輸入が高騰の中、国産の商品化を丁寧に、付加価値を付けてながら売上げを作る|「これは押さえたい」精肉編・2022年12月

2022.12.06

2022.12.07

月城流通研究所 月城聡之

いよいよ激動の2022年が終わる。世界的にはウクライナ侵攻や異常気象による干ばつと大洪水、過去最大の台風、そして日本においては新型コロナ感染者の増加傾向…。

これらの影響を畜産業界も大きく受けることになった。

日本の経済回復が遅れたこと、「安い日本」と揶揄されるように、日本の購買力が落ちたこと(変わらなかったと言う方が正しいかもしれない)。

牛タンやショートプレートのように、輸入食肉が軒並み諸外国に買い負けし、今まで安く大量に仕入れることができた商品が手に入らなくなってきた。

いまこそ、サスティナブルな食肉産業を考え直す、実行に移すタイミングとなっている。

主力アイテムを国産食肉とし、安定供給できる販売体制を整える。

近年まれに見るような食肉需給状況が激変している中で年末を迎える。いままで困ることがなかった仕入れが安定的にできなくなり、価格も牛豚鶏、国内外すべてが高騰するという前代未聞の状況となっている。

いままでの成功体験から、「きちんとモノを売っていれば利益は残る」という現実とは明らかに変わっている。いま、私たちが取り組まなくてはならないことは、冷静に調達できる商品を選別して、商品化やオペレーションなども再度構築することにある。

年末年始商戦は、国内産畜肉に軸足を向けなければ商売が成り立たない現実は目に見えている。売れている競合店のまねをして、苦しむような商売スタイルは時代錯誤も良いところである。

自店のあるエリアで、競合に勝てる商品、品揃え、価格帯を冷静に判断した上で、エリアの生活者に魅力的な価値のある売場づくりを考える必要がある。

競合は、当然スーパーマーケットだけではなく、食肉店やディスカウント店、生鮮を品揃えしたドラッグストア、エリアによっては、当日配送できるネットショップなども競合と考えられる。

ディスカウント店やドラッグストアの激安価格をまねして価格を下げても、バリューチェーンや仕入構造が異なっているため、自爆することになる可能性がある。

ディスカウント店は粗利益率16~17%程度、ドラッグストアは同11~12%程度あれば良い。この粗利益率で運用しようとすると間違いなく赤字となる。それはコスト構造が全く異なるからである。

見た目だけまねしても何も解決しない。ディスカウント店やドラッグストアができない商品を作って販売しよう。

牛肉

和牛はA5等級の構成比が高い。交雑牛はB3等級~B4等級で値頃感のある商品を品揃えする。頻度品は国産牛(ホルスタイン)を上手く活用する。

国産交雑牛バラ(三角バラ)ふぞろい焼肉 100g当たり698円

クリスマス商戦をターゲットに、三角バラふぞろい焼肉など、焼肉を拡販する。今年のクリスマス商戦は、輸入鶏肉を安定的な量で仕入れることが難しいため、輸入冷凍骨付きレッグやローストチキンでの売上げは、ある程度に限定される。

そのため、焼肉やローストビーフ用ブロックで売上げを確保することが求められる。

12月の年末商戦に向け、交雑牛をセットで仕入れ、クリスマス商戦に三角バラなど焼肉商材を、ふぞろい焼肉で販売を強化し売上確保を狙う。オペレーションが簡単な商品化で人件費の削減にも貢献する。

売場展開では、カタ、シンタマ、ランプ部位なども、ふぞろい焼肉として品揃え可能。

希少部位のミスジ、トモサンカク、シンシン、イチボ、ランボソは、奇麗に焼肉やステーキにカットすることで、価値を高め、単価を上げた商品化が可能となる。

近年、交雑牛については和牛に匹敵する奇麗なサシが入ったものもあり、サシの入った牛肉を和牛と比べても安価に提案することができる。

ロイン系は、年末商戦に定番価格で和牛と併売し、しっかりと利益を稼ぐように戦略を考えると良い。

豚肉

輸入豚肉の相場が高く、さらに安定的に調達できないという環境から、国産豚、銘柄豚、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から地産地消豚などの引き合いが強くなっている。

輸入豚肉と国産豚肉の価格帯が近くなっていることからも、国産に焦点を絞った展開が22年下期から一層強まっている。

国産銘柄豚肩ロース・モモ 豚すき用 980円(300g)

年末商戦に銘柄豚を使用した折り箱展開を行う。年末商戦直前までは980円ラインまでの購入しやすい価格帯を主力ラインとして展開し、際の30日、31日は1580円、1980円などのギフトパックも品揃えする。

折り箱商品は、そのままスライス肉を盛り付けても良いが、ミートセロファンに肉を包んで展開する方が、高級感が出る。オペレーションが大変と思われがちであるが、スライスは社員が連続取りして、商品化はパートタイマ―やアルバイトにも仕事を任せて、別作業としてセロファンに包んで商品化していくと良い。分業することで、効率的な仕事方法を検討すると良い。

また、年末商戦のタイミングと売上げについて、前年をベースに再度検討する必要がある。

新型コロナウイルスや働き方改革もあり、正月3が日に休業する企業も増えている。そのため、年末商戦の売上げの立ち方が、30日、31日に集中し、29日まではウィークデーのような売れ方をしている地域も少なくない。

鶏肉

ニュースを見ていると、8月の輸入鶏肉の輸入量が減少している。特にブラジル産が高値となり、輸入量が大幅に減少している。

これは、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、欧州や中東の需要がブラジル産に集まり、高値が付いていることに起因している。

その反動でタイ産鶏肉の引き合いが強くなっている。こちらは大幅な増加となっている。生産量については新型コロナウイルスの影響は残るものの、生産能力は回復傾向にあると予想されている。

