DX戦略とは?立て方のポイントなどを先進企業の事例を交えて基礎から解説

2022.10.27

2021.12.14

AIやIoTなど最新のデジタル技術を活用することで、ビジネスモデルや組織を変革し、競争上の優位性を確立するDX(デジタルトランスフォーメーション)。経済産業省もDXの導入を推進しており、事業を展開する上では無視できない存在となっている。しかし、社内のDX化が思うように進まず、推進が滞っている企業も少なくない。

DXに成功するためには、闇雲にデジタル化を進めるのではなく、全社的なDX戦略の策定が必要不可欠。

本記事では、経済産業省が策定したDX推進ガイドラインを参考に、DX戦略が求められる理由から、策定時の重要なポイント、事例まで解説していく。

戦略的なDXが求められる理由

昨今、AI・IoTなどの先端デジタル技術を活用し、これまでにないビジネスモデルを構築する企業が増加している。デジタル技術の活用の可能性はIT業界に留まらず、小売業・物流業・建設業・医療業など、あらゆる産業において広がっている。

新たなビジネスモデルの構築は、顧客価値を高める上で非常に重要だが、一方で競争の激化を引き起こす。デジタル技術を活用した新規参入者の登場により、既存商品やサービスが淘汰されるデジタル・ディスラプションと言われる事象が、各市場で発生しつつある。

既存のソリューションにとらわれず、DX戦略で競争力強化を図ることは極めて重要と言える。

ただし、DXの推進は、単なるデジタル技術の導入による業務効率化に留めてはならない。そもそもDXとは、デジタル技術を活用することで、ビジネスモデルや組織体制の変革をもたらすためにある。経営戦略やビジョンと結びつけながら戦略を立て、実行することが重要と考えられる。

DX戦略を立てる上でのポイント

DX戦略を立てる際には、押さえておくべきポイントが複数存在する。ポイントを理解しないまま戦略を立てると、DX推進に失敗する可能性もある。DX戦略に欠かせないポイントをチェックしておこう。

DXと経営戦略の関連性

大前提となるのが、DXは自社の経営戦略を実現するために、導入されるということだ。先述の通り、DXはITツールによる業務の効率化を目標としておらず、ビジネスモデルや組織そのものをデジタル技術で変革し、競争上の優位性確立を目指すものである。

しかし、IPAが実施した「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」によると、現在取り組んでいるDXの内容として「業務の効率化による生産性の向上」と回答した企業が78.3%と一番多い。対して、「新規製品・サービスの創出」や「現在のビジネスモデルの根本的な変革」と回答したのは4~5割程度で、DX本来の目標に向けて取り組む企業は半分以下となっている。

業務の効率化は、DXのさらなる推進やCXの向上にも繋がると言える。しかし、あくまで経営戦略を実現するため、推進される概念であることを忘れないようにしたい。

DXによって生み出すべき価値を明確化させる

DX戦略を考える上では、どのような価値をデジタル技術で生み出すか、明確化させることが重要だ。例えば、新たなビジネスを創出し、他社にはない独占的な優位性を獲得することで、競争力の強化に繋がる。また、生産性の向上でコスト削減を実現すれば、低価格で優位性の獲得も見込める。

新たな価値を生み出すために、どのビジネスモデルをどのように変革していくか、経営戦略を策定することが必要不可欠といえる。

データとデジタル技術の活用方針を明確化させる

DXの推進には、データを活用して市場変化や消費者の動向などを予見し、戦略立てていかなければならない。そのためには、データを蓄積していくITシステムが、企業を取り巻く環境変化に対応できることが不可欠と言える。

しかし、経済産業省のDXレポートによれば、日本企業は膨大な情報資産を保有しているものの、連携能力に乏しく、ビジネスに活かし切れていないといわれている。

AI・IoT・ビッグデータなどの最先端テクノロジーも数多く登場しているが、限定的にしか機能を活用できていないのも課題とされている。また、既存システムの煩雑化やレガシー化も、全社横断的なデータ活用を困難なものにさせている要因だ。

