田中良介

Innova Market Insights(イノーバマーケットインサイツ)社の日本カントリーマネージャー。世界の食品トレンドを読み解き、日本へその知見、視点を伝え、企業の商品開発やマーケティング活動を支援している。自身もかつては食品企業で、苦労しながら商品開発と販売をしていた経験あり。日本と世界をつなぐ懸け橋となり、クライアント企業と一丸となって食産業の発展に貢献することがミッション。INNOVAでは90カ国以上をカバーし、新製品情報、消費者動向、原材料トレンド、市場規模データなど、多様化が進む現代の食品産業を、あらゆる角度から深いレベルまで分析できるデータベースやレポートを提供している。

  • 2022.12.26

    第10回 世界で代替肉市場が減速~ それが意味することとは? ~

    いままで世界で勢いよく伸びてきた代替肉市場だが…。  ここ最近、成長スピードが、鈍化してきている。かつては向かうところ敵なしだった「代替肉の雄」ビヨンドミート社が、苦境に陥っているニュースもよく目にする。 INNOVAの食品データベースで市場動向を確認してみたところ、たしかに雲行きが怪しい。とくにアメリカで、減速傾向が如実に現れているのだ。 米国市場は、一般的に、食品トレンド分野において先行指標といわれる。 ということは、「この流れが、世界各地に波及するってこと?」「日本では、いままさに各社がんばって製品開発を進めており、これから市場が盛り上がろうとしているのに、おいおい、どうしてく…

  • 2022.12.05

    第9回 「ポジティブに脱完璧」が求められる時代

    今日紹介する世界トレンドは、とても重要だ。もしかしたらいまの時代、これからの時代に一番求められるものかもしれない。 テーマは「ポジティブに脱完璧」。自分たちの企業や製品の不完全さを認め、前向きにオープンにしようという流れだ。まず以下のオーストラリアの植物性ミルクを見てほしい。注目は裏ラベル。 「私たちは完璧ではありませんが、フットプリントを小さく、フレーバーをより良く保つために、最も持続可能なソリューションを見つけるために、懸命に取り組んでいます…」 We’re not perfect…、彼らは自らそう言っている。正直だし、ある意味いさぎよい。 世の中には、自分たちの素晴らしさを自負する製品で…

  • 2022.10.27

    第8回 「Free From」 進化論、多様化するFree Fromの行間から見えてくる「世界のいま」

    世界の食品トレンドを読み解く上で、「Free From」は欠かせないキーワードだ。直訳するとxx不使用という意味。「シュガーフリー」「グルテンフリー」のように、「xxフリー」という感じで、サラッとかっこよく使われる。 INNOVAが毎年発表している「世界の食品トップ10トレンド」の、さかのぼること2010年版には、Free Fromトレンドがランクインしていた。10年以上前から世界のメインストリームなのだ。最近日本でも「xxフリー」という表現を見かける。 一般的には、特定の原材料やアレルゲン物質を使っていない、または無添加を意味するシンプルな用語である。 いや、「シンプルであった」と過去形で言…

  • 2022.09.29

    第7回 フードテックはもう止まらない

    先日、世界のフードテックについて話す機会があった。 このセミナー準備のために、海外の多くの事例を集めて整理し、自分なりの咀嚼を試みた。しかし「世の中こんなことになっているのか!」と、あまりにも興奮してしまい、妄想がとっ散らかって、咀嚼どころではなくなるという自分の悪い癖が出たので、一連の作業から感じたことをつらつらと書いて、一旦吐き出そうと思う。 私が注目していることの一つ目は、原料と最終製品の「つながりのリセット」だ。いままで当然だと思ってきた食品原料が、書き変わり始めている。具体例を挙げると、 ●コーヒーはコーヒー豆から作られる いや、コーヒーの成分や香りをリバースエンジニアリングして、他…

