長期顧客を囲い込むために大切な月、店独自の商品開発の必要性|「これは押さえたい」精肉編・2024年3月

2024.02.07

月城流通研究所代表 月城聡之

2023年度の締めのタイミングとなる企業も多い3月。卒業シーズンと共に、新年度に向けた引っ越し、新たな生活が始まる重要な時季である。3月中旬までは店舗のある地域の学校行事のタイミングに合わせて、「ハレの日メニュー」を売場では展開する。

幼稚園や保育園の卒園式には、子どもの好きな唐揚げ、ハンバーグなど肉惣菜の展開はいつもよりも華やかに行いたい。小学校以上の卒業式には、ステーキ、焼肉などを提案していく。

下旬になると、引っ越しや新年度に向けた準備など、特に近隣に大学がある地域などは、新たに単身生活をスタートさせる学生も増えるため、新しく顧客となる若い客層をしっかりと取り込みたい。

新生活では、朝食、弁当、夕食を手作りしたいと意気込んでいる生活者も少なくないため、3月の時点で、「この店なら毎日買物ができる」と思ってもらう工夫も必要となる。

今時の若者は、レシピはスマホで確認できるが、「こんなメニューを作りたかった!」というきっかけは店舗内で作られることも多い。若者が食べたくなるメニュー訴求をしながら、売場をつくると、マンネリを脱却できる1つのきっかけになる。

いまの精肉売場を客観的に見てみると、多くの企業が効率を求めるあまり、30年前、40年前と同じ、システムトレーに肉が並んだ商品を売場に並べているだけという印象がある。

以前とは異なり、商品の原料のこだわりや、ブランディングなどでプライベートブランド商品なども作られているが、「消費者が求めているものになっている」かと言われれば、必ずしもそうはなっていないのではないか。

高度成長期のころと比べると、日本の世帯のうちのほとんどが共働き、単身世帯も約3割と、環境は大きく異なっている。内食で料理をしている割合は30年前、40年前と大きく異なっている状況で、売場自体は進化していないということになる。

特に、ディスカウントストアよりもさらに安いドラッグストアの生鮮食品進出により、スーパーマーケット(SM)としては価格勝負では勝ち目がないと考えられるため、売場づくりや商品化に力を入れなければならないことは言うまでもない。

ディスカウントストア、ドラッグストアにできないこととは、肉惣菜や店オリジナルの商品化などがあるが、SMにも人がいなくなっているため、こだわった商品化に着手できないという現実も理解できる。

しかし、SMの精肉売場は、限られた人員での運営であっとしても、「他店にない商品を作る」ことをしなければ差別化できないと考える。競合店も人がいないのは同じである。特に店内加工をしている店は、「並べるだけ」の人員しかいない店とは異なり、多少なりとも商品化をすることができる従業員がいるはずである。

メニューの提案、ちょっとした包丁の技術と商品化を1品でも2品でも行うだけで、ディスカウントストアやドラッグストアにできない商品ができる。これが鍵となる。

商品を並べるのだけではなく、「今日何食べようかな。あ、これやってみよう」と思ってもらう売場づくりができるのが、SMの精肉売場である。

例えば豚ロースがあったとき、1本をスライスするだけの作業ではなく、豚ローススライスを活用したミルフィーユチーズ巻き焼き、野菜豚肉巻のレンジ蒸し、揚げ豚のマリネなどさまざまなメニューを打ち出して、豚肉を食べたくさせる売場づくりをして、競合とは違う訴求を実施したい。

3月は異動や新生活に向けた準備でばたばたしている。そんな中、新たな気持ちで売場づくりをして、競合や異業種にも負けない商品展開で、リピート客をしっかりと確保していくように心がけたい。新生活が始まる3月に生活者の心をわしづかみすることができれば長期的な購入につながる。

大切な時季である。毎日同じように時間は流れているが、顔ぶれが大きく変わるのが3月である。丁寧な商品作りと丁寧な売場づくりがとても大切で、いまの生活者が何を求めていて、どれくらいの調理時間があり、どれくらいのがっつりしたもの(あっさりしたもの)を食べたいのか、その答えは現場である売場にあることを忘れてはならない。

