安全在庫とは?適正在庫との違い、計算方法、算出する目的や注意点を解説
2023.03.10
欠品による販売機会の損失のために設定されるのが安全在庫だ。安全在庫の設定は機会損失防止のほか在庫管理業務の効率化など多くのメリットが得られる一方、過剰在庫が発生するリスクもある。安全在庫を適切に設定し、利益向上や業務効率化につなげよう。この記事では、安全在庫の概要や適正在庫との違い、安全在庫の計算方法や算出する目的とメリット、注意点を解説する。
安全在庫の概要
安全在庫の概要と、似ている言葉である適正在庫との違いについて解説する。
安全在庫とは
安全在庫とは、日本工業規格(JIS規格)7304にて「需要変動又は補充期間の不確実性を吸収するために必要とされる在庫」と定義されている在庫だ。英語では”Safety Stock”と呼ばれる。
つまり、通常の在庫以外に欠品防止のために確保しておく在庫が安全在庫にあたる。商品の需要は、市場動向や流行、季節、天候などの不確定要素によって変動する。安全在庫を確保しておくことで、変動する需要に対して柔軟な対応ができ、欠品の防止につながるだろう。欠品による販売機会の損失なども、安全在庫によって防止できる。
適正在庫との違い
適正在庫とは、欠品を出さないための最小限の在庫のことだ。安全在庫数は欠品防止がおもな目的のため下限を設定するものの、上限を設定しないため過剰在庫が発生する可能性がある。一方で適正在庫は企業や事業所、店舗にとって適切な在庫数を確保するために設定するため、上限と下限の両方を設定するのが特徴だ。
なお適正在庫数を設定するときのひとつの要素として、安全在庫数が用いられる。
安全在庫の計算と項目設定方法
安全在庫は「安全係数」×「使用量の標準偏差」×「√(「発注リードタイム」+「発注間隔」)」の式で求められる。安全在庫の計算に必要となる各項目の設定方法を、順に解説する。
安全在庫係数の設定
安全在庫を算出するために、まず欠品在庫許容率を安全在庫係数に置き換える。欠品在庫許容率とは、欠品しても問題ないと考えられる割合のことだ。欠品許容率の数値のままでは安全在庫の計算ができないため、「1-欠品許容率」の式を使って欠品在庫許容率を安全在庫係数に置き換える。
なお、手計算ではなくExcelの関数「NORMSINV」を用いれば、簡単に安全在庫係数への置き換えが可能だ。
使用量の標準偏差の設定
標準偏差とは、商品や製品の過去の使用数・出庫数・販売数の平均値のことだ。不確定要素である商品の需要の変動数値を算出するために、標準偏差を用いる。標準偏差は「1ヶ月の標準偏差=1ヶ月あたりの出庫した数」で求めるため、Excelの関数「STDEV」を用いると効率よく算出できるだろう。
発注リードタイム
発注リードタイムとは、在庫の仕入れ先に発注をしてから、実際に納品されるまでの日数のことだ。発注リードタイムは製造先での生産や加工、発送や仕入など在庫として入庫されるまでの調達にかかるすべての日数を含むため、調達期間とも呼ばれる。
発注間隔
発注間隔とは、在庫発注後に再発注が行われるまでの期間を指す。
安全在庫の計算例
上記で紹介した各項目を使った安全在庫の計算式の例を紹介する。
例:
安全係数:1.65(欠品許容率5%)
標準偏差:15個
発注間隔:11日
発注調達:7日 の場合
1.65×15×√(11+7)=103
安全在庫数は103個となる。なお、小数点が発生した場合は切り上げる。
安全在庫を設定する目的やメリット
安全在庫はおもに欠品防止を目的に設定されるが、それ以外にもさまざまなメリットが得られる。安全在庫を設定する目的やメリットを順に解説する。
欠品の防止
安全在庫を設定する最大の目的は、ある商品の欠品を防ぐことだ。商品が欠品すると顧客への販売機会が失われるため、当然売上や利益も落ちてしまう。また、希望の商品購入を期待していた顧客を裏切ることにもなるため、欠品は顧客満足度の低下や信頼の損失につながる可能性もある。
安全在庫を確保しておくことで、欠品による販売機会と顧客の信頼損失を未然に防げる。たとえばSNSなどで商品がバズる、インフルエンサーに紹介されるなど予測不能な要素によって商品の市場のニーズが一時的、かつ急激に上がったときでも、安全在庫を確保しておくことで消費を顧客へ提供できる可能性が高くなるだろう。
余剰在庫による無駄やリスクの削減
安全在庫の設定は必要最低限の在庫数である、適性在庫の把握にもつながる。適正在庫の設定によって、余剰在庫に関する無駄やコストを削減できるのもメリットのひとつだ。
