ビールに全力、かつ最終週は新ジャンル|「これは押さえたい」酒編・2023年9月

2023.07.26

酒文化研究所 山田聡昭

9月は敬老の日と秋分の日の2回の祝日があり連休が多いのだが、今年は秋分の日が土曜日であるため3連休は敬老の日のみ(9月16日~9月18日)で、パーティや行楽需要はここに集中すると予想される。

また、特別な行事としてはアサヒビールが公式ビールとなるラグビーW杯フランス大会が9月8日に開幕し、日本代表の活躍によっては大いに盛り上がる可能性がある。一方、新ジャンルは10月1日に増税されるため、直前の1週間、9月23日から9月30日までは大きな仮需が見込まれる。

群衆の前に立っている人
中程度の精度で自動的に生成された説明
前回のラグビーW杯日本大会は大変な盛り上がりを見せ、試合会場だけでなくパブリックビューイングも満席、ビールもよく飲まれた

ラグビーW杯でビールを売り込め

今大会はアサヒビールがオフィシャルビールとなり、フランスの試合会場では独占的に同社のビールが供給される。アサヒビールは機運醸成を狙って日本代表のレプリカジャージが当たるクローズドキャンペーンをスタートさせ(7月19日~9月4日)、同時にアサヒスーパードライにW杯デザイン缶を投入した。さらに大会期間中はこれまでにない大規模なプロモーションが予想される。

国内のビール市場は大手メーカーが高いシェアを維持しており、メーカー主導のマスマーケティングが市場をリードしている。卸、小売りはメーカーのマーケティングを完結させるように動くことで、売上げと利益の最大化を図れる。今回のラグビーW杯ではアサヒビールを中心に、ビールの主要ブランドを前面に出し、ビール市場の活性化を狙う。

これは10月に予定されているビールの減税を中期的なビール回帰の動きに変え、商品単価および客単価の上昇を図る意図もある。ここでビールへの関心を高めて、年末年始ビールの需要期に大きく伸ばしたい。

売場展開

ゴンドラエンドや平台などイベントスペースでのビールの大量陳列が基本。スーパーマーケット(SM)では6缶パックを中心に量販を狙う。ラグビーW杯をうたうにはアサヒビールの提案に乗るのがベターで、大会主催者が認めたオフィシャルのツールを活用できる。

独自に企画を打ち出す場合には、主要な参加国のビールをピックアップして飲み比べを提案する。予選リーグで日本はグループDで次の4カ国と対戦する。イングランド、アルゼンチン、サモア、チリ。ちなみに他の参加国は次のとおり。

グループA:ニュージーランド、フランス、イタリア、ウルグアイ、ナミビア

グループB:南アフリカ、アイルランド、スコットランド、トンガ、ルーマニア

グループC:ウェールズ、オーストラリア、フィジー、ジョージア、ポルトガル

飲み比べの提案の場合、日本はビールながら、ウイスキーやワインなど出場国の主要な酒類をピックアップする展開も可。商品のそろえやすさやその国のイメージを優先してよい。

秋の三連休、いましか飲めない日本酒「ひやおろし」

日本酒の特徴の1つは商品で季節をうたえることだ。秋のシンボルは()()おろし(・・・)で冬場に仕込んだ酒がひと夏超えて熟成し、丸く落ち着いた味わいを楽しめる。コロナ禍で家飲みにシフトした酒類消費に、「いまだけ」というめりはりを付けた「時」消費の要素を加えて、高位安定させることを狙う仕掛けの1つだ。

ひやおろしのある食卓シーンを演出するフードの一押しはおでん(・・・)。主要コンビニチェーンは8月後半からおでんの販売を本格化する。9月になると急に気温が下がる日があり、こんな日におでんがよく売れるからだと言われる。

おでんはうま味主体の味わいで、日本酒との相性がたいへん良い。この時季にコンビニ店頭をはじめ一気に露出が増えるおでんを、ひやおろしと組み合わせて新しい秋の風物詩として提案する。

売場展開

中堅以上の規模のメーカーのひやおろしは9月上旬には店頭に並び始めるが、9月11日の週にスタートし、敬老の日の三連休、その翌週末(秋分の日)、そして10月1日の日本酒の日まで継続してアピールする。

皿の上のドーナツとコーヒー
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レトルトおでんとひやおろしを一緒に見せると効果的。おでんはみそ煮込みや東京だし、静岡おでんなどバリエーションを出せると盛り上がる

新ジャンルの仮需対策

ラグビーW杯や10月の減税でビールを押すのが基本線であるが、公共料金をはじめ諸物価高騰しており、生活防衛意識は強まっている。

そのため10月に大幅な増税となる新ジャンル(350㎖で約9円増税)は9月末にこれまで以上に大規模な仮需の発生が予想される。需要の先食いではあるが他店に流れないように、最大限の準備をする。

売場展開

これまでの例から仮需は9月23日(土)から本格的に発生すると考えられ、ピークは9月30日(土)である。9月30日に集中しすぎないよう、「在庫できる商品に限りがあります。お早めのご購入をお勧めします」とアナウンスして、購入を分散させる。

壁に掛けられた看板
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前回(2020年)は早くから増税を告知をする売場が多かった

トレンド商品

フルーツが香る焼酎

原料由来の香味が特徴の本格焼酎は、近年、さまざまなフルーツの香りを湛えるものが増えている。こうした香りは香料を添加したわけではなく、新たな原料や原料の処理方法、あるいは香りを出す酵母の採用、蒸留や熟成の仕方などの工夫から生れたものだ。

こうした焼酎の多くは、香りがソーダで発散するためソーダ割で特徴がよく分かる。グラスに氷をたっぷり詰めて、本格焼酎を注ぎ入れ、よくステアし冷やしてからソーダを注ぐとおいしい。15年前にウイスキーがハイボールで広く飲まれるようになったのと同じことが、本格焼酎でも起きつつあると言ってもよい。ソーダ割に向いた商品が次々に投入され、選択肢の幅が広がってきたいま、焼酎の需要が底打ち反転するタイミングは遠くない。