注目の肉惣菜、部門としても調理工程の追加など考え方の一新を|「これは押さえたい」精肉編・2023年3月

2023.02.16

2023.02.27

月城流通研究所代表 月城聡之

卒業、年度末など日本では年度が変わる最後の月となる。

地域の幼稚園、保育園、学校などの行事を知ることで、ハレの日メニューの売り逃しのないように、事前準備が大切な月となる。

幼稚園、保育園の卒園式には、子どもの好きな唐揚げやハンバーグなど、小中高になると、ステーキなど少し高いハレの日メニューを提案する。

3月後半は新年度に備えて、引っ越しや新たな職場での準備などばたばたすることも多いため、簡便メニューや肉惣菜メニューを充実させることで、売上げを確保していくことができるようになる。

精肉の商品化は、鶏肉では袋から開けてトレーパックに商品化したり、豚肉や牛肉をトリミングしてスライスしたりして盛り付けるなどが主流となっていた。

しかし、肉惣菜を精肉に取り入れたことにより、フライヤーやスチームコンベクション、グリドルなどの惣菜で使用していた調理機材を使えるようにならなくてはいけない時代になっている。

いままでのノウハウだけではなく、新しく求められる技能や技術を身につけていく必要がある時代となっていると言えるだろう。その面でも、考え方の一新をバイヤークラス、経営層も行っていく必要があることに着目しなければならない。

牛肉

国産牛バラ切り落とし牛丼用 200g980円

外気温がまだ上がっていない春先は、焼肉需要が高くないため、バラ部位は焼肉への商品化ではなく、スライスして牛丼用で展開すると良い。

牛丼チェーンは、ショートプレートを使用して牛丼を作っている。バラ肉の脂肪のうまさなども調理後のうま味に溶け込むため、家庭での調理もバラ肉を使用することで、本格的な牛丼を作ることができる。牛丼チェーンのショートプレートのスライス厚は1.3mm。バラ肉が絶妙においしい厚みである。小袋の牛丼のたれを添付して、牛切り落としと一緒に商品化する。紅ショウガや玉ネギなどを関連販売すると、牛丼を作ってみたくなる消費行動が起こる。

牛丼のたれなしの切り落としも一緒に販売し、家庭にあるすき焼きのたれや自家製調合の牛丼のたれで楽しむ消費者にも対応すると良い。

豚肉

国産焼き鳥盛り合わせ(冷凍) 10本598円

国産豚ロースを使用した厚切りトンテキ用を販売する。厚みは3cmで迫力のある商品。

豚ロースのリブ側を使用して商品化する。スジがあるカブリ側をグローブのように2~3cmほどの切れ込みを入れる。このグローブカットをすることで、火の通りが遅い脂肪部分にもしっかりと火が通り、脂肪の甘さが際立つようになる。

B級グルメがブームとなったときに四日市名物の「トンテキ」が一気に有名になった。その後、外食店で広く展開されるようになり、認知度は高くなった。

古くは戦後間もない頃から三重県四日市市で労働者のスタミナ料理として愛されてきたローカルフードであるが、そのトンテキに、再び火がつき始めている。

10年近く前のトンテキブームのころには、市販のトンテキのたれなどはほとんど販売されていなかったが、今回は市販のたれなども増えており、関連販売しやすくなった点が普及のきっかけとなっている。

鶏肉

国産焼き鳥盛り合わせ(冷凍) 10本598円

国産鶏肉焼き鳥盛り合わせの冷凍真空パック。昨年需要が高まり、工場での生産が追い付かなくなるほど、人気が出ている商品である。

2023年は冷凍コーナー定番商品として品揃え必須である。串刺し焼き鳥は、以前、タイや中国の輸入物が多かったが、国内製造ができる工場も現れはじめ、国産鶏肉を使用して少し高め設定の価格でも売れている。

冷凍真空パックのため、購入してそのまま家庭の冷凍庫で保管もできる優れものである。冷凍商品は、肉がパサパサで冷凍焼けしている印象があるかもしれないが、その印象がある人は、時代に乗り遅れているといえる。

かつて冷凍庫にそのまま入れて緩慢凍結していたため、細胞壁が壊れてドリップが多く出たりしていた。しかし、エアーブラスト方式(空気凍結)だけでなく、リキッド方式(液体凍結)やプロトン凍結(電磁波冷風凍結)などさまざまな急速冷凍の技術が進歩している。刺身を凍結して解凍しても、生の刺身とそん色ない味が出せる技術である。

簡便商品

国産豚カタ肉不ぞろい焼肉ガーリックペッパー焼き用 100g当たり138円

国産豚肉カタ肉を使用した焼肉を提案する。いままで、バラやカタロースを使用した焼肉が一般的であったが、カタ肉は味があっておいしいことや、スライサーで商品化できるメリットがあり、不ぞろいの焼肉には最適な部位である。脂肪のトリミングは、切り落としを作るときよりもやや多めに残すことで、おいしい焼肉になる。

3mm厚、脂肪5mmアンダーを目安に商品化すると良い。味付けは、人気のガーリックペッパー焼きや山賊焼きのたれ、レモン味など、定番の味から新フレーバーまで水平展開が可能となる。