余剰在庫を抱えると、保管スペースを確保するための費用や人員が必要となる。さらに余剰在庫の管理業務も発生するため、在庫管理業務の無駄が増えてしまうだろう。余剰在庫と通常在庫の混在や、余剰在庫の経年劣化による破棄などのリスクが発生する可能性もある。
安全在庫を設定することで余剰在庫から発生する無駄やリスクを削減し、業務効率化やコストカットも期待できる。
在庫数調整に活用できる
安全在庫を設定しておくと、在庫数を調整する際の指標として活用できる。たとえば、現在の在庫数と安全在庫数を比較すると、在庫の余剰と不足の有無をすぐに把握できる。適正な在庫管理に活用できるだろう。
キャッシュフローの改善
余剰在庫はキャッシュフローが悪化する原因ともなる。在庫が売れれば自社や店舗のキャッシュとなるが、余剰在庫を抱えると現金化ができない。事業存続のために仕入れや生産は止められないため、キャッシュフローが悪化すると「資産はあるが手元の現金(キャッシュ)がないため、支払いができない」状況に陥り、経営倒れのリスクも発生してしまうだろう。
安全在庫を設定することで、余剰在庫の発生が防げるためキャッシュフロー改善が期待できる。
製造ラインの安定稼働
需要の変動は、製造ラインの稼動率にも影響する。市場の需要が急激に伸びた場合でも、人員や原材料がすぐに確保できないなどの理由で、製造ラインが需要に追い付けず欠品してしまうことがあるだろう。安全在庫を確保しておけば、製造ラインの増産体制が整うまでのつなぎとしても使用できるため、製造ラインの安定稼働にもつながる。
安全在庫設定で踏まえておきたい注意点
安全在庫を持つことで多くのメリットが得られる。ただし、安全在庫を持つだけでは解決できない課題もあるため注意が必要だ。安全在庫設定のうえで、踏まえておきたい注意点を解説する。
欠品の完全防止は不可能
安全在庫を確保しても、欠品を完全に防ぐことはできない。たとえば仕入れた在庫の破損や不備などがあると、実際に使える在庫数は減ってしまう。在庫数を多くすれば欠品許容数は低くなるが、その分余剰在庫を抱えるリスクが大きくなる。
さらに、確保した安全在庫では対応できないほどの急激な需要の増加が発生することもあるだろう。当然安全在庫を上回るほどの需要が出れば、欠品が発生してしまう。欠品は完全には防げないと割り切り、ある程度の欠品は許容する必要があることを覚えておこう。
リードタイムは一定ではない
リードタイムの数値は、季節や時期、市場の需要などによって数値が異なる。安全在庫の計算にリードタイムの算出は不可欠だが、常に数値が一定ではないことを覚えておくことが重要だ。適正在庫を把握するうえでは、安全在庫だけでなく市場の動向なども確認しておく必要がある。
標準偏差が機能しない商品には活用できない
安全在庫数を決める要素のひとつに、標準偏差がある。標準偏差は、在庫使用量に大きなばらつきがない(=正規分布に従っている)ことが前提で算出されるのが特徴だ。そのため季節商品など時期や季節で在庫使用量が大きく変動する商品は、正しい標準偏差が算出できないため、安全在庫を持つこと自体が無意味となる。商品ごとの性質を知って、適切な在庫量や在庫管理をするのが重要だ。
安全在庫のみでは過剰在庫は防げない
安全在庫は欠品しないための最低限の在庫数は設定できるが、適正在庫と異なり在庫数の上限は設定されない。つまり、安全在庫によって欠品を防ぐ可能性は高くなるが、過剰在庫が発生する可能性もある。安全在庫のほか、リードタイム、発注頻度、一日の使用量(見込み)を把握し、適正在庫を設定するようにしよう。
安全在庫に関する業務が煩雑になる
安全在庫を設定すると、その分の在庫管理業務が発生し従業員の負担が大きくなる。たとえば商品ごとの安全在庫数を計算する作業や、安全在庫の保管や移動、管理、棚卸などの業務だ。安全在庫に関する業務の負担が大きくなると、計算ミスや確認間違いによる欠品や過剰在庫の発生の原因となることもある。結局欠品による販売機会や信頼の損失、過剰在庫によるリスクやコストが発生してしまうこともあるだろう。
安全在庫を設定するうえで、関連業務を効率化するためのシステムや仕組みの導入も検討することが重要だ。たとえば在庫データをクラウド化して共有する、IoTを導入して仕入れと在庫管理をリアルタイムで紐づけるなどの取り組みが有効となる。
安全在庫の適正化は業務やコストの適正化につながる
安全在庫の概要や計算方法、安全在庫を設定するメリットや注意点を解説した。安全在庫を設定することで欠品防止から派生する多くのメリットが得られる一方、業務が増えるなどのデメリットもあり、安全在庫を設定しただけでは解決できない課題もある。商品の特性や業務効率化のための施策も検討したうえで、適切な安全在庫の設定を実現しよう。