  • 2022.08.22

    第6回 キノコ革命

    「え、ちょっと待て待て、これ何かの誤記じゃないか?」。アメリカで飲んだアルコール飲料の原料を確認したときのことだ。「MAITAKE(マイタケ)」と書いてある。これ舞茸のことだよね? ブルーベリー、レモン、ラベンダー、カモミールに続いて、堂々とMAITAKEの記載があるのだ。缶の表面には「RELAX」と書かれており、アルコール度数は4.9%、健康を意識したお酒である。 コロナ禍において、ビタミンDが豊富で免疫力を高めるキノコに注目が集まった。特にアメリカでその活用に、ぶっ飛んだ異変が起きているのだ。異変とは「イノベーション」と言い換えられる。この潮流はあまりにも興味深く、日本人として必見だ。 世…

  • 2022.07.27

    第5回 オーガニックの一歩先

    わが家では家庭菜園をしている。自家用なので農薬も化学肥料も使っていない。 夏になると草刈りが追いつかず、雑草ボーボーで、本当にボーボーで、野菜が摩訶不思議なところから発掘されるが、それはそれで楽しい。 見た目はさておき、それなりにおいしい野菜ができるものだ。 しかし本格的に農業を始めると、そう簡単にはいかない。事業規模が大きくなればなるほど、農薬も化学肥料も使わずにやっていくことは難しい。私自身、かつて農業法人数社で働いた経験があるのでよく分かる。 当初は 理想的な農業ができるかも! とウキウキしていたが、ビジネスとして農業に携わると、そんな生易しいことではないことがすぐに分かった。理想と現実…

  • 2022.06.22

    第4回 オーストラリアで遭遇した「圧倒的に国産」

    とことん国産を好む国民性…。それは日本人のことではない。たしかに日本人も国産品が大好きだ。でも、日本のことではない。 世界の中でも際立って、国産をこよなく愛する国は…実はオーストラリアなのである。INNOVA食品データベースで確認すると、なんとこの国の食品の3割以上が、国産原料や国内製造をPRしている。 どうやらオーストラリアの人々は、地元調達された製品に極めて魅力を感じるようなのだ。ローカル志向そのものは、現在の世界的なトレンドである。しかし同国で、その傾向が色濃く出ている。なぜなのだろうか?  国土面積こそ違えど、同じように海に囲まれた島国である日本にとって、参考になるアイデアが…

  • 2022.05.18

    第3回 こんなに違う! 世界と日本の「パッケージデザイン」

    日本と欧米の食品パッケージは、なぜこんなに雰囲気が違うのだろうか? どちらが良い、悪いではないと思うが、欧米のデザインは、なんだかオシャレでかっこいい。先日展示会でブースを構え、私が世界中で買い集めたパッケージを展示した。来場者から、やはり同じような感想が多く聞かれた。 欧米のデザインの方が優れているということなのだろうか…? でも、日本の製品をいろいろ見た後に、欧米のパッケージに目を移すと、なぜか物足りない気持ちでいっぱいになる。日本のデザインは脳裏にズドーンと飛び込んでくる。欧米のデザインには、アートのような大人の雰囲気が醸し出されている。 さまざまな文献を調べてみたところ、日本では「シズ…

  • 2022.04.18

    第2回 「Indulgence」が訳せない

    いまの仕事を始めてからずっと悩んでいることがある。 「Indulgence」がうまく訳せないのだ。 私の仕事は世界の食品トレンドを日本の企業にお伝えし、商品開発やマーケティングに活用してもらうことである。世界の情報というのは基本的に英語だ。フレッシュな最新トレンドになればなるほど、情報源の大半は英語じゃないと手に入らない。 講演資料や展示会で掲示するパネルについては、できる限り日本語に訳すようにしている。しかし、ちょっと気取ったクールな英語表現を、翻訳ツールで直訳してしまうと、結局「なんのこっちゃ」になってしまうことが多い。これは翻訳のあるあるだろう。 だから私は前段階で、キートレンドや、製品…

  • 2022.03.25

    第1回 ぐるっと回ってたどり着いた先に「ニッポン」

    今月よりコラムを連載する。私は世界の食品トレンドを日本に伝えて、企業の商品開発やマーケティング活動、また海外展開を支援している。そのため、もちろん、執筆内容は「世界の食」が中心になるが、私が普段仕事を通して感じていることを、番外編的にゆるりと書いていこうと思う。 「へー、こんな意見もあるんだ」くらいに気楽に読んでほしい。ゆるくもあり、真髄に迫っているって言われると、ちょっぴりうれしいかもしない。 一般的に世界、特に欧米の食品トレンドは「進んで」おり、それが数年遅れで日本に入ってくると言われている。あらゆる国の食品を幅広く見ている私の実感としても、確かにそのとおりではあるが、実は日本が昔から最先…

  • 2022.02.28

    世界の健康重視トレンドはここまで来ている!

