増加見込まれるアウトドア需要の準備、地方名物メニューにも注目|「これは押さえたい」精肉編・2023年7月

2023.05.29

月城流通研究所代表 月城聡之

コロナが5類になってからの初めての夏休みがスタートする。ここ2~3年とは異なる動きをするため、昨年と同じ売場づくりとはならないようにすること。

ゴールデンウィークの動向を見てみると、海外旅行や中長距離の旅行に行く人も確実に増えているが、「安近短」で自家用車やレンタカーで出かけることができる場所に、旅行した人が7割近くいたようである。

少しずつ旅行に対する復調の兆しが出ており、2023年の夏休みは大幅に旅行する人も増えることと考えられる。特に近場のキャンプ場やアウトドア施設がある場合は、特に需要が大きく見込まれるため、その準備は怠ってはいけない。

また、「安近短」の旅行の割合も多いことから、家庭で食べる「週末メシ、休暇メシ」を想定した、「ハレの日」まで届かない程度のメニュー提案が必要である。

インバウンド需要増の連鎖で、スーパーマーケット(SM)の売上げは、空前の伸びが期待される7月、8月となるであろう。その準備も、怠ってはいけない。

精肉は、日配やグロサリーのようなメーカー製造の商品の販売については限定的で、製造小売業と呼ばれる、原料を仕入れ、商品に変えていく要素の強い部門である。

そのため、環境(相場や仕入れ、調達など)の変化を受ける部門でもあるが、うまく活用すれば常に売上げも利益も取ることができる部門でもある。

良くも悪くも、新型コロナウイルスの影響で外部環境が大きく変わり、仕入れに対する意識と相場が急速に変わったときの対応に関して考える機会となったことは間違いない。

環境の変化に対応し、いかにうまく売上げを作って利益を確保するかを考える必要がある。企業によっては自社でパックセンターを作ったり、アウトパックをうまく活用して対応している。たれ漬け商品やキット商品をうまく活用することもできるが、既存商品の仕入量や仕入方法を変えることで、利益を変えることも可能となる。いま一度、すべてをフラットに考えて、柔軟に対応していきたい。

牛肉

国産交雑牛ロース焼きしゃぶ用 100g当たり698円

ロースを「焼きしゃぶ」提案で訴求する。夏場はロース、サーロインなどの高級部位が焼き商材として売れにくく、売れないと思い込んでいるチーフも多い。

しかし、メニュー提案1つで売れ筋に変わる。「焼きしゃぶ」は、フライパンやホットプレートで、しゃぶしゃぶのようにさっと火を通す焼きメニュー。焼しゃぶのたれは、ぽん酢であっさりと食べるのがおいしい。

部位は、「ロイン系」は週末、「モモ系」などは平日に展開することで、ウィークデーの焼きしゃぶ提案を強化する。

メニューが定着するまでは、「リブロースの芯」、外モモの「シキンボ」だけなど焼きしゃぶにして、それ以外は既存の商品化にするなど、製造量の調節を行うと良い。1つの部位から、複数の商品化を行うことで、商品の作り過ぎが起こらないようにすることができる。

商品化は、箸で持ちやすいように、ふわっとした「切り落としタイプ」の盛り付けを行うことで、調理時にも配慮した商品となる。

豚肉

米国産豚カタ切り落とし豚唐揚げセット 680円/400g

豚カタ肉を使用した豚唐揚げ提案を行う。唐揚げといえば鶏肉で作るのが一般的であるが、豚肉で商品化することで、鳥インフルエンザで価格が高騰している鶏肉の代替メニューとして活躍できる。

