ワークマン新フォーマット「#ワークマン女子」の1号店がオープン、SNSとリアルの一体化を図る「Connected Store」の全貌
2022.04.12
2020.10.20
職人などプロ客をターゲットとするワークマンを662店、プロ客6割、一般4割のWORKMAN Plus(ワークマンプラス)を226店、計888店(10月16日段階)を全国に展開するワークマンが10月16日、新たなコンセプトストアとして新フォーマットの「#ワークマン女子」をJR桜木町駅前のショッピングセンター(SC)の「コレットマーレ」にオープンした。
「女子」と銘打ってはいるが、これは「女性の比率を高める」という意志の表れであり、決して女性専用のフォーマットではない。売場では白い什器で主に女性ターゲットの商品を展開し、一方で黒い什器で男女兼用や男性用の商品を展開するなど、男性の利用も見込む。男性客向けの商品も扱っていることが認知されるまでは、チラシ媒体などでは「#ワークマン女子 with 男子」の店名も使う予定だという。
同店の売場面積はワークマンプラスのSC出店の店の1.5~2倍の452㎡(137坪、バックルーム含む)で、路面店を含めて同社最大級の売場面積の旗艦店の位置づけ。
一方でアイテム数は270と少ない。約100坪が標準規模の路面店のワークマンの場合、直近オープンの店で1683アイテムになるため、かなり絞り込んでいる。ちなみに、ワークマンプラスのSC内の店舗は約240アイテムで、今回と同レベル。
路面店と比べ、大幅に少ない分、陳列にはビジュアルプレゼンテーションを多用したり、通路幅を広く確保したりして、ゆったりとした陳列で商品を見てもらう形にした。
もともと出店したコレットマーレは女性客とファミリー客が多く1号店の出店場所とした。女性客と一緒に若い男性客も来店すると見込む。
SC出店の既存ワークマンプラスでは、SCが発行するカードの保有率が2、3割とかなり低いことから、ワークマンとしては自社での集客力があるとみている。コレットマーレ店は5階ということで立地としては不利だが、その集客力に期待がかかる。集客力ある店は、SCにとってもありがたいテナントとなる。
入口付近で男性が多少「居心地が悪く感じる」店
カテゴリーごとの売場構成は「女性」が40%、他、男女兼用の20%と男性専用の40%、合わせて60%の商品を「アウトドア」「スポーツ」「レイン」「シューズ」といったカテゴリーで各15%程度ずつで構成している。また、同フォーマットでは作業着は扱わない。
「女性」は、商品の性質によってタウンユース、ガーデニングなどのアウトドアといったように大まかに分けてはいるが、現段階では細かいカテゴリー分けはしていない。
売上高構成でも最終的に女性用40%、男女兼用20%、男性用40%を想定する。ただし、当初は女性用の商品が少ないこともあり、当面は、女性用商品の売上げは30%を目指す。
今回、こうしたフォーマットを開発したきっかけは、ワークマンプラスのSC出店の店にあるという。SC出店を重ねる中で男女別の来店比率を見ると、女性の方が高くなる傾向がみられた。「それでは女性を主役にした店舗をまずつくってみよう」ということで開発されたのが今回の#ワークマン女子になる。そのため、女性用の商品が充実すれば40%の売上高構成比の達成は可能だと考えている。
初年度売上高構成比目標は、女性向けの売上げが55%、男性向けの売上げが45%と設定、年商規模では4億5000万円を見込む。
売場展開でもワークマンプラスのSC出店の店に比べて女性用の売場を2.5倍に拡大するなど強化。男女兼用と併せ女性の購入を想定する60%の売場を店舗の前面に出している。
入口からは女性マネキンとメルヘン調の動画スポットを目立つように設置すると共に内装についても女性受けを狙った。一方の男性向けの商品は奥に配置。あえて入口から見たときに「女性専用店」に見えるようにしているという。
さらに、ワークマンとしてはワークマンやワークマンプラスはどちらかというと「男性的な店舗」で、女性が肩身の狭い思いをしていると考えた。そこで主客を入れ替え、逆に男性が入口付近では多少「居心地が悪く感じる」ような設計とした。女性売場の面積や女性用マネキンを増やすなど見せ方を変えて女性が買いやすい売場とすることを意識している。