輸入鶏肉の影響を受け、国産鶏肉もクリスマス商戦では、数量がひっ迫することが予想される。特に、チューリップなどの製造が間に合わず仕入れることが困難となることが予想されるため、メーカー任せのチューリップの発注ではなく、別の策を練る必要がある。

「クリスマスだから」といった無意味な特売はやめ、メニュー提案など切り口を変えた提案を行いたい。

今年は、合いガモやターキーといった、いままでクリスマスや年末商戦で主力としてこなかった商品に光を当て、展開するのも一つの方法となる。

国産合いガモモモ、ムネ鍋用 100g当たり498円

国産合いガモを使用した鍋用の展開を週末やクリスマス、年末商戦に行う。真空販売でも良いが、国産は単価が安くはないため、パック単価が1280円を超えないように重量調整すると良い。

モモとムネを別々に販売すると、価格が高いことが際立ってしまうため、「モモムネミックス」で商品化して、割安感を演出すると良い。

合いガモを販売する際には、合いガモ鍋スープの展開、合いガモだんごなど品揃えすることで、ワンセットのメニュー展開となる。

焼肉コーナーで合いガモを使用した焼肉も紹介するとおもしろい。合いガモを焼いて、粗挽きの塩と黒胡椒で食べると焼肉の新たな境地を発見できる。

国産黒豚鍋セット 1280円

クリスマス商戦後から折り箱黒豚鍋セットを展開し、圧倒的に「映える展開」を売場で構築する。

システムトレーではなく、「折り箱」を使用することで高級感とギフト感を最大限に演出する。

「イベリコ豚」の進出によって下火になっていた「黒豚」をハイグレード豚肉として松竹梅戦略の最高峰、「松」の位置づけで再度訴求する。

黒豚のひき肉を使用した「つみれ」も入れ、カット野菜で鮮度感を出す。

ここ約20年ほどの間、ローコストオペレーションが進みすぎて、どの店舗もシステムトレーに並べられた「50年前の昭和の精肉」を再現したような状態となっている。

ここで、いち早く逆張りをした精肉は異色の展開で消費者からも注目される店となるはずだ。

脂肪の甘さが特徴の黒豚の商品化は、脂肪のトリミングをしすぎないことにある。何でも同じ商品化、トリミングを作業として行うのではなく、商品やグレード、肉質によって、脂肪の付け方や厚みなども研究して、年末に最高においしい肉を地域の方に食してもらいたい。

トレンド商品

真空そのまま販売

タイ産合鴨ロース(冷凍) 598円

精肉の販売形態が大きく変化しようとしている。産直パック、産地パックと呼ばれる、「個包装」になった「真空パック商品」を定番化させることで、バックヤードの人手不足を解消させる。

一般的に精肉は、原料を仕入れてバックヤードでスライスや手切りによって商品化し、トレーに盛り付けてラップ値付けをして販売する。しかし、近年は作業人員確保が困難になり、アウトパック化も同時に進められてきた。

最近では、産地で真空パックした商品を作ることで、商品化の手間も省かれた、産直パックや産地パックと呼ばれるような商品も多く出回るようになってきている。

産地パックは、産地でと畜した製造現場から空気に触れることなく店頭の売場まで届くため、衛生的にもよく、菌が繁殖しにくいことや、酸化、劣化を抑えることが期待できる。

価格は、例えば鶏肉だと、通常業務用は脱気包装の2kgパックが一般的であるが、それが1枚1枚個包装となっているため、オペレーションの時間が2kgパックよりも少し遅くなる。

つまり、単位時間当たりの出来上がりコストがやや上昇するため、納品単価が同じ商品でも上昇する(個包装と2kgパックの中身は同じだから、2kgの単価と同価格にする要求をメーカー側にするのは、生産の仕組みを分かっていないことを、自ら露呈しているようなものである)。

ただ、目先の納品単価は多少上昇しても、精肉のバックヤードの商品化作業はなくなるため、「実質製造コストゼロ円」で陳列ができるため、棚卸し時には実質利益は残るということである。

今回紹介するのはタイ産合いガモムネ肉の冷凍真空パック。このまま値付けをして販売することも可能であるが、シールが剥がれてしまうこともあるため、あえて、トレーに乗せてラップをした包装で回避させることもできる。

特に冷凍ケースで販売する場合は、シールが剥がれやすいため、この方法が特にお勧めである。

トレー販売することのメリットは、通常商品と同じようにシステムトレー幅で綺麗に陳列できること、値付けシールが剥がれないこと、見た目も奇麗になるため、お客が購入しやすくなることなどである。

お客は、家庭の冷蔵庫でパックを開封、真空パックを取り出し、誰も触っていない真空パックをそのまま衛生的に冷凍庫に格納することができる

一方で、この方法のデメリットとしては、トレー包装資材分が余分なコストとして上昇してしまうことである。ポイントとしては、販促シールを添付することである。

銘柄鶏や銘柄合いガモは特に、ブランドシールを添付することで、産直であることの付加価値が必然的に付いてくるため、必ず販促シールは添付する。

産直パックをそのまま販売することは、原料包装を詰め替える際に出ていたプラごみ自体が発生しなくなるため、プラスチック使用量を削減していることにもなっている。

このように、身近なところからSDGsに取り組むことも可能であるため、少しずつ意識をして取り組んでもらいたい。

それ以外にも、トレーを廃棄する際のCO2排出を考えて作られた、バイオマス原料を使用したトレーに変更することや、紙トレーなどに切り替えるなども取り組みとして考えられる。トレーにバイオマスマークなど書かれている商品も増加傾向にある。 1枚当たりの単価はやや高くなるが、精肉としても積極的に取り組んでいくと良い。