地域に密着した生活者の購買行動をよく観察して、よく売れるもの、いつも残っているものを見極めていく。地域によって大きく異なるため、いつもよりも長時間売場に立って研究をしてもらいたい。

牛肉

豪州産穀物牛カイノミステーキ用(バラ) 398円/100g

卒業シーズンにお祝いのステーキで提案する。サーロイン、ヒレステーキと共に、よりリーズナブルに購入しやすいバラ肉、中でもカイノミは脂肪も多くなく、食べやすい部位として訴求したい。

豪州産穀物牛は比較的サシも入りやすく見た目も華やかになる傾向にある。調達が可能であれば、アンガス牛など品種にこだわって販売するのも、購入の動機につながる。

カイノミは、比較的トリミングする部分も少なく、作業的にも効率的に行うことができる部位である。3cm厚程度の厚切りカットにすると、魅力ある商品となり、売場にもボリューム感をもたらしてくれる。

関連販売では、淡泊な赤身の味を引き立たせてくれるステーキソースやハーブ入りソルトなども展開し、「簡単にステーキを食べることができる」メニューとして訴求する。

国産牛ハラミ、タン焼肉2点盛り 1980円/200g

春夏の焼きメニューのアイキャッチ商品として、国産牛を打ち出したハラミ、タンセットを販売する。

輸入牛ではなく、国産牛という部分でしっかりと訴求する。比較的仕入れが難しい部位であるが、事前に仕入先に数量限定でもひも付けしてもらっておけば仕入れられないことはないので、計画的に商品を作っていきたい。

焼肉といえば、タンとハラミというのが定番であるため、基本的にはセットにしない方が、買上点数も上がりメリットが出る。しかし、国産牛ハラミとタンの場合は、いずれも単価が高いため、セットにして、定額販売すると良い。

輸入牛とは異なり、岩塩や塩ゴマ油、ユズコショウなどで素材の味を堪能してもらいながら食べてもらいたいため、関連販売では、コト販促で、たれや定番のレモン汁ではなく、岩塩で食べる提案など、店の独自性を生かした食べ方提案を行うと良い。

カナダ産牛カタ味付けガーリックステーキ用 1280円/500g

トレイの上にある食べ物
中程度の精度で自動的に生成された説明

味付け商材で、ステーキ提案を強化していく。クロッドを10mm厚でスライスし、5cm幅にカットして、ステーキ用商材として商品化。

ガーリックソースを揉み込み、ガーリックチップを振りかけるだけでオペレーションが簡単なガーリックステーキ用商材が完成する。

トリミングとしては10mm以上の脂肪が残っている場合は、5mm以下に除去していく。カタサンカク(クリ)部分の中央の太い筋は硬いので除去が必要である。

ミスジは、ミスジステーキとして別の商品化をする。ミスジステーキは人気があり、高めの売価設定でも売れる。また、ミスジは、分割の難易度が高くないため、ぜひとも実施したい。

豚肉

米国産豚バラ サムギョプサル用 198円/100g

豚バラを8mm厚でスライスした「サムギョプサル用」を拡販する。用途としては、サムギョプサルだけでなく、焼肉用、さらにカットして中華料理にも使える。

あえて米国産豚バラとすることがポイント。国産豚バラ肉は脂肪のトリミングが米国産に比べると少なく、脂肪の比率が高い。一方で、米国産ベリーは皮側の脂肪が国産よりもトリミングされており、また「シートベリー」はバラ山も除去されているため、規格が安定していて商品化しやすい。

見た目の印象で、脂肪が少ないと手に取りやすいこと、トリミングする手間を減らす意味でも、米国産ベリーを使用すると良い。

添付だれとして、サムギョプサルのたれや塩だれなどを付けると、消費者は別途味付けするための調味料を準備する必要がなくなる。もちろん、自分好みの調理をしたい人には、たれなしで販売しても良い。

