「データサイエンス」を経営に生かすために目指すべき方向と方法

2022.03.01

2022.11.11

システムズリサーチ コンサルタント 吉田繁治

100万店(年商130兆円)の小売業で、とりわけ遅れているデータサイエンスと、わが社が目指すべき方向と方法について示します。

科学界のものだった「データサイエンス」は、産業へのAI(人工知能)の利用と共に、また、深層学習に必要な「データセットづくり」と共に、2015年ころから浮上してきた概念ですが一般には、まだなじみのないものです。

チェーンストアで「数値管理」と言われてきたものが原始的なデータサイエンスです。ところが、その数値管理の徹底が、全品プライベートブランド(PB)開発の真正のチェーンストア、ユニクロ、ニトリ、コンビニ以外ではほとんどないのです。

これには、メンバーシップ型であり、欧米のチェーンのようなジョブ型、つまり数値責任型ではないわが国雇用と経営者にまで、関係しています。

日本のトップは、株主に対して利益責任を負っていないと考えます。米国の経営者は、経営計画で示した利益の達成を強く求められ、示した目標利益が達成できないことが「4半期決算×4回=1年」も、続くと解任の動きが出るのです。

数値管理のなさとあいまいさは、わが国の社会、行政、企業全体に及んでいます。「原因を科学的に追及することが数値管理」です。

「科学的に」とは、
・計測したデータによって、
・原因を仮説的に確定するという意味です。

人間か関与できない自然科学や化学的な真理ではなく、人間が作った仮説にとどまるのは、その事象についてすべての関連データが計測されていないからです。このため、医薬でも、害毒になる副作用が数%は出ます。科学的なはずの医薬も完全ではない。コロナワクチンも同じです。

こうした基本的なことまでさかのぼる必要があるのは、原因の科学的な追及が、実験をする科学界以外では、経済界でも少ないからです。

物理学とは違い、経済学は「数値的な検証を経て作られた学問」ではありません。経済学には、数値に紛れて感覚的な観念が入りこんでいます。

難しく感じる人が多いと思われる前提はここまでにします。実はこの「前提」こそが大事なのですが、それは科学者に任せます。

日本の新型コロナウイルス感染は、収束に向かっているのか(22年2月末の状況から)

日本における、数値管理のレベルの低さの事例から書きます。東京都の新規感染数が、2月4日の1日当たり約2万人から、その後1万5000人台に減ったことから、政府・厚生労働省は、「日本のオミクロン感染はピークを打った(かもしれない)」という観測を出しています。 

傍証(関連するデータのこと)としては、確かに、世界の新規感染は1月26日の1日当たり286万人でピークをつけ、2月20日は126万人へと44%に減っています。

検討するのは、厚労省の数値管理であの領域である東京都の新規感染数は、本当に減る方向に向かっているのか?ということです。

このためには、東京都とわが国の新規感染数がどういう方法で作られた(計算された)数字かを、調べる必要あります(数値の意味を調査することが数値管理です)。この調査が、科学的な数値管理です。

新規感染は、世界中で、PCR検査での陽性数で示されます。このため、PCR検査数がどうなっているのかを調べる必要があります(売上げや利益の原因調査と同じ方法です。利益がどう計算されたかを調査しないと、利益が上がったとはいえない)。

『東洋経済ONLINE』は、わが国のPCR検査数の推移をグラフ化して公開しています(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)。

全国のPCR検査は、22年2月7日までは、増え続けていました(ピークの検査数1日当たり31.6万人)。しかし、感染数が指数関数(1.05の累乗)で増えていた2月中旬になると、PCR検査数の7日移動平均が22万人台(ピークの68%)に減っています。

政府(内閣府が厚労省を統括)は、感染数が最も増えている時期に、「PCR検査キットが足りず、検査要員も増やせない」としてPCR感染数を減らしたのです。これは、世界で日本だけの特殊事情です。社会的に、数値管理の科学的な意識が低く、感覚的な判断をしているからです。

日本社会・経済の役員は、国会議員です。この国会議員(会社では経営層に当たる)の、科学的な数値管理の意識が低い。数値意識が低いため、PCR検査が内閣府の意向(行政命令の紙が存在します)で、2分の1に減らされたことは、調べない。

国会(開催中の予算委員会)でも、全くこの問題の追及がありません。政党が、PCR検査陽性率の、世界1の異常な高さが意味することを調べていないからです。日本のPCR検査陽性率(陽性者数/PCR検査数)は、25%~45%と高い。PCR検査数がもともと少なく、発熱や風邪の症状を訴える人から、さらに絞ったのです。このため、2月22日では、22万件のPCR検査で、6万9500名の陽性者が出ています。検査陽性率は、31.6%と高い。

