「人」が対面で販売することこそ商売の肝、プライドを持って取り組む ニュー・クイック 林 浩二社長

2026.04.23

 1973年創業、翌74年設立のニュー・クイックは50年以上続く老舗企業である。日常の食を支える食肉専門店チェーンとして、食品の総合小売業であるスーパーマーケット(SM)が大きく成長する中にあっても、存在感を発揮し続けてきた。むしろ、消費の成熟や競争激化の中にあってSM企業が競って各部門の専門性を高めるようになっている時代、食肉のスペシャリストであること自体が大きなアドバンテージでもある。

 2026年3月現在で83店を抱えるチェーンストアではあるが今後、そのスペシャリティを強みとしつつ、どのような戦略を描くのか。日本マクドナルド、ゴーゴーカレー、カッパ・クリエイトなど外食の有力企業を経て22年4月にニュー・クイックに転身し、2023年3月、社長に就任した林 浩二(はやし・こうじ)氏に現状と将来戦略を聞く。

「モノ」売りから、「体験」「コト」売りへシフト

 日常の食卓を支える食肉だが、「ハレの日のごちそう」のイメージも強い。値上げなどさまざまな動きがある中、代表的ハレ商戦である2025年の年末商戦はどうだったのか。

 「お客さまも物価高に慣れてきたのか、賞与も比較的堅調だったという話もありましたが、(2025年)12月は牛肉の調子が良かったです。特に20日過ぎ辺りから急激に売れ出しました。

 季節でいっても、肉屋さんは全般的に冬の売上が高い傾向にあります。夏は『夏ばて』もあって、あまり脂っこいものを取りたくないということで肉の消費は多少落ちる傾向にあります。反対に夏に売上が上がるのは八百屋さんなんですよ。やはり野菜が売れて、肉はあまり売れません。

 それが冬になると逆になって、特にイベントごとなどがあると牛肉の消費が非常に上がります。年末年始は特にしゃぶしゃぶやすき焼き(用の商品)などがメインになってくるので、売上としては冬の方が高い状況にあります」

 消費環境が悪化すると、精肉では高価格である牛肉から相対的に安価な豚へのシフトが起こり、さらに最終的には最も手ごろな鶏肉の売上が上がるといわれるが、現状はどうなっているのか。

 「その傾向は一昨年(24年)が一番強かったですが、昨年(25年)の9月ぐらいからはほぼなくなっています。財布のひもが緩んでいることもあると思いますが、鶏自体の相場が高かった上、豚も高くなっている半面、(国産)牛の相場は安定していることもあって、以前に比べたら価格差がなくなってきていることもあると思います」

 タンパク源としては、長期的に魚の消費が落ち、肉の消費が上がる傾向が指摘される。その意味では追い風といえる。

 「魚屋さんと話をしますが、魚屋さんが一番困っているのは旬の魚が獲れなくなり、温暖化の影響で漁場が北上をしていることだと。例えば秋はサンマが豊漁だと思っていたのに、ふたを開けてみたら価格が高止まりしたとか。

 魚に比べて相場の安定している肉の方が買いやすいとは思っています」

 一方で、仕入環境についてはどうか。相場の動向によっては難しい局面もあると思われるが。

 「やはり相場には影響されますが、当社は精肉小売りとしてはめずらしく、『在庫型』のセンターを持っています。安いタイミングでは仕入れを増やし、高値時は抑制するという形で、相場感よりも多少安く仕入れることはできていると思います。そういう意味では、他の小売りよりはメリットはあると考えています」

 店舗を構える小売業としては、人件費の高騰が店舗運営に与える影響が大きい。しかも、食肉専門店は製造小売業の側面も持つ。

 「こればかりはもう委ねるしかないと思っています。人件費を抑えるとか、無理やり削るとか、そんなことをしたらお客さまにご迷惑がかかってしまいます。そこ(人件費の上昇)は甘んじで受け入れ、それ以外のところで努力をし、お客さまには最高のサービスを提供していこうという会社の方針をずっと貫いています」

 製造の部分はなかなか省力化が難しいと思われるが、例えば店舗のレジを、SMでも急速に導入が進むセルフレジの導入を進めている。

 「セルフレジ、セミセルフレジなどは、いま(世間)全般的に増えていることもあります。以前は『年配の方が使いづらい』とか、『分からないのではないか』といったことがあったのですが、いまはそういうことも解消されつつあるため、積極的に導入しています。

