また、書籍へのタグ装着は、書籍の盗難防止としても活用でき、ロス率の低減を実現する。

事例②:帝人

平成31年2月12日~28日、RFIDを用いた情報共有システムの実証実験が、経済産業省や新エネルギー・産業技術総合開発機構によって実施され、帝人も参加した。

在庫の可視化や食品ロスの削減など社会課題の解決を目指し、コンビニエンスストアやドラッグストアの実店舗において、スマートシェルフの商品情報を読み取ることで、陳列されている商品のうち、消費期限が迫っている商品の情報を共有。この情報をもとに値引き、またはポイント還元を行うと通知し、消費期限の近い商品の購買を促すことで、食品ロスの削減を図った。

また、来店者が棚から手に取った商品の情報を認識し、その商品のサイネージをモニターに流すことで、来店者の購買を促した。

事例③:凸版印刷

従来のスマートシェルフは、シート型のアンテナの上に商品を置くことで、商品の有無の検知を行っていたが、同社が開発した吊り下げ型の商品陳列什器対応のスマートシェルフは、吊り下げフックの部分にアンテナを装着しているため、任意の箇所での陳列が可能になる。また、棚と一体化できる什器のため、設置や移動が簡単だ。

さらに、スマートシェルフとデジタルサイネージを組み合わせることで、顧客が商品を手に取った瞬間、デジタルサイネージ上で商品の説明や関連広告の表示ができるようにした。

スマートシェルフは今後どうなる?

スマートシェルフの導入では当初、業務の効率化や省力化といった、流通業界の“内向き”なメリットに主眼が置かれていたが、最近では、顧客満足度や販売効率のアップといった、“外向き”のメリットが主な狙いになってきたようだ。

導入事例でも見たように、例えば、スマートシェルフとデジタルサイネージを組み合わせることで、売場で顧客が商品を手に取った瞬間に、自動的に商品を説明したり、関連商品を紹介したりするといった、販促をかける仕組みが好例だろう。カメラの顔認証技術とも組み合わせれば、顧客の性別や年齢を推定して、それに合わせた関連商品の販促につなげることも可能だろう。スマートシェルフのそうした活用が、流通業界では主流になっていくと考えられる。

おわりに

今後の普及が想定されている「スマートストア」では、RFIDやセルフレジとともに、店舗に不可欠のITシステムとして、スマートシェルフがビルドインされるようになるだろう。そうでなければ、サプライチェーンでのシームレスな情報共有が実現できず、業務の効率化や省力化、販売効率の向上に結び付けられないからだ。そうしたことから、スマートシェルフは、流通業界のDXに伴って、普及していくと予想される。

ただし、ネックとなるのは、イニシャルコストの高さだ。スマートシェルフは、ITシステム本体の導入コストもさることながら、システムの運用に必要なRFタグの単価が現在、10円以上すると言われており、SMなど低単価の商品を多く扱う小売業では、コストを吸収しにくいのが現状だ。

とはいえ、スマートシェルフをスマートストアのパッケージとして導入すれば、顧客の利便性の向上や情報活用といったシナジーを追求しやすくなる。スマートストアが拡大していけば、イニシャルコストも連動して下がっていくと予想されるため、スマートシェルフの普及に拍車がかかる可能性も大きいといえる。

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