国際的には(英米の権威ある科学論文のNatureなど)、PCR検査陽性率は5%以下でないと、無症状を含む感染者を十分に発見しているとは言えない。日本の検査陽性率は31.6%ですから、PCR検査数が、最低でも必要な数の「5%÷31.6%≒16%」でしかない。

最低限でも日本社会の健康のために必要な検査数は、「現在の検査数22万件/日÷0.16=138万件」でなければならない。理想的には、1日当たり300万件(現在の22万件の13.6倍)のPCR検査が必要です。日本以外の世界では、理想的な数のPCR検査を行っている国が多い。

冒頭に書いたように政府は、「東京都の感染はピークアウトしたように見える」と言っています。

しかし、実態では、新規感染数は、少ない検査で発見された1日当たり6万人(全国)ではなく、6倍から10倍の36万人から60万人でしょう。検査されていない実態では、36万人~60万人/日の感染が、2月22日時点のものということです。

米欧より少ないとされている日本の感染数も、人口当たり約10倍の米欧並みに多いでしょう。日本では「PCR検査を減らせば、陽性者は減る」とされているのです。発見されない感染者は、自分が新型コロナにかかっているとは思わないでしょう。自分を隔離はせず、普通の生活と行動をします。

新型コロナウイルスでは、無症状者からのエアロゾル感染(空気感染)が起こるので、発見されない感染をさらに広げていて、普通は、3月になると収まっていく季節的な収束を、長引かせているのです。

新型コロナウイルスの、最適な増殖気温は5℃から11℃だからです。気温の低い日が多い厳冬では長引きます。なお夏に感染が増えるのは、室内の換気をせず、冷房するからです(気温の高い沖縄には最も多い)。クーラーの中で、新型コロナウイルスの最適気温になります。空気感染には「換気」が最高の対策です。

政府がPCR検査を抑えることができている原因は、PCR検査陽性率の35%から45%という異常な高さの意味を、ジャーナリズムと医師が調査しなかったことです。

厚労省は、ジャーナリズムの知識と調査力の低さに付け込んで、医療先進国といいながら、後発国よりはるかに低いPCR検査しかしていない。政府と厚労省を追及する記者と政治家がいないからです。被害者は、病院が満床と断られて自宅療養で苦しむ60万人の国民と、時短営業を強いられているサービス業、来店数が減った小売業です。衣料品店と百貨店は壊滅的な売上に下がっています。

コロナ医療を忌避する人が多い医師のモラールにも問題があります。特に、医師会です。ここで書いていることは、難しいことではない。筆者のように感染症の素人でもインターネットの検索で簡単に調査できることです。

以上の結果が、日本の社会で生じている理由は、社会的に「科学的な数値管理」の意識が低いことです。

経済のあいまいな「景気」も同じですが、少ない数字から感覚的に判断されています(これを実感と言っています)。

日本の企業で数値管理が徹底していない問題の根は、小売業経営者、本部社員、バイヤー、店長、社員にまで及んでいて、深い。

小売業の数値管理

図表①は、チェーンストア協会(加盟56社)の公開データから、筆者が作ったものです。小売業の単独では、労働時間の集計が行われていないことが多いので、それがあるチェーンストア協会のものを使いました。

これを見て、どう考えるでしょうか。ここが、小売業の経営的な数値管理の始まりです。

大手小売業56社の総売場面積は、10年で33%の出店で33%増えています。ところが、売上げは10年で4%しか増えていません。その結果、設備の生産性を表す1坪当たりの売上げは78%に減っています。年率平均では2.5%の減少です。これは何を意味するか? これが、経営的な数値管理の始まりです。

2011年から20年まで、大手56社の既存店売上げは、年率平均2.5%で減ってきたといことです。これは5300万世帯の平均所得の減少と比例しています。22年以降、5300万の世帯所得の平均(460万円)が、増える要素はない(経済学的にない)。そうすると、56社の平均的な既存店売上げはマイナス2.5%が、20年代も続くということです。

この平均の分散の幅は、前年比プラス5%~マイナス10%です。売上前年比が下位30%くらいの店舗(全国で30万店)は、今後3年の間に売上げが30%減になり、消滅するということです。

日本は、20年代は2年~3年間のコロナインフレも絡んで、店舗消滅の時代を迎えています。

意味のある集計から、こうした意味のある結論を出すのが、科学的な数値管理です。

その数値からの結論に対して、3年後の閉店数値がそうならないように新しい対策を作っていくのが経営です。

過去10年間と同じ筋の商品対策しか打たないと、過去10年の数値通りの結果しか出ません。なお、意味のない数字をいくら集計しても、当然に無意味です。売上データに関連していえば、小売りの全社の経営計画では、次年度の店舗売上計画では、プラス5%が多い。

