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第10回 世界で代替肉市場が減速~ それが意味することとは? ~
2022.12.26
いままで世界で勢いよく伸びてきた代替肉市場だが…。
ここ最近、成長スピードが、鈍化してきている。かつては向かうところ敵なしだった「代替肉の雄」ビヨンドミート社が、苦境に陥っているニュースもよく目にする。
INNOVAの食品データベースで市場動向を確認してみたところ、たしかに雲行きが怪しい。とくにアメリカで、減速傾向が如実に現れているのだ。
米国市場は、一般的に、食品トレンド分野において先行指標といわれる。
ということは、「この流れが、世界各地に波及するってこと?」「日本では、いままさに各社がんばって製品開発を進めており、これから市場が盛り上がろうとしているのに、おいおい、どうしてくれるんだ!」という感情的な質問を、グローバル規模で定期的に実施している社内の勉強会で、トップアナリストにぶつけてみた。
その回答があまりにも冷静で美しかったので、シェアしたい。
「私たちは、実はその逆だと考えています。たしかに通常、トレンドに関しては、アメリカがかなり先行しています。INNOVAでは、代替肉市場が頭打ちになる可能性を指摘していますが、これは動物性を単に模倣することを目的としたイノベーションに限られます」
「これまでのところ、米国マーケットでは(肉を)模倣した製品が大半を占めています。一方、ヨーロッパでは、本来の植物性素材に焦点を当て、幅広く創造性を持たせた工夫が多く見られます」
「例えば、従来の代替肉バーガーではなく、野菜をより素材に近い形で、エキゾチックなスパイスなどで味付けしたようなプラントベース食品です。言い換えれば、広義でのプラントベースの可能性は、米国ではまだまだ未開拓であり、これからの成長の原動力となるはずです」
すなわち、表面的に観測されている市場のスローダウンは、次なる展開の始まりを示唆しているというわけだ。これは非常に重要な指摘である。
確かに、当社が世界各地で実施した消費者アンケートを併せて確認すると、これを裏付けるデータが見て取れる。人々は必ずしも、「肉をがんばって模擬した代替肉」を欲しているわけではない。国によりばらつきはあるものの、多くの人が、むしろ植物性素材そのものの魅力や味わいを生かした製品を求めているのだ。
上記は、私がオーストラリアで食べた、パスタストロガノフ。電子レンジで簡単に調理でき、手軽に楽しめるプラントベースだ。
代替肉原料として使われているのはシイタケ。パッケージに「Suprisingly Meaty」と書かれているように、食感は確かにお肉っぽかったが…、味は完全にシイタケだった! 「代替肉」だと思って食べたら、突っ込みどころ満載な製品だ。
しかしプラントベースとは、そもそも「植物性」という意味。だから広い意味合いで捉えると、シイタケのうま味を存分に生かしたこのようなコンセプトも、十分に魅力的だといえる。そんなことをあれこれ考えていると、心の中からこんな声が聞こえてきた。
「これって、とても和食的なのでは?」
無理に疑似肉化しない、素材そのものを生かした、ゆるやかなプラントベース食品が、次の展開として注目されている。世界で徐々にそんなニーズが高まっていることを、日本の企業の方は知っておいた方がよいだろう。
もちろん肉を完璧に再現したプラントベースを求める流れも、世界では引き続き存在する。今後、培養肉が広がれば、さらに次のコンセプトを模索しなければならないタイミングに直面するだろう。この分野は本当に移ろいが早く、多様な方向へ進化を続けている。
だから未来に向けて唯一の答えなんてないが、世界が「和食的な発想」を求めていることは間違いなさそうだ。ついにやってきた、日本の強みを生かせる時代が。