部位は「豚カタ(ピクニック)」を切り落とし、小間切れにして商品化する。

カタ肉以外でも、ロース、カタロースをしょうが焼き用程度の厚みで提案することも可能である。

調理方法としては、カタ肉の切り落としを20~30g程度の一口大の大きさに丸めて唐揚げのもとを付けてフライパンで揚げる簡単行程である。

切り落としの販売だけでは、メニューは伝わりにくいので、メニューサンプルやPOPを掲示するなど、メニュー提案を分かりやすくする工夫が必要である。

国産銘柄豚焼肉三種盛り 298円/100g

店舗で使用している銘柄豚肉を使用した、「国産豚焼肉盛り合わせ」を販売する。ロース、バラ、カタロースを焼肉用に商品化し、盛り付ける。

四角いシステムトレー、あるいは焼肉用仕切り付きトレーに盛り付けるのも良いが、扇トレーなど、特殊トレーを用いて、奇麗に盛り付けることでアイキャッチとなる。

売場でトレーの柄が乱立してしまっている最近の精肉では、アイキャッチ商品を作ることが困難になっているが、一部を変型トレーに切り替えることで、売場で商品を目立たせることができるようになる。

国産豚肉を使用する背景としては、昨今のコロナによる仕入環境の変化から、輸入牛肉焼き商材の安定的な扱いが難しくなっていることにある。

以前に比べると、為替もやや落ち着き、工場も稼働して納品価格もやや落ち着いているものの、米国では牛生体価格が現在も高めに推移していることなど含め、先々でも不安要素は残っている。

肉惣菜

国産豚骨付きロース トマホークグリル 880円

肉惣菜のグリルカテゴリーの売上げが徐々に伸びてきている。店内の鉄板やグリルで焼き上げた肉は香りが店内に充満し食欲をかき立てる。

ステーキや厚切り焼肉などもあるが、豚骨付きロースの「トマホーク」は、他にも増してインパクトが強く、家庭での火入れが難しいことから、加熱済みの商品化で夕食の一品としても提案できる。輸入牛肉での「トマホーク」の提案もおもしろい。売場が映える。

注意点としては、加熱を十分にし過ぎるあまり、肉がパサパサになってしまっている商品も少なくない。そのため、調理時には中心温度をきちんと測り、余分に火を通し過ぎないよう注意する。

調理食品の中心部温度を75℃の状態で1分間以上加熱することで、ほとんどの細菌は死滅する(ウイルス対策としては85℃~90℃の状態で90秒間以上の加熱が必要)。

地方名物メニュー

最近、ブームになっているのが、それぞれの地方で愛されている「ローカルメニュー」。

新潟の中抜きを半分にして揚げた「半身揚げ」、香川名物の親鶏の骨付きモモ肉をスパイシーに調味料をかけて焼く「骨付き鳥」、名古屋名物の豚カツにみそだれがしっかりと染み込んだ「みそカツ」など、おいしい名物メニューが数多く存在する。

地元ではごく一般的に食べられており、他の都道府県に外食店としてもあまり出店していないようなグルメは、そこでしか食べることができないメニューとして旅行や出張先で一部の人に親しまれている。そうしたグルメは、少しずつSMでも知名度を上げている。

国産親鶏味付け(解凍) 100g当たり128円

香川県で親鶏の骨付きモモ肉は、地域の名物料理として知られている。地鶏のようなコリコリした食感が特徴の親鶏の特性を生かし、骨付きのまま調理することで、味と食感が楽しめる一品となる。

今年は鳥インフルエンザの影響で、数量限定で販売をしていることで、より一層需要が高まったように感じられる。親鶏は、若鶏とは違い、肉調や味が濃く、食感も歯応えがあるため、多くのSMでは売れないと思われがちであるが、一度食べるとやみつきになる消費者も多く、リピーターも付きやすい商品である。

親鶏以外にも、スパイスを付けた商品化で、中雛を使用した骨付きモモ、若鶏の骨付きモモも陳列すると、色や食べ比べをして楽しむ提案も可能となる。

地方名物メニューは、B級グルメなどでブームになっていたが、メニューによっては作り方や味付けにルールがあって、なかなかSMで再現することが難しかった。

しかし、鶏肉など素材をテーマにしたメニューは再現性が高く、実際にその土地に行ったときに、自分の味がどうだったのか答え合わせができるため、地域の活性化にもつながるメニュー提案となる。

