経済産業省が選定する「DX銘柄」とは?2021年のグランプリ企業等を紹介

2022.10.26

2021.10.15

デジタル技術を導入することで、ビジネスモデルの変革や顧客体験の向上を目指すDX(デジタルトランスフォーメーション)。中長期的な企業価値向上において、DXは一層重要な要素となりつつあり、DX推進を図る企業も増加している。

そのような中、経済産業省は企業の戦略的IT利活用の促進に向けた取組の一環として、新たな成長・競争力強化を実現するためにDXに取り組み、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」として選定している。

本記事では、経済産業省の『デジタルトランフォーメーション銘柄 (DX銘柄) 2021』を参考に、DX銘柄2021の基本情報と、選定企業のDX事例を解説していく。

DX銘柄2021とは?

まず、DX銘柄2021の概要と、企業の選定フローを解説する。どのような取り組みが評価されるのか、DX推進を図る企業はぜひ参考にしてほしい。

DX銘柄の基本情報

DX銘柄とは、日本のDX促進を目的に、経済産業省と東京証券取引所が共同で行う取り組みである。ビジネスモデルを抜本的に改革し、新たな成長を目指す企業が、DX銘柄として選定される。

経済産業省は当初、中長期的な企業価値の向上と競争力強化のため、IT投資・活用を行っていた企業を「攻めのIT経営銘柄」と称して、選定を行っていた。2015年から計5回「攻めのIT経営銘柄」は実施されていたが、2020年にはDX銘柄と改称し、2021年で2回目となる。

DX銘柄を実施する目的

そもそもDXは、既存システムの複雑化・老朽化・ブラックボックス化により、現状のままでは2025年以降に1年で最大12兆円の経済損失が生じる可能性(2025年の崖)があるとして、導入が推進されている。しかし、IPAが実施した「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」によると、DXの取り組みにより「既存製品・サービスの高付加価値化」や「新規製品・サービスの創出」など、DXの目的を十分に達成できている企業は1割程度。DX人材が不足しているのも深刻な問題となっている。

そこで、DXによって優れた成果を上げる企業を選定することで、DX推進の手本となるビジネスモデルを広く波及。各企業のDXを単なるIT化に留めず、意識変革の促進も目的としている。

DX銘柄2021は下記4つの部門に分け、企業の選定が行われた。

  • DXグランプリ2021
  • DX銘柄2021
  • DX注目企業2021
  • コロナ対応部門

DX注目企業2021には、DX銘柄2021には選ばれなかったものの、各企業のDX推進の裾野を広げるため、注目すべき取り組みを実施した企業に与えられた。また、新型コロナウイルスへの対応として、優れた取り組みを行った企業には、コロナ対策企業として選定された。不動産業・建設業・陸運業・小売業など、多様な企業が選定されており、自社の業種に合った取り組みを参考にできるのも、DX銘柄のポイントと言える。

DX銘柄2021の選定プロセス・評価基準

DX銘柄2021は、銘柄への応募・一次審査・二次審査の3つのプロセスにより、選定が行われた。各プロセスの評価基準含め、詳細を解説していく。

銘柄への応募

最初に必要となるのが、DX銘柄2021への応募。東京証券取引所の上場企業約3,700社のうち、「DX認定」に申請している企業が対象となる。

DX認定とは、「情報処理の促進に関する法律」に基づき、DX導入に向けて優良な施策を行う事業者に対し、認定される制度だ。2020年に創設されたばかりの認定制度で、DX銘柄と同様に、DXの促進を目的としている。

一次審査

DX銘柄の一次審査では、下記大分類に分けて「選択式項目」でアンケート調査を行う。

Ⅰ.ビジョン・ビジネスモデル

Ⅱ.戦略

Ⅱー①.戦略実現のための組織・制度等

Ⅱー②.戦略実現のためのデジタル技術の活用・情報システム

Ⅲ.成果と重要な成果指標の共有

Ⅳ.ガバナンス

各章に4~10個程度の設問が用意されている。DX推進のための具体的な戦略案だけでなく、DXの課題であるリソース不足・既存システムのブラックボックス化の回避策など、幅広く問われる。

加えて、2020年3月末を起点とし、直近3年平均のROEを算出。選択項目式のアンケートと財務指標によるスコアリングを実施し、候補企業が選定されるプロセスだ。

二次審査

DX銘柄の二次審査では、下記大分類に分けて「記述回答」でアンケート調査を行う。

1.企業価値貢献

2.DX実現能力

企業価値貢献では、「既存ビジネスモデルの深化」と「業態変革・新規ビジネスモデルの創出」に関して着目される。「既存ビジネスモデルの深化」は、顧客との関係性強化・新セグメントへの展開などを図り、収益における成長を目指す取り組みをチェックする。

