ID-POSで分かった消費者の購買行動|来店頻度を上げるための「リピート顧客」獲得のシナリオ

2023.03.27

2023.03.29

分析:株式会社True Data データマーケティング部 竹村博徳
アナリティクス&テクノロジー部 吉岡治哉
データマーケティング部 中村匡佑
データ出典:True Data、業態:食品スーパーマーケット、以下同

小売業の中で、一番の目標に置かれるのは「店の売上げを上げること、増加させること」だと思う。今回はこのテーマについて分析を行った。

「店の売上げを増加させたい」と考えたとき、例えば商品の購入率を上げる、あるいはより高単価の商品を買ってもらうことで「客単価を上げる」こともあるが、今回はレシートの枚数を増やす、つまり、「買物の回数を増やす」ことに着目する。

レシートの枚数を増やすということを分解すると、1つはお客の人数を増やす、つまり、新規顧客をどんどん取り込んでいくという考え方、もう1つはリピート顧客を増やすということで、いま来ているお客の来店頻度を増やすことに分けられる。

このうち、新規顧客を増やすことについては、そもそも自店を知ってもらう必要があるため、売場を変えるだけでなく、知ってもらうための仕掛けが必要になってくる他、競合店の影響も受けるため、その意味では外的要因が強くかかわってくる。

そこで、今回はリピート顧客を増やす、既存のお客の来店頻度を増やすことに着目して分析する(図表①)。

今回、このテーマにしているのは3月、4月は卒業、入学、入社などで新生活が始まる時季であることから、小売業としても客数を増やすチャンスの時季であることもある。

3月~5月はリピート顧客獲得のチャンス

今回の考え方としては、図表②にあるような「5W1H」のフレームワークで分析をしている。

WHYは「なぜ?」の目的、WHOは「誰?」のターゲット、WHENは「いつ?」のタイミング、そして、WHAT(どういった商品を)、WHERE(どこで)、HOW(どのように)は、具体的な施策の部分はまとめている。これは小売業によって具体的な施策が変わってくるため、今回のフレームワークではまとめてひとくくりで考える。

続いて、今回着目したリピート顧客について、その重要性を説明したい。リピート来店する顧客の定義を「高い頻度での来店を、長期間継続している会員」とし、その上で今回については「12カ月以上連続で同一店舗に来店している会員」をリピート会員と定義する。

図表③は、リピート会員と、非リピート会員の比率を会員数と購入金額で表したものだ。

グラフ, 棒グラフ
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これを見ると、リピート会員は「会員数」で見ると全体の約2割と、それほど高くはない。一方で「購入金額」を見るとリピート会員が全体の約7割を占めている。これを見ると、リピート会員が売上げに対する大きな影響力を持っていることが分かる。リピート会員を増やすことが重要であるといえる。

5W1Hのフレームワークでまとめると、まずWHYの部分ではリピート会員が売上げの多くを占めているため、今回はリピート会員を増やすことが大きな目的になる。

次に毎月リピート来店するリピート会員が、いつからリピートを開始するのかを見ていきたい。図表④は、2018年の12月から、2022年の11月までの4年間に、同じ店舗に12カ月以上連続で来店した会員が、その連続来店をいつ開始したかを月別に表したものだ。

グラフ, 棒グラフ
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例えば、会員Aが20年3月から22年8月までの20か月間に同じ店舗に毎月来店していたとすると、その20年3月から開始したということになり、3月にカウントされる。

結果を見ると、3月~5月が、一年の中で最も連続来店を始める会員が多い月になる。その意味ではリピート会員を増やす上では、3月~5月が最も重要な時季となっていることが分かる。逆に言えば、この期間を逃すとリピート来店をしてくれる会員を逃すことになるので留意したい。この時季は生活の変わり目であるが、このように数字にも表れていることで、改めてこの時季にアクションにつなげることが重要であることが分かる。

従って先ほどの「5W1H」のフレームワークでは、WHENは3月~5月ということになる。

それでは、3月~5月に実際にリピート来店を始める顧客がどのような人物であるのかということに着目する。

図表⑤は、リピート会員のうち3月~5月にリピート来店を開始した会員のみの性年代別の比率と、リピート会員全員の性年代別の比率の差を表したものだ。

グラフ が含まれている画像
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グラフの上に行けば行くほど、3月~5月にリピート来店を開始する割合が高い、下に行けば行くほど、3月から5月にリピート来店を開始する割合が低い年代であることを示している。

これを見ると、女性の10代~40代、男性の10代~40代、男女共通して3月~5月にリピート来店を開始する比率がリピート来店全体の比率に対して多くなっている。やはり、3月~5月は年度の変わり目でもあり、転居などが想定される。高齢世代よりも若い世代の方が動く可能性が高いということで、10代~20代の若年世代、30代~40代のミドル世代が男女共通してこの時季にリピート来店を開始する割合が高くなっている。

