いま、まさに「ローカルこそグローバルトレンドだ!」と言える理由
2022.04.12
2021.02.15
筆者は仕事柄、いままでに世界中の膨大な数の商品開発事例を見てきた。随時、世界数十カ国の人達とやり取りをしているため、彼らが求めているものも肌感覚で知っている。
こうした世界の最新トレンドを日本の食品企業にお伝えし、商品開発・マーケティング・海外展開などを支援するのが、筆者のメインの仕事である。
プラントベース、プロテイン、サステナビリティなど、現代社会において見逃してはならない、グローバルレベルのあらゆるトレンドを日本国内に発信している。
その中で筆者が最近特に気になっているキーワードがある。それが、「ローカル」だ。地方に根差した食文化のことである。当社の食品データベースで確認してみると、ローカルの食材や食文化、あるいはそれぞれの土地の生産者の魅力をうたった食品が、世界的に右肩上がりなのである。地方の魅力を発掘または再発見し、その他の地域や海外へ発信していくことの重要性が高まっている。
ローカルとグローバルは相反する概念であると考えている人もいるだろう。昨今のコロナ禍においては、国境を越えたグローバルな展開が難しく、これからのグローバル社会に対して疑問や懸念を持っている人もいるかもしれない。
しかし、世界の食産業の大きな潮流から見えてくるのは、ローカルとグローバルは決して対立する概念ではないということ。グローバルとは、何か大きな1つの型やビジョンに当てはめていく、寄せていくということではなく、それぞれのローカルを認め合うことだからだ。
ちなみに、筆者はかつて長野県の小さな農業生産法人で働いていたことがある。そこで、いわゆる6次産業化に取り組んでおり、商品の企画開発からマーケティング・営業販売までの一連の業務をこなし、地域産品をどうやって東京や海外へ売り込むかを考え、実践してきた。
当時、自分が6次産業化をうまくできたとは思っていないが、そのような経験があるからこそ、人一倍、ローカルに対する思い入れは強い。現在の職に就き、グローバルの仕事を始め、やっと分かってきた。「ローカルこそグローバルトレンドだ!」ということを。
それでは、どのような切り口でローカル産品を売っていけばよいのかを、地域の視点から、秘訣をお伝えする。
「透明性100%」がウリになる
当社で実施した世界的な生活者アンケートによると、大半の消費者が、「自分が食べる食品にはどのような原材料が使われ、どこからやってきたのか」を詳しく知りたいと答えている。その傾向は年々高まってきている。当社で毎年発表している「世界の食品トップ10トレンド」2021年版のナンバーワントレンドは、「透明性」だ。 トレーサビリティという言い方もできる。
この透明性とは、過去10年以上にわたり重要視されている、「クリーンラベル」トレンドにも共通する。これは、「出どころが明確で、身体によりよい原材料を使いましょう」というトレンドであり、世界でスタンダードの概念になっている。透明性やクリーンラベルの考え方を突き詰めていくと、原材料を供給している産地にたどり着く。
地方あるいは田舎では、 1次産業に携わっている人が多く、1次産業が存在する地域こそ強みになる時代に入ったのだ。農作物を作っているのであれば、それを誰がどのような思いを持ってどのように作ったのかを明確に提示できるからである。 分かりやすくクリアに伝えることができれば、それが際立った付加価値になる時代なのだ。
事例として、アメリカのオーガニックグラノーラを挙げる。パッケージに QR コードが貼られており、そこからウェブサイトですべての原材料の生産者情報を確認することができるようになっている。この会社曰く、「100%トレーサビリティ」を実現しているとのこと。50%トレーサビリティではない、100%だ。透明性100%なのだ。その取り組み自体を、他の商品との差別化にしている。
見落とされていた価値を発見し、アップサイクルせよ
「スーパーフード」という言葉を耳にしたことがあるだろう。明確な定義のある言葉ではないが、一例として南米原産の栄養価が非常に高い雑穀が挙げられる。これは当然ながら、その高い栄養価が付加価値ではあるが、もう1つの要素として「ディスカバリー」が考えられる。その地域だけで食べられていて、外の世界の人がまったく知らなかった、魅惑の食べ物であるということだ。
