DX人材とは?必要なスキル、育成方法、求められる理由などを解説

2022.10.26

2021.09.21

企業間競争が激化している中、デジタル技術を駆使することでビジネスモデルを変革し、自社の競争力を高めていく概念であるDX(デジタル・トランスフォーメーション)。2018年には経済産業省がDX推進ガイドラインを定め、一層注目を集めている。

しかし、各企業がDXの重要性を認識している一方で、DXの推進を図る人材は不足。本格的にDXを展開できていない企業も多いのが実情だ。

そこで、本記事ではDX人材に関する基本的な知識から、具体的な職種、必要なスキル・マインドセットを解説していく。DX化が進まない企業は、是非参考にしてほしい。

DX人材とは?

はじめにDXの定義だが、日本経済産業省のDX推進ガイドラインでは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と記されている。ここで注意したいのが、企業のDXはIT化と意味合いが少々異なる点だ。

IT化はデジタル技術の導入で業務を効率化し、人材不足を補うことやコスト削減などを目的としている。また、昨今のグローバル社会において、国の垣根を越えたビジネスを展開する上でも、企業のIT化は必須と言える。

一方、DXはデジタル技術を活用することで、企業経営のあり方やビジネスモデルの変革を目指す。つまり、DX人材とは、企業のDXの実現に向けてデジタル技術を構築するデザイナー・エンジニア・プログラマに限らない。DXによりもたらされる企業経営・ビジネスモデルの明確なビジョンを描き、主体的に取り組む人材もDX人材と呼べるだろう。

DX人材の需要が高まった背景

日本におけるDXの歴史は長いわけではなく、ビジネス用語として浸透し始めたのはここ数年の話だ。ここでは、近年のDX人材の需要が高まっている背景について、解説していく。

DXの重要性を経済産業省が提言

経済産業省はDXレポートにて、「2025年の崖」という用語について触れた。「2025年の崖」とは、既存システムの複雑化・老朽化によりDXを実現できず、企業のみならず国の経済が停滞することを意味する。

具体的には、既存システムが事業部門ごとに導入されていることで連携を取れず、データを活用し切れていない点や、過剰なカスタマイズで既存システムがブラックボックス化している点などが挙げられる。このような課題を解決するためには既存システムの見直しが必要となるが、業務運用の変更やマニュアルの整備など現場社員の負担が大きく、経営層がDXを望んでも実行するのは難しい。

DXの課題を解決できなければ、2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失が生じると推定し、「2025年の崖」と定義された。これにより、DXの認知度は一気に向上し、危機感を抱いた各企業の経営層がDXに注目するようになった。

実際、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の調査結果によると、「デジタル技術の普及による自社への影響」というアンケートに関して、「自社の優位性や競争力の低下」と回答したのは58.7%で半数以上に及ぶ。さらに、「既存のビジネスの変革や新たなビジネスの創出の必要性」に関しては「非常に強く感じている」が63.0%、「ある程度強く感じている」が28.3%で、企業の9割以上がDXの重要性を認識している。今後、DXに取り組む企業は増加すると予想できるだろう。

新型コロナウイルスの感染拡大

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、本格的にDXの導入を進めた企業も多い。電通デジタルが行った「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2020年度)」によると、新型コロナウイルスの影響でDX推進が加速した企業は50%という結果に。DXの取り組みで「成果が出ている」と回答した企業も48%に上る。

また、DXで加速した領域は「業務効率化」が46%で一番多いが、「中長期変革」に向けた取り組みが加速した企業は37%、「企業変革」の取り組みが加速した企業は35%という結果が出ている。新型コロナウイルスの感染拡大で、DX本来の目的である企業経営・ビジネスモデルの変革にも注目が集まっている。

DX人材の6つの職種

IPAはDXを推進する人材として、6つの職種を挙げている。今後、DX人材の確保・育成に取り組もうと考えている企業はチェックしてほしい。

プロデューサー

DXを実現するため、取り組みをリードしていく人材がプロデューサーだ。プロデューサーは事業の全体像を把握し、資金投資・配分などを的確に決められるビジネス戦略・マネジメント能力の高さが求められる。

当然、プロジェクトを牽引していくリーダーシップや、事業部門ごとの壁を取り払う社内調整力も必要。DXの課題として、全社横断的なデータ活用が実現していない点も経済産業省は挙げているため、ビジネス能力の高さに限らず人望の厚さ・組織牽引力も不可欠と言える。

また、自社を取り巻く業界動向など、外部環境の変化を察知してビジネスモデルに組み込むことも重要。DX実現のプロセスを一貫して主導する幅広いスキルが必要な職種と言えるだろう。

ビジネスデザイナー

DX・デジタルビジネスの企画立案・推進をメインに行う人材がビジネスデザイナーだ。ビジネスデザイナーはプロデューサーが策定した方針に基づき、企画を構築していく。顧客が抱える課題・ニーズを汲み取るための提案力や、自社・顧客の課題を解決する着想力が必要となる。

また、ビジネスデザイナーだけで企画を作り上げるのではなく、他事業部・パートナー企業など、社内外のさまざまな人間を巻き込んで企画を形にしていく。よって、コミュニケーション能力の高さや、DXの目的でもある新しいビジネスモデルを形成するための挑戦心も必要不可欠と考えられる。

