気温上昇、区切りの時季、それぞれのイベントの期待に応える酒を提案|「これは押さえたい」酒編・2024年3月

2024.02.02

酒文化研究所 山田聡昭

3月のテーマは「春」「お花見」「北陸」の3つ。気温が上昇しコートを脱ぎ始めるこの時季、気分は晴れやかになり、桜の開花で春の到来感はピークを迎える。そして新年度に向かう区切りとして、一新の雰囲気が広がる。こうした気分を捉えて、さまざまな期待に応える酒を提案する。

「春」=売場を春色に染める

月初めのひな祭りから売場は春色訴求にはっきりと変わる。酒売場もこの流れに則して、ピンクを前面に出す。

主役はロゼワインで、ビールやレディトゥドリンク(RTD)の春らしい限定品をうまく活用する。日本酒は桜や春らしい銘柄の酒や霞をイメージして薄にごりがある。

売場展開

ゴンドラエンドや平台、ひな壇を活用して前述のピンクの商品を大陳する。春の到来を告げるボリューム感を重視し、花見シーズンが終わるころまでロングランでよい。途中、商品在庫が薄くなりボリュームの維持が難しくなったら、歯抜けにならないように商品を片側に寄せて、空いたスペースには新緑をイメージさせる明るいグリーンの商品を加える。季節が進んだように見せるのだ。

プラスアルファとして、春は花粉症の季節でもある。酒かすおよび酒かすと米こうじを使った甘酒は、食物繊維が豊富で腸内環境を整える働きがある。酒かす&甘酒の整腸作用をPOPで訴求するとよい。

お花見

昨年の東京の開花日は3月14日、平年は3月20日前後で、春分の日から4月初旬まで花見の話題で盛り上がる。酒類販売のターゲットシーンは「屋外お花見宴会」と「自宅でお花見気分」の2つ。

商品は好調なビールと無糖RTD(無糖酎ハイと焼酎やウイスキーのハイボールの一部)が中心だが、日本酒、焼酎、ワインも「お花見」を意識して前に出す。さらに普段飲まない人も加わるのでアルコール度数の低いチューハイやビール、ノンアルコールのビールや酎ハイを忘れずに前に出す。

売場展開

近隣に花見スポットのある店舗は「屋外お花見宴会」に積極的に対応する。近隣の常連客に加えて一見のグループ客の購買が増えるから、飲み比べセットの販売やバンドルセールなどでイベント感を出すとよい。

商品としてはビールやRTDの春限定商品は活用しやすい。紙皿やプラカップなど屋外での飲食に必要なグッズ、スナックつまみのクロス展開も有効だ。

その他、「屋外お花見宴会」ではトイレが近くなることからビールを避ける人もある。日本酒やワイン、焼酎が受け皿となるが、飲み切れるサイズで軽くて割れない紙パックやペットボトル、アルミ缶の用品を準備する。

「自宅でお花見気分」に対してはロゼワインを提案する。ロゼワイン、特に辛口スパークリングはフードとの相性の幅が広く、ビーフからチキンまで合わせやすい。

ワインはアルコール度数が13%前後あるから、飲み切れない人向けにはフルーツビールを提案するのもよい。「リンデマンス・クリーク(サクランボ:アルコール度数3.5%)」や「同ピーチ(アルコール度数2.5%)」は容量も250㎖とコンパクト。甘い口当たりと自然でさわやかな酸味は幅広く受け入れられる。

なお、減税で家庭でもビール回帰が進んでおり、イベント感のある花見テーマでは発泡酒(旧新ジャンル含む)ではなく、ビール押しで展開する。プレミアムビールやクラフトビールで商品単価の引き上げを図りたい。また、発泡酒は低価格志向のユーザーが多いと考えられ、断続的にプライベートブランド(PB)商品へのトライアルの機会を作り、PBの構成比を高めるように仕掛けるのは有効だ。

