スシロー、くら寿司が自動案内などIT活用を加速|ウィズコロナで進む回転ずしの非接触接客
2022.04.21
2020.12.28
コロナ禍で高まる非接触接客のニーズ
2020年は新型コロナウイルス感染症拡大に翻弄された年となった。感染防止策として、「密閉」「密集」「密接」の三密回避が求められ、マスクを着用して外出することや在宅勤務など、いわゆる「新しい生活様式」が定着している。新しい生活様式は、消費者の購買行動にも変化を起こし、小売業で重視すべきとされてきた接客についても大きな変化をもたらしている。
セルフサービスが中心となる小売業の世界では、例えば、レジ清算は接客の最後の砦として、お客との唯一のコンタクトポイントとして、笑顔でも挨拶が求められてきた。店内のどこに商品があるのかを訪ねるお客は少数だが、レジ清算は全てのお客が通過しなければならず、レジが店の顔となると言われてきた。
清算時の接客を重視する姿勢は、タッチパネルによるオーダーが進んでいる外食産業でも同様で、レジ清算後の笑顔でのお見送りなど、人を介したサービスが固定客やリピーターづくりに役立つと考えられてきた。
しかし、新型コロナウイルス感染症が拡大したことで、従来、「是」とされてきた施策が通用しない場面が発生している。
現在、濃厚接触を避けるための施策として、小売業のレジには、ビニールシートによるパーティションが設けられている。また、従業員もお客もマスクを着用することが当たり前となり、表情が分かりにくくなっている。
それだけでなく、「できれば従業員と会話をしたくない」「従業員と接触したくない」といった新たなニーズが生まれている。
ここでは、回転ずし業界で進む、非接触接客の取り組みを参考に、小売業にも起こり得る接客の価値の変化を考えてみたい。
くら寿司が導入した「非接触型サービス」とは
回転ずし業界2位のくら寿司は10月13日、東京都豊島区の「池袋サンシャイン60通り店」に、入店から退店まで店員とコンタクトレスで利用できる「非接触型サービス」を導入した。
「非接触型サービス」では、店員を介さない「コンタクトレス」、機器に触れない「タッチレス」がキーワードとなっている。
スマートフォンアプリで、テーブル予約ができ、お客が予約のお店にチェックインし、予約時間が近づくとお客に座席番号を知らせる。注文は、タッチパネルではなく、アプリを活用してお客自身のスマートフォンから注文する。
会計時の皿の清算では、レーンに取り付けたカメラで取られたお皿を自動的にカウントするセルフチェックを導入した。会計もセルフレジを導入することで、ほぼ、従業員と接触することなく食事を楽しめる仕組みを構築した。
また、不特定多数が利用するレジや自動受付案内機のモニターにお客が触れずに操作できるよう、指の動きを認識する特殊センサーを設置した。店員だけでなく「機器との非接触」の実現にも取り組んでいる。
「非接触型サービス」は10月16日、大阪市の「なんば日本橋」にも導入している。11月17日には、東京都東村山市に、入店から退店まで店員と対面せずにお客へサービスの提供が可能となる「非接触型サービス」を標準装備した、くら寿司の新スタンダード店舗1号店となる「東村山店」をオープンした。同社では、新スタンダード店舗を、スマートくらレストランと名付けている。
くら寿司では、回転ずしの衛生管理を高める施策として、2011年から除菌寿司カバー「鮮度くん」を導入し、一皿一皿にカバーをつけている。7月27日に大阪市に開店した「くら寿司 なんば日本橋店」では、防菌寿司カバー「鮮度くん」のカバーの抗菌化、カバー表面を殺菌する「紫外線殺菌システム」を、全国の店舗に先駆けて本格的に導入している。
新規出店は、スマートくらレストランとなる予定で、すでに11月24日千葉県東金市に「東金店」、11月30日東京都武蔵野市に「吉祥寺店」、12月7日兵庫県西宮市に「甲子園店」、12月10日愛知県名古屋市「名古屋志段味店」を開業している。今後、既存店にもスマートくらレストランを導入する計画だ。
スシローは出店を加速する都市型店舗でIT活用
回転ずし業界首位のあきんどスシローは、出店を加速している都市型店舗でITの活用を進めている。
6月11日に、神戸市に出店した「スシロー三ノ宮いくたロード店」には、スマホアプリを活用した専用システムでチェックインすると自動で席まで案内してくれる「自動案内」や、商品の提供スピードを追求し、専用レーンを使って注文した商品が直接席まで届く「Auto Waiter(オートウェイター)」を導入した。
スシローでも、入店前や入店時、会計までの場面で、スタッフとのやり取りを減らす「非対面化」システムの活用することで、衛生対策を強化している。
来店時は、スシロー公式アプリを活用する。来店予約をすると、呼び出しまでの目安時間を確認できる。案内時間の30分前・10分前を目安に、アプリの通知機能で知らせることで、呼び出しの時間が近づくまで車の中や店舗の外で待つことができ、待合スペースでの「密」を避ける。
自動案内は、受付システムでチェックインすると自動アナウンスで席を指定・案内するシステム。来店後、「自動案内」でチェックインするとシステムがアナウンスを行い、席へ案内される。待ち時間が発生する場合は、モニターに順番が表示される。
注文はタッチパネルを利用するが、食事後は、席で渡す会計札(QRコード)をレジにかざすことで、レジが無人でも会計が可能なセルフレジを活用している。レジでスタッフを待つこともなく、人との対面も減らせる。
また、需要が急伸するテイクアウトに対応した新たな施策として、スシロー公式アプリと連動した、自動お土産ロッカーを導入した。
テイクアウト商品をスシロー公式アプリで注文すると、店舗での受け取り時間を指定できる。予約時に、メールでQRコードを送付し、そのQRコードをロッカーに読み込ませることで、温度管理されたロッカーから、わずか数十秒で持ち帰り商品を受け取れる。お土産ロッカーを利用すると、授業員との接触時間はゼロとなり、スムーズに持ち帰り商品をピックアップできる。
コロナが変える接客の価値
ここまで、くら寿司とスシローの非接触接客を紹介してきたが、業界3位のはま寿司、業界4位のカッパ寿司でもスマートフォンアプリを活用した自動案内の仕組みを導入している。
小売業ではない外食産業での動きだが、非接触型接客サービスの導入がすすむことで、世代を問わず多くの人々が非接触接客サービスを体験することになる。これまで、高齢者はセルフレジを利用する比率が低いとされてきたが、高齢者がセルフレジを利用する機会は間違いなく増えていく。また、コロナ禍と新しい生活様式が、キャッシュレス決済の導入を一層、加速させることは間違いない。
さまざまな仕組みがセルフサービス化されることで、接客が不要になるわけではないが、ウィズコロナの時代の接客はどうあるべきか考える必要もある。あきんどスシローの堀江陽は、来期の事業戦略発表会で、「『へい、いらっしゃい』と威勢のいい声からはじまるのが、寿司屋の接客で、店の活気は、人が作る要素が大きい。
ただ、コロナ禍と新型コロナウイルス感染対策の中で、人による接客が難しくなっている。店内放送のやり方、内容を含め、新たな活気ある店舗のあり方を考えなければならない」と述べている。
古くから小売業は接客業と言われているが、コロナ禍により、接客そのものの価値や、あり方が問われている。2021年は、どんな場面で人の接客を活用し、どこを省人化していくのか、また、省人化した場合、無機質にならないどんな工夫をシステムに組み込むのかといった視点が求められる年となりそうだ。