アーキテクト

アーキテクトは、DX・デジタルビジネスに求められるシステム設計を担う人材を指す。ビジネスデザイナーが立案した企画を基に、システムの要件定義・設計を行う。複雑な仕様のシステムとなると、DXの課題であるブラックボックス化を引き起こしかねないため、非常に重要な職種と言える。

また、課題の分析と解決策を提案できる能力も必須。高いITスキルや経営的視点といった高度な専門知識を有する人材が必要だ。

データサイエンティスト・AIエンジニア

DXを構築するAI・IoTなどのデジタル技術や、データ解析に精通した人材がデータサイエンティスト・AIエンジニアだ。各種システムのデータを収集・分析し、課題の解決に繋がる有用な情報を見つけ出す。

ビッグデータとAIを有効活用できるスキルがあることも重要。通常のITエンジニアが必要な知識に加えて、統計学的知識・機械学習・AI知識など、データサイエンティストとAIエンジニアに求められるスキルの幅は広い。

UXデザイナー

UXデザイナーは、DX・デジタルビジネスを実現するためのシステムに関して、ユーザー向けのデザインを担当する。システムの機能がいくら充実していても、ユーザーが見づらく操作性の低いインターフェースとなっていれば、積極的に活用されずDXを推進できない。

そこで、UXデザイナーはユーザーにとって操作しやすいインターフェースを設計する。また、システムの使用性だけでなく、ユーザーが心地良くストレスを感じない画面設計とすることも極めて重要。

デザインのトレンドに精通しつつも、ユーザー体験を高める役割をUXデザイナーは担う。

エンジニア・プログラマ

エンジニア・プログラマは仕様書を基に、実際にコーディングしてシステムを実装する職種だ。当然ながら、高いプログラミングスキルやトレンドの技術を学ぶ向上心、チームで進めるコミュニケーション能力などが必要になる。

また、システムリリース後の不具合を限りなく抑え、業務を円滑に進めるためのテストは不可欠だが、不具合を見つけるための注意力や動作を検証し続ける根気も重要なスキルだ。

IPAでは、エンジニア・プログラマはインフラ構築を行う人材とも定義している。プログラミングスキルに限らず、ハードウェア・ネットワーク・セキュリティ知識などのITスキルも必要と言える。

DX人材に求められるスキルとマインドセット

DX人材は企業の根幹とも言えるビジネスモデルを形成するメンバーであるため、相応のスキルとマインドセットを求められる。次に、DX人材に必要なスキル・マインドセットを解説する。

IT分野に関する基礎知識

DXはデジタル技術を活用し、ビジネスに変革をもたらす取り組みのため、IT分野の知見を有することは必要不可欠。IT分野の基礎知識がなければ、企業を変革するための有用なデジタル施策は見い出せず、DXの推進を図れないと言える。これは、コーディングを行うエンジニア・プログラマに限らず、先述の6つの職種全てに該当する。

しかし、IPAが調査した「DXという用語の普及度」によると、全社的にDXの用語を使用する企業は7.6%に留まっている。他事業部も含めた横断的な対応も必要なDXのため、ITリテラシーの低い企業は社内・社外研修を実施し、知識の底上げを図ることが重要だ。

先進技術の理解

近年、AIやIoTの先進技術を活用し、DXを構築する企業が増えている。例えば、一般消費者向けに商品・サービスを展開する企業では、AIによる無人レジを導入し、小売業界のビジネスに変革をもたらしている。

ビジネスモデルを一新するためには既存の技術だけでなく、最先端の技術もチェックし、自社のノウハウと組み合わせて展開することが極めて重要だ。

チャレンジのマインドは必須

DXはビジネスモデルを抜本的に変革する概念であり、新たな仕組みの導入は必須。未経験の分野に挑戦するため当然リスクを伴うが、自社の現状に慢心せず、挑戦しなければDXは実現しないと言っても過言ではない。

会社の経営に大きく関わるDX推進でも躊躇せず、チャレンジ精神を持つ人材をプロジェクトメンバーに入れることが大切だ。

課題設定力

DXを導入するにあたり、重要となるのが課題の設定だ。課題が明確でなければ、実現したいビジネスモデルの構想や今後の企業経営のあり方を決めるのも困難。顧客の立場に立つことで自社の課題を洗い出し、デジタル技術で一層充実したサービスを提供するための道筋を立てる必要がある。

加えて、今後起こり得る行動変化を先読みすることも重要。外部を取り巻く環境やユーザーの行動変化を推察し、他社より優れた課題設定力で、「競争上の優位性を確立する」というDXの目的達成も期待できるだろう。

周囲を巻き込む力

チャレンジ精神を持ち、自分の意見を積極的に出す提案力の高さも大切なDX人材だが、周囲を巻き込む力も欠かせない。少数意見や経営層だけでビジネスモデルを形成すると、現場社員との認識に乖離が発生する可能性もある。

DXは他部署の意見や現場の意見を交えることで、一層価値が高まる。考えを尊重し合い、誰しも納得するDX推進が肝心だ。

DX人材まとめ

DX人材は経済産業省の「2025年の崖」問題や新型コロナウイルスの影響などを受け、需要が高まっている。DXを導入するには、マネジメント・データ解析・UX・プログラミングなどさまざまな専門知識を有した人材が必要となり、慢性的に人手が不足しやすい。

しかし、大手企業をはじめとして、多様な業種でDXは推進されている。昨今の世情を踏まえ、無視できない存在となっているDXの導入を積極的に検討してみてほしい。

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