 ただ、対面販売を減らすことは全く考えていないです。当社は対面を創業当初からの一貫した強みとしてやってきています。特に私が社長に就任してからの3年ぐらいは対面に来てくださるお客さまに対して、積極的にこちらからアプローチをして、お客さまのニーズを探ったり、お客さまに新たな提案をしたり、どちらかというと『モノを買ってもらう』というよりは、『体験をしてもらう』とか、『コトを買ってもらう』ということにシフトをしています。それについてはお客さまにも満足をいただいているので、対面をやめるということは全く考えていないです。いま店舗は83店ありますが、そのうちのほとんどとなる73店に対面があります」

 対面販売の強化にも通じるが、外食企業からニュー・クイックに転身後、トップとして積極的に人材育成に取り組んでいる。

 「真剣に取り組んでいます。階層ごとにプログラムを作ったりしていますが、大きく2つに分かれています。1つは当然、肉ですから技術が必要なので、パートタイマーを含めた技術面を磨く人材の育成。もう1つは店舗数がいま83店にまで増えていますので、マネジメントを行う人材の育成。この二本柱で人材育成をしています。

 いままでは、技術を持っている一方で、マネジメントについては十分に取り組めていなかった面があります。手前みそですが、従業員の肉を切る技術は本当にレベルが高いと思います。ただ、それだけでやっていくと、どこかで(成長が)止まってしまうのでマネジメントについても教育しています。

 また、対面での対話については非常に重視し、集合研修などをしています。(林社長が就任した)3年ぐらい前からやっているものですが、その背景には『もったいない』と思っていたことがありました。

 みんな技術を持っているのですが、お客さまに対して積極的にアプローチをする、提案するなどの教育を行ってこなかった部分がありました。したがって、それを積極的にやれば、お客さまにもっと良い提案ができるのではないかと考え、始めました。

 (研修を導入して)常連のお客さまの中には、話を楽しみに来てくれる方も増えてきています」

店舗の中でも対面販売は特に重視。今後、ここでの対話の機会を生かして提案機能をさらに高めていきたいとする

目下、改装に注力、今後の出店は関東中心に

 展開店舗の多くを占める73店の対面販売の機能は重視していくことがよく分かる。一方で、少数ではあるが、他の店舗はどのような位置付けなのか。

 「セルフサービス売場だけの店が9店舗ある他、マキヤが静岡県東部と神奈川県で展開する『エスポット』に入っている店が7店舗。あとは『生鮮食品館富士ガーデン』(ニュー・クイックがデベロッパーになってテナントを入れたマルシェスタイル(市場形態)の生鮮SMが6店舗。ただ、今後の出店で増やしていこうと考えているのは、やはり対面を持つ精肉店ですね」

 それでは、標準的な精肉店はどのようなものになるのか。

 「売場が大体30坪ぐらい。他に厨房と倉庫が合わせて30坪ぐらいあり、全体で60坪ぐらいが平均的な店舗の規模ですね。対面の精肉売場の他に平台、平ケースがあってパックの商品、加工肉、惣菜を売っている形です」

 店舗の立地によって、売上などに差はみられるのか。

 「駅ビル、特に東京、神奈川の都心の店の調子が良いです。現在、東は北海道から西は広島まで出店していますが、今後の出店に関しては関東が中心になると思います。

 やはり今後の人口のことを考えると、流入人口があるのはやはり東名阪(東京、名古屋、大阪)となりますが、その中の大阪は独特の食文化で、大阪で独特の売り方のようなものがあるようで、例えばわれわれが大阪に出店してうまくいくかといえば、やはりそうではない(実際に大阪を含む近畿圏には出店していない)。そこにわざわざ挑戦するよりは、いままでやってきた関東が適していると考えています。実際、現状の西方面の店は名古屋(市内の店)があって、その先は広島(市内の店)です」

 食文化もあって、以前は大阪など関西は牛肉の売上が高く、関東など東日本では豚肉の売上が高いというイメージがあった。東日本が主力ということだが、牛肉の売上は増えてきているのか。

 「増えて来ていますね。その中でも赤身肉の需要が増えています。健康ブームもあり脂を好まない方が増えてきていますね。好みだとは思いますが、外食ではサーロインステーキが非常に売れています。しかしながら、(ニュー・クイックのような)肉屋さんではサーロインよりもヒレや赤身の方が、需要が高い傾向にあります」

 食肉専門店として、霜降りに価値を見いだす高級な和牛の需要も高そうだが、状況は。

 「交雑牛(主に和牛とホルスタインを交配した牛)がシェアを占めて来ています。当社でもプライベートブランド(PB)で交雑牛の『きわみ牛』を販売しています。交雑牛ですが、やわらかく味が濃いのでお客さまから好評を得ています」

