キャッシュフローとは?わかりやすく意味や計算書の種類、ほかの決算書との関係を解説
2023.01.12
企業としてのお金の流れを把握するのに必須となるのが「キャッシュフロー」だ。キャッシュフローはキャッシュフロー計算書に記帳していくが、項目の読み取り方や、損益計算書や貸借対照表との違いは複雑で、把握できないという方も多いだろう。キャッシュフローの概要やキャッシュフロー計算書の項目や書き方の違い、ほかの決算書との違いや関係をわかりやすく解説した。
キャッシュフローをわかりやすく解説
まずキャッシュフローの意味や概念をわかりやすく解説する。
キャッシュフローとは
キャッシュとは英語の”cash”から来ていて、現金のこと。
フローは英語の”flow”が語源で、流れのこと。つまりキャッシュフローとは現金の流れを指している。手元に会社の「現金」がどのくらいあるのかを把握するうえでも、キャッシュフローは重要な役割を持っている。
キャッシュフローは現金の流入を指す「キャッシュ・イン・フロー」と現金の流出を指す「キャッシュ・アウト・フロー」のふたつから成り立っている。以下の計算式で現状の現金がどのくらいあるのかがわかる。
キャッシュフロー=キャッシュ・イン・フロー-キャッシュ・アウト・フロー
キャッシュとしてみなされるもの
キャッシュとは現金だが、貨幣や小銭といった現物として存在する現金以外の資産もキャッシュに含まれる。おもな「キャッシュ」に該当し、キャッシュフローの対象となるものは以下の通り。
・現金
・預金
・換金性が高い、かつおおよその換金額が把握できるもの
換金性が高くおおよその換金額が把握できるものとは、数か月後に満期となる定期預金や、投資信託などが該当する。
キャッシュフローとストックの関係
キャッシュフローの「フロー」の対義語に「ストック」がある。ストックとは英語の”stock”から来ていて、「(ある一点での)保有量」を指す。
参照する決算書はキャッシュフロー計算書
キャッシュフローを参照するために活用される決算書がキャッシュフロー計算書。キャッシュフロー計算書は正式名称”cash flow statement”で略して「C/S」とも表記される。以下を企業の財務状況を把握するための決算書として「財務三表」と呼ばれている。
・貸借対照表(B/S)
・損益計算書(P/L)
・キャッシュフロー計算書(C/F)
ほかの決算書とキャッシュフロー計算書との違いや関係については後にくわしく解説する。
キャッシュフロー計算書の種類
キャッシュフロー計算書は、以下の3つの事業活動別に分けて表記される。
・営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)
・投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)
・財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)
それぞれの区分の特徴を解説する。
営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)
会社の中心となる事業、つまり本業での現金の増減を表したものだ。たとえばメーカー企業なら、原材料費、販売利益、従業員の給料などが営業活動によるキャッシュフローとして記載される。キャッシュフロー計算書の最初に記載される項目だ。
営業CFからは、本業の経営状況が把握できる。プラスなら本業で資金を生み出せている、つまり本業が順調に進められていると分かるだろう。マイナスの場合は、本業がうまく行っていない、または売掛金の回収が滞っているなどの原因が発生していることになる。そのため、営業CFはプラスである方が望ましいと言える。
マイナスの場合は、在庫の圧縮や売掛金の回収、買掛金の支払いの延期などの対策に出なければいけない。
投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)
現状維持や将来への投資による現金の増減を表したものだ。キャッシュフロー計算書の2番目に記載される。投資CFの対象となるのは以下の通り。
・設備投資をはじめとした固定資産の取得
