DXとデジタル化の違いとは? 事例を交えて基礎から解説

2022.10.26

2021.09.29

日進月歩で進むデジタルテクノロジーの発展は、ビジネスシーンにおけるデジタル活用を加速させており、もはや企業の生産性や競争力の向上において、デジタルの活用は欠かせないものになってきている。

その流れで、近年声高に叫ばれているのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉である。本記事では、混同しがちな「DX」と「単なるデジタル化」の違いを解説していく。

DXとは何か?

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、元々は、スウェーデンのウメオ大学教授であるエリック・ストルターマンが、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という仮説のもとに、2004年に提唱した用語である。

学術的な領域から、DXがビジネスシーンに浸透していく中で、18年に経済産業省がまとめた「DX推進ガイドライン」では、DXを下記のように定義している。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

デジタル技術を活用することで既存のモデルから脱却し、企業の成長や競争力強化を実現するため、新たなモデルを確立するのがDXの概念だ。DXの目的には、商品・サービスに対して新たな価値を実感できる顧客体験(CX)の向上や、充実したワークスタイルを作り上げて従業員体験(EX)を向上させることも挙げられる。

DXで従業員体験が向上すれば、仕事に対してやりがいを感じられ、顧客に提供する商品・サービスの価値も必然的に向上。このような好循環をDXで生むことができれば、ビジネスモデルの変革も大いに見込めるだろう。

経済産業省がDXを推進する背景には、「2025年の崖」という問題がある。「2025年の崖」とは、既存システムの複雑化・老朽化・ブラックボックス化により、日本の経済が低迷することを指す言葉だ。

25年以降には、1年で最大12兆円の経済損失が発生すると試算しており、これは現在の約3倍にあたる損失額。国際競争に遅れを取らないためにも、日本ではDXの導入が進められている。

DXと単なるデジタル化の違いとは?

デジタル技術を導入し、企業のDXは推進されていくが、これは単なるデジタル化とは意味が異なる。

企業が導入するシステムと言えば、会計システムや出退勤システム、経費精算システムなど多岐に渡る。近年では、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ICT(情報通信技術)などの先端技術を用いたシステムも少なくない。しかし、単にデジタル技術を導入し、業務を円滑にするだけではDXを達成したと言えない。

DXにおいて注意したい点は、デジタル技術を導入して何を目指すのかという点にある。

システムを導入するなどデジタル化することで、業務の効率化や生産性の向上を目指すことは重要な取り組みであるだろう。一方で、DXは業務効率化・生産性向上の先にあるビジネスモデルの変革することまでも視野に入れたものと考えることができる。

具体例を挙げると、SGホールディングスは伝票情報をデータ化することで、業務の効率化を図っている。これだけでは、単なるデジタル化止まりとなるが、加えて伝票情報のデータを活用し、AIによる配送ルートの最適化も実現。消費者へ商品を届けるまでの時間を短縮し、顧客体験の向上につなげた。

DXは、純粋にシステムを導入して作業時間を短縮するだけではなく、ビジネスモデルや組織体制などに抜本的に変化を与えることまでを視野に入れたものと考えるとよいだろう。

参考:SGホールディングス

DXを単なるデジタル化と理解している企業は多い

経済産業省が発表した「DX推進ガイドライン」により、日本でも広く認知され始めたDXだが、単なるデジタル化との違いまで理解しきれていない企業が多いのも実情ではないだろうか。

IPA(情報処理推進機構)がまとめた「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」によると、企業内におけるDXという用語の普及度は、「全社的に広く使われている」が7.6%、「経営層や一部の部署では使われている」が27.2%となっている。

一方で、ドリーム・アーツは大手企業の経営層・役職者に対し、「DXとデジタル化の違いを説明できるか」というアンケート調査を実施した。その結果、「説明できない」と回答したのが53%、「どちらかというと説明できない」と回答したのが20%で、全体で73%が正しく違いを理解していないと分かった。

