ID-POSで分かった消費者の購買行動|鍋つゆを展開するときにどのような食材を訴求すべきか? 同時購買と関係性の両方を押さえることで見えてくる世界

2022.12.16

分析:株式会社True Dataデータマーケティング部 竹村博徳
データ出典:True Data、業態:食品スーパーマーケット、以下同

最初に図表①で「鍋つゆ」のトレンドを確認したい。

まず、前提として今回の「鍋つゆ」の定義から。True Dataの分類で「鍋つゆ」が含まれる「めんつゆ・ラーメンスープ・鍋つゆ・白だし」カテゴリーのうち、商品名に「鍋」「なべ」「ナベ」が入っている商品をピックアップしている。

その上で、「鍋つゆ」のトレンド全体ではやはり12月が伸びているということになる。分析では2021年12月を起点として、どういった「味」が買われているのか、また、メイントピックとしてどのような食材が使われているのかといったところを紹介したい。

図表②は、21年12月時点における個数別の「味」別の売上げのランキングとなる。個数別では、「豆乳鍋」が1位で、次に「寄せ鍋」、続いて「あごだし鍋」「キムチ鍋」のランキングとなっている。

今回、味の切り口で見ようとしているが、「豆乳鍋」と「寄せ鍋」「キムチ鍋」の3つを取り上げる。「あごだし鍋」を除いているのは、「あごだし豆乳」や「あごだし寄せ鍋」といった形の商品名が存在するためだ。

昨年12月は鍋つゆは売上減傾向だった、購入者数の減少が響いたが…

それでは、売上げの傾向を図表③の売上げの分解ツリーで見てみよう。21年12月の20年12月比の比較となる。「鍋つゆ」全体では、「購入金額」では93.65%と下回っている。

下回っている理由を、「購入者数」と「1人当たりの購入金額」で見ると、両者とも下がっているが、特に「購入者数」が95.14%と大きく下がっていることが、鍋つゆの21年12月単月の傾向だったといえる。

結果として鍋全体では、鍋ではない市場で、何か暖を取れるメニュー、食品に流れて行っている可能性があるのではないかという仮説が立てられる。

続いては、21年12月の「鍋つゆ」全体で93.65%だったところ、先ほどのランキングの「豆乳鍋」「寄せ鍋」「キムチ鍋」の3つがそれぞれどのような状況だったのかを見てみよう。

まず図表④の「豆乳鍋」。

ここでは1つは指標として「差分」を追加している。これは、「豆乳鍋」の数値から「鍋つゆ」全体の数値を引いたもので、つまり、「鍋つゆ」全体の前年比と比較して、「豆乳鍋」の各指標にどれくらい開きがあるのかを理解しやすいように設けている。

まず、「購入金額」を見ると、「豆乳鍋」の前年比79.46%となっていて、「鍋つゆ」全体と比較しても14.19%ポイント落ちていることから、21年12月に限って言えば、「豆乳鍋」は非常に調子が悪かったという捉え方ができる。

ただ、その中身として、どちらかというと「購入者数」が減っていることが要因であるのがポイントだと思われる。「1人当たりの購入金額」は鍋全体と比べてもプラスになっていることから、あくまで、「購入者数」が減ったことが大きかったといえる。

売上げを見ると、単純に「豆乳鍋の前年比が悪かった」、しかも、「鍋つゆ全体と比較しても悪かった」という展開になりがちだが、売上げの分解ツリーで1段階だけでもブレークダウンして見ると、お客の財布の大きさ(1人当たりの購入金額)というよりも、買う人数(購入者数)が減ってしまっていることが非常に大きいということが分かってくる。ここは押さえどころだと思う。