連携ができないために、デジタル技術の導入を単なるデータ蓄積だけに終わらせないことが重要。データの価値を引き出すためのデジタル技術活用方針を明確にし、DX戦略を立てることがポイントとなる。

スピーディーな変化への対応

デジタル技術の発展に伴い、ビジネス環境の変化は激しくなっている。そのため、DXにより変革したビジネスモデルが、その後の環境変化に対してスピーディーに対応できるかも重要だ。

また、刷新後のITシステムにおいても、新たなデジタル技術が登場した際に、スピーディーに機能追加できる柔軟な仕様となっているかも考慮する必要がある。

DX戦略の推進で重要なポイント

次に、経済産業省のDX推進ガイドラインを参考に、DX戦略の重要なポイントを解説していく。

ステークホルダーへの戦略の共有

ビジネスモデルの変革に繋がるDXの推進は、組織のIT化を進めるプロジェクトとは大きく異なる。IT化は基本的に、経営陣や管理職で協議し、現場へ導入するのが基本的な流れとなる。

一方、DXも経営層で協議し、全社的に推進していく流れだが、業務改善に終わらずビジネスモデルの抜本的な改革を行うため、影響を及ぼすステークホルダーは必然的に多くなる。しかし、日本におけるDXの停滞要因として、各ステークホルダー間の対話不足も課題に挙がっているのが実情だ。

DXはステークホルダー全員が同じ目標に向け、プロセスを遂行していくことが必要不可欠。戦略が共有できていなければ、DXの実現範囲や企業における役割分担なども不明確になり、コミュニケーションにギャップが生まれてしまう。対話の重要性を認識し、社内外に向けてDX戦略を発信することが重要と考えられる。

経営層のコミットメント

DX指針は主に経営層を中心に決められるが、実際にデジタル化を進めるのは、情報システム部や経営企画部、マネジメント層であるケースが多い。しかし、企業にとって必要な変革であっても、業務プロセスが大きく変わるDXの導入は、現場サイド側に抵抗もある。その際、批判的な意見を受けるのは経営層ではなく、主体的にDX導入を進める社員だ。

社内から抵抗の声が挙がる場合でも、経営層がリーダーシップを取り、意思決定して現場を統率することが重要になる。ビジネス・仕事のあり方、組織・人事の仕組み、企業文化・風土の変革を進めるDXは、経営層が変革に強いコミットメントを持って取り組むことが、成功に繋げるポイントと言える。

戦略を実現するための全社的な組織体制の構築

DX戦略を実現するためには、全社的に組織体制を整えた上で、実行に移すことが不可欠。重要な構築要素としては、下記3点が挙げられる。

  • マインドセット
  • 推進・サポート体制
  • 人材

マインドセット

DXは新たなビジネスに挑戦する取り組みであり、失敗や変化を恐れない姿勢がポイントと言える。DX推進を積極的に行うマインドセットを培うためには、仮説検証サイクルの確立が必要。

仮説の設定・実行・検証のプロセスを確立することで、一度の失敗でプロジェクトが滞らず、スピーディーにDXを進められる。また、目的を満たすか評価する仕組み作りも重要。

繰り返しの仮説検証で、新たなビジネスモデルを形成していくためのマインドセットが、主体的にDXに取り組む社員だけでなく、経営層や現場社員にも必要と言えるだろう。

推進・サポート体制

DXには、経営層が策定した戦略やビジョンを把握し、実現に向けた取り組みを推進・サポートできる体制の設置が推奨されている。実際、IPAの調査結果によると、成果の高い企業の約4割は情報システム部門だけでDXを推進せず、DX専門組織を設置して成功に繋げた。