 今後、どのような出店立地を狙っていくのか。

 「スーパー、ショッピングモールの中など、もともと集客ができているところに出店をしていくのは1つの手だと思いまして、いま積極的にアプローチをしています。

 いまは新規出店よりも既存店の改装の方に力を入れています。50年以上、同じようなスタイルで店舗運営をしてきているので、やはりいまのデザインと合わなかったり、売場として少し買いづらかったりといったことがあります。今のお客さまのニーズに合わせた改装の実施に昨年から力を入れています」

 建築コストが高騰する昨今、既存店の改装に注力する企業は多い。改装の狙いは。

 「一番はお客さまの利便性を高めることです。2番目が従業員の働きやすさです。基本はその2つですね。例えば、お客さまの利便性では通路の正面から歩いてきて、一番見やすい、いいところにケースがないといったことがあったりするので、デベロッパーにお願いをして違うところに設置をさせてもらったりしていますし、働きやすさの面では厨房の動線を良くしたり、惣菜を作る部屋を拡大したりといったことをしています。本当に基本的なことですね」

 改装の効果はどうか。

 「やはり、あります。当然、店によって違いますが、いいところは30%ぐらい売上が上がります。昨年から始めましたが、年間10店舗から12店舗ぐらいが無理のないペースだと思っています。できれば10年に1回ぐらいは改装していきたいので、おそらくこのままずっとこのサイクルでやっていくと思います」

売れている店が持つ「フィット感」

 食肉専門店として、販売商品の売上高構成比はどのような状況になっているのか。

 「肉全体が7割、惣菜が2割、加工品が1割といった構成です。肉の中では昔は豚が一番構成比が高かったのですが、いまは牛、豚2つの構成比がほぼ変わりません。

 今後はやはり、PBを強化していく計画です。『きわみ牛』(雲仙きわみ牛と北のきわみ牛)『雲仙クリーンポーク』(豚では他にうま味を追求した『雲仙きわみ豚』も展開)『十文字鶏』などがあるので、それらを強化していきます。

 もちろん、味もよく、安定的に提供できるので、お客さまにとってもメリットがあり、会社を経営していく上でも、メリットがあります。いまPBの売上高構成比は約30%ですが、これを全面的に強化して高めていきます」

 マーケットとして市場が拡大している惣菜はどう位置付けているのか。精肉店の惣菜というと、余剰部位を活用したものが想定されるが。

 「(精肉の)余剰部位を使ったりもしますし、専用の原料も使用したりしていますが、基本的には他社にはないおいしさを追求するという考え方で開発しています。揚げ物が多いですが、他に焼き物、サラダなどの冷惣菜などです。

 惣菜の売上高構成比はいま2割ですが、これは上げていきたいと思っています。やはり惣菜のニーズは大きいです。独身の方はもちろん、いま夫婦でも共働きが一般化しているので、そういう方々に買っていただくことを想定しています。

 例えると20年前、30年前は、食卓に惣菜が1品あって、あと3品を自分たちで作って、みそ汁とご飯というのが一般的な形だったのですが、いまは逆転していて、惣菜が3品で自分たちで作るのが1品、それでみそ汁とご飯という形になって来ています。どの企業も、惣菜や冷凍食品にやはり力を入れていますので、惣菜の需要が下がることないと思っています」

即食需要の高まりもあって、惣菜は約2割の売上高構成比を占めるようになっている。今後、さらに構成比を高めていく計画

 加工品も売上の1割を占める重要な商材だ。

 「加工品でもPBのハムやソーセージを出していますので、そちらを強化していきます。原料自体、そもそもおいしい(精肉の)PBの豚肉の余剰部位を使うといった作り方をしているので、正直、味もナショナルブランド(NB)のものよりもおいしいです。それで価格も安い。さらに利益はNBよりも高いので、利益としても安定します。ただ、加工品は正直言うと、あまり伸びていません。これは値上げの影響などによる業界全体の傾向です。

 それ以外に冷凍品の肉まん、シューマイ、ギョーザ、味付けのホルモンなどをPBで作って強化しています」

 販促など、お客とのつながりの点ではどのような取り組みを実践しているのか。

 「(林社長が社長に就任した翌年の)24年からマーケティングに力を入れようということで、市場調査をしたり、お客さまのご意見を聞いたりする部隊がなかったので、まずはそれを発足させました。お肉好きのお客さまが多くいらっしゃいまして、実は『隠れニュー・クイックファン』もたくさんいらっしゃったので(笑い)、そういう方にいろんなご意見を伺い、新たな提案にもつなげています。

