著しく進化している世界の腸活

2022.11.09

2021.10.01

腸内環境とは無限に広がる不思議な空間だ。多種多様な菌が複雑に絡まり合って共存しており、世界の食品業界においても近年大きな関心事となっている。

特にコロナの影響で、免疫力に対する意識が高まった結果、腸内環境を整えることを、今まで以上に重要視する人が増えた。「腸活」という言葉を聞いたことがあると思うが、これをさらに体系立てて発展しているのがグローバルの最新動向である。

各国で食品トレンドをリサーチ・分析しているINNOVAが、その注目すべき世界のいまをお伝えする。

目次

4つの「~バイオティック」

世界の商品を見て回っていると、腸内環境のための表現が多様化してきているのが分かる。しかも少々ややこしい言い回しが多く、カタカナにすると、ますます混乱する。今回は主要な4つのバイオティックについて、具体的な製品事例と一緒に説明したい。

まず、プロバイオティック。日本でもこの言葉を知っている、もしくは聞いたことのある消費者は多いだろう。

当社トレンドレポートには「生きた微生物で、食品、飲料、またはサプリメントに適量加えることにより、宿主に特定の健康上の利益を与えるもの」と定義がある。

代表的なものとして、ヨーグルトなどに含まれている乳酸菌やビフィズス菌が有名だ。以下のアメリカのアーモンドバターは、植物性プロテイン+プロバイオティクスという、現代消費者に響く2大トレンドを、ストレートに訴求している。

Yumbutter Almond Butter With Plant Protein And Probiotics(Oct 2020, United States)。「植物性タンパク質とGaneden BC30プロバイオティクスを配合したアーモンドバター。Non-GMOでグルテンフリー」

次に、プレバイオティック。少々似ているが、「プロ」ではなく「プレ」。これは「フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、キシロースオリゴ糖(XOS)、イヌリン、フルクタンなどの食品に含まれる化合物で、人間が消化できず、微生物が消化して健康効果を発揮するもの」である。

要するに、宿主である上述のプロバイオティックが食べるえさといったところだ。この言葉は、日本ではまだまだなじみが少ないが、海外では確実に知名度が上がってきている。

Biodiet Endulzante Sweetener With Stevia(Colombia, Oct 2020)。「プレバイオティクスは細菌叢の成長を促し、消化器系を正常に機能させる繊維です。体に重要な貢献をするだけでなく、口当たりも非常に良いです。ステビアを5%配合」

3つ目が、シンバイオティック。この辺りから、かなり専門的な雰囲気が出てきて取っ付きにくい。これは「生きた微生物(プロバイオティクス)とプレバイオティクスの混合物で、自然に存在する微生物と補充された微生物によって選択的に利用され、腸内細菌叢の健康を支える活動を向上させる」と当社レポートには定義されている。

腸にはプロバイオティックとプレバイオティックの両方が必要なのだから、どうせだから両方を一度にバランスよく取れば、より効果的だよね、といった概念だ。先日、スーパーマーケットで売られていたスナックに、そんな記載があったが、日本の消費者がどこまでそれを理解しているか怪しい。そもそも読んでいない可能性も高い。

Activkids Synbiotics Dietary Supplement, 20 Yummy Orange Flavoured Bears(Sep 2021, Singapore)。「プロバイオティクス・ライブセル乳酸菌ブレンドには、乳酸菌とビフィズス菌のライブセルが含まれています。おいしい。グルテンフリー。ナッツフリー。小麦不使用。保存料不使用、20億個の生菌数。トランス脂肪酸不使用。天然素材を使用。消化器系と免疫系の健康をサポートします」

そして極めつけがポストバイオティック。プロ、プレ、シンときて、最後はポスト。もう混乱しそうだが、そんな新しい概念も出てきているのだ。これは「食品や飲料の発酵で生じる副産物で、健康上の利点をもたらす可能性があるが、具体的な作用については科学が発展している」と説明がされている。

うーん、分かりにくい。意訳すると、プロバイオティックがプレバイオティックを食べて変換する代謝物や副産物がポストバイオティックなのだそうだ。腸内環境にはまずプロバイオティックがいて、これがプレバイオティックを食べる。その結果の排泄物がポストバイオティクス。この排泄物ですら、腸の健康に効果的だと言うのである。2018年ごろからじわじわ関連商品が増えてきている。

Okf Yogurt Sparkling Original Sparkling Drink(Feb 2021, South Korea)。「オリジナルのスパークリングヨーグルトドリンク。プレミアム健康飲料。ポストバイオティクス 100億個の乳酸菌を配合」

このように腸内環境は、食物繊維でお通じを良くしましょう! というシンプルなキャッチフレーズから、@%&Y#バイオティックに代表される、あたかも広大な宇宙観にまで発展を遂げているのである。

しかも、それが免疫力など身体全体の健康に関係していたり、美肌など美容にも影響を与えるし、さらにはメンタルや感情面など脳の健康にまでつながっているというから、もうスケールが大きすぎる。

当然、まだまだ分かっていないことや研究段階のことも多いため、来年になると新たな事実が出てくることであろう。言い換えれば、この先、食品産業に大きな革命を起こしうる楽しみな分野だ。

課題は、消費者にこの事実をどうやって伝えるか?

私たちの腸内環境についての事実が次々と明らかになることは、とてもワクワクすることであるが、もちろんこのような腸の健康についての情報が、消費者に伝わっているかというと、伝わっているとは言い難い。

今後、食品メーカーによる啓蒙活動が1つのポイントになるだろう。特にアメリカやヨーロッパでは日本より進んでいるため、その動向は非常に参考になると思われる。

そうは言っても欧米の消費者も大半が、何となくこのような言葉を聞いたことがあるレベルであり、理解を深めることについては現在進行形だ。

ウィズコロナ時代に、生活者の健康やウェルビーイングに貢献することは、食品業界にとって大きなトピックであり、使命であることは間違いない。医療機関との連携や、インフルエンサーを活用したキャンペーンも必要になるであろう。

最後に付け加えると、世界各国に伝統的な発酵食品や、食物繊維が豊富な腸内環境に効果的な食品が数多く存在し、消費者も当然健康のためには、これらをしっかり摂った方が良いことくらいは知っている。

今日紹介した4つのバイオティックは、私たちが引き継いできた伝統食を、体系立てて科学的に理解し、最適なバランスを知るための1つの方法とも言えるかもしれない。

※記事中の画像・グラフは、当社Innova Database及びInnova Reportsより引用

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