恵方巻の大量廃棄問題への対応はどうなる?各企業の施策を紹介

2022.04.21

2021.01.25

店頭で繰り広げられる「恵方巻商戦」は、すっかり節分の恒例となった。だが、その風物詩に異変が起きているのをご存じだろうか? キーワードとなるのがう売れ残りによって発生する「大量廃棄問題」だ。

本記事では、恵方巻商戦が抱える課題やなぜ恵方巻の大量廃棄が発生するかについて解説。2021年の恵方巻の大量廃棄問題を振り返りつつ、2022年の恵方巻の大量廃棄問題がどうなるかについても言及する。

恵方巻の大量廃棄問題とは?

2月初めの節分の食べ物として、定着した感のある「恵方巻」。節分直前になると、百貨店やスーパーマーケット、コンビニエンスストアなどの売場に、大量の恵方巻が並べられる姿も、お馴染みになった。ところが、そうした当たり前の光景に今、異変が起きている。

例えば、前回の2020年の節分では、恵方巻が売り切れる店舗が続出した。恵方巻を食べる人が増えたからではない。小売店の多くが、需要に見合った販売量に抑えたからだと見られている。その背景にあるのが、2018年頃からクローズアップされるようになった、売れ残りの恵方巻の大量廃棄問題である。

関西大学は2019年2月、宮本勝浩・同大学名誉教授が、節分を過ぎて廃棄される恵方巻の金額が全国で約10億2800万円に上ると試算したと発表(恵方巻の全国売上高は約257億円と推計)。 余った恵方巻用食材の廃棄や、廃棄にかかる運搬や焼却のコストなども含めれば、恵方巻廃棄で生じる経済的な損失は、それよりもはるかに多いと指摘する専門家もいる。

では、そもそも恵方巻の大量廃棄は、どうして問題視されるのだろうか? それは近年、「食品ロス」を減らそうという機運が、世界的に高まっているからだ。

経済力のある先進国が、世界各国から大量の食糧を輸入しながら、そのうちの相当量を使わずに廃棄している状態は、実は、長年続いてきた。例えば、農水省によれば、平成28年度の日本の食品ロスは643万トンで、食品小売業から発生した食品ロスが、その1割以上を占めていたという。

しかし、発展途上国を中心とした人口爆発や地球温暖化による異常気象、国際紛争や経済摩擦の頻発などによって、世界の食糧事情は悪化している。

発展途上国で多くの国民が飢餓に苦しむ中、食品ロスを放置することは、人道上許されないという国際世論が広がってきた。さらに、コロナ禍によって、世界の食糧事情は、いっそう危機的状況に陥る懸念がある。実際に、日本でも現在、毎日の食料品にも事欠く貧困層が増えているといわれている。

そればかりではない。食品ロスにかかるコストは、実は、食料品の売価に転嫁され、消費者が負担している。つまり、食品の価格は、予想される廃棄ロスを織り込んで設定されているわけだ。食品ロスがなくなれば、食料品の価格はそれだけ安くなり、国民生活や日本経済にもプラスをもたらすと、考えられるようになった。

そうした中、日本でも、2019年10月に「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行され、挙国一致で食品ロスに取り組むことが決まった。食品ロスへの消費者の意識や関心も、急速に高まりつつあるというわけだ。

恵方巻の大量廃棄はなぜ発生する?

ところで、正月のおせち料理、バレンタインデーのチョコレート、桃の節句のひなあられなど、食べる期間がごく限られるシーズン食品は、恵方巻のほかにもたくさんある。そうした中、どうして恵方巻は、とりわけ、なぜ大量廃棄が発生しやすいのだろうか? 

要因の一つは、基本的に巻き寿司であるため、“日持ちがしない”というネックがあるからだ。おせちの栗きんとんやひなあられであれば、後日までとっておけるが、恵方巻は、節分の直前に買い込んで、節分までに食べ切らなければならない。そのため、どうしても販売が短期集中になって、需給コントロールが難しくなってしまう。

もう一つの要因は、需給コントロールの難しさとも関連するが、恵方巻を欠品が生じないように、多めに作っておくようにしたからだと考えられる。

小売店は、廃棄ロスよりも機会ロス、顧客のクレームや満足度の低下のほうを恐れていたともいえる。恵方巻やその食材を納入しているメーカーも、小売店の要望に応えるため、在庫を多めに抱えることになったのだろう。

しかし、流通業界のそうした慣行は、食品ロスに厳しい目が向けられる中、転換を余儀なくされている。

恵方巻の大量廃棄問題への各社対応

恵方巻の大量廃棄問題を重く見た農水省は2019年1月、流通関係の業界団体向けに「恵方巻きのシーズンを控えた食品の廃棄を削減するための対応について」を発出。

シーズン後に小売店に実施した調査によれば、予約販売の実施、当日のオペレーションやサイズ・メニューの工夫などによって、回答した75社のうち、恵方巻の廃棄率については87%が「前年度より減少した」、そのうち、31%が廃棄率を「6割以上削減」と答えたという。

農水省は、2020年も小売業者に対して、恵方巻について予約販売など需要に見合った販売を呼びかけ、PR資材の提供などを行ったところ、1月15日時点でセブン‐イレブン・ジャパン、ローソン、ファミリーマート、マルエツなど26事業者が、ロス削減プロジェクトに参画した。2021年も、引き続き同プロジェクトを進めるとしている。

では、百貨店やスーパー、コンビニなどの小売業は2021年、恵方巻の廃棄ロスを減らすために、どのような取り組みをしているのだろうか? 目立つのは、「数量限定」などをうたい文句にした予約販売、食べやすくて価格も手頃な少量サイズの強化のようだ。

