「焼肉」が鍵となる年末商戦、大型パックだけに頼らない「新しい年末提案」を|「これは押さえたい」精肉編・2023年12月

2023.11.09

月城流通研究所代表 月城聡之

日本の人口が減少していることは、過去にニュースでも報じられていて、知っているの人も多い。しかし、23年は世帯数も減少に転じる節目の年であることを知っている人は少ないのではないか。

国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の世帯数の将来推計」によると、日本の世帯数は23年がピークとなっており、23年の世帯数5418万9000世帯が、40年には5075万7000世帯と、17年間で約340万世帯少なくなることが推計されている。

東京都の総世帯数が722万世帯であるので、東京都の半分近くの世帯が消滅するのと同等の規模である。

世帯数が減少するということは、つまり、空き家が増えることを意味している。特に高齢者の単身世帯が増えている現状を想像すると、先々老人ホームに移り住んだりすることも少なくないため、事実上、空き家は必然的に増えていく。

最近では都会に就職した子どもは、マンションや郊外の一戸建てを購入することも少なくないため、特に地方都市での減少が極端に加速することが懸念されている。

人がいなくなると不動産価値が下がるため、限界集落が急増することも想定される。地方でスーパーマーケットが閉業に追い込まれている話も少しずつ増えてきている。その分、移動販売やネット販売には、まだまだチャンスも残されている。

また、今年8月のニュースで、日本人の平均年齢が50歳になったとの情報も出ている。簡単にイメージすると、日本の2人に1人は50歳以上であるということである。

現在の、売場づくりやメニュー提案のうち、半分は50歳以上が食べるということである。その中で精肉は、日本の消費割合が魚よりも肉が増えていることから、まだまだチャンスは残っていると考えられる。

しかし、世帯人数も2.3人を割っているため、展開方法やパック重量、量目の設定を見定める必要がある。人口や世帯人数は、地域差が極めて大きく出るため、店舗のある市区町村の統計データを一度調べてみてほしい。実際にどのような状況に置かれているかは、担当者1人1人が意識していかなければならない。

50代からの食生活では、タンパク質が重要な鍵となる。子どものころは筋肉量や身体を作る栄養素として、タンパク質が需要であるが、50代以上になると、健康を意識したウエルネスケアや体調を整える栄養素として、タンパク質が必要となってくる。

動物性タンパクと植物性タンパクどちらも重要で、バランス良く摂りたい。特に、鶏肉などに含まれるビタミンB6は重要な役割を担うため、毎食摂れるようなメニュー提案をしていくことも重要である。

新型コロナが5類になり、大きな節目を迎えた23年。日本は人口だけでなく、世帯数も減少する曲面に入ってきており、さらなる時代の変化を遂げようとしている。実家を出て都心に住む若者は、実家に帰省する年末を過ごすよりも、海外旅行を楽しんだりすることが増えた。

帰省を避けているわけではなく、新幹線や飛行機が混んだタイミングで帰省しなくても良いという考え方も、新型コロナウイルスによって一般化してしまったといえる。

精肉での年末商戦は、1年のうちの大きな売上げを作るチャンスのタイミングである。しかし、かつてのような1日だけで何百万円も売上げることが難しくなっている。確実に地に足の付いた売上確保を狙うため、大型パックだけに偏らない商品作りで、時代のニーズに合わせた売場を考えていきたい。

年末メニューといえば、すき焼きがハレの日を彩るぜいたくであるが、新型コロナを考えると、焼肉を提供する方が、安心感が生まれる。「すき焼きは家族で食べ、親族で集まるときは焼肉を食べる」。そんな新しい年末のスタイルを作っていきたい。

年の瀬には正月に食べるおせちを受け取り、正月に食べる行動も一般的である。しかし、中身は伝統的な和食ではなく、「肉おせち」など現代人が好きな具材が入った商品が近年人気になっている。

「新しい年末提案」へと発想を抜本的に切り替えなければならない。

新しい年末を考えていく上でも、しっかりと地域の状況も把握して、ニーズに合った商品作りと売場づくりをしてもらいたい。

新型コロナの影響で、ここ数年、帰省していなかったファミリーも、23年の年の瀬は、子どもといっしょに祖父、祖母のいる田舎に帰省することが想定される。帰省先の地方の店は、昨年よりも大型パックやハレの日メニューの品揃えを強化して、帰省需要をきっちりと取り込みたい。 

12月週末

国産牛乱切り焼肉盛り合わせ1980円/400g

国産牛を使用した焼肉を、12月は月間通して販売していく。グレードは店舗の価格帯に合わせて、ホルスタインや交雑牛など使い分けると良い。

使用する部位は、カタロース、バラ系、ランプ、シンタマなど、焼肉でもおいしく食べることができる部位を選択する。できるだけ半頭セットで仕入れをして、どの部位も使えるようにしておくと適宜対応できる。

商品化は、スライサーも活用して、作業時間を短縮するように心がける。

脂肪を5mmアンダーにトリミングし、焼肉用の5mm厚にスライスした後、焼肉大の食べやすい大きさに包丁でカットして、乱切り焼肉スタイルで展開する。

大型の高ぶたトレーに盛り付けることで、ボリューム感のある商品化と売場づくりを行うことができる。12月はクリスマス、年末年始、帰省など大きな出費が重なる月でもあり、中旬までは財布のひもが固い。パック売価が買いやすい価格帯に収まっているかを確認しながら展開する。