トレーは高ぶたのトレーを使用すると、立体的になり、ボリューム感を出すことができる。売場での陳列もインパクトが出る。

陳列場所は高さを出しても影響の出ない、平台がお勧めである。

肉惣菜を売り逃さないブランディング

売り手も「精肉の惣菜」と「惣菜」の線引きが難しくなっている。当然、消費者は「精肉の惣菜」か」「惣菜」かは知るよしもなく、どちらでも良い話である。

精肉の惣菜の方が比較的後発である企業が多く、精肉部分に惣菜加工スペースがリニューアルと共にできるケースもある。

精肉の惣菜は、肉に特化した惣菜であるが、惣菜とのくくりは徐々に薄れており、きっちりと店舗内で話されていない企業は、ほぼ似たような品揃えとなっていたりする。

「精肉の惣菜が売れない」と思っている店は、惣菜と同じような品揃えだったり、価格が高かったりとさまざまな要因が考えられる。

惣菜があるにもかかわらず、あえて精肉で惣菜を買う購買動機は何かというと、惣菜よりも「肉の価値が感じられるか」「満足できるかどうか」ではないだろうか。

ポイントは、①惣菜で使っているものとは一線を画する「精肉で扱うブランド肉」を使用した商品であること。②家庭で調理するのが難しい商品であるかどうかである。

また、③調理を惣菜よりも研究して、さらにおいしく仕上げることである。

国産銘柄鶏半身揚げ 半羽880円

半身揚げは比較的大きなフライヤーがなければ調理することが難しい。

油調時間は骨周りまで火が通った状態で、揚げすぎていない調理時間を研究することが大切である。調理前の商品温度や作業場温度、フライヤーの設定温度によって、時間が変わるので、ここでは記載しない。

精肉で販売している鶏肉を使用することで価値が打ち出せる。しっとりとジューシーに仕上げることがポイントとなる。注意点としては、店頭で数時間販売した状態でもパサパサになることなく、ジューシーさが保たれているかである。

スチームコンベクションの場合も含めて、加熱時間は出来たてではなく、できた状態から数時間経過したときに、おいしく食べることができるかである。

さらによくするには、その状態から電子レンジで再加熱したときにおいしく食べることができるかどうかにかかっている。家に帰ってからのレンジ加熱でおいしくなければ、リピート商品ともならない。

ディスカウント販売の終焉

「安い日本」と揶揄されるほど、日本の物価は安い。日本で暮らしていると全く感じることがなく、むしろ物価が高くなり肉が買えないと感じる消費者が増えているかもしれない。

一方、世界全体の食肉需要は現在も増加傾向で推移している。日本の人口は減少に転じているが、世界人口が増加していることがその一因である。

世界全体の食肉需要を見ると、2024年には「家きん肉」が1億3300万tと最も需要が多くなり、次に「豚肉」が1億2800万t、「牛肉」が7500万t必要になるとOECD-FAOの予測が出ている。

注目すべき点は、直近20年で「家きん(ほとんどが鶏肉)」の需要が倍増していることにある(出所:農林水産省WEB「(1)世界の食料の需給動向と我が国の農産物貿易 イ 食料需給をめぐる今後の見通し」https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h27/h27_h/trend/part1/chap1/c1_2_01_2.html

今後も世界人口は増加し続け、特に鶏肉の需要が高い発展途上国の人口の増加率が高いことを想像すると、より一層、鶏肉の需要は高くなると考えられる。

現在、海外から輸入している鶏肉の多くは、タイやブラジルである。近い将来日本以外でも需要が高まることにより、鶏肉の価格は上昇、日本は牛肉や豚肉同様に鶏肉も他国に買い負けをして、仕入れが困難になると想定し始めなくてはならない。

特に、鶏肉は手ごろな価格、健康的なイメージ、低脂肪、宗教的問題の少なさなどのプラス要因により、先進国だけでなく、発展途上国でも需要の増加が見込まれる。

新型コロナウイルスによって、一時期輸入鶏肉の入手が難しくなった時期があった。外食産業も含めて、鶏肉がひっ迫し国産鶏肉に重要が集まった。22年冬に猛威を振るった鳥インフルエンザ流行時には、逆に国産鶏肉が不足し、定番で販売する鶏肉を調達することすら困難になった。

一時的な需給状態とはいえ、いままでのように、鶏肉を安売りして販売できる状況ではなかったことは言うまでもない。

これからの外部環境を想像すると、輸入鶏肉に関しては、短期的には困ることなく、輸入はできるものの、中長期では、価格の上昇、仕入れの問題も課題となると予想される。

国内鶏肉は、鳥インフルエンザによる影響など、季節要因で増減するものの、提携農家やさまざまな仕入先との良好な関係づくり、定期的な仕入れを行っておくことが必要となる。

SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、店舗の近隣農家からも仕入れを行い、社会への貢献という課題にも同時に取り組み始めることが望ましい。

ただし、生産量の限られた近隣農家の鶏肉は、特売だからといって、急に増羽できない。つまり、いままでのようなブロイラーの特売での販売方法では、物量が確保できない。

エシカル消費がうたわれる近年、無理なディスカウントは消費者ニーズとは逆行するということである。適正な価格で、近隣農家の鶏肉の価値を売場で表現する方法で、消費者満足を得なくてはならない。