・有価証券の取得および売却
・投資有価証券の取得および売却
・余剰資金の運用
投資CFがプラスなら固定資産や株式、債権の売却により現金を得た状態であると分かる。
マイナスの場合は、新たに固定資産の購入や投資を行ったことが分かる。マイナスの方が固定資産や投資有価証券を取得している状態のため、将来的に利益を得られる可能性が高いと言える。
財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)
資金調達や借金返済の財務活動による現金の増減を表したものだ。
現金の過不足へのフォローをどのように行ったかが分かる。キャッシュフロー計算書の3番目に記載される。財務CFの対象となるのは以下の通り。
・銀行からの借り入れ
・銀行への返済
・株式の発行による収入
・配当金の支払い
財務CFがプラスの場合は、借入金や社債など負債となる方法で資金調達している状態と分かる。マイナスの場合は、負債を返済している、またはない状態と分かるだろう。
財務CFは負債が発生するとプラスとなるため、一般的にはマイナスである方が良いと言える。ただし利益の高い企業でも経営方針や事業活動の状態によっては一時的にプラスとなる。たとえば会社の実績が上がっているため、事業拡大や新規事業開拓のために資金調達をすれば、財務CFは当然プラスとなるだろう。
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローとは、会社が自由に使えるキャッシュのことだ。営業CF+投資CFで求められる。
必要な投資をすると、投資CFはマイナスとなる。そのため、本業による現金の増減である営業CFを足すことで、「必要な投資を行ったあとに残る現金」が算出できる。
フリーキャッシュフローがプラスだと、会社の資金繰りに余裕のある状態ということが分かる。以下の経営活動に資金を充てられるだろう。
・新事業への投資
・事業の拡大
・借入金の返済
・株主への配当金
・貯蓄 など
マイナスまたはゼロの場合は会社の資金繰りに余裕がない状態だ。会社を維持するために資金調達や不要な固定資産の売却、営業CFの改善などの対策が求められる。
キャッシュフロー
フリーキャッシュフロー+財務CFで、会社の現時点での手元にあるキャッシュが分かる。
キャッシュフロー計算書の直接法・間接法の違い
キャッシュフロー計算書の各区分は、間接法によって表示される。
ただし、営業CFの表示は直接法、間接法どちらでも作成可能だ。それぞれの作成方法の特徴やメリットを解説する。なお、直接法と間接法どちらを用いても、最終的に表示される数値は同じだ。
直接法の特徴とメリット・デメリット
直接法とはキャッシュの支出、収入を総額としてとらえて計算書を作成する方法だ。国際会計基準(IFRS)が推奨している方法でもある。本業における活動でキャッシュの増減が発生するたびに、キャッシュフローの総額を表示する。販売と仕入など相殺が発生する取引でも別々に表示し、相殺はしない。
営業取引ごとの具体的なキャッシュの増減が把握できるのがメリットだ。ただし主要な取引ごとにデータが必要となるため、間接法よりも財務処理上の手間がかかるデメリットがある。
間接法の特徴とメリット・デメリット
間接法とは損益計算書(P/L)を用いた作成方法だ。損益計算書の税引前当期純利益から、営業活動に関係のない部分を相殺または除外し、間接的に売上債権や仕入債権を加減し、営業CFを算出する。多くの企業が用いている主流の作成方法だ。
直接法と比較すると財務処理上の負担が少なく、計算書の作成もかんたんにできるのがメリットだ。一方、直接法のように収入や支出の詳細を把握できない。
直接法と間接法どちらを選ぶか
キャッシュフロー計算書は、上場企業は作成義務があり、非上場企業は作成しなくても良い。上場企業の場合は、今後グローバル化の流れを受けて国際会計基準(IFRS)が推奨している直接法がスタンダードとなる可能性もあるため、直接法を選ぶのがおすすめだ。
非上場企業で作成義務がないが、自社の財務状況の把握のために今後キャッシュフロー計算書の作成を検討しているなら、まずは手間のかからない間接法からはじめるのも良いだろう。
