自分にぴったりの食を好む消費者にどう向き合うか?|世界の動向から学ぶ
2022.11.09
2021.03.26
「自分に最適な食事や栄養って何だろう?」。これは、誰もが一度は考えたことがあると思う。オーダーメイドは、もはやスーツや家具だけではない。その流れが本格的に食の分野にも広がってきた。
当社調査によると、世界の消費者の3分の2近くが、個人のスタイル、信条、ニーズに合わせて商品を選択することが増えたと回答している。さらに、自分に適した栄養ニーズ(パーソナライズド・ニュートリション)も高まっており、食のオーダーメイドの気運は高まるばかりだ。
また、技術の進歩もこのトレンドを後押ししている。食品開発の技術だけでなく、例えば遺伝子解析や、ITやAI(人工知能)を組み合わせたサービスもいろいろと見受けられるようになってきた。新型コロナによる時代の変化も相まって、産業の垣根を超えたクリエイティブな食のサービスが生み出されている。
栄養ニーズは1つではない
消費者ニーズが細分化され、し好が多様化している。食品企業にとって、それに応えていくことは簡単なことではない。求めるものが消費者によって異なるので、いわゆる大ヒット商品が生まれにくくなった。それがいまの時代だろう。
スーパーマーケットやコンビニの陳列商品を見てみると、腸内環境、カルシウム、鉄、ビタミンE……など、健康訴求や栄養素別の機能をうたった食品があふれ返っている。関節の健康、認知力のサポートなど、高齢者向けの食品も目に付く。
メンタルや感情面の健康を意識する人も増えてきているため、リラックスや睡眠促進をうたった食品も徐々に増えてきた。また、保存料無添加などのフリーフロム訴求もあれば、有機野菜や無農薬野菜を求める人もいる。
要するに、「答えは1つではない」ということだ。食品企業は、一体どこにターゲットを絞って商品開発をすればいいのだ! 考えれば考えるほど、難しい。
さらに、新型コロナの影響で、いままで以上に健康に気を使う人が増えており、この多様化の流れを加速している。当社調査によると、世界の消費者の約60%が免疫力を意識していると回答している。
とはいっても、免疫力に関係する栄養には、エネルギー、タンパク質、n-3系脂肪酸、食物繊維、ビタミンB群の各種、ビタミンC、D、E、ミネラルではセレン、亜鉛、銅、鉄が挙げられ、乳酸菌も関与していると言われている。
食事から取る多くの成分が作用しているということであり、どのような栄養素でより免疫力を高められるのか、何と何を組み合わると最適なのかなどは、消費者によって欲するものはさまざまだし、実際に個人個人が把握することは難しい。
ライフスタイルにマッチさせるには?
当社で1つポイントだと考えているのが、「ライフスタイル」だ。どれだけ栄養価が高い食品であったとしても、消費者のライフスタイルに寄り添っていないと、摂取し続けることは長続きしない。ライフスタイルとは価値観と言い換えることもできる。
1つ例を挙げよう。
昨今、海外では「ケトジェニック」という食事法が急成長している。これはダイエット法の1つであるが、単に摂取する量(カロリー)を制限して痩せるといったものではない。過度な食事制限で短期的に体重を減らすと、リバウンドもあり得るし、一般的に考えて健康にはあまり良いとは言えない。
ケトジェニックとは、糖質から多く摂取していたエネルギーを脂質から摂取するようにして、長期的に体重や体調を管理しましょうという考え方だ。これまで糖質のエネルギーを使って身体を動かしていたものを、その代わりに、脂肪が分解することによって作られたケトン体がエネルギー源となって身体を動かすようになる。
身体がケトーシスと呼ばれる状態(ケトジェニック体質)となり、それが身体のパフォーマンスを高めるというわけだ。この考え方を採用しているアスリートも多いらしい。脂質からのエネルギー量を増やすために、良質な脂質を多く含んだ商品も開発されている。