DXの導入を進める部署や社員の役割を明確化し、全社的に組織体制を整え、推進していくことが重要と考えられる。

人材

DX戦略を実現するためには、当然ながら実行に移す人材が必要不可欠。しかし、DX推進人材の不足に悩む企業は多い。

IPAのレポートでは、DX人材を6種類に分けて必要性を提言しているのが、そのうちプロデューサー・データサイエンティスト/AIエンジニア・ビジネスデザイナー・アーキテクトが「大いに不足」と回答した企業は半数以上。よって、多くの企業でDXに必要な人材の育成・確保に向けた取り組みが必要と言える。

具体的には、DX実現に重要なデジタル技術や、データ活用に精通した人材の育成・確保が挙げられる。また、各事業部門において、業務内容を把握しつつも、如何にデジタルで実現できるか、DXの取り組みを率先していく人材も必要。外注を活用することも視野に入れつつ、優秀な人材を確保して能率的にDXを進めていきたい。

DX戦略の事例

経済産業省は、DX推進の仕組みを構築し、優れた実績を上げている企業をDX銘柄として公表している。ここでは、DX銘柄に選ばれた企業のDX戦略事例を紹介していく。

アサヒグループホールディングス

アサヒグループホールディングスは「高付加価値ブランドを核として成長する”グローカルな価値創造企業”」を経営ビジョンとして、2020年4月にDX推進・新規ビジネスを創出する組織ValueCreation室を新設した。DXで飲食をコアとした新価値を提供しつつ、食品ロスの軽減など環境問題も解決するため、全てのステークホルダーのコンテキストに寄り添う。

組織体制の構築としては、新価値の創出が日常的に起こる風土・文化を目指し、DX人材の育成を実施。必要な人材像とスキルを定義し、教育プログラムの展開を開始した。テクノロジ・データに基づき、アイデアを具現化するビジネスアナリストは、独自定義されたデータ分析の基礎スキルを全社員が修得。データを活用して業務課題を解決できるよう、体制強化を目指している。

同社では、アナリティクスが事業成長に欠かせないと考え、PDCAサイクルを迅速に回すことを推進。特に、分析支援・人材育成・データ基盤構築・ガバナンスの強化を図っている。

例えば、データ基盤構築のDX取り組み事例では、各事業会社ごとに管理していた顧客データを、グループ顧客データ分析基盤を構築して統合。アサヒグループとして、ブランディングやマーケティング施策にデータを活用することで、チャンスロスのない環境を整備した。今後は、バリューチェーン・サプライチェーンなど顧客データのみならず、一連の流れを分析できる基盤を確立し、データドリブン経営を目指す。

中外製薬株式会社

中外製薬株式会社は、2030年を見据えたデジタル戦略を実行し、世界最高水準の創薬実現・先進的事業モデルの構築を目指している。そのキーとして、DXを定義した。

成長戦略の実現に向け、創薬・開発・製薬・Value Delivery・成長基盤の5つの改革を挙げているが、全てにデジタル活用を明記。デジタル技術でプロセスや価値創出モデルを変革し、ビジネスの革新に繋げていく。

デジタル人材の強化も、DX推進に重要と位置付け。人材のカテゴリとスキルレベルを定義し、合致する社員数とスキルレベルを可視化することで、経営戦略の理想と現実のギャップを把握。そして、ギャップを埋めるべく、人材育成・獲得施策を行っている。

また、トライ・アンド・エラーやアジャイル志向を浸透させ、マインドセットの強化を図る。同時に、社員のアイデアを短期間で具現化・検証し、時代の変化にも適切に対応。挑戦する風土形成と新規価値を創出できる場を形成し、組織変革をもたらしている。

DXの取り組み事例としては、AIやロボティクスなどを創薬に活用。創薬プロセスの革新・創薬の成功確率向上・プロセス全体の効率化を目標に掲げている。実際、機械学習により、最適な分子配列を得るAI創薬支援技術「MALEXA-LI」を利用し、従来より1800倍以上結合強度が高い抗体の取得に成功した。

