SIPストア、こう見る! 酒類編 自店のお客を明確にし、消費を先駆けた提案で「尖る」

2024.07.02

売場面積約88坪と通常店舗の2倍の広さのセブン-イレブン松戸常盤平店の酒売場は、常温ゴンドラ3本とリーチインクーラー扉4枚という構成だ。

売場写真はオープン前の内覧会時のもの、訪店時とは異なる部分もある。以下同

酒類の売場面積は一般的なセブン-イレブンの店舗と変わらないが、変化の兆しを捉えた実験的な試みが随所に見られ、お客がどのような反応を見せるのか興味深い。ここで得られた知見がグループの他の酒売場にどのように反映されるのか楽しみでもある。

酒売場で見るべきポイントは次の6点。一般的なセブン-イレブンと比べたSIPストアの酒売場の特徴といえる6点である。

①平易なクロス展開、②消費トレンドに合わせた棚割り、③購買履歴から新しいサブカテゴリーを抽出、④ブームの兆し商品の充実、⑤ローカル訴求の拡張、⑥分かる人には伝わる意外性。

コンパクトな売場スペースでいろいろな試行錯誤がなされていて非常におもしろい。順番に見ていこう。

ビールコーナーは「ビールに集中」

最初に挙げた「平易なクロス展開」は売場ですぐに気づく。リーチインクーラーのガラス扉にはイミテーションの焼き鳥が貼り付けられており、ビールや酎ハイの購入者につまみの購入を働きかけている。

常温ゴンドラでは、蒸留所のコーナーの棚の3分の1を割いて小さなかごを置き、個包装されたフレッシュレモンを販売していた。部門ごとに縦割り組織になっているスーパーマーケット(SM)では、青果と酒のクロス展開の実施みはなかなか苦労するものだが、店長が売場を直接管理できるコンビニではそれほど難しくない。酒を購入するお客に青果の取り扱いがあることを伝えることにもなる。

2つ目に挙げた「消費トレンドに合わせた棚割り」は、ビール類のフェース配分に端的に表れている。ビール類にあてられたスペースはリーチインクーラーの扉1枚分で、その8割のスペースをビールが占めるのである。

昨秋、2回目の減税となったビールは、それまでの増加基調を変えず着々と伸長している。メーカー出荷量(課税数量)や家計調査を見ても明らかであるし、ナショナルブランドビールメーカーはマーケティング投資をビールに集中し、「アサヒスーパードライ」や「キリン一番搾り」など主力商品の広告宣伝や販促活動を積極化させている。成長基調にあるものに思い切ってスペースを割くのは妥当な判断だ。

選択肢としては、プライベートブランド(PB)が支持を得やすい環境にある旧新ジャンルを強化するというオプションもあった。物価の上昇が激しい昨今、価格志向を強めるお客は少なくない。

増税と値上げでビールとの価格差が縮まったとはいえ、旧新ジャンルはビール類でエコノミークラスを形成している。市場は「サントリー金麦」と「本麒麟」にPBを加えた3強に集約されつつある。自社PBを前に出して価格に敏感なお客を取りに行く判断は説得力がある。

あえてビール重視を選択したのは、成長分野と歩調を合わせて売場の鮮度を失わないためと、隣接するオーケーとのすみ分けを図るための判断であろう。ビール類の冷蔵販売をせず、地域一番の安値を目指す競合と一線を画すには、目線の先に価格に敏感なお客を置くのは有効ではない。

自身のお客は「冷えたビールをばらで購入する人」との判断があるのだろう。

酎ハイとハイボールは別分野、ブームの兆しジンを充実

3つ目の「購買履歴から新しいサブカテゴリーを抽出」はレディトゥドリンク(RTD)の棚割りで、酎ハイとハイボールを明確に分けたことを指す。RTDとひとくくりにされ、レモン酎ハイ、レモンサワー、ハイボールとさまざまに呼ばれてきたが、購入するユーザーは大きく3つに分かれる。

1つは果汁のフレーバーを好む酎ハイユーザーで「キリン氷結」「サントリー-196℃」のユーザーだ。もう1つは「サントリーほろよい」などアルコール度数が低い酎ハイのユーザーである。そして3つ目は酒の味を好むハイボールユーザーで、「サントリー角ハイボール濃いめ」「宝焼酎ハイボール」「いいちこ下町のハイボール」など、ドライでベースの酒の味わいを重視するお客だ。

この違いはID-POSを整理すれば容易に浮かんでくるが、この店舗ではサブカテゴリーとして明確にくくり出して棚割りに反映している。

また、まだ規模は大きくないが、伸び率が高い商品を充実させる施策は、流行に敏感なお客に響く。いま、酒類でそれに該当するカテゴリーはジンだ。ジンはクラフトジンブームといわれ始めた7、8年前から注目されていたが、飲用場面はバーシーンから居酒屋シーンに拡大し、家飲みに入り始める直前まで来ている。

いまこそ幅広く品揃えしてお客をリードするときだ。常温ゴンドラ1本しかない蒸留酒の棚でジンに1段を割き、価格と香味の2軸で多様さを見せたのは良いチャレンジだ。前述のレモンとのクロス展開も生きて来る。ちなみに売場面積では数十倍あるオーケーの酒売場よりも、この売場の方がジンの品揃えは豊富である。

また、酒類で「地元」を訴求すると、地元の日本酒で展開する例がほとんどだ。ところがSIPストアでは本格焼酎で「地元」をアピールしている。原料に地元の特産品を使い、地元のメーカーが製造した商品で棚一段を使う。本格焼酎は米や麦の麹で一次もろみを造り、そこに地元の特産の農産物を加えて発酵させ(二次もろみ)、蒸留によって独自の香味を引き出す。この自由度の高さを生かして「地元」を訴求する動きが指示されるのか興味深いチャレンジだ。

コンビニに「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」

最後に挙げた「分かる人には分かる意外性」はバイヤーの遊び心の表れかもしれない。

ワインの棚は常温ゴンドラ1本で、オリジナルワインを最下段に配置し、上段に日本ワインや有名産地のワインを陳列している。最も高価な商品は4000円クラスである。このクラスのワインをコンビニで扱うのであれば、インポーターや卸の多くが広く知られたボルドーやブルゴーニュのワインを推すだろう。

ところがこの売場にあったのはイタリア・トスカーナ州の「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」だ。「ニヤリ」とするワイン好きは少なくないのではないか。

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