ポイントとなるしゃぶしゃぶを牛タンや豚を含めたバラエティで提案、肉惣菜はぜいたくに|「これは押さえたい」精肉編・2024年1月

2023.12.10

月城流通研究所代表 月城聡之

年始のハレの日メニューだけでなく、1月のホットメニューの展開では、鍋やしゃぶしゃぶを打ち出していく。

年始は、普段よりもグレードの高い商品の品揃えを強化。部位訴求や競合でも販売していない商品を品揃えすることで差別化を図っていく。

年始商戦が終わると、成人の日が2024年1月8日(月)、大学入学共通テスト(旧センター試験)が同1月13日(土)14日(日)で開催されるため、それぞれのイベントに合わせた商品ラインアップを展開し、売上確保を狙う。

1月後半は大きなイベントがないため、定番商品のよりどりセールや均一セールを行い、買上点数を上げ、売上げを取っていくと良い。

さて、精肉部門の中にいると、あまり実感が湧かないかもしれないが、実は店に届く肉の物流便が危機的状況にある。それが2024年問題である。

簡単に説明すると、平成30年6月改正の「働き方改革関連法」に基づき、自動車の運転業務の時間外労働について令和6年4月より、年960時間(休日労働含まず)の上限規制が適用される(国土交通省:自動車運送業における時間外労働規制の見直し)。

併せて、厚生労働省がトラックドライバーの拘束時間を定めた「改善基準告示」(貨物自動車運送事業法に基づく行政処分の対象)により、拘束時間等が強化され、単純計算で、現状の労働条件から何も対応を行わなかった場合、輸送能力が24年に約14%(物流全体で4億t相当)不足する可能性があるとされている(国土交通省「物流の2024年問題について」より)。毎日配送されてくるトラックの便の14%が、届かなくなる可能性があるということである。

もちろん、物流会社も真剣にこの部分を打開すべく、いままで競合だった会社と手を組みながら、解決しようとしている。物流の出口である店舗でも、できることを行わなければ、日本の流通基盤自体が崩れてしまう自体にもなりかねない状況が、すぐそこまでやってきているのである。

ここで精肉でできる2024年問題の対策は何かを考える。

数字だけを見ると「物量を減らすこと」が最大のポイントとなるが、店の売上げを下げないためには、単純に物量を減らすだけでは厳しいため、物量を減らすのであれば単価を上げる必要が出てくる。逆に、売上確保をするためだけに行う、無理な特売を少し控えることも、持続可能な物流システムを維持することに貢献できそうである。

また、同じトラックを走らせるにしても、積載効率を考えると、アウトパック商品(オントレー商品)を運ぶよりも、原料を運ぶ方が同じ体積でも積載効率は良くなる。社外のアウトパックセンターからの配送は距離も遠く、まさに2024年問題の中心となる課題である。

ただし、自社パックセンター(社外でも近隣エリアは対象)で集中購買が行われ、店舗へ効率的に配送されている場合は、パックセンターからの店舗への距離も比較的近くなるため、配送便を減らす事で改善はできそうである。

曜日回りでは、平日の物量が少ない日のトラック積載量を増やすことで、効率的な配送を行うことなども1つの方法である。平日に冷凍商品アイテムを多く納品し、トラックの配送回数を減らすのも取り組みの1つとなる。

以上の観点から、精肉では次の取り組みによって、2024年問題に着手していきたい。

①商品のブランド化による単価アップ

②無理な安売り削減(特に鶏肉の安売りは数量が大きく動く)

③店内加工(近隣パックセンター)の活用

④平日の冷凍便の活用(冷凍在庫日数を伸ばす)

⑤1日の配送回数の削減(1日2回配送を1回に削減など)

在庫日数を長くすると、在庫管理にかかるコストは増え、資金を回収できるまでの期間も長くなるため、一般的に良くないとされる。しかし、冷凍商材で同じ賞味期限の商品が土曜日に配送されるものを、水曜日配送に切り替える程度では、全体のボリュームからすると大きくないと考えられる。

