ライフスタイル提案に踏み込むカインズの新フォーマット店舗「スタイルファクトリー」

2022.04.12

2020.08.07

カインズは「ライフスタイルDIY(Do It Yourself)ショップ」とのコンセプトを持つ新フォーマットの「Style Factory(スタイルファクトリー)」を関東に初出店した。従来のような大型のホームセンター(HC)ではなく、売場面積100~300坪、アイテム数はHCで7~12万のところ、3000~4000程度に絞り込んだ小型店。ショッピングセンター(SC)などのテナント出店がメインになるとみられる。

高家正行社長は、「自分らしい暮らし、自分だけの空間を作っていくとか、家事が楽しくなる、そういった自分らしさ、楽しさを自分で作って行こうというのが、『ライフスタイルDIY』というコンセプト。これはカインズが目指している『世界を日常から変える』という世界観を実現する第一歩、あるいはその中心になると思っている」と新フォーマットの位置づけを説明する。

暮らしのテーマに沿って、強みのDIYを提案

今回、7月18日にららぽーと海老名店(神奈川県海老名市)、8月1日にみなとみらい東急スクエア店(横浜市西区)を続けてグランドオープン。今回は関東初出店というだけでなく、2018年9月オープンのららぽーと名古屋みなとアクルス店(名古屋市港区)および名古屋市中区の商業施設テラッセ納屋橋に17年に出店し、現在は閉店した1号店のテラッセ納屋橋店での検証を踏まえた上での多店化という位置づけも持つ。高家社長も、「今後、都心部を中心に広げていきたい」と語るなど期待を寄せる。

関東1号店として7月18日にグランドオープンしたららぽーと海老名店

「従来の3000坪を中心としたビッグボックス型の店舗で都市部に出店することは、現実的になかなか難しいところがあった。(スタイルファクトリーは)従来の店の10分の1ぐらいのサイズで、商品の点数も10分の1~20分の1ぐらいの商品点数。その代わり7割方がわれわれのプライベートブランド(PB)商品になっていて、かつ、その中から厳選された、ライフスタイルDIYのコンセプトに合う商品が詰まっている。従来われわれが大きな店ではリーチできなかった都心のお客さまにライフスタイル提案が届けられるという意味で大きな期待をかけている。ぐっと店舗展開の可能性が広がってくると思っている」(高家社長)

売場づくり上の大きな特徴は、「従来のカインズの大型店で採っているような商品を中心とした陳列ではなく、お客さまの暮らしの『テーマ』に沿ったDIYの提案をしていく」(高家社長)というもの。

「調理器具」「文房具」「寝具」のような品種、あるいは単一のキーワードに基づいたレイアウトではなく、独自の市場調査や分析を基に、消費者ニーズに沿うメインテーマと、関連するサブテーマとを設定。複数のキーワードから構成されるレイアウトにしつつ、これらライフスタイルのテーマごとにアイテムを展開する。

狙いは「売場を歩くだけでもわくわくし、くらしをより自分らしく楽しむヒントが発見できるような店舗」(同社)にすることだという。

スタイルファクトリーが提案するテーマは、現在のところ8つ。「楽カジKITCHEN」「楽カジCLEAN」「楽カジLAUNDRY」「&pet」「SMALL SPACE」「快眠」「楽YOGA」「CREATIVE DIY」で、店ごとに出店地域の環境、特性、店の面積、形状などに合わせて最適と考えられるテーマを選定して売場を構築していく。

「キッチン」「ランドリー」「クリーン」のサブテーマを持つ「楽カジ」は、家事を少しでも楽に、楽しくするための提案を行う。サブテーマの調理、洗濯、掃除について、工程や時間の3割削減を目指そうという提案だ。

「&ペット」は、単にペット用品を販売するということではなく、「ペットと共に暮らす」ことを自分らしく豊かにしていくための提案を集めた。

「スモールスペース」は、なかなかスペースが取れない都心の住空間を自分らしく演出していくための提案。壁を上手に使うなど部屋を効率的に使う提案などが行われている。

「快眠」は、その名のとおり、快適に睡眠を取るための提案。「楽ヨガ」は、ヨガを中心とした体づくりに対する提案という位置づけとなる。

最後の「クリエイティブDIY」は、売場でのさまざまな提案について、最終的には自らDIYで仕上げることを体験してもらおうというコーナーだ。

売場面積は100坪、200坪、300坪の3パターンで出店していく計画で、ららぽーと海老名店は200坪のパターンとして「楽カジキッチン」「楽カジクリーン」「楽カジランドリー」「&ペット」「スモールスペース」「クリエイティブDIY」を導入、みなとみらい東急スクエア店は300坪のパターンとして、それらに加え、「快眠」と「楽ヨガ」を加えたフルラインアップでの出店となった。

3つのSBUを設置、事業再構築の一環

今回の新型コロナウイルスで、必需品を販売する客層の広いHCの役割が改めてクローズアップされた。それ自体は重要なことであるが、一方で、一般からプロまで幅が広いお客に対応するための従来型の大型店では、商品、サービスが均質化し、オペレーションにおける細かな対応に限界が出てきていた。

そうした背景をから、いまカインズではターゲット層に合わせて「ライフスタイル」「プロ」「日用雑貨」の3つのSBU(ストラテジックビジネスユニット、戦略的事業単位)に分けて事業を構築しようとしている。