逆にあまり転居などが少ないと考えられる高齢世代はこの時季に少ない。従って、3月~5月にリピート来店を開始する顧客は10代~20代の若年世代、30代~40代のミドル世代に多いことが分かる。

いま、スーパーマーケット(SM)に普段来店するお客は高齢世代がメインになってきている。そう考えると、3月~5月は若い世代をつかむチャンスであるということが言える。

従って、「5W1H」のWHOは、若年世代、ミドル世代ということになる。

若年層、ミドル層に向けては「国産豚」「国産鶏」を重視

それでは、3月~5月にリピート来店を開始する若年世代、ミドル世代に何を勧めればリピート顧客になってもらえるのか。何を訴求すれば良いかを明確にするために21年3月から5月の3カ月間の金額の上位100カテゴリについて、横軸に金額比率、縦軸に3月から5月にリピート来店を開始した会員と、非リピート会員との購入率の差を取ったグラフを見てみたい。

横軸では右に行けば行くほど、金額規模の大きいカテゴリとなり、縦軸で上に行けば行くほどリピート会員がより好んで買っているカテゴリということになる。

図表⑥は、10代~20代のグラフとなるが、大きく4つのグループに分けることができる。

このグループによって訴求すべき優先順位を明確にすることができる。「最優先カテゴリ」は金額規模と購入率の差が共に大きく、リピート会員の獲得につながりやすいカテゴリ。金額規模は、最優先カテゴリほどはないが、購入率の差が大きい、つまり、リピート会員がより好んで買っているカテゴリは、リピート会員の獲得の際の盲点となりやすいカテゴリといえるので、「第二優先カテゴリ」としている。

これらは2つともリピート会員が好んで購入しているカテゴリであるため、訴求が重要になってくると考えられる。

図表⑦は、30代~40代のグラフとなる。

図表⑥と⑦を比較すると、どちらもグルーピング、分布は似ているといえる。ここで指摘しておきたい点は、「最優先カテゴリ」にはどちらにも「国産豚」「国産鶏」が入っているということだ。

青果、鮮魚、精肉の3生鮮は、各企業が特色を出して強化していると思うが、若年層、ミドル層においては、「精肉」、さらに「豚」「鶏」を押さえておくことがリピートにつながりやすいと考えられる。

若年層、ミドル層には料理素材を提案、ただし、商品には違いあり

次に、同じリピート会員の中でも、世代間に違いはないのかを考える。

図表⑧、⑨は、図表⑥、⑦でどちらも「最優先カテゴリ」に入っていた「リキュール類」カテゴリにおいて、それぞれ世代ごとに支持されている商品に違いがあるのかを知るために、それぞれの売上上位20商品をピックアップして比較したものだ。

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図表⑧が20代(酒は20代から購入するため)の若年層の上位20商品、図表⑨が30代~40代のミドル層の上位20商品となる。

これを比較してみると、若年層は酎ハイ系の甘い酒が多くランクインしている。一方でミドル層は同じカテゴリでもビール系の酒が好まれている傾向がある。近年、若年層の「ビール離れ」なども指摘されているが、データにも顕著に出ているといえる。

同じカテゴリにおいても、それぞれ年代によって好まれる商品が異なるので、客層に合った商品の訴求がすごく重要になってくる。例えば、学生が多いエリア、ファミリー世帯が多いエリアでは同じ酒でもやはり好まれる商品が大きく異なる。

次に、具体的に優先度が高いカテゴリには、どのようなものが入っているのかを具体的に見ていく。図表⑩は若年層の「最優先カテゴリ」「第二優先カテゴリ」に含まれるカテゴリを表にまとめたものだ。

結果は、豚肉、鶏肉、キャベツ、キュウリ、玉ネギなどの生鮮、卵、調味料、香辛料など、料理に使うカテゴリが多く含まれていることが分かる。

さらにカテゴリ内の商品について、リピート会員と非リピート会員で比較する。図表⑪は「チーズ」カテゴリの例だ。

これを見ると、若年層ではリピート会員の方にのみ、トップ5に粉チーズが入っている他、ミドル層では「クリームチーズ」が入っている。一方で、非リピート会員のスライスチーズなどそのまま食べるような比較的簡便の商品が入っている。

こうしたことからも、やはりリピート会員は「料理の材料となる食材」を求める傾向にあると言えそうだ。それに応えるためにも、レシピ提案などを活用した売場づくりをすることは、リピート会員の獲得にも有効であると考えられる。

5W1Hのフレームワークでは最後のWHAT、WHERE、HOWについては「料理をしやすい・したくなるような陳列・売場づくりを店舗周辺の環境(大学がある、ベッドタウン・住宅街)に合わせて行う」ことによって、顧客の来店頻度が上がって、リピート会員の獲得につながるということになる。最後にまとめとして5W1Hのフレームワークの完成形を図表⑫に示す。ぜひ、これを参考にアクションを実行していただきたい。