春満喫のレモンサワーは底堅し、10月予定の酒税率改正と外のみ動向に注目を|「これは押さえたい」酒編・2023年3月

2023.02.01

酒文化研究所 山田聡昭

今年の酒類販売の最重要課題は10月に予定されている酒税率の改正への対応だ。増加が見込まれるのは減税される「ビール」と税率はそのままの「レディトゥドリンク(RTD)」だ。RTDは新ジャンルが増税されることでリーズナブルさが際立ち、大幅な増加もあり得る。

ビールに重点を強調したアサヒビールの塩澤社長(右)と松山専務(左)

レモンサワー&焼酎ハイボール

長く2桁増を続けてきたRTDは、昨年はほぼ前年並みで着地し、勢いが落ち着いたように見える。だが、まだまだ底堅い増加トレンドは続いていると見るべきだ。

昨年4月に飲食店での酒類提供の制限がなくなり、業務用(外飲み)が徐々に復活しコロナ前の約60%の水準に戻った。外で飲めば家での飲酒は減る。

酒類消費は内と外でトレードオフの関係があり、外飲みが増えた分、家飲みが多いRTDと新ジャンルは減少する。こうした飲み場の変化が直撃した新ジャンルは、昨年93%(出荷量)と7ポイントもダウンした。同じ状況にあるRTDは99.7%(出荷量)とほとんど減っていない。

また、10月の酒税率改正では新ジャンルは350㎖当たり9.19円増税となる。現在の新ジャンルと酎ハイ(RTD)の350㎖の価格差はコンビニで約10円新ジャンルが高く、スーパーマーケット(SM)では酎ハイが恒常的に安く売られているため30円前後高くなっている。

今回の酒税率改正では、新ジャンルの増税分がそのまま価格差となる。規模は読み切れないが、新ジャンルから酎ハイへの流出は間違いなく起きる。

そうなれば、秋に向けてRTDを強化しておくべきである。特に食中酒で飲まれるレモンサワーや焼酎ハイボールなど甘くないタイプに重点を置き、酒類ヘビーユーザーの好みに則した品揃えを追求する。

また、RTDは酒類ではあるがマーケティングは飲料に近く、大量広告と大量陳列で量販できる。RTDメーカーはブランド格差が大きかった昨年の市場動向から、今期は主力ブランドに集中的にプロモーションを掛けると予想される。この量販型のマーケティングにしっかり乗ることも重要で、4月はこうした銘柄の甘くないタイプを押し出して、客数と売り上げをとりに行く。

売場展開

メーカーの注力銘柄の広告と連動した売場づくりで、お客に「RTDが充実した店」「「RTDを買うならここ」というイメージを刷り込む。一方で、メーカーの広告プロモーションがなくなっても、根強く動く脇役ブランドを見極める。ID-POSが取れるならば、リピート率の高いアイテムを探り、粘り強く売っていく。

スペシャルのビール

2020年10月の減税以来好調を続けるビールは、次の減税でさらに加速が予想される。業務用はコロナ禍前の7割程度まで回復すると見込まれており、今期ビール各社はビールの増加を確実なものと見ている。

4社とも基幹ブランドを強化する方針で、アサヒはラグビーW杯フランス大会のオフィシャルビールとして「スーパードライ」を国内外にアピールすると共に、「アサヒ生ビール」(通称マルエフ)を第2の柱にすべく育成を図る。

キリンは「一番搾り」をリニューアルし、過去最大規模のプロモーション展開を予定している。また、クラフトビールの未体験ユーザーの開拓に力を注ぐ。

サントリーは「ザ・プレミアム・モルツ」をフルリニューアルし、料飲店の活性化を図る「人生には、飲食店が要る。」のコミュニケーションを継続。

サッポロは「サッポロ生黒ラベル」と「ヱビス」を柱に、多彩なビールビールブランドを強みに変えて熱狂的なファンづくりを進める。

小売店としてはメーカーのプロモーションに連動して売上げを確保する一方で、中長期的な展望を持って高付加価値カテゴリーの育成に取り組む。10月以降ビール類&RTD市場のバランスが大きく動く中で、「スペシャルなビール」を模索する動きが強まると予想され、それがプレミアムビールやクラフトビールなのか、あるいは別の新しい何かなのか見えないが、変化の先駆けを探る試みを継続する。先んじて成長の種を探さなければ、大きな成長は望めない。

売場展開

フルリニューアルする「一番搾り」と「ザ・プレミアム・モルツ」は3月上旬に新モデルが店頭化する。どちらも社運をかけて大規模なプロモーションを掛けるはずで、メーカーマーケティングに乗って売りを完結させる。

一方で、春夏の棚割りでは冷蔵什器内に、「スペシャルなビール」の本命を探るべくクラフトビールや限定ビールを紹介するコーナーを設けて、月替わりでさまざまな商品を提案していく。

ノンアルワイン

岸田首相は1月20日に、新型コロナの感染症法上の位置づけを、この春に季節性インフルエンザと同じ5類に変更するよう検討を指示した。3月は送別会や謝恩会、お花見など特別な飲食の機会の多い月で、5類に変更されれば、こうした催しの回復の加速することは確実だ。

パーティ需要の拡大に対応して、飲まない人も一緒に楽しむノンアルコール酒類を提案する。すでに定着しているノンアルビールやノンアル酎ハイで脇を固めて、メインはまだ目新しく登場感のあるノンアルワインを前面に立てる。

売場展開

ノンアル酒類を島やひな壇でイベント陳列し、その中心にノンアルワインを据えて大きく見せる。小容量の飲み切りタイプでお試し購入を促す。

トレンド商品

酒粕ペースト

酒粕は美容と健康に欠かせない発酵食品だ。酒粕は微生物が消化できなかったお米であり、食物繊維の塊である。食物繊維には腸内環境を整える働きがあることはよく知られているが、その他にも肌の美白効果があると言われるフェルラ酸が豊富で、黒い金魚に酒粕を餌として与えると黒い色が抜けてしまう。

みそ汁に入れるとこくが増し、人気ラーメン店のみそラーメンには隠し味でしばしば酒粕が使われる。酒粕で漬物をつくると肉、魚、野菜などの素材のうま味を引き出してうま味が増す。ネットを検索すれば酒粕を使ったスキンケアは多数紹介されている。

良いこと尽くしの酒粕だが、板状のものは溶けにくく、少々扱いが面倒だ。少量の酒を加えて電子レンジで温めると少し緩くなるが、滑らかなペースト状にするには骨が折れる。

注目したいのは酒蔵がペースト状に加工した酒粕で、柔らかでどんな料理にも使いやすくたいへんおいしい。成長余地たっぷりの期待の商品だ。

売場展開

要冷蔵のものが多く冷ケースでの販売が基本。冷蔵庫の甘酒の隣にゾーニングするとよい。利用方法やベネフィットをアピールするアイキャッチを付けるとよい。

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