地域マーチャンダイジングのためのソーシングのポイントを知る

2022.03.01

2022.12.02

創風土 代田 実

「ご当地食品」「地域特産品」「地物」など、言い方はさまざまだが、ある一定地域でのみ生産、流通、消費されている加工、生鮮食品を積極的に販売する店舗が増えている。

その第一の目的は「差別化」にあるだろう。一般的なスーパーマーケット(SM)が商品調達先としている食品卸や市場卸が扱う商品の多くは、画一化された規格で大量生産されたものだ。安定的に供給され発注、売場管理がしやすい半面、競合店も同じ商品を扱うため必然的に価格競争に巻き込まれる。

それを回避するために「ご当地食品」「地域特産品」「地物」(ここからは、これら商品をまとめて「ご当地食品」と呼ぶことにする)を取り込んで競合店との差別化を図ろうとするのは自然な流れだが、そのマーチャンダイジングおよびソーシングは容易ではない。

地域マーチャンダイジング&ソーシング実行時の課題

どこの店舗でも販売している一般的な商品は、メーカーや卸が商品化を行った上でバイヤーに商品提案を行い、バイヤーは既存の仕入れチャネルの上に敷かれたレールの上で個々の商品取引条件を決めていく流れになっている。

これに対し、「ご当地食品」のマーチャンダイジング、ソーシングは卸などに頼らず、小売りが産地、生産者に直接アプローチするところからのスタートとなることが多い。

「ご当地食品」といっても、その地域に広く出回っているものもあれば一部地区でしか出回らないものもある。その他にも全国津々浦々に存在する「ご当地食品」の情報を集め、その中から自店で売る(売れそうな)商品を選定、納品形態、物流、決済条件などを何もないところから決めていかなくてはならない。これこそが「ご当地食品」を売場に並べるために必要な地域マーチャンダイジング・ソーシング実行時最大の課題となる。

それを示した図表に沿って、「ご当地食品」のマーチャンダイジングおよびソーシングを行っていく手順と課題について解説していこう。

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商品発掘

限られた人員で多くの担当商品を抱えるSMのバイヤーにとって、商品発掘はやりたくてもなかなかできない業務の代表格といえる。やりたくても経験が少ないため、なかなかうまく事が進まないという現実がある。ここではその商品発掘の手順を順序だてて説明していくことにする。

①潜在的ニーズの把握

「ご当地食品」の商品発掘をする上で、入口に当たるのがこの潜在的ニーズの把握だ。その方法は至って簡単で、自店の顧客であり、地元住民でもあるパートタイム従業員に聞いてみればよい。

たとえば「うちの店の品揃えで、何か足りないと感じている商品はない?」とか「うちの豆腐(品群名)売場の品揃えは充実していると思う?」これに対して、何か不満があれば必ず「よその店にはある××が置いてない」とか「豆腐売場はありきたりでつまらない」と答えが返ってくるはずだ。この答えの中にこそ潜在的需要が隠されている。

②どうやって見つけるか→商品発掘方法

潜在的ニーズの把握段階で具体的に品揃えしてほしい品名が出てくる場合もあるが、漠然と「豆腐の売場はありきたりでつまらない」と言われた場合はどうしたらよいだろうか? その時は豆腐という品群についてのアンテナを張ることだ。具体的には、

・インターネットでの検索

・競争店調査や他の要件で行った地方店の店頭を見てくる

・商品見本市や都道府県アンテナショップで探す

・お客やパートタイム従業員の会話の中から発見する

などがあるが、筆者の知人のバイヤーは出張先までの新幹線車内にある情報誌にあった「ご当地食品」の記事を見て、出張用件を済ませた後でそのメーカーまで足を運んで商談をまとめてきた。このように文字通り「足で稼ぐ」という方法もある。

③売れるかどうか見極め

「ご当地食品」を発掘したからといって、それが必ずしも自店で売れるとは限らない。店舗所在地地元の商品ならまだしも、食文化の違う地方の「ご当地食品」の場合はどこまで受け入れられるか慎重に検討しなくてはならない。その際、先ずはパイロット店舗で試売してみるのも一手だ。

④アプローチのしかた

商品発掘する際、その商品の生産者、メーカーにアプローチすることになる。その際は、相手方の迷惑にならないよう事前にアポイントメントを取ることはいうまでもない。その上で、それ相応に相手のことを学習した上でアプローチする必要がある。具体的には、

