どうする? 2023年の商品と売場 精肉編|商品を安く調達できる時代の終焉と買い負け、商品化で適正価格を目指す発想の転換を
2022.12.14
まずは、精肉を取り巻く景況感について触れたい。
牛肉
「国産牛肉」に関しては、農畜産業振興機構(ALIC)の需給予測(10月27日公表)では、10月、11月は和牛の頭数は減少。交雑牛、乳牛で出荷頭数の増加が見込まれる。
最近の3カ月平均(9月~11月)では、国産牛全体の出荷頭数が97万5000頭(前年比103.3%)、生産量30万5000t(同102.4%)で、前年同期を上回る予測となる。
「輸入牛肉」は、国内需要低下、為替などの影響から大幅に減少している。
特に10月は大きくその影響が出ており、輸入合計が45万2000t(前年比81.9%)、チルド16万5000t(同80.5%)だった。
しかし、11月やや円安が落ち着いてきたこともあり、輸入合計が44万9000t(前年比105.3%)、チルド16万7000t(同101.6%)、フローズンに関しても同様に推移している。
3カ月平均(9月~11月)では、輸入合計が47万3000t(前年比95.5%)、チルド17万t(同83.4%)、フローズン30万2000t(同104.2%)で、まだまだチルドに関しては、前年の推移に達していない。
この環境は、先物の契約ができていないということで、輸入量が減り、手当てができていないところは、その手当を国内の現物ですることになる。
輸入量が前年の80%とか90%だと、どうしても数量が手に入らないので、高い価格でも購入しなくてはならないので、現物相場は上がってしまう。
現地相場が高い、為替が円安、ということで、2023年も、チルドビーフの輸入量が前年を割っていくと、国内相場が高止まりになる。
豚肉
国産豚肉は、農水省食肉鶏卵課の肉豚生産出荷予測(令和4年10月25日付)によると、今後5カ月間の合計頭数は前年比約97%と前年を下回る予測が出ている。
農畜産業振興機構(ALIC)の需給予測(10月27日公表)によると、チルドに関しては北米の現地価格の継続的な高騰、円安の進行などから、低調な数量が継続すると見込まれている。
直近3カ月平均(9月~11月)は、輸入合計が77万6000t(前年比101.0%)、チルド31万7000t(同92.3%)、フローズン45万9000t(同108.0%)となっている。
フローズンは、引き続き米国やスペインからの数量が増加することが見込まれる。スーパーマーケット(SM)で使用されるテーブルミート向けの、チルドポークの輸入が大幅に少ないことが、現物相場の高騰を促すので、チルドビーフと同じく、相場の高止まりを促すことになる。
鶏肉
農畜産業振興機構(ALIC)の推計期末在庫では国産25万8000t(前年比76.5%)、輸入品121万2000t(同112.7%)と合計で147万1000t(同104.0%)となっている。
鶏肉需給表(令和4年10月27日公表)によると、9月の出回り量は国産134万6000t(前年比97.7%)、輸入品47万5000t(同96.8%)と、合計で182万1000t(同97.5%)となっている。
10月以降の国産在庫については、競合する輸入鶏肉の高騰などから引き合いが強く、クリスマスの需要期に向けて輸入量が増加する時季となるが、米国産は鳥インフルエンザや新型コロナウイルスの影響によって不安定な輸入状況、ブラジル産は前年の輸入量が多く、前年を下回る見通しと予想している。
しかしながら、国内の鳥インフルエンザの急速な広がりによる影響が年末年始の状況を大幅に変える可能性が高くなってきている。
11月25日現在で国内の防疫措置対象が、11都道府県17事例(20農場3施設)で約289万羽となっている。
この疾病による、羽数の減少が、国内相場に影響を与えており、卵の相場高騰にもつながっている。23年も、疾病との戦いで、大きな影響を受けることが予想されるので、高くても輸入を増やさなくてはならなくなる。
値段で販売するのではなく、「価値」を販売する
円安のニュースを見て驚いた人も多いと思うが、日本の物価は先進国の中でも極めて安い。
追い打ちをかけるように、円安となっているため、こぞって外国人観光客が日本へ来ているのが現実である。
海外の畜産品を販売する商社やメーカーは、「他のどの国よりも安く売ってください」と言う日本人よりも、高く買ってくれる外国へ商品を売っている。
これが日本の買い負けと呼ばれる現象である。
すでに商品を安く販売する時代ではなく、適正な価格で購入して、適正な価格で販売しなくてはならない現実が訪れているのである。
「値上げをすれば良いか」というと、いままでの安い商品を見てきた日本人には、単純な値上げでは消費者は離れてしまう。