ところが1年後は既存店ではマイナス2.5%だった。目標との差は7.5%と大きい。この差の原因が調査され、確定されなければ「成果を高める経営」とは言えない。しかし、実際にはこの原因確定は行われず、過去の「反省」に立って、売上げの上昇に効果がある商品対策が打たれていない。

数値管理は、多く数字を集計してモニター(監視)することではない。集計された結果から意味を見出し、有効な対策を作って実行し、過去の数値の傾向をプラスの方向に変えていくことです。

これが数値管理であり、経営(マネジメント)でもあります。マネジメントは、PDCA:計画→実行→差異の管理→対策とされます。

内容は「新しい計画数値→実行→数値の差異原因の追及と確定→原因対策の立案(ガントチャートに書く)→実行→数値の差異原因の追及と確定→新しい対策の立案→実行…」を、勤務年数の間、ずっと続けることです。

PDCAサイクルとも言います。数値がないPDCAはありえないのです。企業文化の改革、企業文化の担当は経営者です。

数値管理による経営の実行に当たっては、企業文化の変更が必要です。この改革は、経営者しか行えません。

商品部の会議の事例

「先月は、この部門の売上げが前年比マイナス5%でした。今月から、売上げを増やす商品投入をしていきます」

こういった会議が、企業文化の中では不思議とは思われず、繰り替えし行われています。これでは、いつまでたっても売上げは増えません。事実、過去10年、増えていない。翌月も、同じことを言って、仕事をした気分になっています。

多くの企業では、これに類する会議が多く、4週で1回として、10年間、同じ発言が130回は行われてきたはずです。

問題点を挙げます。

まず、売上げがマイナス5%である原因が推計されるはずですが、これは現場調査で確定したものではない。数値管理の観点からは、売上げが前年比マイナス5%というバイヤーの発言は、数表を見て言っただけで経営(PDCA)という観点からは、無効です。これを無効とするには「企業文化」の改革が必要です。

どうしなければならないか。

その部門の売上が5%減ったことには、原因があったはずです。

最初は、売上げの数量順に並べて、それぞれ前年比を付けます。売れ数が増加した品目もあれば、減ったものもあるはずです。大きく(10%以上)数量が減った品目を並べます。その上で、売上げが減った原因を推計し、調査します。

①それらの品目、または価格と商品特性で類似する品目の、競合店での売れ行きはどうか?その品目の商圏での売上げは、同じ商圏の他店や競合店で上位3位くらいまでの調査がないと、分からないはずです。自店の売上げだけで、即断することはできない。この即断を禁じるのが企業文化です。

②それらの品目、または類似品目に競合店との価格差はないか。価格差はいくらか。

③売場での展示プレゼンテーションに売上げを減らした原因はないか。展示欠品または売れる下限の陳列在庫3個以下はなかったか。

④減った品目と類似する商品特性の品目の売上数はどうだったか。同じ特性の別の品目も減っていれば、顧客需要の変化の問題がからんでいるだろう(これは推計)。

⑤競合他店の同じ部門で、売上げが伸びていると推計される品目は、何か?

他店との価格の違いなら、実際に他店の価格調査をしなければならない。

商圏の上位3店の品目の価格は、常時変更され、商品も変化しているので、実地調査は毎月、大規模に実行しなければならない。これがバイヤー、店長、部門マネジャーの職業の義務です。職務といいます。

必要な職務を行わないで、勤務時間を満たして、給料を受け取る権利はないでしょう。これが、マネジメント(PDCAの経営)をするマネジャーです。

以上の調査を経て原因を確定し、「***のために、この部門の売上げが、前年比-5%だった」という発言する企業文化に変更しなければならない。実は、原因調査の過程で対策は出てくるのです。

科学的に原因の確定をしないと、有効な対策は作れないし、実行もできない。既存店の前年比の同じマイナスが、今後も、永遠に続きます。多くの企業の現実では、繰り返し、意味の小さい数値管理の会議が続いているのです。

数値管理について企業文化を変更する上では、数値の集計表を増やすことがなければ経営的な意味がない。数値管理の入口として必要な、部門別管理表(結果を示すスコアカード)の基本フォーマットを参考のために挙げておきます(図表②)。

このスコアカードは、店舗の商品の売上げ、粗利益、経費、労働人時、営業利益を1表で一覧するものです。マネジメントに使う数表は一覧性がなければならない。ウォルマートでは1980年代から、これに類似したスコアカードを作って、毎週FAXで、担当のマネジャー、店長、部門マネジャーに送っていました。現在は、インターネットのiPADやPCです。マネジャーのPDCAにおけるデータの利用を考えたデータ化でないと、数字の価値はないのです。

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