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第3回 こんなに違う! 世界と日本の「パッケージデザイン」
2022.05.19
2022.05.18
日本と欧米の食品パッケージは、なぜこんなに雰囲気が違うのだろうか?
どちらが良い、悪いではないと思うが、欧米のデザインは、なんだかオシャレでかっこいい。先日展示会でブースを構え、私が世界中で買い集めたパッケージを展示した。来場者から、やはり同じような感想が多く聞かれた。
欧米のデザインの方が優れているということなのだろうか…?
でも、日本の製品をいろいろ見た後に、欧米のパッケージに目を移すと、なぜか物足りない気持ちでいっぱいになる。日本のデザインは脳裏にズドーンと飛び込んでくる。欧米のデザインには、アートのような大人の雰囲気が醸し出されている。
さまざまな文献を調べてみたところ、日本では「シズル感」を表現することが多いとのことだ。「シズル感」とは、 食欲や購買意欲を刺激するビジュアルであったり、ふわふわ、サクサクといった食感表現であったりといったことをいう。私たち日本人はこのシズル感に惹かれる。
片や欧米では、メッセージ性や製品コンセプトを大切にする。 シズル表現はほどほどに、 ストーリーや価値観をパッケージにしっかり書く。日本では考えられないようなユーモラスな表現も見られる。
日本と欧米の比較だけでは偏っているので、INNOVAデータベースを使って、アジア諸国の製品も確認してみた。ざっと見渡したところ、中国や台湾や韓国など東アジア圏では、日本と似たような傾向があるようだ。
そうこう調べているうちに、数年前にヨーロッパのアナリストと議論したときのことを、ふと思い出した。彼は当時このようなことを言っていた。
「日本のモチモチ食感の、モチとクリーミーなアイスクリームの組み合わせや、アジアのバブルティーなど、グローバル市場へ移行できるものがたくさんあります。その他に、韓国で人気のモチモチ麺や、フィリピンのプルプルした食感のココナッツもちなどが有望です。」
彼が言っていたとおり、たしかに現在、欧米でモチ(餅)が流行りはじめている。次の製品を見てほしい。昨年末に私がサンフランシスコのスーパーマーケットで撮ってきた、「雪見だいふく」のようなアイスクリームだ。

「My Mochi」というアメリカのメーカー。ちょっと待て待て、モチは日本のものだ!勝手に「My(私の)」と言うんじゃないぞ、と柔らかく指摘したくなったが、欧米の人たちが、日本的な食感に魅力を感じて、シズル感を取り入れはじめている一つの興味深い事例である。
当社で実施した消費者調査によると、特に若い世代が、食感表現に魅力を感じている。これから日本的なパッケージ表現が、徐々に世界的な潮流になるかもしれない。
逆に、日本も欧米から学ぶべきことは多い。それはストーリー表現だ。欧米では創業者や開発者の想いが、明確に書かれていることが多い。パッケージを見ていると、一つの物語が立体的に浮かび上がってくる。
次のオーツミルクを見てほしい。有名なスウェーデンのOatly社の製品だ(写真はオランダで入手したもの)。

パッケージ側面に、社長が部屋で蜘蛛の巣を取り払っているシーンが描かれている。掃除をこまめにするなんて、まるできれい好きな日本人のようだ。露骨な「The・マーケティング」用語は見られない。じわじわと響くストーリーのみが描かれている。
また「CEOのこの素晴らしいシーンを、あなたが楽しめるように塗り絵シートにしましたよ。全てのパターンを集めてね!」とジョークが添えられている。ユーモアもストーリーの一部なのだ。
こう考えていくと、日本と欧米のどちらのデザインが優れている/劣っている、という問題ではないことが分かる。それぞれの文化圏で育まれた個性なのだ。「シズル的ストーリーテリング」―― お互いが個性を尊重し、時には融合させる、そんな姿勢がこれからの時代に求められるだろう。