ただし、効率化のため#ワークマン女子店だけの専売品はつくらず、品揃えする商品は全てワークマンプラスでも購入できるようにする。
今回のコレットマーレ店をコンセプトストアと位置付けた実験店として出店し、さらに数店をSC出店して検証し、同社の路面店でも支持が高まっている女性売場の展開について模索する計画だったが、オープン前から「圧倒的な反響」(土屋哲雄・専務取締役)があり、急遽、10年で400店を新規出店する全国展開の計画に変更。
現在でも路面店ではアウトドアウェアが全般的に好調で、さらに女性向けウェアと一般客向けのシューズは売上げが前年比で倍増しているという。
10年間で400店、最終的には1000店出店体制とする見込み
今後は作業服、作業用品を扱わない一般客向け商品のみを展開する店舗を「#ワークマン女子」に統一する方針。今後10年間に#ワークマン女子を400店新規出店し、その段階でアウトドア100%の#ワークマン女子を400 店、作業60%、アウトドア40%のワークマンプラスは200店の新規出店と460店のワークマンからの転換で900店、さらに作業80%、アウトドア20%のワークマンは200店という1500店体制を見込む。
#ワークマン女子400店の内訳は、主力とする路面店で約350店、SC内出店で約50店を想定する。SCはコレットマーレ店を含めて運営代行会社に委託した形での出店で、路面店は運営のマニュアル化など形が出来次第、全店フランチャイズ(FC)での展開を想定する。最終的に#ワークマン女子は1000店体制にしていく見込みだ。
今後、女性向けの商品ラインを増やすと共に、家族のペアルックのために限定的にジュニア用も開発する。現在は女性用商品の充実と人気商品のジュニアサイズ化を進めていることから、次の出店は来年春になる。現在、東京の区部と近郊、地方の県庁所在地の7 店が出店交渉中。出店ペースは当初は年間20店ほどを想定するが、ピーク時には年間約50 店の出店を見込む。
また、同社のSC内出店の店は、作業服を扱わないため、今後の出店は全て#ワークマン女子になる。同時に今回のフォーマット開発を機に、既存路面店の女性売場も少し拡張する。
ワークマンとしては、女性用の低価格のアウトドアウェアは巨大な空白市場であり、かつ男性向けよりも規模が大きく、有力な競合も皆無と考えている。
そのため、路面店の駐車場については、ワークマンとワークマンプラスの場合、10台分が標準のところ、#ワークマン女子の場合は20~30台分を標準にする。路面店の初年度売上高は、ワークマンプラスが1.5億~2億円を見込むところ、#ワークマン女子では2億円を見込む。
また、路面店の営業時間は、ワークマンの場合、プロ客の来店が早朝と夕方に集中することから7時~20時だが、#ワークマン女子では10時~20時とする。
ワークマンプラスがかなり話題になったこともあり、現在、ワークマンプラスだけでなく、プロがターゲットのワークマンにも多くの一般のお客が来店しているという。売上げが高まるのは良いのだが、一方で従来からのプロのお客にとっては場合によっては買物がしづらい状況が生まれている。
そのため、路面店の出店戦略としては、ワークマンなどの既存店舗の間に出店するような形で、#ワークマン女子が一般のお客の需要に対する受け皿になるようにしていく。実際、ワークマンのプロ客から、一般のお客でいっぱいで「駐車場に入れない」といった声も出るようになっているという。
SNSとリアル店舗を循環させながらお客を増やす
#ワークマン女子の特徴は①ワークマン初の「女性客」主体の店舗、②ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)とリアル店舗の一体化を図るConnected Store(コネクテッドストア、つながっている店)として店舗からSNS発信ができること、その上で、③インスタ世代顧客の取り込みにある。
フォーマット名が「#」を付けたハッシュタグ(SNSで同じ話題について扱う投稿を検索する機能)になっているのには理由がある。同フォーマット特徴の1つが、同社のファンであるユーチューバー、ブロガー、インスタグラマーなどの「アンバサダー」と協力しながらその売上げを拡大していくモデルであることだからだ。
