「いまだからこそ再確認したい!」衛生管理のポイント

2022.02.28

2022.12.02

オフィスS&Qサポート 渡邉常和

食品衛生法の改正により、2021年6月よりHACCP(ハサップ)が完全実施された。しかし、新型コロナウイルス騒ぎが収まらず、保健所の夏場や年末に行われる定期巡回も例年より少なくなっているようだ。

また各企業も保健所の指導が少ないためか、21年春のようなハサップへの意気込みは感じられない。それどころか新型コロナウイルスの影響で従業員の出入りが多く、店舗でのハサップの衛生教育や進ちょく確認が継続できず、元に戻った企業もあるようだ。今回は衛生管理の一番基本的な考え方を再確認したい。

衛生管理で確認したいことは、まず、それが「日常業務を増やすコストアップの要因」ではなく、「商売の差別化、仕事の正しい効率化や利益確保の手法」だということだ。

よくスーパーマーケット(SM)では「食品の鮮度管理」の重要性が話題になるが、中心になる生鮮、惣菜についてその実施内容を聞くと、「市場からの直送」「当日加工、当日売り切り」の話が出てくる。

確かにそのとおりだが、これはどの会社も心がけていることだろう。店舗での具体的な手法や進め方、そしてその理由になると、多くの管理者は答えに窮するようだ。そのためか、管理者に「なぜそのようにやるの?」と聞くと、「会社のルールだから」で終わってしまうことが多い。そしてこのように答える管理職は、「衛生管理のルールは仕事の邪魔(?)」と、考えているためか、どうしても率先垂範で自分から進んで行動するというよりは、忙しいことを理由に自らルール破りをやる方が多いと感じている。

このような流れでは、せっかくハサップなどの新しい手法を導入しても、定着にはほど遠く、本部巡回時だけ間に合わせでやってしまうようだ。

結果、チェックリストもまとめて記入するため、同じような字体、筆圧で記入されている。本来、商売の武器になる衛生管理が、現場を阻害するようなものとして考えられることは残念なことだ。今回は、なぜ衛生管理を行うのかを再確認し、そのポイントを解説したい。

「衛生」の意味を辞書で見ると、「健康の維持と向上を図る」、また「疾病の予防と治療に努める」といった内容のことだとしている。だから衛生管理にとって一番大事なことは、人の健康にかかわる作業になる。その中で必ず知っておきたいことは次のこととなる。

自身の衛生管理の知識と行動から見直す

1.健康が対策の第一歩

まず、仕事に就く自分の健康管理に努める必要がある。病気やけがをした状態で仕事に就くことは、トラブルの元になる。だから暴飲暴食を避け、睡眠、食事など含め、自分の体調管理にも気を配る。

2.身だしなみが大事

髪型や爪切り、制服等の身だしなみが重要となる。食品に入る異物の多くは、人に起因する。だから身だしなみなどが、最優先の対策となる。

大切なことは、まずは「手洗い」。手洗いは新型コロナウイルスでも重要な対策となっているため、正しい手洗い方法が、以前よりはずいぶん定着してきた。しかしながら、手洗いは子どものころから行ってきているものであるためか、まだ多くの人が我流の間違った手洗いをする。

ポイントは、手の中で汚れている箇所(爪の周り、親指、指の間、手首、しわの多い部分)を理解しておくことだ。その上で、正しい洗い方(親指、手首は、もう片方の手で包んで洗う。しわを意識して洗うなど)を行うこと。詳しくは厚生労働省がホームページで開示している手洗い方法が参考になる。

アルコール殺菌で気を付けることは、爪先に意識的にアルコール噴霧すること。その上で手の平にも噴霧、両手をこすり合わせると効果的だ。爪の周りはどうしても汚れが残るため、ぜひ、このことを意識したい。一般に利き腕と反対側の汚れは落ちやすいのだが、利き腕の手の部分の汚れが残りがちだ。このことも知っておきたい。

また爪の長さにも気を配る。爪は一番汚れがたまりやすい部分。「爪を切りなさい」と指示するのではなく、「手の平から見て、爪が見えないように切りそろえる!」といった表現で指導する。

そして制服に着替えたら、鏡を使ったり、2人組んで相互確認し、仕事に就く。

施設と設備で気を付けること

1.トイレ清掃

毎日利用するトイレは汚れが多い場所。だから加工場に汚れを持ち込まないため、基本的なルールを設け清掃する。

制服の上着(理想はズボンもだが、現実的でない)は、入室前に脱ぐ。そのため入口脇に上着をかけられるようにしておく。

また履物は専用のスリッパなどに履き替える。そして履き替え場所に樹脂製のスノコを準備する。木製は汚れがしみ込むので使用不可。

人の手がよく触れる箇所(ドアノブなど)は、次亜塩素酸ナトリウムを薄めた(200ppm以上)もので拭くか、アルコール消毒を行う。

トイレ清掃は、清掃専門の担当者が1日2回以上行うのが望ましい。もし、従業員が行う場合、清掃終了時には制服すべてを交換するようにお願いしたい。

2.害虫やネズミ対策は?

