値上げの秋、現場からの報告、かつてないほどの値上げの中、売場では何が起こっていたか?
2022.12.05
物価上昇の勢いが止まらない。昨年も食品値上げがあったが食用油の高騰を主因とする値上げが中心だった。その値上げの背景は原材料の大豆や菜種が海外で不作だった他、世界的な脱炭素の流れを受けたバイオ燃料向け油脂の需要増が原因であった。
今年は食用油や小麦を含む原材料の高騰はじめ、包装資材費やエネルギー価格の上昇による物流費や光熱費の高騰、ウクライナ紛争や円安進行などの世界情勢の変化などであらゆる物が値上げとなっている。
具体的に値上げの状況を数値で見てみよう。帝国データバンクの「株式を上場する食品主要105社価格改定動向調査」によると、10月には約6700品目の食品が値上げされた。11月からは牛乳などの乳製品や菓子類などを中心に765品目の値上げ、さらに12月は10月31日時点で145品目の値上げの予定とのこと。
10月の約6700品目に対して12月は145品目と少なくなっているのは、小売業が12月は年末商戦の超繁忙時期で値札替えなどの作業負担が大きいのでメーカー側が時期をずらしたと思われる。
ただし、年明けも円安や原材料高、原油高によるエネルギーコスト高が予想され、今秋と同等の値上げラッシュになる可能性があると思われる。具体的には年明け2000品目以上の値上げが予定されている。2月にも値上げラッシュとなりそうである。
例えばカゴメは今年4月にも家庭用、業務用を約3~9%値上げしたが、さらに来春2月1日の納品分からトマトジュースやケチャップなど業務用も含め178品目の値上げ予定。
同じようにテーブルマークも自助努力だけではコスト吸収の限度を超えるということで、家庭用冷凍食品66品目で約3~19%、業務用冷凍食品386品目で約3~25%の値上げを予定している。
今年、年間通して約2万品目の値上げになると思われるが、カテゴリー別品目数では「加工食品」が最多で約7800品目、平均値上げ率は16%で最大であった。原材料の食用油の高騰が影響したドレッシングやマヨネーズなどの「調味料」が約4400品目、ビールなどの「酒類・飲料」は約3800品目の値上げとなった。
値上げに関して昨年とは違うメーカーの動向がある。値上げした結果について、過去、大手メーカーには苦い経験がある。例えば、あるカップ麺の看板商品では、値上げによって売上ダウンとなって復調させるのに苦労をしている。教訓として看板商品の値上げは慎重にならざるを得ないが、ここに至って看板商品も値上げせざるを得ない状況である。
値上げせざるを得ない背景があることから、競合他社が値上げに踏み切り、価格改定への抵抗感とためらいもなく機動的に値上げを行っていると思われる。今秋に続き来春も物価高による家計消費環境は厳しさが続きそうである。
プライスカード貼り替えで多忙に
このような今秋の値上げの環境下、実際に売場ではどのような状況だったか、売上げや売れる商品の現場での肌感覚を小売現場で売る立場、買う立場の両面での当事者であるパートタイマ―の声を交えてレポートしてみよう。
まず、販売する立場からの声を整理してみよう。特に10月は約6700品目の値上げがあり、売価改定、g数、㎖数や個数などの商品内容の改定などのリストと照合しながらプライスカードを棚割陳列指図書どおりに貼付する作業で毎日のように多忙を極めていた。
特にストレスとなるのは、「ステルス値上げ」とも呼べるような商品への対応である。商品名やパッケージは同じで価格は同じか少しの値上げ幅だが、重量や容量変更など内容仕様が変更になっており、当然、商品のバーコードが違う商品である。
入れ替えるときに、新旧のバージョンが混ざっていることが散見された。旧バージョンの割引売り尽くし処分セールで順調に在庫がゼロになればいいのだが、順調ではない場合は従業員の入退店のバックヤードにて、「おすそ分けセール」を行った企業もあった。
売場のお客の観察をすると、買う予定の商品メモの持参、チラシの持参はじめ競合店含め商品のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)比較情報をスマホで検索しながら買物しているお客が目立った。
販売データからお客の消費動向が垣間見えた。
部門ごとに売上額の推移の変化はどうだったか。金額ベース、数量ベースの両面で一番、安定していたのはやはり青果部門であった。しかし、同じ青果でも野菜類は安定しているが、果物、特にナシ、ブドウなどの高額品は数量ベースでも大きく減少した。
数量ベースで大きく減少したのは牛肉で、特にA4、A5などの100g当たり800円以上の高単価商品は敬遠された。
さらに、売場でのお客同士の会話では、鶏ムネ肉も鶏インフルエンザで品薄となり「値上がりしそう」という話題が上っていた。実際に30年ぶりの高値となっている。
また、節約志向の意識が強く働いたのが、レジ前陳列で「ついで買い」を誘う和菓子の売れ数が大きく落ちた。
1000人当たりの買上点数、いわゆるPI値のデータをみると、菓子部門の和菓子類、洋日配部門のケーキ類などのし好性の高いカテゴリーは大きく影響を受けて、数量、金額ともに減少した。
総務省が11月18日に発表した10月分消費者物価統計で生鮮食品を除く総合指数は前年同月比3.6%上昇し、第2次石油危機時の1982年2月以来、約40年8カ月ぶりの高水準という消費環境下となった。
データ以外に売場でのお客の観察では前述した鶏インフルエンザで物価優等生の鶏卵も値上げになりそう、という声が聞こえてくるなど、今まで経験したことのない環境下、消費者は価格に敏感になってきた。敏感にならざるを得ない状況となっている。
期待はやはり「賃金アップ」
次に消費者、生活者としてのパートタイマ―の声を整理してみよう。小売現場の販売担当者でもあり生活者でもあるパートタイマ―の声はシビアである。
10月の値上げラッシュ時、ソーセージ7.5%、ベーコン4.5%、ビール5.6%、発泡酒7%、ノンアルコールビール9.4%、果汁入り飲料3.4%、ミネラルウオーター5.9%などの値上げ率が消費者物価指数と同時に発表された。
それぞれ、日配担当者、酒類担当者、飲料担当者の値上げの印象がほぼこの数値に一致している。前述したように10月は3.6%の上昇率だが、政府の物価高対策や全国旅行支援などが物価を押し下げているので、支援がない場合は4.5%ぐらいの上昇率といわれている。結果、消費税率が3%引き上げられた場合を上回る負担増になっているという心理状況下である。
この状況下、期待は賃金のアップである。しかし、賃金が低い原因は分配されていないのではなく、成長していないからと考えられる。過去、企業は大規模なリストラもしないが賃上げや投資意欲もしなかった。
最近、テレビで転職のCMが流れているが、雇用の流動化と人への投資がポイントとなるであろう。そんな中、パートタイマ―全員の共通の声は賃金アップに関することであった。
最後にこの値上げ環境下、自分でできる生活防衛策を聞いてみた。
①納得した安さの商品を購入:自社のプライベートブランド商品のウエートを上げる。
②買物にめりはりを付ける:給料日後の日曜日の夕食は少しだけぜいたくにする。
③買物に予算を組む:家族1人当たり1万円まで、1回の買物は5000円までにする。
④SNSの買物情報を活用する:冷蔵庫、台所に常備する商品群は地域で一番安い店で買う。
全員に共通したことは、「不要なものは買わない」だった。