続いて、同じ形で「寄せ鍋」を見たものが図表⑤となる。「購入金額」は91.98%で、こちらは「鍋つゆ」全体との差分は小さい。ただ、構造は「豆乳鍋」と同じで、「1人当たりの購入金額」の前年比は「鍋つゆ」全体と比較して上回っているが、一方で、「購入者数」は下回っている。構造上は「豆乳鍋」と同様だが、差分が小さかったというところが、「寄せ鍋」のトレンドとなる。

最後に「キムチ鍋」が図表⑥。これも結論としては他の鍋つゆと同じ傾向で、「購入金額」は「鍋つゆ」全体と比較してマイナス4.09%ポイント、「1人当たりの購入金額」は近いが、「購入者数」で見ると下がっているという構造。

結果として、全体で見ても、「味」別で見ても、「1人当たりの購入金額」はほぼ変わらないが、「購入者数」が少なくなっている傾向にあるということが分かる。

ここに対して、どのような打ち手を打っていくのか。どのような商品を開発し、かつどういった仕掛けをしていくかが肝になってくる。

「同時併買比率」「リフト値」の両方を見ることが重要

そこで今回、各味、かつ各年代でどういった食材が好まれるかということを考えたい。その前段として、鍋つゆの各味が、どの年代に受け入れられているのかを図表⑦で見てみたい。これは21年12月の「購入個数」の構成比となる。例えば、「豆乳鍋」の縦の数字を足すと100%となる。年代ごとに区切ったときに、どの年代に受け入れられているのかを個数ベースで見るものとなる。

色が濃くなるほど値が大きい形となっているが、結論としては、「豆乳鍋」と「キムチ鍋」が40代、50代に購入個数ベースで支持されている一方で、「寄せ鍋」はもう1世代上の60代、70代に購入個数ベースで支持されていることが分かる。

これは想像できる範囲であると思うが、やはり高年齢になればなるほど、味がシンプルになっていくということが見えてくる。

この結果を見ても、どの味を、どの年代に訴求していくべきかということについて、見えてくるが、ここでもう1段踏み込んで食材を見ていく。

今回、鍋つゆの味と食材の関係を見るに当たって、「同時併買」で見ることにする。「同じバスケットの中に入っている商品を分析の対象とする」もので、例えば「キムチ鍋の商品を買ったバスケットの中に、どのような食材が入っているか」といった形で数字を見る。

指標としては、大きく分けて図表⑧の2つの指標を用いている。1つ目が人数、つまり、ボリュームで、同時に買っている人数の指標として「同時併買率」という数値を使っている。

2つ目が「リフト値」。これは「購買の関係性の強さ」を表したもの。

ここからはこの2つを表した図表を3つ用いて説明していく。

図表⑨は、「同時併買比率」、つまり、買っている人数の大きさだけに着目し、味と年代に区切ったときに、どのような食材が特徴的であるかを示したもの。

続く図表⑩は、「リフト値」、つまり、、関係性の強さだけで見たときに、味別と年代別でどのような食材が特徴的であるか。

最後の図表⑪は、これら2の数字をどちらも加味した上で、どのような傾向にあるのかを見るもの。

図表が3つということで、分かりづらくなると思う向きもあるかもしれないが、これには意図がある。「リフト値」だけに着目すると効果が限定的になる可能性がある。本来は人数の大きさと関係性の両方を見る必要性があることを伝えたい。

早速、図表⑨から見てみよう。これは「同時併買比率」、人数の大きさだけで見たときに、どういった食材が特徴的かを見たもの。この「特徴的」という言葉をもう少しかみ砕くと、「各鍋の味にしかない食材」を示している。

「寄せ鍋」に何も食材が入っていないのは、人数だけで見たときに、「寄せ鍋」と同時に買われた食材については、他の「豆乳鍋」や「キムチ鍋」とあまり変わらない、特徴がなかったということを示している。

