無理のないDX、静岡地盤のマキヤはなぜ、アプリ導入に際して「デジクル for LINEミニアプリ」を選んだのか?
2023.07.18
2023.07.12
「エスポット」「ポテト・マミー」「業務スーパー」といった食品を主力に取り扱うフォーマットの他、非食品フォーマットを静岡県で展開するマキヤでは、2022年8月からデジタル会員証として「デジクル for LINEミニアプリ」の導入を開始した。小売業のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援事業を展開するデジクルが展開するサービスを導入した。
導入開始以来、会員登録は10万人を突破しており、これまで同社のカード会員システムに登録のなかった新規会員登録も毎月平均3000程度増加している。デジタル施策ということもあってか、これまで獲得が難しかったヤング層の登録が増えるなど手応えを得ている。また、導入後、プリペイド決済の利用率が140%に伸長し、従業員の業務負荷の軽減にもつながるなど、デジタルトランスフォーメーション(DX)による効果を実感しているようだ。
また、当面はアプリの接点を生かし、クーポン配信を積極的に展開していきたいとの考えだが、これまで紙のチラシでしていた告知がアプリでの展開する態勢に変わったことで運用負荷の軽減が図られたという。
アプリを導入するに当たっては、当初は自社アプリを開発することも視野に入れていた。しかしながらマキヤの場合、この分野を経理部門が兼務していることもあって、専門の部署やプロジェクトチームなどを立ち上げる余裕がないと判断。開発費や集客面など検討を重ねた結果、すでに同社自体がLINEの公式アカウントで友だちを抱えていたこともあって、LINEミニアプリを採用することにした。
LINEミニアプリではあらかじめ一定の機能はパッケージとして設定されているが、企業側の希望によって機能はある程度カスタマイズもできることも導入の決め手となった。
LINEアカウントからの会員登録が想定以上にあった
マキヤでは販促の一環として長年、ポイントカードを活用してきたが、19年からポイントカード機能付きの自社のプリペイドカード「マキヤプリカ」を発行に踏み切った。マキヤでは、2023年3月31日をもってポイントカードの廃止を発表している。今回のアプリの導入には、さらなる利用率の促進や顧客サービスの向上を図る目的がある。
現状、マキヤプリカカードの発行人数は、ポイントカードからの移行新規発行含め約48 万人、LINEミニアプリの会員数については、同じくポイントカードからの移行新規発行を含め前述の通り10万人を突破し、月ベースでみても、順調に拡大が進んでいる。
アプリ登録者の内訳は旧ポイントカードからの切り替え、マキヤプリカ連携がメインだったが、意外だったのは旧ポイントカードやマキヤプリカの登録がなく、アプリから新規登録した人が想定以上にいたことだという。LINEのアカウントからの流入もあったということで、これについては新規顧客を呼び込んだ側面が強いといえる。
一方で、マキヤの場合、60代、70代のお客も多いことからマキヤプリカの物理カードは残し、アプリと両建てで取り組んでいく方針。あくまで実態を重視し、選択肢を残す。そうした諸々への対応含め、今回、マキヤではお客の使用シーンを想定し、アプリに幾つかの機能を付加した。例えば、お客がマキヤプリカのカードを紛失した際の対応などだ。
物理カードのみだった以前の場合、カウンターに届け出た上で再発行すれば良かったが、アプリが入ってくると物理カードとアプリが紐づいているため、紛失した物理カードを使用不能にした上でアプリのみを残す、もしくは新しいカードを再発行し、アプリの情報をカードと紐づける作業を行う必要が出てくる。
こうした特殊ではあるものの、重要な対応について機能面で対応できることは重要だ。

若年層の来店を促す一方、高齢者へのネット拠点にもなりうる
アプリ会員に対する販促施策としては目下、アプリの利用を促進する意味も込め、セグメントを絞らずに全体に向けてポイントバッククーポン配信している。まずは母数を重視し、アプリ会員の獲得を目的とした包括的な施策に特化している。
ただし、機能としてはセグメント配信も可能であるため、今後はターゲットを絞った打ち出しも視野に入れる。また、クーポン自体のバリエーション拡大策として商品単位でのポイントバッククーポンの導入も予定しているという。
最終的な目標は、お客1人1人に対する「ワントゥワン」での配信になる。同様に、今回のLINEミニアプリを多くのお客が利用する「場」として育て、メーカーとの取り組みについても増やしていきたいという狙いも持っている。
また、マキヤとしてはお客との接点が「実店舗しかない」点に危機感を持つ。実際には現状、インターネット販売に対応していないこともあって、お客の年齢層も次第に高くなってきている現実がある。
少子高齢化が進む日本では、将来的に店舗に来店するお客がどんどん減っていくことはほぼ確実。それを補完するためには若い世代の取り込みを図っていく必要があり、若い世代まで客層を広げていくことが課題となっている。アプリの活用はそのための重要な一手になる。
もちろん、自動車の運転が困難になるなど、いまの主力の顧客層である高齢者の来店は今後、一層難しくなってくる。現状、ネットスーパー領域については具体的な検討はしていないが、やはり、ネット販売を含む宅配などの施策についても大きな課題になってくる。
そうしたネット施策も視野に入れ、ひとまずアプリという接点を生かしたコミュニケーション策の一環としてLINEミニアプリ内での商品予約機能「デジクル商品予約」を導入。フードロス対策の1つの柱としてこれまでは店頭で、紙ベースで実施していたが、これをオンライン化したことになる。今年の恵方巻きの販売時期に商品予約を受け付けた他、7月の土用の丑の日のうなぎ販売での使用も計画している。

小売業のDX分野では、さまざまな取り組みが随所で行われはじめ、その精緻化も進んでいるが、一方で企業ごと経営資源が限られる中、どの程度の投資をし、どこまで取り組みを進めるかは重大な問題となる。その意味では今回のマキヤのように、将来の姿を描きながら、外部の力を借りつつ無理のない範囲で少しずつDXを進めるやり方も、有効な選択肢の1つといえる。