こういった取り組みを、全国規模で行うだけでも、大きなインパクトにつながるため、精肉部門を担っているすべての人が、少しだけでも意識を変えてもらいたいと思う。

安定的に食を提供するインフラの一部を担っているスーパーマーケットとしても、物流や配送会社、メーカー頼りではなく、商品部、店舗においても発注のタイミングや在庫を意識し、積極的に物流がスムーズに流れる効率的な発注に取り組んでもらいたい。持続可能な社会生活を実現するための、第一段階を精肉から動かしていきたいと思う。

新型コロナの声が薄れたのも束の間、ロシアのウクライナ侵攻だけでなく、パレスチナ・ガザ地区のイスラエルとハマスの戦闘など、世界各地で紛争が激化している。

イスラエルは、ウクライナの穀物生産が世界に影響を及ぼしたように、畜産物の生産には直接的に大きく影響していないが、植物性タンパクなど次世代スタートアップ企業が多く存在している国の1つである。この紛争による影響は先々大きなデメリットとなるとみられる。

持続可能な食を提供していくためには、動物性タンパクだけでなく、植物由来のタンパク質、タンパク質そのものを3Dで作っていく技術なども見据えていくことも、頭の片隅に置いておいてもらいたい。

牛しゃぶ

この冬のポイントとなる商材が牛肉のしゃぶしゃぶ。焼肉同様の希少部位で作る和牛しゃぶ、量産して単品大量販売する輸入牛モモしゃぶなど、きちんと松竹梅戦略を使い、売場のおもしろさを打ち出していく。

切り落とし焼肉同様に、しゃぶしゃぶ商品に関しても、効率的に高く販売できる商品ラインアップを増やすことで、利益が大幅に改善するため、定着させていくことで買上点数が下がる1月の利益確保を行う。

黒毛和牛ももしゃぶしゃぶ用 598円/100g当たり

黒毛和牛内モモ、外モモをしゃぶしゃぶで拡販していく。切り落とし商材で安く販売している店舗も多いが、商品化を少し変えるだけで価値を高めて売ることができる。利益も改善し儲け頭となる。

商品化は丸皿に並べていくだけでも十分奇麗に見える。作業性が悪く、オペレーションが回らないというチーフもいるが、片側を折り曲げて並べる程度のスライスであれば、慣れれば連続取りできるため、切り落としとほぼ同じスピードで商品化をすることができる。

商品化のポイントは、あらかじめしゃぶしゃぶ1枚のサク取りをしておくことと、内モモの場合はコモモ、カブリを同時に切り落としなどの商品化を行う想定で作業をすることである。

外モモは、シキンボを外し、ナカニクもシキンボと同じサイズ感になるようにサク取りする。外モモはサク取りすると最後にスライスできない部分が出てきてしまうため、カレー用や煮込み用の商品化を一緒に行うと良い。

米国産牛タンしゃぶしゃぶ用 1980円/220g

牛しゃぶしゃぶと共に売り込みたいのが、外食を中心に人気となってきている牛タンしゃぶしゃぶ。売場に牛タンが大きな断面でしゃぶしゃぶ用として並んでいるとインパクトがある。

食べ方は、しゃぶしゃぶと同様であるが、白ネギの斜め切りを薄切りにしたものと一緒に過熱して食べるとおいしい。ポン酢でもよいが、ユズコショウなど少し塩味をプラスさせるとさらにおいしい。

また、ゴマ油に塩を加えたたれや、そこに刻みネギを入れたネギ塩ゴマ油などもおいしい。食べ方提案も売場で行うことで、さらなる売げアップを狙う。

商品化は、牛タン焼肉用のスライスとは90°スライス面を変え、タンの側面からスライス。面の大きな牛タンスライスを商品化してしゃぶしゃぶ展開する。

チルドタンは、タンの締まり具合でスライスしにくいものもあるため、冷凍牛タンを半解凍してスライスするとよい。

豚しゃぶ

冬場の売場の核となるのが、豚しゃぶである。

豚ロース、カタロース、バラを中心とした商品。秋から本格化したホットメニューも、年明けにはマンネリ化したメニューとなってしまうため、グレードや部位、食べ方を変えることで、商品のマンネリから脱却する。