今回のスタイルファクトリーは、そのうちの「ライフスタイルSBU」に該当する。年齢層では30~40歳代、中でも特に女性をメインターゲットとして捉え、共働きが当たり前の世代のファミリーの暮らしに焦点を当てた商品とサービスを開発。「お客の生活目線に合ったテーマ」で売場づくりをしていくという。

売場づくりに際しては、前述のように名古屋でオープンしている先行店の事例などを踏まえ、さまざまな学びや改善点を生かした。

例えば、チェーンストアで本来あるべきとされる「ショートタイムショッピング」の条件をあえてゆるめ、「自分の暮らしを良くしよう」「自分の暮らしに合ったものを選ぼう」といった形で、ゆっくり売場を見てもらおうとの意図で、レイアウトや動線の作り方に工夫をこらしている。先行店での学びとして、異なる什器を組み合わせたり、DIYの商品をいろいろな場所にちりばめるといったことを実践しているが、これらもそういった意図からのものだ。

「通路も基本的に真っすぐにせず、できるだけ全ての棚の前を通っていただいて、1つ1つの商品を見ていただいて、自分のライフスタイルに合う商品を選んでいただく構成にしている。これも名古屋での実験があって、ようやくいま、この形にたどり着いている。もちろん、これから海老名店、みなとみらい店でまた検証していくが、こういったものは名古屋からの大きな学び。われわれ自身も大きく考え方を変えた」(高家社長)

都市部、さらにSC内ということで必然的に家賃が高いことが想定される。その分、販売効率を高め、確実に粗利益を確保しなければならないが、まず、粗利益の点では商品の7割方がPB商品ということは強みとなる。また、オペレーション面では、商品を積み上げた量販的な店だとオペレーションの負荷がかかってしまう。テーマに沿って商品を絞り込んだ展開としていることは、実はオペレーション面の負荷を下げるための工夫でもある。

同社のPB商品には「シンプル」「シック」「カジュアル」「ナチュラル」「ニュークラシック」の5つのスタイルがあるが、スタイルファクトリーではあえて「シック」を中心とする構成に絞り込んでいる。DIYの要素が入っていることもあって、売場を「シック」をベースに組み立て、それに合わせてスタイルを絞り込んだのである。

売場づくりにおいては通路を直線にせず、陳列の高さもさまざまなものを組み合わせている。PB商品も「シック」のスタイルに絞り込み、カラーバリエーションも絞り込んでいる

新型コロナウイルスによってDIYの需要は高まっている

このフォーマットを開発するに当たり、「どこか他店を意識したか」の質問に対して高家社長は次のように答えた。

「ライフスタイルDIYというコンセプトは、一般的に雑貨を販売している店や業種で『DIY』のコンセプトを付け加えるのはわれわれしかできないことだと思っている。また、狭義のDIYだと、どちらかというと従来、日本では日曜大工的なイメージを持たれている方がまだまだ多いと思うが、その従来のイメージをぐっと広げて、自分で作る、自分で何かを実現するということと、自分らしい暮らしをつなげられるコンセプトは、やはりホームセンターでDIYを展開している、それからいままで、この10年ぐらい、いろいろな形でプライベートブランド商品を磨いてきたわれわれだからこそ、たどり着ける、結び付けられると思っている。自分たちだけの価値を追求していきたいと思う」

高家正行社長

サービスを含めたDIYの提案ができることは、これまでHCを連綿と営んできたカインズの大きな強みといえるだろう。

新型コロナウイルスによって、DIYの需要は高まっているとみられ、実際、DIY関連の商品の数字も高くなっているという。「家にいる時間が長くなったことによって、『家や暮らしを良くしていこう』ということに関心が高まっている。上手にご提案をしていきたい」と高家社長は意気込む。

前述の3つのSBUとも関連するが、カインズでは昨年からの中期経営計画で、従来型のHCの出店をいったん控え、従来型のHCにも今まで以上の新しい価値を埋め込む準備をしている。200店以上ある既存店の改装も進め、それが一段落したら新しい価値を埋め込んだ店舗を新規出店していきたいとしている。

SBUの「プロ」については、8月末に「C’z  PRO(シーズプロ)」というプロ職人専門の「会員制卸売業態」フォーマットの1号店として東名横浜店を横浜町田インターチェンジの近くにオープンする。400~500坪の売場に、HCの資材館で展開するような職人向けの商品を集めた店で、これまで培ってきたデジタル技術をプロ向けに適用し、店にない商品の取り置きやロッカーを活用した24時間受け取り、現場への商品の直送といったサービスを実施する。置ける商品が限られる小型の店舗ではあるが、「デジタルサービス」を活用することでそれをカバーする格好だ。

今後は従来型のHC、今回の「スタイルファクトリー」にこの「シーズプロ」を加え、現時点では大きく3つのフォーマットで出店を重ねていく。

Style Factoryららぽーと海老名店概要

所在地/神奈川県海老名市扇町13-1ららぽーと海老名2階

グランドオープン/2020年7月18日

営業時間/10時~20時

店長/山本一友

従業員数/7人

売場面積/約680㎡(約205坪)

アイテム数/約3600アイテム

Style Factoryみなとみらい東急スクエア店概要

所在地/神奈川県横浜市西区みなとみらい2-3-2「東急スクエア2」3階

グランドオープン/2020年8月1日

営業時間/11時~20時

店長/山本一友

従業員数/6人

売場面積/約917㎡(約277坪)

アイテム数/約4000アイテム

お役立ち資料データ

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