逆に言うと、「豆乳鍋」や「キムチ鍋」に関しては、何がしか他の鍋にはない特徴的な食材があったということになる。

「豆乳鍋」に関しては、70代で「油揚げ」、「キムチ鍋」に関しては数が多いが、20代で「畜肉ソーセージ」「ニラ」、40代、50代、60代で「ニラ」、60代、70代、80代で「漬物」が、他の鍋にはない特徴として数字に出てきた。

「キムチ鍋」については、鍋の中に入れる具材として想像しやすいのではないか。また、「漬物」の中にはそもそも「キムチ」が含まれている。イメージとしては鍋つゆの濃さでは足りない、もしくは食感が欲しいという理由で、キムチを買って鍋に入れているという使われ方があるのではないかと思われる。

「豆乳鍋」に関する70代の「油揚げ」については、鍋の中に入れる具材としてはオーソドックスでもあり、特徴的な食材として挙げている。

これが同時に買っている人数の大きさだけで見たときの傾向となる。

3つの鍋に共通する食材として「畜肉ソーセージ」と「コンニャク」が浮上

続いて、図表⑩の「リフト値」、関係性の強さで見てみよう。こちらはばらつきが出た。

まず、「豆乳鍋」に関しては、エリンギと切り身のタラということで、割と豆乳と相性が良い食材がやはり同時に買われていることが傾向として見えている。

「寄せ鍋」は、20代、50代、60代で「切り身エビ(むき)」。30代で「油揚げ」、60代、70代で「ホタテ貝」が入ってきている。割と海鮮系の食材が並んでいることが寄せ鍋ならではの特徴となっている。

最後の「キムチ鍋」は、30代、40代で「漬物」、40代~80代で「牡蠣」という形で、こちらも「キムチ鍋と言えば」といった傾向にある。

ここで1つ着目するポイントは、図表⑦の人数の大きさで出てきていた食材が、図表⑧の関係性では「漬物」しか出てきていないことだ。ここに両方の指標を見る意味がある。

例えば、図表⑦にあったキムチ鍋の「ニラ」は、同時に買う人数は多いが、関係性は弱いということが分かる。結果的に、キムチ鍋を訴求するときに、本当にニラを置く意味があるかということになると、数字上で見るとあまり意味がないということになる。

つまり、人数の大きさと関係性では違う形で食材が選ばれている、違う景色が見えるということが如実に分かってくる。

最後に図表⑪、「同時併買比率」と「リフト値」を重ねて見たときの食材。つまり、人数も多いし、関係性も強い食材ということになる。

結論としては、「豆乳鍋」「寄せ鍋」「キムチ鍋」、3つの味に共通している食材として、「畜肉ソーセージ」と「コンニャク」が挙げられる。年代としては、20代~40代に関しては、どの味でも「畜肉ソーセージ」が人数も多く、関係性も強かった。「豆乳鍋」に限れば50代までレンジが広がる。

「コンニャク」については、70代、80代に関してはどの鍋の味にも共通していて、「寄せ鍋」と「キムチ鍋」については60代まで入ってくる。

もう1つ、その鍋にしかない食材としては「寄せ鍋」だけに出てきている食材として、「すり身・つみれ・だんご」が20代と50代、また、50代に限ってみれば、「切り身タラ」が出てくるという結果だった。

同時に買っている人数の多さと関係性の強さの両指標を見ていくと、少なくとも「豆乳鍋」「寄せ鍋」「キムチ鍋」の3つの味を12月に展開するのであれば、これらの食材との関係性を訴求していくことが有効という結論になる。

いずれにしても、同時に買っている人数の大きさと関係性では結果が異なること、そして、これら両方を見る必要性が高いということを強調したい。

著者プロフィル/2010年大学卒業後大手食品会社に入社。ID-POSデータを活用した提案に携わる中で「購買データ分析の重要性」を痛感し、15年にTrue Data入社。主に小売り・メーカー企業のデータ活用を支援している。現在は、データを掛け合わせた新時代のマーケティングを提案するとともに、「クライアントに求められる次世代ID-POS分析サービス」の開発を推進。