国産銘柄豚ロース、バラしゃぶしゃぶ盛り合わせ 1980円/600g

年始商戦、成人の日などハレの日に展開したいしゃぶしゃぶ盛り合わせ。

ハレの日ならではの、アッパーグレード商品として、黒豚や赤豚、企業オリジナルの銘柄豚を使用して、ロース、バラの盛り合わせを製造する。

商品化は、花盛りなど見た目の良い商品化とし、他の商品との差別化を図る。しゃぶしゃぶの折った部分の角を立たせたり、立体的に見せる商品化をしたりして高級感を出していく。

桶トレーを使用すると、そのまま食卓に出すこともできるため、通常の発砲トレーではない見栄えの良いトレーを使用することもポイントとなる。

売価設定は定額にする。可能であれば980円、1980円、2980円など、3価格帯程度は品揃えして、買いやすい環境作りを行うとよい。

近年、パック売価を気にすることなく、商品化されている商品も多くなっているようである。1010円よりも980円の方が、消費者は購入しやすい。30円にはそれくらいの違いがある。ちょっとした意識を変えることで、売上げも大きく変わるので、パック売価にも注目して商品化してもらいたい。

米国産豚とろしゃぶしゃぶ用 298円/100g当たり

豚とろしゃぶしゃぶ提案で、見た目も売場もインパクト大。焼肉以外の食べ方提案を行うことで、終売の安売りをすることなく販売することができる。

豚とろは、輸入豚は身が薄いものも多く、2枚重ねや1枚を半分に折った状態でスライスすると盤面が大きくなって見た目もよくなる。

国産は厚みがあるため、折り曲げずに1枚で半凍結させ商品化する。焼肉と異なり、スライサーで薄切りにすると、そぎ切りできないため脂肪の厚みが分厚くならないように注意が必要となる。しゃぶしゃぶにすると、思っているよりも重量が乗らないため、多めに奇麗に盛り付けて商品化するとよい。

食べ方提案としては、ポン酢などもありだが、レモンと一緒に絞ったかんきつ系の強めのたれで食べるとさっぱりしておいしい。ネギ塩だれ、ユズコショウ、ゴマだれなども合わせやすいので、一緒に関連販売するとよい。

定番の商材から付加価値を付けた商品まで幅広く提案することで、主力の定番商品の売上げがぐっと伸びる。近年、POSの売上分析だけにとらわれてしまっているため、売れる商品だけを品揃えした売場づくりをすることが多い。しかし、商品を選ぶときには、「松竹梅」の選択肢があることが、主力商品の購買に大きく寄与する。

少し高めの商品は、大量には売れないものの、消費者の中には少なくても高い商品を購入する層がいる。アッパー商品の品揃えをしないという選択肢は、チャンスロスをしているということである。売れ筋だけの展開で、売場がマンネリ化していないか、再度、商品群を確認してもらいたい。

ぜいたく「肉惣菜」への転換

肉惣菜で展開している商品も、ローストビーフなどの「おつまみ系」「肉寿司」「フライ」「煮物」「焼き物」「サラダ」など、惣菜部門に負けない肉系の品揃えが進んできている。

年末年始から即食メニューは、ややグレードの高い商品を品揃えすることがポイントとなる。精肉部門の肉惣菜は、惣菜部門では扱うことが難しい、精肉部門で使用しているブランド肉や和牛、品質やグレードの異なる肉を使用するなど、特徴付けをすることができる。

そのため、その魅力を客数が増える年末年始に伝えることで、定番でもリピートしてもらえるよう転換を意識した商品作りを進めていくとよい。

ローストビーフ寿司 680円/8カン

年末年始商戦では、すき焼き、しゃぶしゃぶ、焼肉などの皆で食べることができるメニューを楽しむ機会が多くなる。

おもてなしの準備をする間の時間やたまにしか話すことができない親族、友達との会話を楽しむために、メイン以外の食は「タイパ(タイムパフォーマンス)」を意識して、ややアッパーなメニューを肉惣菜で用意すると良い。

アペタイザーとして、ローストビーフスライスやローストビーフ角切りとチーズをつまようじに刺したピンチョスなども、おしゃれでかつ豪華に見える商品の1つ。ローストビーフ寿司は、最近では外食でも締めの炭水化物で提供するなど一般的になってきている。

もちろん、おいしく食べてもらうために、肉の鮮度管理には気を付けて提供することは必須である。いま一度、法律に則ったオペレーションで、食中毒など起こさないように十分注意を払ってもらいたい。