クリスマス

クリスマスに楽しむシャルキュトリ 598円

クリスマスパーティやクリスマス女子会などのように、家族以外のグループが集まる食事会は、いままで大皿で提供していたが、新型コロナウイルスやインフルエンザの感染リスクを考えた展開方法を考え、小分けになった。商品や取り分けやすいトレーなどで訴求していく。

また、クリスマスの肉惣菜は、ローストチキンやローストレッグをはじめ、鶏肉関連での売上げを作る傾向にあるが、単なる鶏肉加工品では売上げを取ることが難しいため、銘柄鶏や地鶏、メニューの提案に幅を持たせて売上確保を狙いたい。

クリスマスメニューの展開として、スパークリングワインなどに合わせた肉惣菜を盛り合わせたセットの販売を行う。ローストビーフ、ローストポーク、合いガモパストラミ、タン塩レモンなど、肉惣菜と個包装のたれを同梱してセッティングする。

4、5人前の大型パックで販売する場合は、できるだけ1人前ずつ取り分けやすいように、ある程度ひと塊が分かりやすくなっていると、取り分けしやすい。

ハムやソーセージ、パテ、テリーヌなど火を通した食肉加工品全般をシャルキュトリという。おしゃれなクリスマスを想定して、「おつまみ盛り合わせ」「肉惣菜5点盛り」などではなく、「シャルキュトリ」など、ネーミングにも気を使った品名にすることも、商品が選ばれるポイントの1つとなる。

仕事に忙しい会社員もクリスマスを味わいたい。クリスマスといえば「チキン」なども定番であるが、肉を使用した寿司なども近年の人気商品となっている。

肉寿司1人前 398円

生ハム握り、チャーシュー握り、鶏ハムロールなど、食欲をそそる肉寿司を提案し、クリスマスの夕食の一品とする。ローストレッグなどといっしょに購入して、ワインやスパークリングと楽しむ夕食も想定。

1人前パックから3、4人前まで品揃えすることで、単身からファミリーまで提案することができる。家庭にローストビーフソースなど常備していることは少ないため、個包装のソースを添付して提案する。

年末

国産黒毛和牛カタロースすき焼き用 7800円/800g

年末を家族で過ごすファミリー向けハレの日商品として、黒毛和牛カタロースすき焼きを提案する。

提案時季は、年末商戦。部位は和牛カタロース。ノーマルを1本で仕入れ、一気にスライスしていくことで、作業性も上がり限られた時間内での仕事の効率化につながる商品でもある。

見せ筋商品の超大型パックと、売れ筋商品の大パック、品揃えパック(中パック程度)で年末のハレの日商品は展開する。

すき焼きは、1人前100g~120g程度が目安なため、4人家族を想定して、400g程度の商品を数多く売って売上げを稼いでいく。

関連販売で、すき焼きの割り下も展開するが、有名レストランの割り下などこだわりの割り下を関連させると、ハレの日に売れやすい。

2023年は例年より早い段階の、秋口からインフルエンザが流行し、新型コロナウイルスの感染者数もテレビでは大きく報じられなくなっているが、感染者は大幅に増加している。

しかし、「3密」が叫ばれ、移動制限が出ていたころとは異なり、通常の日常生活にほぼ戻っていると言っても過言ではない。その環境下で、年末商戦がやってくる。

年末には、家族そろって帰省することや、海外旅行に行くグループやファミリーも少なくない。都心部から帰省する家族が新型コロナウイルスを保有しているという不安はゼロではないということは、やはり不安に感じる部分でもある。

そのため、かつてはハレの日メニューで、「すき焼き」をおもてなし料理として出していた家庭は、同じ鍋による交差汚染のリスクを少しでもないよう思わせるメニューを、すき焼きと共に提案することが大切である。

基本的に、焼肉は生肉用の取り箸を使用し、焼き上がりは自分の箸で食べるため、比較的交差汚染のリスクは減る。ちょっとした発想の転換をすることで安心感が生まれる。

小さな気遣いが、家族の絆をさらに強くする。

国産黒毛和牛カタ焼肉食べ比べセット 100g当たり698円

年末商戦の華やかな食卓を彩る黒毛和牛。ウデを1本使い、ミスジなど希少部位をうまく組み合わせた商品化を行う。

食べたくなる商品作りにこだわった展開にすることで、回転率を上げていく。ウデを活用することで、売上げと利益を同時に改善することができるため、切り落としなど安く販売するのではなく、「面」を見せる商品化を心がけたい。

特に東日本では、ウデが売れにくい傾向にあるため、切り落としにする店舗が多い。ウデは小割して、焼肉用へ商品化して売上げを狙う。ミスジ、クリ(カタサンカク)を明示して、希少性を打ち出しながら商品化をすることで付加価値が付く。特にミスジは、いまや焼肉店でもメジャーになっているため、売れ筋ポイントの1つとなる。

切り落としにするよりも、焼肉提案で儲けを出して売上げに貢献したいところである。西日本では、ウデはすき焼き用でスライスすれば飛ぶように売れる。売れづらい店舗では、ミスジのみ小割して、ミスジは焼肉に商品化して、高付加価値商品を提案するのも、1つの方法である。

すき焼きのターゲットは、常日ごろから生活を共にしている「家族」。ファミリーのディナーシーンで登場させ、プチぜいたくの位置付けで展開する。