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第5回 オーガニックの一歩先
2022.07.27
わが家では家庭菜園をしている。自家用なので農薬も化学肥料も使っていない。
夏になると草刈りが追いつかず、雑草ボーボーで、本当にボーボーで、野菜が摩訶不思議なところから発掘されるが、それはそれで楽しい。
見た目はさておき、それなりにおいしい野菜ができるものだ。
しかし本格的に農業を始めると、そう簡単にはいかない。事業規模が大きくなればなるほど、農薬も化学肥料も使わずにやっていくことは難しい。私自身、かつて農業法人数社で働いた経験があるのでよく分かる。
当初は 理想的な農業ができるかも! とウキウキしていたが、ビジネスとして農業に携わると、そんな生易しいことではないことがすぐに分かった。理想と現実のギャップにがくぜんとしたのを覚えている。ああ、自分の認識は甘かったんだって。
先日、スリランカが大変なことになっているというニュースを目にした。
政府が半ば強引に、農薬や化学肥料の使用を禁止し、 国として短期間のうちに有機無農薬にかじを切ったのだ。その結果、有機肥料が足りなくなり、収量が激減し、農産物価格が高騰し、生産者も市場も大混乱に陥ってしまった。
十分な技術やノウハウがないままに、いきなりオーガニックにまい進するのは、食糧の安定供給の観点からも、農家の収入という観点からも、ギャンブルに近い。
とはいっても、日本でもオーガニックの商品がもっと増えればいいと内心思っている。世界ではオーガニック市場が伸びているし、特にヨーロッパは本当に先端を行っているし、消費者の意識も高い。湿度の高い日本では、雑草の生えるスピードがあまりに高速で、害虫も発生しやすい。だから一概に参考にできるわけではないが、それでも彼らの先進的な取り組みから学べることは多い。
農薬や化学肥料に頼らないオーガニックに対して、世界の消費者の大半が、よりナチュラルで健康的というイメージを持っている。クリーンな食品(クリーンラベル)として捉えられることもあれば、野菜の味が濃いと表現する人もいる。
そして特筆すべきは、このイメージがヨーロッパを中心に、時代の変化とともに進化してきているということだ。
当社で実施した消費者調査によると、「オーガニック」=「環境に優しく、エシカル」であると回答する消費者が増えてきている。サスティナブル、SDGs(持続可能な開発目標)への意識が高まる中で、結果としてオーガニックへの関心が今まで以上に高まっているという構図だ。
そんな視点で世界の食品パッケージ訴求を分析すると、さらに興味深いことが見えてくる。
「農薬・化学肥料を使っていません」という表現だけでなく、「再生可能な農業」「健康な土壌の回復」「生物多様性の促進」といったメッセージが目立ち始めているのだ。すなわち、オーガニックを通して実現したい、その先の世界を語った製品が増えているということ。
このような考え方は、SDGsが徐々に盛り上がってきている日本でも応用できるはずだ。
オーガニックであることを到着地点にしてしまうと、さまざまな理由から行き詰まってしまう可能性が高い。
しかし、例えば「健康な土壌/生物多様性を回復する」まで視野を広げた場合、アイデアがいろいろ出てくることに気が付く。
里山をしっかり管理し守っていくことも当てはまるし、外来種の侵入を防ぐことだって大切な行動といえる。そして「オーガニック」はその手段の一つであると捉える方が、活動に柔軟性が生まれるのではないだろうか。
実現したい未来が先にあって、逆算してオーガニック(もしくはその他の選択肢)にたどり着く。同じ結論に至るにしても、持続的に物事を進める際、この考え方の順番がとても大切なんだと思う。
オーガニック論を偉そうに語りながら、自分の日々の生活を振り返ってみると、目的と手段がごっちゃなっている活動があることに気が付き、少々反省したのであった…。