IoTで実現する、小売業におけるデータ収集と活用 成功の秘訣は”素早く始め、小さくとも結果を出して共有”

2023.01.04

小売業におけるデータ活用の重要性は一層高まっているが、経験のない企業がこれを素早く始めるには困難なケースもある。ソラコムの松下氏がデータ収集の要となるIoTの課題を明らかにしつつ、データ活用を推進する上で重要な「作らずに、創る」というアプローチを紹介した。

[PR/ITmedia]

 小売業におけるデータ活用の歴史は古く、POSデータによる販売分析や需要予測、自動発注など業務改革に向けて積極的にデータを利用してきた。コロナ禍を経て消費者の購買行動が変化したことで、この取り組みはより重要性を増している。

 2022年11月2日に開催された「リテール未来会議2022 -Retail DX Conference」は小売業の有名企業や小売業に役立つソリューションを展開する企業が参加し、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の先進事例やポイントについて語った。

 本稿では、ソラコムの松下享平氏(テクノロジー・エバンジェリスト)による講演「リテールDX事例にみる『今できるデータの集め方と活かし方』」の内容をレポートする。松下氏は同講演で、データ活用における自前主義からの脱却と「作らずに創る」というアプローチを解説した。

「データ活用=解決したい課題」 前提となるのは「データ集め」

 松下氏は冒頭に「データ活用とは『解決したい課題』です」と切り出し、以下のように続けた。

 「日々の業務で生まれる『欠品を防止したい』『返品のオペレーションに対応したい』などの課題はデータ活用で解決できるものです。店舗作りにおける棚割りやPOPの効果測定なども同様でしょう。その他、最近のキーワードであるOMO(Online Merges with Offline)施策の推進に向けて、『実店舗とECをどのように連動させるか』『顧客の声をマーチャンダイジングにどのように取り入れていくか』『顧客との間で情報をどのようにやりとりするか』などもデータ活用の取り組みです。また、電子決済やキャッシュレス、ポイント連携も解決したい課題の一つです」(松下氏)

 こうしたデータ活用の前提として必要になるのが「データ集め」だ。データを集めるためには、そのための体制づくりもポイントになる。ソラコムはIoTでデータ活用を推進する多くの企業を支援してきた経験から、まずは自らの手でデータを集めて使ってみるという「スモールスタート」を推奨する。

 松下氏は「私も前職の経験でそうだったのですが、小売業ではまず店舗に配属されて現場で経験を積みます。ここで売り場について理解することでその後の企画や流通の勘所が分かってきます。DX推進においてもこうしたOJTのような取り組みや考え方は同様です。まずはデータを集めて使うという経験をスモールスタートでいいので積むことで、内製化や外部委託の是非も見えてくるはずです」と話す。

データ集めを担うIoTが抱える課題とは何か?

 データ活用を含めたDXを推進する上では、「デジタル化」と「トランスフォーメーション」がそれぞれ何を指すのかをあらためて把握するのも重要だ。

 「トランスフォーメーションは企業の競争力を高めることが目的です。これに対してデジタル化は手段であり、小売業のデータ活用においてはデータを収集するIoTがそれを担います。つまりIoTはDXを実現するための手段だと言えます」(松下氏)

 IoTは3つの要素で構成されている。現場をデジタル化するカメラやセンサー、デバイスといった「モノ」、デジタルデータを活用するための基盤である「クラウド」、現場とクラウドを通信でつなぐ「ネットワーク」だ。

 松下氏は「IoTは遠くに離れたモノや現場で起こったコトをデジタル化するための技術です。人手に頼らずにデータを収集し、通信によって遠くにある現場を動かす仕組みとも言えます。最近はセンサーなどのモノやデータ活用の基盤となるクラウドについては、入手しやすくなってきました。しかし、いざ通信するとなるとネットワークにさまざまな課題が生じるのが現状です」と指摘する。

 デジタル化に向けたネットワークの課題としては、「ネットワーク設定」「セキュリティ確保」「クラウド連携のための開発」「IoTデバイスの管理負担」など多岐にわたる。このように、IoTにおけるデータ集めの課題はネットワークの部分に集中しているのだ。

IoTの「つなぐを簡単にする」製品とサービスとは?