プラスアルファとして、花見は外国人観光客にも人気で、この時季に合わせたツアーも多数ある。観光スポットや外国人観光客が宿泊するホテルの周辺の店舗では、彼らを意識した日本酒の品揃えを厚くする。アルミ缶カップの日本的なビジュアルの商品は人気が高い。

屋外のテーブルで食事をしている人たち
低い精度で自動的に生成された説明

北陸

3月16日に北陸新幹線が敦賀まで延伸する。能登半島地震で甚大な被害のあった地域の復興のきっかけにすべく、北陸支援や観光の起爆剤として活用したい。酒類では被災地の酒を積極的に飲んで応援する動きが広がるから、日本酒やクラフトビールやワインで入手できる商品を探して、調達でき次第「北陸フェア」を展開する。

売場展開

売場の基調は北陸応援で、石川、富山、福井の3県をクローズアップし、地震の被害の大きかった新潟を加えてもよい。

商品は日本酒が中心になる。石川県の酒蔵は33軒でうち11蔵は奥能登にあり、甚大な被害があった。富山県は19軒、福井県は27軒。蔵によって被害はまちまちだが、在庫商品の破損や醸造途中の酒の流出、電気や水道が止まったことによって製造が不安定化するなどの直接的な被害があった。

小規模な蔵が多い上、被災しているため、商品がなかなかそろわないと予想されるが、少量でも北陸特産の酒のさかなや駅弁と組み合わせて北陸をクローズアップする。

クラフトビールは「越前福井ビール」(福井)、「金沢百万石麦酒」(石川)、「宇奈月ビール」(富山)などがあり、ワインも約10社あるが、生産量は限られる。焼酎は日本酒メーカーが製造するものの他、地域農協によるものがある。

商品は日本酒やビール、焼酎などを織り交ぜて、県単位でまとめて陳列する。北陸物産展のイメージ。

プラスアルファとしては、つまみ食品を一緒に提案すると物産展らしさが増す。福井の「へしこ(サバなどのぬか漬け)」、「たらの子缶詰」、石川の「ふぐの子糠漬け」「岩もずく」「治部煮(レトルト)」、富山の「ホタルイカの姿干」「同沖漬け」など。

トレンド商品

シンプルなソーダ缶

日本でクラフトジンの人気に火が点いたのは2016年。日本を代表するブランドとなった「季の美」「六ROKU」が登場し、国内外でヒットし、その後、焼酎や日本酒メーカーからジンが続々と発売された。

ジンはベースにするスピリッツ(蒸留酒)にジュニパーベリーなど数種類のボタニカルを浸漬するなどして、再度蒸留して香気成分を取り出した酒で、各商品の特徴はボタニカルの種類と配合によるところが大きい。

20年にサントリーからジャパニーズジン「翠(SUI)」(700㎖1500円弱)が発売されると、市場は一気に拡大し、居酒屋でもジンソーダがメニュー化された。さらに22年には「翠ジンソーダ缶」が発売されて、家庭でも飲まれるようになりつつある。また、昨秋サッポロビールが発売した「クラフトスパイスソーダ」は、ジンではないものの、さまざまなボタニカルが香るロングカクテルで、ジンソーダに近いカテゴリーでこれまた好調だ。

缶酎ハイではいま、甘くない無糖タイプの売れ行きが好調で、無糖で甘くないという特徴はジンソーダ缶や焼酎ソーダ缶、一部のウイスキーハイボール缶に通じる。レモンなどの果汁フレーバーに頼らず、ベースになる蒸留酒の味わいで勝負するシンプルなソーダ缶だ。

今期はこのカテゴリーが成長し、ジャンルを確立するのではないか。巨大な発泡酒(旧新ジャンル含む)は3年後に再々度増税され、分解再編がさらに進む。アルコール度数が5~8%の発泡性のカジュアルな酒の市場が落ち着くのは4~5年先と予想され、シンプルなソーダ缶は定着するであろう有力候補だ。