昨年からの新トレンドで、蒸しサムギョプサルというメニューが出てきている。野菜と一緒に蒸した豚バラをサムギョプサルのように食べる食べ方であるが、蒸されたときに脂肪が野菜に染み渡り、余分な脂肪が流れ出ることで肉はヘルシーに、野菜はおいしく、ということがポイントとなるメニューである。キムチやコチュジャンと一緒に食べることで、食欲増進となる1品である。ぜひ、トライしてもらいたい。

トレンド商品

新商品開発のきっかけ

人口減少の波が精肉の商品化にも影響を及ぼし始めているのは肌身に感じていることと思う。例えば、焼肉セットを毎年販売しているが、商品化できる従業員も減ってきており、徐々に中身や商品化が簡素化されつつある。

しかしながら、売上目標が前年を大きく上回ったものになっていることや、新商品を毎月出さなければならないといった形で、「作ること」を目標にしてしまっている企業も少なくない。

ここで、改めて「新商品を開発する」意味を考え、その上で店オリジナルの商品を開発してもらいたいと思う。

新商品を作る目的として、以下のことが考えられる。

①顧客の利便性向上

焼肉セットは、顧客にとって食材の選択や組み合わせの手間を省き、簡単で便利な「焼肉体験」をすることができる。

肉の種類やカット、調味料、付け合わせなどがセットに含まれていることで、消費者は手軽に焼肉を楽しむことができる。

②商品の魅力向上

焼肉セットは、商品のバリエーションやアレンジの一環として、精肉部門における販売促進に寄与すると考えられる。

消費者がさまざまな肉の種類や調味料を1つのセットで手に入れることで、新しい味わいや食べ方を発見する楽しみが生まれる。

③セット価格での販売促進

セット商品は通常、個別に購入するよりも得な価格設定になる。また、余剰部位をセットに入れることで、在庫回転数も上がり、販売側にも大きなメリットがある。焼肉セットを通じて、消費者は手頃な価格で多様な品目を入手できるため、購買促進の効果が期待できる。

④季節やイベントに合わせた提案

季節やイベントに焦点を当てた焼肉セットを提案することで、季節感を持たせることができ、需要を喚起できる。バーベキューシーズンが到来する春先から、イベントやテーマに合わせて、限定の焼肉セットなどを販売することで、マンネリを防ぐことが可能となる。

消費者にとって、購入する楽しみ、季節のイベントに合わせたカット、部位の組み合わせなど、オリジナリティを出すことで、「この店でしか買えない商品」を作ることができるため、他店のまねをすることから、一歩先に進んだ商品化にも取り組んでもらいたい。

また、精肉としては、人員が限られた中で売上げと利益を確保していかなくてはならない。そのため、オペレーションを含めた効率的な商品化が必要となる。

国産牛豚焼肉上盛り合わせ 1280円/300g

国産牛豚焼肉セットを既存品とこだわり部位で魅力的にして販売する。既存の焼肉セットで、ほとんどの店舗で牛豚焼肉セットを販売している。豚肉が入る理由は値入率の確保である。

基本的に、牛肉を入れないと焼肉の魅力が出ないため、牛肉をセットアイテムの中に入れる。部位をどうするか考えたときに、豚肉では焼肉に使用するバラとカタロースが定番で、牛肉は国産牛カタやモモ、バラの他、輸入牛ショートプレートなどを使用するというパターンもある。

ここで1つ加えたいアイテムが、隠し包丁やひと手間加えた焼肉である。

最近では、スリット入りの冷凍焼肉なども業務用で展開されているので、そちらを使用するのも良い。通常の焼肉に付加価値提案できるアイテムを1つ入れることで、より魅力的な商品となる。特に厚みや形状が異なるアイテムであると、より見た目にも分かりやすく、付加価値が付きやすい。

国産牛バラを商品化したときに分割できる中落ちを、商品化の延長でサイコロ状にカットして1アイテムとして入れるだけでも良い。

商品化の延長線上でできるこうしたアイテムを加えた焼肉セットは、オペレーション上でも負担が少ない形で商品を製造することができる。

それでも商品化が難しい場合は、スリット入り冷凍アイテムを一部入れるなど工夫することで、店オリジナルのキットを製造することが可能となる。