認知度は上昇しているDXだが、詳細の意味まで理解している企業は極めて少ない。DXを推進する際は経営層含め、現場社員も理解を深めることが重要になるだろう。

DX推進の課題と成功のポイント

DXを単なるデジタル化で終わらせないためにも、DX推進のポイントを押さえておくことが重要。ここでは、DX推進の課題と成功ポイントを解説していく。

現場サイドの理解を得ることが必要不可欠

DXの推進方針は主に経営層で決められるが、デジタル技術を用いてビジネスモデルを変革していく際は、当然ながら現場社員の協力も必要になる。

しかし、現在利用している基幹システムの入れ替えが発生する可能性もあり、現場社員の業務プロセスも大きく変わる。また、システムのリプレイスを行う上で、経営層が独断でシステムやカスタマイズ仕様を決めてしまい、現場社員から不満の声が挙がるというのはよくあることだ。

「2025年の崖」問題では、経営層と現場社員の戦略に対する温度差を克服できず、実行に移せないことも課題となっている。経営層だけで一方的にDXを進めるのではなく、現場社員の意見もヒアリングし、全社的にプロジェクトを進めることが必要不可欠だ。

デジタル技術導入による目的を明確化する

DXを推進する際、必ず実施しておきたいのが目的の明確化だ。先述の通り、DXはデジタル技術の導入による業務の効率化だけが目的ではなく、ビジネスモデルを変革して顧客体験や従業員体験を向上させることも重要な位置付けとなっている。

目的を策定しないままDX化を進めると、デジタル技術の導入や活用自体が目的となってしまい、その先の顧客体験、従業員体験の向上につなげられない。まず、DX推進による企業ビジョンを持ち、全社で共有した上で、DXの目的達成に向けて取り組むことが重要といえる。

DX推進を図る人材の確保と育成を行う

IPAでは、DXを推進していくために、6職種の人材が必要と提言している。しかし、実際はDX人材の不足を課題に挙げる企業が多い。IPAが提言するDX推進に必要な6つの職種と、DX人材が不足していると感じる企業の割合は下記のとおりとなっている。

職種大いに不足ある程度不足
プロデューサー51.1%20.7%
データサイエンティスト / AIエンジニア51.1%17.4%
ビジネスデザイナー50.0%25.0%
アーキテクト47.8%21.7%
UXデザイナー38.0%25.0%
エンジニア / プログラマ35.9%29.3%

DX人材の不足が課題である一方、「DX専門組織」を設置して体制を強化することで、高いDXの成果を挙げている企業も多い。よって、DXを成功させるためには、人材の確保・育成が大切といえる。

DXに必要な人材は、IT技術に精通した人材が多くを占めているが、プロデューサーの立ち位置は特に重要になる。プロデューサーはDXを実現するため、プロジェクトを主導する人材を指し、経営層と現場社員の溝を埋める役割を担う。

さらに、DXは部署単位ではなく、全社的な取り組みであるため、部署の垣根を超えたコミュニケーションも必須。縦割り組織に臆することなく発言できる提案力や、部署間の壁を取り払って周りを巻き込む力など、幅広い能力が必要となる。

プロデューサーからIT人材まで確保・育成することは、DXを成功させるための大きなポイントと言えるだろう。

一貫性のあるシステムの構築

DXの推進は、全社横断的なデータの活用で、ビジネスモデルを変革していくことが重要となる。しかし、経済産業省も課題に挙げるとおり、既存システムが複雑化し、DX推進が滞っている企業は多い。

また、部署ごとに異なったシステムを導入しているがゆえに、システム連携が取れず、十分にデータを活用しきれていない企業も少なくない。

この場合、システムのリプレイスが必要となるが、部署ごとにシステムの選定を行うのは避けたい。経営層や各部署の意見を踏まえ、一貫性のあるシステム仕様となるように、ここでもプロジェクトをけん引する人材が重要だ。

DXと単なるデジタル化の違いのまとめ

DXは、デジタル技術を導入する取り組みではあるが、単にデジタル化することを意味しているわけではない。

デジタル技術の導入によってビジネスモデルまでも変革することで、最終的に顧客体験を向上させることが目的となる。DX推進の目的を決めた上で、デジタル技術の導入計画の策定を進めていくことが重要になる。

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