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第9回 「ポジティブに脱完璧」が求められる時代

2022.12.05

今日紹介する世界トレンドは、とても重要だ。もしかしたらいまの時代、これからの時代に一番求められるものかもしれない。

テーマは「ポジティブに脱完璧」。自分たちの企業や製品の不完全さを認め、前向きにオープンにしようという流れだ。まず以下のオーストラリアの植物性ミルクを見てほしい。注目は裏ラベル。

(Innova Databaseより引用)

「私たちは完璧ではありませんが、フットプリントを小さく、フレーバーをより良く保つために、最も持続可能なソリューションを見つけるために、懸命に取り組んでいます…」

We’re not perfect…、彼らは自らそう言っている。正直だし、ある意味いさぎよい。

世の中には、自分たちの素晴らしさを自負する製品であふれかえっているが、作り手/売り手の本音では、「ちょっとここはいまいちだなあ」って箇所が通常幾つもあるものだ。その自分たちの現在地をオープンにし、挑戦の過程をお客様と共有する行動が、世界的に注目されている。

特にサステナビリティの分野ではそれが顕著。なぜなら、SDGs(持続可能な開発目標)に取り組んでいたら分かるが、国連が掲げた理想の未来はあるものの、そこに至るプロセスは決して容易ではない。

経済性と地球環境を両立するための、たった一つの解などあるはずもなく、当然、試行錯誤が求められる。良かれと思ってやったSDGs施策の、矛盾点を揶揄されてしまうことすらある。道のりは長い。

品質面においても似たようなことが言える。得てして日本企業は、完璧主義に陥りがち。妥協しない姿勢は素晴らしいが、場合によっては過剰品質に陥る危険性をはらむ。多大な時間とコストをかけたのに…、あああ…って。日本企業のあるあるではないだろうか。

当社で世界的に実施した調査では、消費者の多くが「企業側が製品にまつわる課題を、誠実に伝えてくれる方が、より信頼感が増す」と回答している。完璧な人間がいないように、完璧な企業も存在しない。至らなさを認めることは、消費者ニーズから見ても、理にかなっているのだ。これは「妥協」とは異なる。

大手企業ならまだしも、人・もの・金のリソース不足に悩んでいる中小企業やベンチャーの皆さま、ちょっと気分が楽になったのではないだろうか? これだけ変化の激しい時代においては、そもそも一体何が100%なのかを見極めるのは難しい。だからチャレンジのプロセスにこそ、本質的な価値があると捉えた方が、前に進むのが楽しくなる。

もう一つ興味深い事例を紹介しよう。以下はArla FoodsのSNSページに掲載されているもの。

(Arla FoodsのLinkedlinページより)

SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上では彼らは次のような議論を展開している。

「このサワークリームの容器は、プラスチックではなく厚紙でできています。そのため、以前の容器よりも柔らかくなっており、手でつかんだときに中身が急に吹き出したり、ふたが閉まりにくかったりします。私たちは、いつも皆さんの生活を楽にしているわけではありません…でも、より持続可能なパッケージを開発するために、できることをやっているのです。より良い答えを見出すために、ぜひあなたの知恵を貸してください!」

消費者ニーズ、利便性、品質、持続可能性のバランスを取るため、アイデアを募集し、開発段階からお客さんを巻き込んでいる。この謙虚な姿勢が、ブランド信頼感の向上につながる。あたらしい透明性の形だ。

ポイントは、自分たちが目指す未来と、そこに至るための挑戦プロセスの開示、そして消費者との誠実なコミュニケーション。それこそが、この変化の時代に求められる姿勢であり、地道なファンの醸成につながる。

ポジティブに脱完璧 ― その方が、物事がスピーディに進むし、前向きだ。「日本を復活させるカギ」となる考え方である気がしてならない。

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