Raas(ラース)とは?小売サービス化の先進事例を交えて解説

2022.10.24

2020.12.16

データ活用のソリューションは、クラウドベンダーなどが単体でそれぞれの小売にソリューション提供を行うのが一般的だったが、小売自身がベンダーなどと組んで、サービスを提供する動きもでてきた。「RaaS(ラース)」という新たな取り組みだ。

小売のサービス化「Raas(ラース)」とは?

「RaaS(ラース)はRetail as a Serviceの略で小売のサービス化という意味。小売企業が蓄積しているデータやノウハウを、ベンダーと連携したり、テクノロジー企業の技術をかけ合わせてサービスを作り外部に提供すること。

他の小売企業やメーカーなどを対象にしたBtoBサービスで、新たな収益を得ようとする取り組み。日本ではまだまだ聞き慣れない言葉だが、サービスを開始するところも出てきて、導入する企業も出始めた。

Raasの先進的な取り組み事例

米国のクロガーとマイクロソフトの「EDGE」

発祥の地である米国では、全米最大のスーパーマーケットクロガーがマイクロソフトと組んで2018年から、「EDGE(Enhanced Display for Grocery Environments Digital Shelves・エッジ)」というサービスを開始した。

同社は先進的なリテールサービスや関連技術の研究開発に積極的な投資を行って、さまざまな独自システムを開発、そのシステムをグループの店舗に導入して改善を重ねることで、顧客満足の向上と業務効率化につなげている。

そうした取り組みから生まれたのがエッジ。プロジェクターディスプレイがついた棚で、クロガーの売場知見と顧客データをもとに、マイクロソフトのAzure・AI技術によって生成されたアルゴリズムを活用して情報配信を行い、小売業の業務支援を行うサービス。

カメラで計測する買物客の属性や行動に応じて表示するコンテンツや価格を変えることができたり、Click&Collectサービスのスタッフによるピックアップ支援のための情報表示など、データと連携しながら自在に表示を変えることが可能だ。

従来の紙のプライスカードに代わって商品の価格やプロモーション情報、成分や栄養などの情報をディスプレイに表示でき、陳列している商品のプライスカードの表示金額を瞬時にコントロールして変更作業を自動化するなど、業務効率の改善につながる。

導入店舗のPOSシステムや棚割りシステムと連動した情報の表示も可能で、商品入れ替え時の棚割りデータの表示や、品出し・補充の必要な棚の表示などによって作業を効率化し、店舗従業員の作業負荷を軽減することができる。

また、広告宣伝・販売促進の管理システムと連携することで、広告やプロモーション情報を店内の適所にタイムリーに表示し、販売促進効果を上げることが期待できる。

さらに、顧客にとっては、購入したい商品のパッケージにあるバーコードを自分のスマートフォンでスキャンして 、買物終了後にセルフレジスターで支払うことができるクロガー開発のスマホアプリ「Scan, Bag, Go」と連動させることにより、独自の情報ガイドを見ることができる新しいショッピングスタイルを享受することが可能となる。

クロガーと組んだマイクロソフトはウォルマートやウォルグリーンとの連携も行っている。前者とは研究機関を共同で創設し、機械学習による店舗の空調システムや物流ルートの最適化などを推進している。後者とは健康データを基にした医薬品の推奨や医療機関の紹介を行うサービスの開発を進めている。

大日本印刷とクローガーが共同研究を開始

日本では、大日本印刷(DNP)の独自構造の小型プロジェクター向け透過型スクリーンが採用されていることから、2019年から、DNPが持つ日本の流通・小売業界とのネットワークやプロモーション実績と、クロガーの製品やサービスのノウハウを組み合わせて、日本の流通・小売業界が抱える人手不足の解消や、店舗のデジタル化による販促効果の向上などを目的とした共同研究をスタートした。

ビデオ画像による顧客行動の分析、店舗内のIoT機器のセンサーのネットワーク構築による在庫管理、レジでの顧客自身による商品スキャンや決済のシステムなどにおいても、日本市場向けのソリューションサービスを共同で研究している。

これらの研究を通じて、店舗やネットショップなど、顧客接点のすべてをデジタルで統合した“コネクテッド・リテール”の構築を目指していこうとしている。

凸版印刷はRaaSを提供する米国の「b8ta」への出資

凸版印刷も、2019年から、RaaSを提供する米国のb8ta,への出資を通じて、新たに設立されたベータ・ジャパンとの協業をスタートしている。なお、ベータ・ジャパンには、ホームセカインズ、丸井グループ、三菱地所も出資している。

両社はRaaSの日本市場における拡大と、凸版印刷が持つマーケティングノウハウや店頭ソリューションなどの連携による新事業の創出を推進し、多様化する消費者のニーズに対応した次世代小売店舗の実現を目指そうとしている。

近年、EC市場の拡大を背景に、スタートアップメーカーをはじめ、大手メーカーや全国の工芸品メーカーなどが製品を自社のECサイトで消費者に直接販売するD2C(消費者直販)ビジネスモデルが拡大している。