「購入したい」という気持ちをカバーできるだけの価値を商品に付加した、付加価値提案が必要となっている。
米国産牛タンネギ塩ネギどっかん 150g1480円
一時期よりは物量も価格も落ち着いてきた「輸入牛タン」であるが、やはり価格は以前のように安く売ることはできない。
価格訴求のみで、商品も効率重視でシンプルに簡素化してきた企業は、徐々に値上がりする牛タンを、売価に転嫁して値上げをしたのではないだろうか。
値上がりする理由を原料が高くなったと説明した担当者も多いのではないかと思う。
しかし、商品化に一手間加えて、ネギをいつもよりも多くトッピングして、魅力ある商品化にするだけで、100g当たり約1000円という和牛並みの価格でも販売できている企業もある。
商品には、消費者が購入したいという「価値」が加わっている。
最近の焼肉店では、安い並タンやタン塩、厚切りタンなどに加えて、ネギを大量にトッピングした商品や、味付けネギを、牛タンを袋状にした中に詰め込んだ商品など工夫を凝らした商品などもある。
外食店は原価率(値入率ではなく)が30%というのも一般的であるため、小売店の倍以上の価格設定がされていても購入されているのである。
安く販売しなくても、十分に商売は成り立つ。
安く販売するディスカウントストアがあっても良いと思うが、SMは「価値」を商品に付けて販売してほしい。
ディスカウントストア路線で行くか、SM路線で行くのかという指針を明確にしないと生き残れないときが来たようだ。
一方で、生肉の価格が安定しない中、売上高構成比が上がってきているのが「ローストビーフ」である。23年も、ローストビーフの販売構成比は上がっていくものとみられる。
ローストビーフに取り組んでいないと、数パーセントという、目に見える数字が確保できなくなるといえる。
「生肉で売上げが取りにくい」「原価が高くなっている」「仕入れが安定しない」など、いろいろとネガティブな要因があるが、食事で食べる食肉を販売している精肉には、生肉以外にも売るチャンスが多く残されていると捉えてほしい。
生肉を単品大量販売しなくても、売上げも利益も確保できる資源は、精肉にはたくさんある。
ローストビーフは「産地」や「グレード、部位別」だけでなく、「作り方、製法」に関してもバリエーションがかなり増えている。
国産牛モモ肉低温調理ローストビーフ 80g680円
国産牛のモモ肉を低温調理するとしっとりと仕上がる。
加熱時間や温度は保健所や厚生労働省のルールに従った調理が必要であることはもちろんだが、そこをクリアすれば販売可能となる。調理された商品は、当然、付加価値が付くため生肉よりも価格を上げて販売することができる。
大量販売しなくても十分売上げと利益を確保していくことができる。
スライスしたローストビーフは、トレーに並べるが、内側に上げ底のカップを仕込むと立体的な盛り付けが可能になる。外食店のバースデー焼肉などで用いられる方法である。
小売店でも取り入れることで、「肉ケーキ」のような商品を作ることができる。ローストビーフソース、レホール(西洋ワサビ)を高ぶたトレーの内側にセットして販売する。
ちょっとした一工夫が、単なるトレーに盛られたローストビーフから、映える価値のある商品へと変化するのである。
過去と固定観念にとらわれない
世界の人口が80億人に増加する中、日本の人口は1億2500万人を割り込んできている。
高度成長期には、SMなどは単品大量販売をして売上げを伸ばしてきた。
しかし、人口が減少しており、その分胃袋の数は減っている。つまり販売できる量は減っているのである。新型コロナウイルスや鳥インフルエンザの影響で、生産や物流、物量が安定せず相場が高い方へ推移している。
「物量を販売しなければならない時代」から、「適正な量を適正な分だけ販売していくエシカル消費」へ、世の中は軸足を向けている。
このタイミングで、適正な価格で必要分を販売するスタイルへ切り替えていくよう、企業の方針も変化させる必要があるのではないかと思う。
最近では、家庭での調理も減ってきており、惣菜やテークアウトへの食のシフトが進んでいる。精肉では、生肉販売も行う一方で、「肉惣菜」や「冷凍肉製品」などの売上げが上がってきている。売場構成を少し変化させるタイミングでもある。
生鮮惣菜を強化することは、店の全体の「惣菜」を強くすることにもなる。
23年は、ローストビーフや肉惣菜という新しいカテゴリーのアイテムを、大きく打ち出していく年になるはずだ。
世界情勢を鑑みても、以前のようにかなり安く商品が調達できる時代ではなくなっているため、売り方そのものの転換期と捉えて、消費者が必要とする食材や、食生活を見直した、商品の品揃え、展開をしていきたいと思う。