アンバサダーは#ワークマン女子の店舗づくり、女性用の商品開発、商品情報の発信を無償で行う一方で、ワークマンはアンバサダーにフォロワーや閲覧者を増やす材料を優先的に提供、アンバサダーの知名度と広告収入の向上に貢献する。
アンバサダーはキャンプ、バイク、自転車、アウトドアグッズ、ジョギング、男性ファッション分野でのオピニオンリーダーの30人。QRコードによるお客への商品説明などの他、商品開発、新商品情報やイベントについて独占的に発信する。他のテーマと比べて2~10倍のアクセスがあることからフォロワーや閲覧者が増えて収入アップにつながるということで、ワークマン、アンバサダー双方にメリットがある形となっている。
また、「#」にはSNSとリアル店舗の情報連携を強める「コネクテッドストア」の意味も込めている。買った商品を着たり、試着をしたりした模様を店からSNS発信できるスポットを設置。
また、店舗の前面にあるアンバサダーコーナーでは、アンバサダーの提案を受けて開発した新商品を展開。このコーナーにあるPOPのQRコードから製品紹介の投稿を見ることができるようにもなっている。
「セルフ店なので商品説明をアンバサダーに肩代わりしてもらうという『コネクテッド』な発想」(同社)に基づく。そこには「リアル販売とネット販売の融合ではなく、リアル店舗がSNSの世界とつながっているとの意味でコネクテッドを使用」(同)するという意図がある。
「コネクテッドストアといっているのだが、まず、アンバサダーさんが製品を開発してくれる。ただ、それだけでは一方通行。今度はそれを買ったお客さまにGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などを使って発信してもらうことで、新しいお客さまを呼んでくる。循環させて、リアル店舗とソーシャルの世界をコネクテッドする。それを理想としている」(土屋専務)
SNSを通じながらも、あくまでリアル店舗が前提の戦略だが、土屋専務はネットチャネルについて「重視していない。クリック&コレクト(店舗受け取り)で行けてしまう」と、現在のモデルに自信を示す。
同社の既存店の路面店では女性客が増えているものの年齢層は35歳以上が多いこともあって、今回の#ワークマン女子の開発には、高感度な「インスタ世代」の女性の来店を促し、さらにそれを路面店に送客するという目的もある。さらに女性といっしょに来店する若い男性客の取り込みも狙いだという。
さらに今回の開発を同社の戦略的な視点から見ると、現在888店体制となっている中で「始めの1000店舗は男性中心、次の1000店は女性中心」(土屋専務)という長期戦略に基づいたものであることも分かる。
低値入率、売り切りなしで原価率60%以上の値打ち感を実現
作業服で培ったノウハウを生かし、アウトドアなど機能性の高い商品を低価格で販売していることが同社の強みとなっているが、そのポイントとして中国やミャンマーなど海外に産地を求め、しかも奥地の工場を発掘し、日本に出荷できるレベルにまで指導をした上で生産していることがある。機能性の高い生地などについても類似のもので低価格のものを発掘する姿勢で常に臨んでいることも大きいという。
また、もともとワークマンの主力商品である作業服は低値入率での長期間販売が前提で、当初は高い値入率で販売し、値引きして売り尽くす他の衣料品とは大きく異なることも大きい。その考え方はアウトドアなど一般客向けの商品でも同様だ。
「粗利益は、35%以上は絶対取らない」(土屋専務)ということで、もともと60%を超える原価率で、しかもエブリデーロープライス(EDLP)で販売することで高い値打ち感が出るということになる。
「商品は、何年も少しずつバリエーションを変えながら展開しているので、処分費がかからない。型紙はいっしょで色やボタンだけを変えるだけ。同じ型紙を5年は使う。もし残ったとしたら差し色の商品で残す。差し色があった方が売れるからだ。差し色の商品をシーズンの初めや途中で投入するとそこで売れてしまうが、(売り切りのときに差し色を投入し)差し色で完全に売り切るようにしている。セールで値段を下げるのではなく、常にセール状態の値段、アメリカでいうEDLP戦略を採っている」(同)
そのため、販促についてもシンプルで、チラシはワークマンプラスでも年4回だけだ。