恵方巻の大量廃棄問題への対応例

農林水産省の出している「恵方巻きのロス削減に向けた取組事例」などを参考に各企業の取り組み事例を紹介していく。

ローソン

ローソンは、2017 年度以降「食品廃棄の削減」と「加盟店および本部の利益改善」を掲げて、予約販売の取組みを本格化し、継続している。

ローソンの特徴としては、話題の映画や人気アニメ映画とのタイアップ商品を展開して、顧客に対して予約販売の促進をしている点にあり、結果として非常に好調な予約に繋がったという。

また、加盟店には「正しい商売の姿=仕入れた商品は全て売り切る」を伝え、よりお客に気持ちよく予約、受け取りをしてもらえるように、全国的にオペレーションの徹底にも注力し、恵方巻の大量廃棄への問題に取り組んだ。

シェルガーデン

関東地方を中心にスーパーマーケットチェーン『ザ・ガーデン自由が丘』を展開しているシェルガーデンは、食品ロス削減を目指し、2019年度以降恵方巻
きのロス削減に向けた取組みを本格化。

2021年は、予約日を2020年より3日早い、1月1日より開始させて予約時期を早める対応を行った。

また、本部と店舗にて、事前に数量を確認したうえで商品の仕入れを行い、店舗内では、各店毎時間売れ行きを確認し、サイズ構成の変更を行い、売れ行きが不振な場合は、値引き時間を前倒しするなど、販売状況に応じた臨機応変な対応を行った。

また、「3エリアに人員を配置し、売れ行きによって商品を店間で移動実施」に加え、売上確保と廃棄ロス削減を目指して社員のロス削減意識向上といった取組にも着手した。

結果として、予約実績が前年比 150.9%、店売が前年比 109.1%と、売上の確保できロス改善の成果を得ることができたという。

株式会社Aコープ九州

Aコープ九州は、2019年から、食品ロス削減に取り組んでおり、2020年の時点ですでに大幅に廃棄ロスの現象を実現していた。

2021年は、予約販売の強化を実施。2020年より事前告知時期を早めて、予約特典(ポイント)をつけることで予約販売促進を行った。

また、製造・販売計画においては、POSデータをによって前年数量に基づく発注、製造を行ない、需要に合ったハーフサイズの作成や商品の絞りこみを行い、サイズ・メニュー構成も工夫。

当日のオペレーションでは、全量売り切れるよう夕方の見切り時間を残量に応じて早めるなどした。

結果として、水産 1.6%⇒0.7%(0.9%改善)・惣菜 2.0%⇒1.6%(0.4%改
善) など、2020年に引き続きロス改善を実現した。

イトーヨーカ堂

予約販売は、ネットスーパーで1月28日まで受け付け。予約で買うと、買い物のとき、買い上げ商品の中で最も高い商品が、10%引きになるクーポン券をもらえる。そのほか、「セブンカード」や「nanaco」の会員の場合、ボーナスポイントを付与するケースがある。

2021年の恵方巻は、同社100周年記念の海鮮25種入りの「超・極太巻き」(1本・税別4980円)など、付加価値を追求したラインが特徴。

マルエツ

予約販売は1月31日18時で受け付け締め切り、2月2日10時から引き渡し。シャリよりも具材が多い「大漁海鮮太巻」(1本・税別1980円)は、Tポイントが300ポイントもらえる特典付き。ハーフサイズも販売。

関西スーパーマーケット

1月28日に農水省の「恵方巻きのロス削減プロジェクト」に参画すると発表。予約販売の告知の強化、前年販売実績に基づく生産・販売計画の精度アップなどに取り組むとした。

ポプラ

予約販売は、1月28日22時まで(商品引き渡しは2月1~3日)。活きじめのアナゴ1本が入った「特上恵方巻」(1本・税別1000円)を予約すると、「アサヒ十六茶」が1本もらえる。また、キャンペーン対象の恵方巻を3品目買い上げると、100円引きになる特典もある。

大丸東京店

1月20~30日に恵方巻の予約販売を実施。一部はネット予約販売ができるようにした。タキモトの「恵方巻ハーフ3種」(税込み1550円)は限定50個。アナゴをおぼろ昆布で巻いた太巻きなど3種類の味が楽しめる。

2022年の恵方巻の大量廃棄問題への対応

2022年も引き続き、農林水産省は、1月26日のプレスリリースにて食品小売事業者に対して「予約購入による食品ロス削減」の協力を呼びかけている。

新型コロナウイルスの蔓延が続く2022年において、予約購買を促進することは、食品ロス削減だけではなく、店舗内での蜜を防ぐという意味でも、有用性が高いといえる。

実際に、セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートなどは、2021年に引き続き、2022年も特設ページを設置して、予約販売の促進を行っている。

また、農林水産省は、、恵方巻きの食品ロス削減に取り組む事業者を募集しており、下記のような企業が、予約販売に取り組む事業者として挙げられている。

イズミヤ、イオンリテール、エフコープ生活協同組合、アオキスーパー、イズミ、イトーヨーカ堂、オークワ、セブン-イレブン・ジャパン、髙島屋、マルイ、マルエツ、バローズ、原信、ミニストップ、ポプラ・・・等

詳細は農林水産省の「2022年の恵方巻きはぜひ予約購入を!」にてご確認を。

まとめ

2021年の商戦からも、恵方巻は今後、数量限定の予約販売が主流になると考えられる。そのため、量よりも質を追求し、味覚やこだわりの具材などで差別化が図られ、価格帯もアッパーゾーンにシフトすると予想される。

一方で、コロナ禍の影響もあって、家庭向けの「手作り恵方巻セット」などが、普及する可能性もある。余った食材は、春分以降も有効活用できるため、食品ロス対策の観点からも、注目されるのではないだろうか。

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