現代の消費者は、新しい味、今までにない食感、初めて嗅ぐ香りなど、これまで体験したことのないような刺激を求める傾向がある。背景にあるのは、インターネットやソーシャルメディアの影響だ。
世界中のあらゆる目新しい情報が、スマホを通して、常に目に飛び込んでくる。だから、普通や今までどおりでは潜在的に物足りなさを感じ、食体験も常に魅力的なものを求めてしまうのだ。
日本においても、特定の地域の人だけが食べてきた、都会やその他の地域の人には知られていない食材やレシピが存在する。 都会の人や海外の人は、このような食に興味津々だ。自ら発見し、体験したいのだ。
そのためには、それぞれの地域に住む人が、自分たちの食文化や魅力に気が付く必要がある。実は、これがなかなか難しい。地元にずっといると、自分の地域の素晴らしさが見えなくなる。後述するが、その時には外部の視点が役に立つ。
地域の伝統的な食品や食べ方を、そのまま「伝統があり、健康的でおいしいです!」と言って販売しても、売ることは簡単ではない。なぜなら世界各国どこのローカルにも、健康的でおいしい伝統的な食べ物が存在するからだ。どの地域でもその程度のことは訴求するため、差別化できない。
そこで重要になるのが、「伝統価値を」「異なる視点を持って再発見し」「再構築すること」だ。当社では、このトレンドを「モダン・ノスタルジア」と呼んでいる。モダンが最新の食品技術やグローバルトレンドを意味し、ノスタルジアが地域に根ざしたローカル食材や伝統を指す。
グローバルなど現代の視点を持って、伝統的価値を見直すのである。パッケージやキャッチコピーを改良したり、今の消費者が求める栄養成分(例えば、プラントベースやタンパク質など)を配合するといった工夫が必要になる。
また、産地では、生産工程において規格外品や残りかすが出ることが少なくない。果物や野菜でジュースを搾ると、皮や種の部分が残渣として残る。これを廃棄するのではなく、そこに新たな価値を見出し、「アップサイクル」することができれば大きな訴求力につながる。
「アップサイクル」とは、要は再利用・リサイクルのことだが、残り物の中に、より高い栄養価や香りや食感を見いだして、その価値を高めて商品化するのだ。とても前向きな表現であり、世界ではこのアップサイクルの概念が多用され始めている。産地が取り組むべきサステナブルの大きなヒントとなり得る考え方だ。
地域を愛してくれる外部の人の視点で
上述したが、田舎に長年住んでいると、フレッシュな視点で自分たち地域の魅力を見ることが難しい。これは、ある意味仕方のないことだ。だが、同時にもったいないことでもある。すでに存在する魅力を分かりやすく伝えられれば、商品に付加価値が付いて売れやすくなり、地域の活性化にもつながるはずなのだが、容易にはできないのが地方の難点である。
そこで活用したいのが、地域外の人や企業の視点だ。外部の人は、その地域の魅力を一発で言い当てることがある。 だから困ったときには、外の人に話を聞いてみよう。
もちろん、当社が発信しているような、世界の情報を知ることも非常に役に立つだろう。外の視点で日本を改めて見てみると、自分でも驚くような新しい発見が浮かび上がることがある。大手メーカーの商品を観察してみたり、食品展示会に出向いたり、シェフの監修を受けてみることも、フレッシュな視点を得る有効な手段となるだろう。
農商工連携など、他の地域の企業と連携するときに大切なのは、その企業が自分たちの地域を本当にリスペクトし、愛してくれているかを見極めることだ。 短期的ではなく長期的なパートナーシップも欠かせない。パートナーシップの醸成に失敗すると、あれこれと忙しく動いた割に、生産者とその地域に利益が残らないということが残念ながら起こり得る。
上述した3つの切り口は、小売店や食品メーカーが、地方をプロデュースするときの視点や、日本の食材を海外へ売り込む時の考え方にも応用できる。時代がローカルを求めていることを念頭に、堂々とその地域と商品のストーリーを語り、売っていこう。各地に存在するローカルの魅力こそが、グローバルを形作っていくのだ。
※記事中の画像・グラフは、当社Innova Database及びInnova Reportsより引用