 ソラコムはこれらの課題を解消するためIoTのつなぐ部分を簡単にする製品やサービス群を提供している。LTEなど現場とクラウドをつなげるためのIoT通信サービスの他、クラウドカメラやセンサーキット、通信デバイスなど、現場のデジタル化に必要な機器も提供している。

 クラウドサービスを利用したことがない企業には、IoTデバイスから収集・蓄積したデータの見える化やアラート通知、遠隔操作、メンテナンスといったクラウドサービスを提供したり、「Amazon Web Services」や「Microsoft Azure」「Google Cloud」といったパートナーのクラウドとAPI連携したりする仕組みも提供している。

 「IoT構築に必要な要素がソラコムで全てそろいます。しかしこれらの仕組み全てをソラコムでそろえる必要はありません。既にSaaSを導入している場合はデバイスとの通信部分のみIoTプラットフォームの『SORACOM』を利用する、といった柔軟な選択が可能です。不足しているツールや必要なデバイスなどを適宜調達することで、最適かつ安価な仕組みを迅速に構築できます」(松下氏)

 これらのサービスの中でも特に「IoTのつなぐ部分を簡単にする」製品として同社が提供するのが「SORACOM IoT SIM」だ。

SORACOM IoT SIMの概要(出典:ソラコム提供資料)

 SORACOM IoT SIMはオンラインで入手・開通できるSIMカードで、カード型およびeSIM(チップ型)がある。さまざまなサブスクリプション形式や複数の国内通信キャリアの回線を選択できる他、日本を含む160以上の国と地域で利用できる。また、WebやAPIを利用して各種設定の変更や、通信量を監視するなどIoTデバイスを一元管理することも可能だ。

 小売業における活用シーンでは、セール会場など臨時店舗で利用する決済端末などの回線にSORACOM IoT SIMを活用するケースがある。SORACOMを利用することで、数カ月かかるネットワーク工事の負担と費用を抑えて回線の準備を容易化することが可能だ。

 松下氏はその他に小売業で利用されている製品として、クラウドカメラサービス「Soracom Cloud Camera Services ー ソラカメ」(以下、ソラカメ)の活用事例も紹介した。ソラカメは月額990円から、Wi-Fi経由でカメラの映像をクラウドに常時録画できる。手軽に設置できる他、録画データをセキュアにクラウドへ保存できる。

 例えば離れた店舗の混雑状況や稼働率をカメラによって見える化し、混雑時の人員サポートやスムーズな顧客対応を実現することも可能だ。また、複数店舗の売り場の状況をリアルタイムに把握し、遠隔から指示を出して業務を改善するケースもある。

ソラカメの概要(出典:ソラコム提供資料)

“経験なし”でも素早くデータ活用を始めるには?

 データ活用のプロジェクトを本格化するには、まず動くものを用意して関係者の関心を高めることが重要だ。そのためには小さくてもいいので結果を出して共有する「スモールスタート」ができるかどうかがポイントになる。だがデータ活用の経験がない企業にとっては困難なことも多いだろう。

 松下氏はこうした企業が素早くデータ活用を始める方法として、自前主義から脱却し、データ活用に必要なデバイスやソフトウェアなどを外部から調達する「作らずに、創る」というアプローチを推奨する。「既にあるものを流用するという考え方に抵抗を覚える方もいるかもしれませんが、ゼロから作業を始めずにスモールスタートで素早く成果を出すことにこだわってほしいと思います。ソラコムはこれらを支援する製品やサービスを展開しています」(松下氏)

 具体的には50を超えるIoTの手順書「SORACOM IoTレシピ」を無料で公開しており、「SORACOM IoTストア」ではIoTデバイスをオンラインで1つから購入できる。また、IoTソリューションをサブスクリプション方式で提供する「IoT SELECTION connected with SORACOM」、ワークショップを通じてIoTの内製化を支援する「SORACOM Booster Pack」やIoTの専門家に相談できるパートナープログラム「SORACOM パートナースペース」などもある。

ソラコムは素早く価値を創造するために、必要な支援を提供する。(出典:ソラコム提供資料)

 松下氏は最後に「データ活用の経験がない企業は、『作業をせずに価値を創造する』という考え方でまずプロジェクトを進めてみて、IoTによるデータ収集がどのようなものか手触りを感じてみることが重要です。その上で得た結果を基に、内製化するか外部委託にするかを検討しましょう。ソラコムはこれからも、IoTでのデータ収集を簡単にするための支援を提供していきます」とまとめた。

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提供:株式会社ソラコム

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