一方、「業態変革・新規ビジネスモデルの創出」は、新たな顧客・市場を創造し、ビジネスモデルの確立や新規事業を展開するための取り組みを評価。なお、「業態変革・新規ビジネスモデルの創出」のほうが評価割合は高い。

DX実現能力では、経営ビジョン・戦略・デジタル化リスク把握など、DX導入に欠かせない7つの指標で評価する。

アンケート調査結果に対して、DX銘柄評価委員会が評価を実施。そして、アンケートの評価結果を基に、同委員会が最終審査を行い、業種ごとにDX銘柄2021が選定される。

DX銘柄2021の選定・評価プロセスは以上だ。

DXグランプリ2021選定企業

DX銘柄2021では、2社がグランプリに選ばれた。ここでは、2社の具体的なDX事例を解説していく。

Lumadaでデジタルイノベーションの加速を図る「日立製作所」

日立製作所のDX取り組みに関して、高い評価を得たのがLumada。Lumadaとは、知恵・ノウハウを結集して新たな価値を創造する「Lumada Innovation Hub」、さまざまなノウハウを有するパートナーとマッチングしてオープンイノベーションを加速する「Lumada Alliance Program」、課題解決や新たなビジネスモデル創出を実現するプラットフォーム「Lumada Solution Hub」の3つで構成される、価値創出のための取り組みである。

課題発見・解決案策定・価値検証の3つのステップで、顧客の社会イノベーション創生や課題解決をナビゲート。加えて、日立製作所では顧客・パートナーとの協創により、新たな価値創出を実現したデジタルソリューションをモデル化し、Lumadaユースケースとして蓄積。新たなビジネスの実現、企業価値を創出するためのデジタルイノベーションを加速している。

また、「Lumada Data Science Lab.」を設立し、日立製作所の多様な業種・業務における知見やノウハウを集結。DX人材の育成を促進させ、複雑かつ高度な顧客の課題・要望に応えられる組織作りを行っている。

不動産メンバーとエンジニアが協働する「SREホールディングス」

不動産業務のデジタル化を図るには、当然ITスキルが必要となるが、不動産・ITいずれかの知識しか有していない人材が多い。DX達成状況を見ても、不動産業界は全業界平均より下回っているのが実情。

そこで、SREホールディングスでは、不動産メンバーとエンジニアの協働を実践。従来、アナログで行っていた不動産売買の価格査定には、約3時間の作業工数を要していた。

しかし、過去の大量の取引データを分析し、高精度な不動産取引価格を自動査定する「AI不動産査定ツール」を実装。査定からレポート作成までのプロセスを、最短10分で行えるようになった。

同時に、SREホールディングスのソリューション・ツールを利用する顧客から、不動産取引のデータを収集。常にアルゴリズムのアップデートを行い、AIの精度を高めるデータエコシステムを構築した。

AI不動産査定ツールやAIマーケティングオートメーションツールなど、AI SaaSプロダクトは、2020年度の1年間で契約数が約1.9倍まで拡大。クラウドソリューションの事業もめざましい発展を遂げており、さまざまな産業のDXを促進するため、AI SaaSプロバイダーへの注力も企図している。

DX銘柄2021選定企業

DX銘柄2021に選定されたのは、先述のグランプリ2社を除けば26社となる。そのうち、DX銘柄4社の事例を解説する。

ECビジネスを中心にDXを展開する「セブン&アイ・ホールディングス」

グループ全社横断的な「グループDX戦略マップ」を策定しているのが、セブン&アイ・ホールディングスだ。セキュリティと効率化をテーマにした「守りのDX」と、新たな顧客価値創造をテーマにした「攻めのDX」の2つを軸に、AI導入と内製化を図り、DX推進を加速している。

DXの取り組みとしては、セブン-イレブンネットコンビニ・セブンミール・イトーヨーカドーのネットスーパーなど、ECビジネスに注力するため、ラストワンマイルDXプロジェクトを立ち上げた。本プロジェクトでは、車両やドライバーの配送リソース、AIによる配送コントロールを2つの重要要素と捉えている。