 また、肉の塊を目の前でカットしたり、磨いたり(余分な脂やスジを取り除く作業)といった、実際にはあまり見られないことを実演するイベントを催しました。そうすると、お客さまが新たに肉の魅力を感じてくれて、ご自身のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で発信をしてくれたりします」

 社長就任後に始めたのには、どのようなきっかけがあったのか。

 「お客さまのご意見を本当に汲み取れていなかったということです。『汲み取るにはどうしたらいいか』という、その点に尽きます。当時、創業50周年のタイミングで、やはりこれまである意味、商売だけで走ってきたところ、これから先の 50年はお客さまのニーズ、対話の部分も含め、接点を増やし、顧客体験を高めていくことが目的としてありました。

 最初の取っかかりとして出口でのアンケートをやりましたが、おもしろい結果が出ました。それまでは、先ほど言ったとおり商売だけをやっていたので、お客さまが何を求めているか、どういうニーズがあるのかといったことが分からなかったのですが、出口アンケートをやってみたところ、思っていた以上にニュー・クイックに期待していることが『価格』ではなくて、『品質』だということがすごくよく分かりました。もちろん、『価格』を求められているお客さまが多い地域もありましたが、それは思っていた以上に少なかったです。

 また、当然、売れているお店と売れていないお店があるのですが、売れているお店は、お客さまとお店の『フィット感』が非常に高い状態でした。東京都板橋区の仲宿商店街に仲宿店がありますが、この店は開けた当初は実はいまより売上がはるかに低かったんです。それが、このお店のお客さまのニーズを理解して、それを実際に具現化した結果、売上が 20%から30%大きく向上しました。だから、フィット感の重要性について、お客さまのアンケートをすることによって気付きました。

 また、来店ポイントを導入したこともあって、LINEのお友だち登録も増えています。あとはお客さまのご意見を集めるものとして大きかったのは、やはり対面での会話ですね。

 以前は感覚的に売上が低いと、値下げして特売をやるというのがメインだったのですが、それだけではなくて、次はこの日にこういういいお肉が入りますという販促の仕方に変わってきたわけです。

 あとは試食販売をしてみたりとか。価格で攻めるときは価格さえ出していれば良いという感覚でしたが、試食販売をすることによってお客さまが買いやすくなったりするという感覚になってきました」

 価格は分かりやすいもので、確かに安い方が良いに決まっている。一方で、お客のニーズは価格以外のところにあったりもする。お客の意見を聞くことは、基本中の基本だが、非常に重要であることが伝わってくる。

 「いまはアンケートはやっていませんが、お客さまと対面の対話からご意見をいただいています。また参加型のイベントも過去3回やっていますが、やるごとに参加したいと応募してくれる方も増えています。今後も定期的にイベントをやっていきたいと思います。3月は鶏肉の食べ比べを行いました。その中では、われわれとしても提案していきたい『鶏すき焼き』のメニューを企画に盛り込んで、改めてお客さまに食べていただいたりしました。関東ではあまりメジャーなメニューではないですが、九州や大阪ではよく見られるもので、もともと歴史的には牛肉のすき焼きより古くから親しまれたメニューです」

プライドを持って、お客のニーズを探り、提案する

 インターネットの普及に伴って、小売業についてもネットチャネルへの移行が次第に進んでいる。食品はゆるやかではあったが、着実に比率は高まっている。ネットへのスタンスをどう取るのか。

 「EC(電子商取引)も重要ですが、とはいえ、やはり対面の販売なので、そこで買っていただいたお客さまを重視しています。そのため、『そこで(対面で)買えないお客さまがECで注文していただければいいな』というぐらいの感覚です。積極的にECを強化して販売をしていこうというよりは、やはり対面の購買体験をしていただきたいというのがメインです。

 ECでは通常に食べるお肉も当然、販売していますが、ギフトも展開しています。一番のメインは牛肉ですが、鶏の2kgパックなども家庭で普通に買われたりします。ただ、あまり力を入れていないこともあって、売上はほぼ変わらずです。

 どちらかというといまはECよりも、外食に対するBtoBを強化しています。焼肉屋さんでも、ハンバーグ屋さんでもそうなんですが、やはり一番大変なのは仕込みなんです。例えば2店舗、3店舗やっていらっしゃるまだ小さいところだと、オーナーがきちんと仕込めるんですが、店舗数が多いところだとなかなか仕込みができない店もありますので、そういうお店に協力させていただいたりしています。

