- 連載:
- 食のトレンドウオッチ!
第7回 フードテックはもう止まらない
2022.09.30
2022.09.29
先日、世界のフードテックについて話す機会があった。
このセミナー準備のために、海外の多くの事例を集めて整理し、自分なりの咀嚼を試みた。しかし「世の中こんなことになっているのか!」と、あまりにも興奮してしまい、妄想がとっ散らかって、咀嚼どころではなくなるという自分の悪い癖が出たので、一連の作業から感じたことをつらつらと書いて、一旦吐き出そうと思う。
私が注目していることの一つ目は、原料と最終製品の「つながりのリセット」だ。いままで当然だと思ってきた食品原料が、書き変わり始めている。具体例を挙げると、
●コーヒーはコーヒー豆から作られる
いや、コーヒーの成分や香りをリバースエンジニアリングして、他のアップサイクル原料を組み合わせてコーヒーを作ることができる(Atomo Coffee社)。
●お肉は牛や豚や鶏から作られる
植物性原料から代替肉を作ることができる(言わずと知れた世界で大ブーム)。
菌糸を発酵することによっても作ることもできる(この領域が結構盛り上がり始めている)。
さらに細胞を培養して研究所内でも作ることができる(すでにシンガポールでは一般的に食べることができる)。
●ホエイやカゼインはミルクから作られる
植物性原料を発酵することにより、動物性とまったくそん色ない味と成分を作り上げることが可能(Perfect Day社)。
「A原料→B製品であるべき」という暗黙の了解みたいなものが否定され、「B製品を起点としたときに、その原料はCでもいいし、Dでもいいし、Xでもいい」、という自由な発想になってきている。AI(人工知能)が考案した原料アイデアを活用する企業も出てきた。私たちが経験上思い込んできた原料と最終製品のつながりが、分解され、リセットされ、そして再創造されているのだ。
「こんなやり方で作られた食品は本物じゃない!」「伝統をバカにしているのか!」っていう声が聞こえてきそうだが(私の心の中からもたまに聞こえる)、地球環境の変化による原料枯渇の懸念がこのトレンドを推し進めているわけで、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、このようなフードテック食品を受け入れる心の準備はしておいた方が良さそうだ。
「何がナチュラルか」が問われる時代
ナチュラル(天然素材)についても、既存の考え方を改めないといけないかもしれない。
たとえば、「研究所で細胞を培養して作ったお肉は、はたしてナチュラルと言えるのか?」といった議論が世界で始まっている(※これは荒れるぞ)。しかしナチュラル論争をどれだけ繰り返しても、誰もが納得のいく答えには、おそらくたどり着けないだろう。
ひたすら議論をして紛糾している間に、フードテック企業が「お先に」と言わんばかりに次のイノベーションを起こし、根底となる条件が再び書き変わる。そのくらいいまの世界はスピードが速い。
ナチュラル素材や無添加の食品トレンドのことを「クリーンラベル」という。世界的に長期にわたり重要視されている分野だ。日本でもこの概念を製品に取り入れようと試行錯誤している企業も多い。
どちらかというと原点回帰寄りの考え方である。しかしこれも、アップデートされるタイミングに入ったと私は考えている。「いったい何をクリーンと捉えるのか」、これからはフードテックとの掛け算で考える必要があるからだ。
話は逸れるが、先日興味深いニュースを目にした。画像生成AI「Midjourny」で描いた絵が美術品評会で1位をとってしまい、物議を醸し出したのだ。「こんなやり方は邪道だ!」っていう声が「人間」のアーティストから上がった。
ちなみに絵の才能が皆無の私も使ってみたが、一瞬でプロ顔向けのイラストが描けてしまった! すなわち、どこの業界でも同じようなイノベーションと混乱が進行中なのである。品評の良し悪しは別にして、確実なことはAIの進化はもう止まらないという事実。「新しいテクノロジーを自分たちのビジネスにどう取り入れるか」「どう社会の役に立てるのか」、企業として前向きな活動に力を注ぎたい。
フードテックはなぜ生まれてくるのだろうか? もちろん無から自然発生するわけではない。時代が混乱し、社会課題が浮き彫りになる中で生まれてくるのだ。古いパラダイムが崩れ始めたときに、その反応として現れてくる。だから今の時代は、チャンスだと考える人にとっては、チャンスでしかないだろう。
最近の事例を見ていると、サステナブル・エシカル課題と、人の健康ニーズがきっかけになっていることが多い。このような社会課題に当事者意識を持って、高い志を掲げて、固定観念に疑問を投げかけられるかが、フードテック推進の鍵となる。
一見奇抜に見えるアイデアであればあるほど、そこに至った背景やストーリーも必要だ。これだけスピードが求められる時代だからこそ、ストーリーにはあえて人間味、非効率性が欠かせない。紆余曲折や失敗談が人を惹きつける。テクノロジーの進化はもう止まらないが、1人の人間としては時々立ち止まって、じっくり考えながら前に進みたい。