短期的なメリットではなく、長期にわたって実施していく体調管理は、個人個人の価値観やライフスタイルが大きく関係してくる。現代のグローバル社会において、人々のライフスタイルのニーズに基づいた、パーソナライズのアプローチが求められているのだ。
ちなみにこのケトジェニックは、ここ数年、世界で驚異的なペースで市場が拡大している。日本では関連商品を見かけることはまだまだ少ない。筆者は、遅かれ早かれ、この世界のケトジェニックの大きな流れが日本にも波及してくると想像している。
他にも、世界的に大きなうねりとなっているヴィーガン、ヴェジタリアン、プラントベースなども、特定の栄養素がどうこうというよりは、ライフスタイルに基づいた食事法だ。今後、国内でサステナビリティの意識が高まっていけば、こうした価値観が日本人にも大きく左右してくるだろう。
テクノロジーの活用も無視できない
「ビタミンCが大切っていうけど、サプリメントも取った方が良いのか、もしくは日々の三食で足りているのか?」「プロテインがブームだが、自分の年齢と体格からして、もっと摂取しないといけないのか? いや、取りすぎたら、なんか良くない気もする…」。
自分の身体が必要としている栄養素って、分かっているようでまったく分からないのが人間だ(私もだ!)。
技術の進歩が、かつては成し得ることができなかったパーソナライゼーションを可能にし始めている。食品技術だけでない。あらゆるテクノロジーが融合して、食産業にも応用されている。
「myAir」というイスラエルの企業が提供しているサービスおよび栄養補給バー(スティック状のスナック)が、典型的な例だ。顧客にウェアラブル端末を着けてもらい、それを通して身体活動、睡眠時間、睡眠の質などの身体データを追跡。そのデータを分析し、当人がいったいどのようなストレスを感じているのかを判別し、その顧客にとって最も有益なバーの組み合わせを届けるというもの。
バーにはそれぞれのストレスの緩和に有効な植物由来の栄養素、ハーブのエキスが配合されており、グルテンフリーやヴィーガン対応のものもある。AIを活用し、消費者のストレスコントロールに貢献するサブスクリプションモデルだ(myAirのHP:https://www.myair.ai/)。
小売店も次々とパーソナライズのサービスを導入している。アメリカ最大のスーパーマーケットチェーンであるクローガーのサービスがとても興味深い。OptUpというスマホアプリをインストールすると、購入した商品について栄養スコアを自動で簡易的に評価してくれ、栄養士による健康上のアドバイスが表示されるのだ。
上記に示したようなライフスタイル(ケトジェニックやヴィーガン)に合わせて商品を勧めてくれたり、グルテンや乳製品などの特定の栄養成分を含む商品を避けてくれたりする。
さらには、より健康的な食品、例えばヨーグルトの中でも「糖分が少なく、タンパク質が多いもの」を選択肢として表示したりして、個人の買物の履歴からより健康的な食習慣へと変化させる仕組みだ。
消費者はショッピングを楽しみながら、自分の食生活を自動的かつ客観的に見直すきっかけが得られる。同社の「アメリカの食生活を変える」という企業スタンスが見て取れる。
個人情報の不安と得たい健康とのジレンマ
多様化するニーズをポジティブな側面で捉えると、食品企業がターゲット顧客をしっかり観察することにより、規模の大小に関わらず、あらゆるニッチなチャンスが潜在化しているということだ。
企業としてこのようなサービスを提供する際の注意点は、個人情報に対する消費者の不安を無視しないこと。消費者の中にはジレンマがあり、より自分の健康に合った食事をしたいが、個人や家族のデータまでは外部に伝えたくないという意識がある。
特に、欧米諸国では個人情報に対する懸念意識が高い。得たい健康と個人データを守りたいというそのバランスは、ターゲット顧客ごとに異なるということを理解した上で、パーソナライズ化を進めていこう。
※記事中の画像・グラフは、当社Innova Database及びInnova Reportsより引用