拡大にともない、D2CモデルをECだけでなくリアルな店舗へも展開し、製品体験・ブランド世界観の訴求・消費者の行動データを収集する場として活用するブランドも増えている。

b8taは2015年に米国サンフランシスコで創業し、米国内に体験型ストアを24店舗、ドバイに1店舗(2020年1月現在)を構え、店舗内の区画をさまざまなブランドに定額で提供し、区画を購入した企業には、製品のPRや説明映像を流すためのディスプレイが割り当てられる。

ディスプレイのコンテンツはいつでもオンライン上で変更でき、手軽に実店舗への出品が可能。店内に設置されたカメラにより消費者の行動を分析し、出品者はそれらのデータもオンラインから確認でき、マーケティングに活用することができる。

すでに、1000以上のブランドが出店し、5000万以上のエンゲージメント(消費者と商品の関わり)を取得しているという。

体験型ストアという名のとおり、店舗で商品を販売するのがメインではなく、顧客に商品を体験してもらうスペース。商品も購入することもできるが、店舗は売上に対するマージンは取らず、天井についているカメラや什器のデバイスで収集した行動データ分析し、その結果を売上とともにメーカーに戻すというビジネスモデル。

b8taの大きな魅力は、データと連携した体験の提供にあり、店舗はメーカーと密接に連携し、店頭のPR映像やディスプレイはリアルタイムでメーカーの要望にあわせて変更することができる。

例えば店頭を訪れている客層や天候によって訴求の文言を変えるといったことも可能だ。こうして、いままではECサイトなどオンライン上で行われていたD2Cが、リアル店舗でも取り組むことができるようになった。

凸版印刷は、これまでプロモーションやスペースデザイン、購買データ分析によるマーケティング支援など変化する消費者のニーズに対応した次世代の店頭ソリューションを提供してきた。 

協業の具体的な取組みの第一弾として、凸版印刷が持つ小売やメーカーにおける店頭ソリューション提供実績や顧客基盤、データ分析によるマーケティング支援実績を活用し、b8ta店舗および日本市場における出店者の開拓を支援し、RaaSの日本市場拡大を推し進めていく。

2020年8月1日には日本初の店舗が「新宿マルイ」と「有楽町電気ビル」にオープンした。

スタートアップや中小企業などの実店舗出店の手間を省き、革新的なプロダクトを集めたストアとして運営。商品を積極的に売らず、実験的な商品に出会い、体験できる店舗を目指そうとしている。

店内には、海外の最新ガジェットから日本のモノづくりの技術を生かした商品、D2Cブランドのコスメ、ファッション、フードなど幅広い商品ラインナップが並べられている。  

日本初進出の商品やサービスを手に取れるだけでなく、魅力的な商品との思いがけない出会いを楽しむことができ、実際に試して気に入れば、その場での購入も可能だ。

「エクスペリエンスルーム」という、出品ブランドの世界観を体現した半個室の区画では、ブランドの世界観に入り込み、商品やサービスを体験できる。
テックアパレルブランドの「スタンプ(STAMP)」と、人の愛する力をはぐくむ家族型ロボット「LOVOT(ラボット)」とのコラボレーションも行っている。

こうした店舗が増えていけば、メーカーが直接販売するD2Cも加速し、店舗を広告・プロモーションの場としても活用し、今後はオンラインとオフラインの境界線がはっきりしなくなり、消費者の購買行動も変化していく。

アマゾンの無人店舗「Amazon Go(アマゾンゴー)」

アマゾンの無人店舗「Amazon Go(アマゾンゴー)」。専用アプリで入店し買いたいものを持って店を出ると、自動的にAmazonアカウントで代金が清算される仕組みで、最新のデジタル技術を駆使した新たな購買体験を提供している。

2020年3月には、アマゾンゴーで導入しているレジなし決済システム「Just Walk Out」を、小売業向けにRaaSとしてサービス販売することを発表した。

中国の大手小売のSuning

DX(デジタルトランスフォーメーション)化が進む中国でもRaaSの取り組みが見られる。大手小売のSuningは、2019年1月に小売業界のデジタル化を進めることを目的に、RaaS戦略を発表した。

同社は、店舗内の来店客の流れを計測して、パーソナライズされた好みを把握、熱分析によってヒートマップを作成して、消費者の習慣を分析するシステムや、軽量認識技術で顧客がピックアップした商品を認識して、支払処理を行うロボット「Biu Robot」が有名だ。

オンラインとオフラインのリテールの30年近い経験を有する同社は、スマートリテールエコシステムのソフトウエアソースを公開することになった

中小企業が大企業の技術的優位性を共有し、運用能力と効率性を向上できるようにすることが目的だ。

本質的にオープンプラットフォーム・モデルであり、これを通じてパートナーは同社の長期にわたって蓄積されたテクノロジー機能とオムニチャネル運用経験のポートフォリオにアクセスすることが可能になる。

そして、中小規模のリテールフランチャイズを強化するため、同社の共有店舗内管理運用システムを、2018年に導入したリテールクラウドプログラムへ適用することを開始した。

今後も小売企業とベンダーとの連携がより一層進み、RaaSの展開が加速するものと思われ、小売シーンにおけるイノベーションが進んで、リテールの新しいカタチが生まれてくる可能性を秘めている。

お役立ち資料データ

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