    Innova Market Insights 田中良介 いま世界で起こっている、最新の5つの健康トレンドを解説する。世界中の食品データを多面的に収集、分析しているINNOVA(オランダ・フードバレー)の、グローバルスタンダードの知見を、ぜひ学び取ってほしい。 新型コロナウイルスの影響で健康意識が高まっているのは周知の事実だが、これにより世界で起こっている「うねり」を読み解くことは、食品業界で働く人間にとって次の時代を生きぬくヒントとなり得る。 現代のグローバル社会においては、海外のトレンドが遅かれ早かれ日本へ影響を及ぼすことは明らか。この先、国境を越えた人の往来が徐々に再開していくと、トレンド…

  • 2021.10.01

    著しく進化している世界の腸活

    腸内環境とは無限に広がる不思議な空間だ。多種多様な菌が複雑に絡まり合って共存しており、世界の食品業界においても近年大きな関心事となっている。 特にコロナの影響で、免疫力に対する意識が高まった結果、腸内環境を整えることを、今まで以上に重要視する人が増えた。「腸活」という言葉を聞いたことがあると思うが、これをさらに体系立てて発展しているのがグローバルの最新動向である。 各国で食品トレンドをリサーチ・分析しているINNOVAが、その注目すべき世界のいまをお伝えする。 4つの「~バイオティック」 世界の商品を見て回っていると、腸内環境のための表現が多様化してきているのが分かる。しかも少々ややこしい言い…

  • 2021.05.26

    注目の「スポーツニュートリション」とは何か? 最新トレンドと併せて解説

    現代の消費者はスポーツ栄養食品に何を求めているのか? 2021年以降の未来で、スピード感を持って商品開発を進めていくためのグローバルスタンダード視点を、事例を交えて紹介する。キーとなるコンセプトは次の4つだ。 1 クリーンラベル2 植物性プロテイン3 心と身体の両面アプローチ4 パーソナライズ それでは順に見ていこう。 クリーンラベル クリーンラベルとは、出どころが明確で、「身体に良い原材料を使いましょう」という世界的なトレンドのことをいう。はっきりした定義があるわけではないが、 代表的な考え方としては、「無添加」「ナチュラル」「オーガニック」「Non GMO(遺伝子組み換えでない)」のいずれ…

  • 2021.03.26

    自分にぴったりの食を好む消費者にどう向き合うか?|世界の動向から学ぶ

    「自分に最適な食事や栄養って何だろう?」。これは、誰もが一度は考えたことがあると思う。オーダーメイドは、もはやスーツや家具だけではない。その流れが本格的に食の分野にも広がってきた。 当社調査によると、世界の消費者の3分の2近くが、個人のスタイル、信条、ニーズに合わせて商品を選択することが増えたと回答している。さらに、自分に適した栄養ニーズ(パーソナライズド・ニュートリション)も高まっており、食のオーダーメイドの気運は高まるばかりだ。 また、技術の進歩もこのトレンドを後押ししている。食品開発の技術だけでなく、例えば遺伝子解析や、ITやAI(人工知能)を組み合わせたサービスもいろいろと見受けられる…

  • 2021.02.15

    いま、まさに「ローカルこそグローバルトレンドだ!」と言える理由

    筆者は仕事柄、いままでに世界中の膨大な数の商品開発事例を見てきた。随時、世界数十カ国の人達とやり取りをしているため、彼らが求めているものも肌感覚で知っている。 こうした世界の最新トレンドを日本の食品企業にお伝えし、商品開発・マーケティング・海外展開などを支援するのが、筆者のメインの仕事である。 プラントベース、プロテイン、サステナビリティなど、現代社会において見逃してはならない、グローバルレベルのあらゆるトレンドを日本国内に発信している。 その中で筆者が最近特に気になっているキーワードがある。それが、「ローカル」だ。地方に根差した食文化のことである。当社の食品データベースで確認してみると、ロー…

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