「アヌーガ2021」レポート第1回 ハイブリッド展示会が示した最新「食トレンド」

2022.04.12

2021.10.27

2年に一度、西暦の奇数年にドイツ・ケルンで開催されている世界最大級の食品の展示会「アヌーガ」(主催/ケルンメッセ)。

大型の食品展示会は、世界の食のトレンドが一堂に集結することから世界中のバイヤーを含む多くの来場者が訪れる。前回、2019年のアヌーガ2019はアヌーガ100周年ということも相まって、世界106カ国から7590の出展者、201カ国から17万人を超える来場者を迎えた。まさに世界最大の規模といえた。

食品小売業が品揃えをする上で、トレンドを押さえること、あるいは商品との出会いは極めて重要なものとなる。その場を提供する大型展示会は貴重な機会といえる。

一方で、昨年から世界中に大きな影響を及ぼしている新型コロナウイルスによって、多数の人が1カ所に集まるという性質を持つ展示会は、各地で軒並み中止、もしくはオンライン上での開催といった別の形を模索することが迫られた。

西暦の奇数年に開催されるアヌーガについてもこれは同様で、大変困難な時期ではあったが、オンライン上のAnuga@homeとのハイブリッドの形で、リアルでの開催についても実現することとなった。

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リアルでの開催に大きな意義、テーマは「変革」

今回で36回を迎えたアヌーガ2021は10月9日~13日、いつもと同様に、ケルンの中心部にほど近いケルンメッセ会場で開催された。

ケルン中心部に近いケルンメッセ会場で「アヌーガ」は開催される。今回、入場の手続きなどについても非接触が意識され、オンラインや自動化が進んだ

24万4400㎡のスペースに98カ国から4643の出展者が参加し、169か国から7万人超の来場者を記録した。前回と比べ規模は半減といえるものだが、それでも前回と同様、会場全館を使っての開催となった。

初日の10月9日、10時30分からは「オープニングセレモニー」が実施された

そこには、コロナ禍のソーシャルディスタンスを確保するという目的にとどまらず、「全館を使っての開催」にこだわった主催者、ケルンメッセの思いも感じることができる。

この間、世界中の人々の移動は大幅に制限された。それもあって、まずは中止やオンライン特化ではなく、リアルでの開催が実現したことの意義は大きい。実際、出展者、来場者からのフィードバックは共に良好だという。

「来場者の多くは組織や市場の拡大、トレンド情報やさまざまなイベントや会議のハイライトを賞賛している。また、出展者は、世界にまたがる新たなつながりができただけでなく、既存の顧客との重要かつ良好な話し合いをすることができたことを強調している」とケルンメッセは総括する。

また、現在でもリアルの展示会に訪問することはハードルの高いことであることは確かだ。今回、オンラインとのハイブリッドになった意義について、ケルンメッセのジェラルド・ベーゼ社長兼CEOは「ハイブリッドアプローチは非常にうまく機能した。Anuga@homeは展示会を訪問ができなかった全て人々に、専門分野のテーマを提供し、ネットワークを広げる良い機会になった」としている。

Anuga@homeでは、専門家や企業によるさまざまな講義、ディスカッション、プレゼンテーションで構成されるデジタルストリーミングイベントや会議プログラムなども用意され、好評を博した。開催中の3日間で、合計353プログラムが6380分以上にわたってストリーミング放送された。しかも、これらAnuga @homeは展示会の後でもオンデマンドで利用できる。困難の中で生み出されたハイブリッドという形式は、リアルの展示会を補完するだけでなく、出展者、来場者双方にとってこれまで以上の利便性をもたらすという意味で、今後の展示会にとっても大きな示唆を与えるものとなった。

今回のリアル、オンライン双方の展示会を通じたテーマは「Transform(変革)」だった。多くの業界が、今回の新型コロナウイルスによって求められたのが、変革であったといえる。話題となっているDX(デジタルトランスフォーメーション)はその代表例だろう。