株式会社セブン&ホールディングス

株式会社セブン&ホールディングスは、リアルとデジタルを融合することで、顧客の価値観や行動変化に適した新たな商品・サービスを創造し、CX向上を目指している。2020年には、グループのDX推進を加速すべく、守りのDXと攻めのDXから構成された「グループDX戦略マップ」を策定した。守りのDXではセキュリティと効率化、攻めのDXでは新たな顧客価値創造をテーマに挙げ、それぞれAIと内製化を駆使して実行に移していく。

また、DX戦略マップに加え、「グループDX戦略本部」を新設。エンジニア採用に特化した人事担当者を配置し、小売事業部門と異なる基準を設けることで、エンジニアの採用・育成・定着化を徹底している。

実際のDXを活かした事例としては、ECビジネスの配送最適化が挙げられる。AI配送コントロールにより、車両・ドライバー、配送料、配送ルート、受取場所の4つを最適化。そこに、配送リソースを組み合わせることで、顧客へ商品を届ける時間を短縮した。

ECビジネスの1つである「セブン-イレブンネットコンビニ」では、注文から最短で30分の配送を実現。顧客満足度の向上にも繋げている。

りそなホールディングス

りそなホールディングスが推進するDXの大きな特徴は、代表執行役社長に事業開発・デジタルトランスフォーメーション担当統括を委嘱している点だ。新規価値・ビジネスを創出するため、社長をトップとしたDX推進体制を構築し、社内にビジネスモデル変革のメッセージを発信している。

また、りそなデジタル・アイの出資比率を引き上げ、DX領域の戦略的パートナーと位置付けた。DX人材の受け入れや交流を行い、人材を強化・確保してDXの推進を図る。

同社はDXの取り組みとして、オープン・プラットフォームの提供を行っている。他の金融機関は、りそなグループのアプリをベースとし、デザイン性や操作性をそのままにバンキングアプリを導入可能。

2020年6月には、めぶきフィナンシャルグループとデジタル分野における戦略的業務提携を締結。傘下の常陽銀行と足利銀行は、りそなホールディングスと共同開発を経て、2021年3月にバンキングアプリをリリースした。他社の顧客を含め、関係者全体の利便性向上や地域経済発展を目指し、DXを推進しているのも特徴だ。

ベネッセホールディングス

ベネッセホールディングスでは、「コア事業の進化」と「新領域への挑戦」を中期経営計画に掲げているが、実現するための中心的戦略として、DXを推進している。DXを推進するため立ち上げた組織DIPは、社長直下に構築。情報システム部門・人材育成部門・DX推進のコンサル部門を一体化し、中期経営計画の実現を目指す。

DIPでは、「事業フェイズに合わせたDX推進」と「組織DX能力向上」を軸に、DXに取り組んでいる。「事業フェイズに合わせたDX推進」では、コンサル部門から高スキルのデジタル人材を各事業部に派遣し、現場社員とともに各事業の重点実行施策の達成を図る。

「組織DX能力向上」では、システム基盤構築・組織改革・人材育成により、DXを推進していく。人材育成の実施例としては、DXに必要な6職種とレベル別スキルを定義し、社員全員にアセスメントを実施。各社員の評価を可視化し、人材レベルを把握するだけでなく、集合型研修・Udemyによる自学自習・OJTなどを行い、一人ひとりに適したスキル育成を実施している。

DX戦略まとめ

DX戦略を策定する上では、経営層を巻き込んだDX推進、ステークホルダーへの共有、組織体制の構築・強化など、さまざまな点を考慮しなければならない。それもそのはずで、DXの導入はグループ全体の経営に大きく影響し、難易度は決して低くないと言える。

しかし、昨今の消費者ニーズは多角化し、競争も激化している点から、DXを推進して経済社会の変化へ迅速に対応することは不可欠。競合企業のDX推進に焦り、不明確な経営ビジョンや現場社員への丸投げとならないよう、慎重にDX戦略を組み立ててほしい。

お役立ち資料データ

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