・相手商品の地元消費者での評価、評判、歴史、食文化面での背景を調べておく

・実際にバイヤー自ら購入試食しての感想を持っておく

・どうしてその商品に興味を持ったか具体的に話す準備をしておく

ことが必要だ。「これだけ興味を持って調べたり食べたりしてみた結果、ぜひ、販売したい」という姿勢を見せることが大切だ。

商品化

商品発掘ができたとしても、そのままでは販売できないことも多い。販売形態(パッケージ)や最低限必要な表示、バーコード、店舗までの物流など商品化面で解決しておかなくてはいけないことは多い。

①そのまま売れるか~(売れない場合)どうしたら売れるか

発掘した商品をそのまま販売できる場合もあるが、セルフサービス販売が前提のSMでの販売が難しいケース(例えば、ばら量り売りでの販売をしている商品)は自店での販売が可能なパッケージに商品化する必要がある。

その際必要な包装資材、商品化形態についてもバイヤーとしてメーカー、生産者と話し合い決めていくことが必要だ。

その際、バイヤーが加工手段(加工場所、業者)を手配したり、加工機能自体の導入をメーカー側に働きかけることも必要となってくる場合もある。しかしこの場合、メーカー、生産者側に費用負担が発生するので、その回収に当たっての最低限度の取引量維持などバイヤー側にも道義的責任が発生することをもあるので十分留意しなくてはならない。

②自店で売るための条件

メーカー、産地が生産し、自店舗までの流通時間を加味して、十分な販売許容期間が確保できるかが自店で売るための条件となる。売場での販売許容期間があまり短いと、値下げ・廃棄ロスを必要以上に生んでしまうからだ。

この場合、製造工程や包装の工夫で賞味・消費期限を延ばすか、物流を見直して販売許容期間を延ばす対応が必要だ。

③最低限の条件クリア→表示・各種法令準拠

もともとは個人商店で製造、対面販売を行っていた加工食品を商品発掘し、容器包装に入れた形態で商品化して自店で販売する場合、製造対面販売では省略可能であった食品表示法に基づく一括表示が必要となる。その他、アレルゲン表示など各種法令に準拠した表示・商品取り扱いが必要となるので注意したい。

取引条件

一般的な卸からの商品仕入れの場合、受発注システムや支払条件などさまざまな取引条件に沿った仕組みがすでにある。このためバイヤーは個々の商品について取引価格、数量だけを決めればよいが「ご当地食品」を直接メーカー、産地から仕入れる場合、これら仕組みから構築していく必要がある。

また、商品発掘、商品化までをバイヤーが行い、取引条件部分については帳合という形で卸など既存のサプライヤーに任す方法もある。

①受発注条件

多くの場合「ご当地食品」メーカー、産地はEOSなどの電子取引環境を有していない。この場合、電話やFAXなどで発注し、手書き伝票で納品といった手法で受発注を行うことになる場合もある。

また、受注から納品までの時間も余裕を見る必要がある場合が多く、一般的な受発注条件よりもSM側が譲歩してのスタートとなることが多い。

この場合、取引開始後徐々に一般的な受発注条件に近づけるよう双方が努力する形を取ることが望ましい。

②物流・納品時間

「ご当地食品」のメーカー、産地は規模の小さいところが多く、自前の配送網を持たない場合も多い。その場合はバイヤーが自店の希望する納品時間に合わせて物流を組む必要がある。

自社のセンター物流網があれば、そのルートを使って集荷に行き、センター物流に乗せる方法もあるし、他のサプライヤーに集荷、店配送を委託する形も考えられる。

③支払条件、取引に当たっての与信

基本的には他のサプライヤーと同じ支払条件とすることになる。この場合、取引口座を新規開設するか、帳合を設けての取引にするかだが、口座開設に当たっては与信審査が必要となるケースもある。これが障壁となる場合は帳合先を通しての取引を行う。

このように「ご当地食品」を販売するに当たって必要な地域マーチャンダイジング、ソーシングは一般的な商品の仕入れと違い、バイヤーが対応すべき領域が格段に多いのが特徴だ。バイヤーはそのことを念頭に十分に時間に余裕を持って取り組む必要がある。

多忙なため地域マーチャンダイジング、ソーシングができず、既存の卸からの仕入れに偏りがちなバイヤーも多いと思うが、バイヤーとしてのスキルアップを図る上でも地域マーチャンダイジング、ソーシングを伴うバイイングを積極的に行ってほしい。