 神奈川県厚木市にプロセスセンター(ニュー・クイック厚木センター)があり、そこで肉を切れるので、外食の方の要望に合わせてカットをして、それを納品することをやっています。比較的このニーズがありバーベキュー場などにも納品しています」

 プロセスセンターではソーセージなど加工品も作っているのか。

 「ソーセージは作っていません。専用の設備を持つメーカーに委託しています。投資額が大きく、たくさん出ないと採算が合いません」

 いずれにしても、ニュー・クイックとしてはネットチャネルも用意こそすれ、商売としての主戦場はリアル店舗であるということになる。

 それでは日々の経営において林社長が重視する数値は何になるのか。

 「一番はやはり客数です。(値上げで客単価が上がりがちの状況下)売上だけ見て(既存店前年比)103%、105%だと言っても、一方で客数が98%というのは、商売としては、成功はしていないと考えます。だからLINEの来店ポイントは大きいです。

 二極化、二極化とよく言われていますが、本当に二極化しています。コスパ重視のスーパーにしか行かない方もいらっしゃれば、ニュー・クイックに週3回も、4回も来てくださるお客さまがいらっしゃいます。そこで当社が、そのコスパ重視のスーパーに行っていらっしゃる方をどうやって集客するかということに力を使うよりは、いま来てくださっているお客さまのニーズに応えていこうということですね。

 また、よく『節約志向』と言われますが、『節約』するのは食品だけではないんです。物価が上がると、洋服を買わなくなる家があったり、旅行をするのをやめるという家もあったりしますが、『食費は下げたくありません』という家は結構多いんです。意外とニーズは『価格』のところだけではないのではないかなと思っています」

 むしろ「価格以外」の部分のニーズを適切に捉える努力こそ、求められるということになる。まさに人の力と、それを高めるための教育が重要になる。

 「やはり、お客さまのニーズをどれだけ捉えられるか、どれだけのお客さまと会話ができるかということが、今後、商売の本当の肝になると思っています。いい例が洋服屋さんです。あまりしつこく声がけなどされると店を出たくなってしまうんですが、困っているときに助けてもらえると、『いい洋服屋さん』だと思われたりするわけです。だから、やはりそれ(いい店だと思われること)を目指さなければいけないと思っています。

 例えば、『今晩、何を食べるんですか』と聞かれたら、『何でそれをあなたに言わなければいけないんだ』と思われる方が多いでしょう。だから、売場であっちに行ったり、こっちに来たりと、悩まれているお客さまに対して、『こういうものが今日はお勧めですよ』とか、『こういうお肉だったら、こういう料理に使えますよ』といった話をするとそれを買ってくださったりします。

 メニュー提案も含めて、お客さまのニーズを探っていくのは非常に大事だなと思っています。以前は肉を切っているだけのパートさん、惣菜を揚げているだけのパートさんもいたのですが、接客をやっていただくとすごいいい笑顔で働いてくれたりします。そういう発見もあったりしますね。

 4月に新ステイトメントとして、新たな企業理念の「Our PRIDE makes HAPPY」を発表しました。PRIDE(誇り)は、People(人々)、Real(現物、本物)、Innovation(革新)、Delicious(おいしい)、Everyday(毎日)の頭文字から構成されています。

 やはり、一番は『人』です。われわれは「リアル店舗」で「本物」を売り続けます。商売としても『進化』をし続けなければいけない。当然、「毎日」おいしいものを売り続けなければいけないということで、『プライドを持ってやっていきましょう』という意味です」

 世間をにぎわせているAI(人工知能)を始めとしたさまざまな技術の進化が著しい。しかし、いかにそれらが進化したとしても、「モノを提案し、物理的に届ける」という小売業の機能を完全に代替することはなかなか難しい。むしろ、一時期話題となった「無人店舗」の現在地を鑑みると、その有効性はあくまで「自動販売機」の延長のような機能に限定されているのが実情といえる。

 その意味では、対面販売に代表される、お客の需要を細やかに引き出し、有効な商品を提案し、そして提供するという機能は「人」だからこそ実現可能であると考えることができる。林社長が「対面」を重視し、企業理念の一番に「人」を位置付けることは、まさに今後も変わることのない小売業の本質を踏まえたものといえる。

もともと食肉販売店としての技術は高いレベルで持っている。だからこそ「人」を通じてニーズに耳を傾ける、そして提案の能力が加わればさらに強力になる

お役立ち資料データ

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