最初に確認するのは壁や天井の穴や隙間がないかどうか。数mmの空間でもゴキブリなどは巣にする。だから完全にふさぐこと。また排水溝にも網をかけ、ネズミが通れない、入らないようにする。

上からつる形式のハエ取り紙は、異物混入と見た目から使用禁止。代わりに捕虫灯付き粘着捕虫器を使用する。捕虫器は、気温が高い夏場などの時季は、夜間こそ有用なので点灯しておく。

もし、日中にネズミやゴキブリなどを見かけた場合、店舗での対策は無理なので、専門業者に連絡し対応する。日中に衛生害虫が出歩く場合は店内に相当数いることが想定されるので、最低3カ月以上の継続契約を結ぶ。業者選定に際しては、「何をどのようにやるか」を明示してもらった上で選ぶ。

そして店舗検査時は、管理者も一緒に回るようにする。巡回時にやっている作業について、「なぜ、そうやるのか」の質問を繰り返すことで自身のレベルアップになると共に、取引先のけん制にもなる。

一般に、害虫などは気温が25℃を超すと活発に動き出す。だからごみは、当日廃棄を習慣化する。もし、生ごみの廃棄が当日できない場合は、冷蔵庫に保管する。また、グリストラップも毎日清掃(日中でも可)するようにルール化する。

3.衛生用備品はけちらずに!

使い捨て手袋、ペーパータオルなどは、必要な所定の場所に置くようにする。例えば手洗い器周りにアルコール噴霧器やごみ箱がなく、加工と兼務で使う例が見受けられるが、必ず専用化すること。コストがかかるという人もいるが、生鮮、惣菜の毎日の廃棄金額から考えると安いもの。備品などは、専用化しないと必ず使わない人が出てくる。必ず身近に準備すること。

新型コロナウイルス騒ぎで、水道の自動水栓への切り替えが増えた。手が触れないため、とても衛生的だ。将来的には予算を取り、手洗い器は全部を自動水栓にしたい。

また使い捨て手袋やラップなどを繰り返し使う店がまだある。これはトラブルや事故のもとになるので厳禁とする。

4.調理器具の管理ポイント

①使い分け

包丁やまな板は二次汚染防止の点から、用途別(下処理、仕上げ)、食材別(魚、肉など)にする。よく家庭の延長で同じまな板で作業する人がいますが、大きな間違いだ。

②洗浄、消毒

包丁、まな板、容器、菜箸、トングなどの洗浄消毒は、全員手順どおりに行うこと。注意する点はまな板では傷目を、包丁では刃の付け根や銘が彫られている箇所、柄の部分を意識して行う。また、ふきんは、汚れが見えなくても何度も同じものは使わないようにする。

5.保守点検と修理の重要性

機器にひび、欠けを発見した場合、とりあえず応急修理をする。ただ、往々にしてそのまま継続してしまうことが小売業ではよくある。予算があるのは分かるが、このようなことが続くと店内全体の管理レベルが下がり、汚い環境に慣れ、さらに汚くなってしまう。だから、年度予算を組むときにも、会社方針として保守管理の意識を持つようにしたい。

食品管理の決め手

鮮度管理、事故防止の観点で一番大切なことは、「時間」と「温度」の管理。だから、迅速な対応が大事になる。そしてこれは食中毒防止の一番大切なポイントとなる。

1.検品の重要性

鮮度の良い商品は、加工も楽で、ロスも少ないことは皆、体験的にも知っている。その第一歩が店の検品となる。だから検品は商品を良く知っている人が行う。冷凍品が少し融けるなど商品に問題がある場合、値下げで引き取るのではなく、交換返品を取引先に習慣づけたい。そして問題を記録として残すと、取引先の評価にもなる。

2.在庫管理で事故防止

仕掛かり品や調理品は裸保管ではなく、ラップやふた付きの容器に入れることを習慣化する。また汚れているものや原材料は下段に、加工度が高く直接食べるものは上段に置くようにする。理由は、重力を考え、ほこりやドリップを考えれば分かると思うが、これは事故防止に大切な考え方となる。

そして、食材に直射日光が当たるかどうか、また、使用期限の時間(日付)管理にも注意をする。

3.調理の際に大切なこと

調理の際に大切なことは、加熱や冷却する温度や時間だが、中でも中心温度がポイントになる。すべての食材は無理ですが、温度の通りにくい食材や事故の多いひき肉製品などは、抜き打ちで中心温度の測定を習慣化する。また冷却時も中心温度を測る。特に粘度の高いカレーなどは、鍋ごと氷水につけかくはんして冷ますなど、ルールを明確にしておく。

衛生管理は「実践」こそ大事

衛生管理で大事なことは、知識はもちろんだが、それに加えて「実践力」になる。それも、上から行動すること。知っていることは大事だが、行動が伴わなければ、意味がない。自分たちが実践することで、その会社独自の「ノウハウ」が完成する。ハサップも導入時がスタートで、継続し見直すことで、本当の意味での力が付き、競合との差別化ができるのではないだろうか。