ほかの決算書とキャッシュフロー計算書との関係や違い
財務三表をはじめとした、ほかの決算書とキャッシュフロー計算書との関係や違いについて解説する。
貸借対照表(B/S)との比較
貸借対照表は、期末時点(決算日)時点での会社の財政状況を表したものだ。英語の”balance sheet”の略語「B/S」とも表記される。貸借対照表とキャッシュフロー計算書で対応する項目は以下の通り。
・貸借対照表の流動資産や流動負債=営業CF
・貸借対照表の固定資産や投資有価証券=投資CF
・貸借対照表の現金・預金の合計額=キャッシュフロー計算書の現金及び現金同等物
貸借対照表とキャッシュフロー計算書は対応する項目が多い。ただし貸借対照表は決算日時点での資産と負債の状況を見られるもの、キャッシュフロー計算書はある一定期間を一区切りとしてキャッシュ増減を表示したもの、かつキャッシュの増減した理由や活動内容が分かるようになっている。
貸借対照表とキャッシュフロー計算書を照合させることで現金の流れが把握できるため、経営状況が健全かどうかが分かるだろう。
損益計算書(P/L)との比較
損益計算書とは、一定の会計期間内の会社の収益と費用を記録したものだ。経営成績の指標ともなる。英語の”profit and loss statement”から「P/L」とも略される。売上高から費用を差し引いた利益である「当期純利益(粗利)」が分かる。
損益計算書は、売掛金と買掛金、在庫などの資産を含めた収益と費用を記録している。そのため、損益計算表では黒字でもキャッシュフロー計算書の営業CFではマイナス、ということがある。売掛金を回収しきれていない、在庫が滞留している、などの原因が発生しているためだ。
損益計算書上の数値を見るだけでなく、キャッシュフロー計算書を補完する意味で照らし合わせることで、本来の会社の利益や保有財源の状況が分かるだろう。
資金繰り表との比較
経営者が作成することの多い資金繰り表は、将来的なお金の流れの管理および予想する目的で作成される。月次で作成されるケースが多いが、より詳細な管理のために日次の資金繰り表を作成することもある。年次で作成されることはまれだ。
資金の増減や不足を予測するために作成されるため、キャッシュフロー計算書をはじめとした財務三表のような明確な書式は指定されていない。
キャッシュフロー計算書の必要性やメリット
キャッシュフロー計算書を作成する必要性や、メリットを解説する。
キャッシュの動きを追うため
事業経営ではキャッシュの増減を把握するのが重要で、それができるのはキャッシュフロー計算書のみだ。損益計算書や貸借対照表では利益や損失は追えるがキャッシュの状況が把握できない。
利益のみを追っていると、利益は出ているものの回収していない売掛金や在庫のみで、手元に現金がない(資金のショート)という状態にもなりかねないためだ。黒字であるものの現金がないため、仕入などで支払いができず経営状況が悪化、最悪倒産することにもなる。
投資家へ有益は情報を提供するため
キャッシュフロー計算書が上場企業へ作成を義務付けている背景には、投資家へ有益な情報を提供する目的がある。キャッシュフロー計算書を作成することで、投資家や金融機関に注目される材料にもなるだろう。
キャッシュフロー経営に活かせる
キャッシュフロー経営とは、キャッシュフロー計算書をもとに現在のキャッシュフロー(手持ちの現金)から経営状態を分析する経営手法を指す。キャッシュフロー経営によって、以下のメリットが得られる。
・キャッシュの動きを把握することで資金のショートを防ぐ
・手持ちの現金を早めに増やせるので健全な経営につながる
・資金繰りを把握することで円滑な資金調達につながる
キャッシュフロー計算書で現金の流れをわかりやすく把握しよう
キャッシュフローの概要やキャッシュフロー計算書の項目や書き方の違い、ほかの決算書との比較、キャッシュフロー計算書を作成する必要性やメリットを解説した。
健全な事業経営を行うためには、企業として手持ちのキャッシュがどの程度あるかを把握する必要がある。キャッシュフロー計算書は非上場企業には作成義務はないものの、ほかの決算書と同じく作成することで、経営へ有効活用できるだろう。