今回のテーマは「Transform(変革)」。新型コロナウイルスと対じする中で、食品も展示会も変革を求められたことを象徴していた

実際、このテーマは、展示内容、あるいは発表されている内容の全体を包み込んでいた。食品におけるグローバル化が進んできた中、表面化してきた持続可能性の問題、つまり、より環境負荷の少ない形で効率的なサプライチェーンが求められると共に、より環境に配慮した素材が求められるといった具合に商品自体を変えていかなければいけないという方向性がより明確化してきた。

特に、プラントベースといった代替食品、健康を意識した商品が大幅な増加していること、あるいは牛乳や乳製品、魚や肉製品の古典的な商品についても、環境配慮など持続可能な生産体制や、動物福祉といった視点が重視されるようになっている。

アヌーガの展示の目玉の1つに「アヌーガ・テイスト・イノベーション・ショー」がある。ジャーナリストやアナリストによって新商品の中から選定された商品群で、その革新性が評価された、その年の注目商品といえる。

来場者の注目度も高い「アヌーガ・テイスト・イノベーション・ショー」。食のトレンドを知る上で押さえておきたい商品群だ

今回の大きな特徴は、持続可能性、健康、利便性といったもので、とりわけプラントベースの拡大が顕著といえるようなラインアップとなった。

「アヌーガ・テイスト・イノベーション・ショー」の注目商品

ヴィーガン(完全菜食主義者)対応のピザ。通常は、動物性の原材料が入っているメニューでもプラントベースの対応が進む
プラントベースで肉を再現したものを活用した商品は多数登場している。「MEAT」ではなく、「MEEAT」とうたう
カリフラワーを原材料としてチーズを再現したヴィーガン対応の商品。プラントベースであらゆる動物由来の商品を再現する動きが活発化している
こちらはプラントベースのチーズで味付けしたスナック菓子
プラントベースで蜂蜜を再現した商品。「蜂蜜を使っていない」と表示されている
こちらはプラントベースで魚を再現した商品。プラントベースの多様化が今回の大きな特徴といえる
カリフラワーの揚げ物の冷凍食品。フライドチキンのように見えて、しっかりとプラントベース
ヘンププロテインの菓子。ヘンプは麻の一種。日本では代替タンパク質は大豆が多いが、世界的には大豆の存在感は大きくない。ヨーロッパでは大豆は輸入が多くなるため、環境的な観点から大豆以外が好まれる傾向もあるという
「グリルド・ポーク・ソーセージ」。チルドで120日間持つ。ロングライフ化も環境配慮の一環だ
フランスの商品。ウサギの肉。遺伝子組み換えのえさを使わず、ヨーロッパで比較的広い環境で育てられたなど動物福祉重視を強調
ビタミンなどを付け加えられた飲料。用途によって使い分けることを想定している。機能性の要素を付け加え、健康志向に応える商品も目立つようになっている
スポーツ用をうたう蜂蜜。クランベリーを加えてあるため、赤い色となっており、一見蜂蜜に見えない
ショウガを加えたコンブチャ(発酵飲料)。1つ要素を付け加えることで、差別化を図っている
こちらは牛乳にプロテインを加えた商品
その名も「3D・スナック・プリンター」。3Dプリンターでキューブ状のスナックを作るという発想。フードテックを食品に生かした形だ

2年に1回のアヌーガは、次回、2023年10月7日~11日に開催される予定だが、今回、新しい展示会となる「アヌーガ・ホライズン」が加わることが予定され、こちらは来年の22年9月6日~8日に開催予定となっている。

どちらかというと食品そのものの展示会の性格が強いアヌーガに対し、アヌーガ・ホライズンはテクノロジーを合わせた形で、食品産業の革新など、より未来を視野に入れたものとなる。

第2回では「アヌーガ・ホライズン」の詳細を含むケルンメッセのオリバー・フレーゼCOOのインタビューと、アヌーガで実際に見られた商品群を紹介する。(第2回に続く)

お役立ち資料データ

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