最近は、名物メニューが全国に広まるケースが増えている。先にも登場した「半身揚げ」や「骨付き鳥」、「みそカツ」も知名度を上げながら、惣菜でも展開が広がっている。

例えば、焼肉コーナーの「洗いだれ」なども、京都から広まった食べ方の1つである。新型コロナウイルスが5類になったことで、産地や他地域のSMなど地元以外に訪れる機会が格段に増える。新たな食べ方を見つけて商品化することで、競合店との差別化を図りたい。

トレンド情報

33年ぶりの株価絶好調に乗り遅れるな!

23年5月に日経平均が、およそ33年ぶり1990年7月以来の3万1500円台まで回復し、全体としても値上がり傾向となっている。

堅調な企業業績がその要因といわれており、コロナ終焉とともに一気に経済も回復する様相が伺える。株価好調は、消費者の資産の拡大を意味する。

33年前の90年はまさに「バブル絶頂期」であり、そのときと同じ株価に迫りつつある。増して90年当時よりも現在の方が、一般消費者の株式投資が活発になっていることから、より消費行動が活発になることも想定される。この「景気の良さ」が、食肉需要を押し上げてくるはずである。

精肉においては、多くの企業がバックヤードの人手不足に苦慮しながらも、好調に数字が推移している店舗が多いようである。精肉全体としては相場高であり、豚肉や鶏肉の単価は高いが、買上点数を増やすことにより売上げを確保している。

牛肉については、焼肉用の動きがよい。米国産牛タンも価格が以前よりも下がってきていることから、焼肉売場を活性化させている。一方で、輸入豚肉の高騰、国産鶏肉の鳥インフルエンザによる価格の高騰が続いており、利益が出にくい環境となっていることは否めない。

競合と比べて、購入してもらいやすい商品作り、見やすい売場づくり、利益が残る態勢づくりを、過去の経験や成功体験ではなく、今の環境で作り上げることが、この株価高の環境下での競争戦略となる。

原料高は自社だけでなく、競合も同じ環境のため、この部分は平等である。仕入れを安くする方法は、いままでは1つの手段として通用したが、輸入豚肉や国産鶏肉はそもそも安い原料が供給できる態勢ではない状況のため、むしろ値引き交渉によって仕入れができなくなる危険性まで出てきている。そのため、一度に仕入れる量や仕入れ方にも工夫が必要ということである。

例えば国産鶏肉は、よく売れる鶏肉モモや安価で売りやすいムネなどに頼らず、1羽のセットのバランスを考えた注文。仕入先と協力することで、余剰となりやすい部位を積極的にオーダーすることにより、安定した仕入れと安価な部位の販売が可能となる。

夏場に向けては、焼き鳥や唐揚げなどのメニュー訴求の売場づくり、平台作りがポイントとなる。骨付きモモ肉や手羽元、手羽先、中抜きはバーベキュー需要としても活用できるため、「チキンバーベキュー特集」などテーマを決めるのもおもしろい。

輸入豚肉は、売場を見て仕入価格と値入れのバランスで品揃えする。いままでは特売用に仕入れていた輸入豚肉は、原価が上がれば特売にする意味をなさない。

むしろ、国産豚肉をセットで仕入れて、上手くロースやカタロースを売り込んでいく方が利益が確保できる。国産豚肉や輸入豚肉について、使い勝手だけを求め単品仕入れを好んでいたかもしれないが、セット仕入れをすることで値入率を上げて、利益の圧迫を抑えたい。

売場はまずは定番売場の安定的利益確保を前提に、冷しゃぶ売場、焼きメニューのカタロース、バラを中心に焼肉への商品化を強化する。