配送リソースに関しては、アウトソースの利用が前提。加えて、AI配送コントロールにより、下記4つのコアテクノロジーの実現を目指している。

  • 車両とドライバーの差配
  • 配送ルートの最適化
  • 配送料ダイナミックプライシング
  • 受け取り場所・時間の最適化提案

セブン-イレブンネットコンビニでは、サービス開始当初は注文から配送まで2時間も要していたが、現在は最短30分の配送を実現した。また、セブンあんしんお届け便やセブン自販機、お会計セルフレジなどを導入し、DX強化による顧客体験の向上も図っている。

参考:https://www.7andi.com/library/ir/management/governance/jp/pdf/mr2021_p26-57_j.pdf

伝票のデジタル化に取り組む「SGホールディングス」

レガシーシステムから脱却し、DX実現に向けてグループ共通IT基盤も構築しているのがSDホールディングスだ。DX事例としては、伝票のデジタル化が挙げられる。

手書き伝票の場合、配達順序に応じた荷物の積み込みや、伝票の並び替えが全て手作業で行われ、数十分の時間を要していた。加えて、従業員の経験に頼る部分も多く、若手とベテランで作業効率に大きな差が出ていた。

しかし、伝票情報のデジタル化とAIの活用により、配送ルートの最適化に成功。配送ルートは伝票情報だけでなく、在不在情報や再配達情報も考慮して組まれるため、従業員個々の経験・ノウハウに頼ることなく業務の効率化を見込める。また、商品配送に掛かる時間の短縮にもつながり、顧客満足度の向上を期待できる。

さらに、SGホールディングスは基幹システムを、オープンシステムへダウンサイジング。人材不足が課題に挙げられるDX推進だが、若手エンジニアの育成・参画により、内製化を実現。2005年以前と比較し、IT維持管理にかかる費用を約4割減少させ、リソース確保・コスト削減にも成功している。

参考:https://www.sg-hldgs.co.jp/newsrelease/2021/0608_4783.html

運航スケジュール策定支援システムを導入する「日本郵船」

船舶の配船スケジュールは貨物積載状況や顧客の到着日要望だけでなく、港の混雑状況、天候など変動要素も踏まえ、総合的に判断する必要がある。しかし、最適なスケジュールの策定には、経験と勘に基づき算出しなければならなかった。

日本郵船はスケジュール策定にかかる業務負担軽減や、ノウハウ継承の仕組み作りとして、運航スケジュール策定支援システムを開発した。社内システムと連携した運航スケジュール策定支援システムは、顧客の希望・航海日数・費用・寄港地など条件を指定することで、短時間に数十万通りのシミュレーションを実施。本船ごとに最適な航海スケジュールを提示する仕組みだ。

また、船上電子通貨MarCoPayの実用化もDX事例の1つ。船舶に乗り組む船員は、フィリピン人船員22万人を含めて150万人。給与送金費用負担が膨大であるだけでなく、船上で現金を届けることや保管することも課題となっていた。

しかし、MarCoPayを活用すれば、電子通貨で給与の支払いが可能。フィリピン国内では、家族への送金サービスも開始している。船員・船舶管理会社の給与支払いや受け取り手段の選択肢が増え、利便性は大きく向上したと言える。

参考:https://www.nyk.com/news/2021/20210409_01.html

MaaSでシームレスな移動の実現を目指す「JR東日本」

経路検索・手配・決済などのサービスを統合し、便利な移動を実現するための「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」を構築しているのが、JR東日本だ。シームレスな移動・総移動時間の短縮などを実現するため、MaaSの取り組みが進められている。

その取り組みの一環として挙げられるのが、JR東日本アプリで提供されるリアルタイム経路検索やリアルタイム列車混雑状況だ。リアルタイム経路検索では、交通機関に遅れが発生した場合、遅れを加味して経路検索が行われる。

一方、リアルタイム列車混雑状況では、5段階で車両ごとの混み具合を表示し、混雑状況を把握可能。ストレスフリーで移動できるよう、DXの導入を進めている。

また、JR北海道・JR西日本と連携し、2020年3月より「新幹線eチケットサービス」の提供を開始。新幹線自動改札機にICカードをかざすと、センターサーバに予約情報を照会し、ゲートの開閉を行う。消費者はチケットレスで利用可能なため、切符を携帯する必要がないのは大きなメリットと言えるだろう。

DX銘柄2022に向けて

経済産業省は、来年2022年の「DX銘柄」選定に向けて、国内上場企業(一部、二部、マザーズ、JASDAQ)を対象に、アンケート調査「デジタルトランスフォーメーション調査(DX調査)2022」の実施を経済産業省のHPで発表している。

アンケート調査に回答した企業は、フィードバックが得られ、更なるDX推進に資する情報が提供されるとしている。

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