「都市型標準」になるか?500坪型ヨークフーズ新宿富久店徹底解剖
2022.04.12
2020.08.07
セブン&アイグループが成長戦略の要と位置付ける「首都圏食品戦略」の一環として、6月1日、ヨークマート、イトーヨーカドー食品館、ザ・プライス、コンフォートマーケットが統合し、「ヨーク」となった。
先立つ5月13日には千葉県市原市に統合を象徴する新フォーマットのちはら台店がオープン。その後、5月31日に食品館の14店、ザ・プライス5店の計20店を一時閉店し、6月5日に19店をヨークフーズ、ヨークプライスとしてリニューアルオープンしている。
そして17日には残りの1店、イトーヨーカドー食品館新宿富久店を改装したヨークフーズ新宿富久店を「都市型標準フォーマットのフラッグシップ店」としてリニューアルオープンした。
東京メトロ丸ノ内線の新宿御苑前から徒歩約5分、都営新宿線の新宿三丁目駅から徒歩約8 分にある都市型立地だが、近隣はオフィスとマンションをはじめとした住宅が隣接する街並みとなっている。
そのため、平日を中心に日中は、近隣で働く人の昼食需要に対応した弁当や惣菜などの「中食」の品揃えを強化。夕方には近隣に住むファミリー層に向けて夕食の支度を簡単・便利にサポートする生鮮品を取り揃えるなど、一日の中でも移り変わる食のニーズにきめ細かく対応できる店づくりを目指した。
中食需要への対応では、惣菜売場を改装前の1.2倍に拡大した他、直営のインストアベーカリーの「Bonheur(ボヌール)」を導入。
目次
都市型小型・中町店の成功事例を踏襲
同店は売場面積約500坪と比較的大型だが、「都市型」に位置づけられることもあって、レイアウトには昨年7月に「都市型小型フォーマット」としてリニューアルオープンしたヨークマート中町店(東京・世田谷)の考え方が踏襲されている。
大きな特徴は、メインの入口側に青果と惣菜、インストアベーカリーを集積したこと。食品館のときには青果と惣菜を両サイドに振り分けていたが、青果を反対側に移動した。青果と惣菜売場を過ぎると主通路沿いに鮮魚、精肉、日配と続く。もともとメインの入口からのお客の流入が多かったこともあって、集積させることにしたという。
中町店は売場が約250坪と小型だが、リニューアルに際してはインストア加工を多用する新規MDを入れつつ、いかにフォーマットとして成立させるかを追求された。その過程で入口を1カ所に絞り、そこに強みである生鮮と惣菜を集積させることを選択したわけだが、それは売場が狭かったという側面もある。今回は比較的大型の店でのその実験となるため、結果が気になるところだ。
中町店のリニューアルでは、成果を得ることができた。「地域のお客さまの支持が上がった。直近の数字でも、新型コロナの影響で全体が上がっているが、中町店はその全体の伸びと比べて10ポイントぐらい上を行く。まさにお店の力、やったことの効果でご支持を得られていると思う」(岡田太郎・執行役員企画財務室長)
中町店の場合、駐車場が狭く、徒歩、自転車での来店が中心となるため、いかに来店頻度を上げるかが重要になる。そこで、量目対応や鮮度の向上に注力した他、小型の売場であっても、大型店で取り入れていた新規MDをあえて導入。小型店のため採算性の面で大型店より厳しい面もあるとみられるが、改善を図りながらの導入となった。結果、大きな伸びにつながったとみている。
既存店で手応えを得た新規MDを随所に導入
新宿富久店は、もともとイトーヨーカドー食品館としても売上げが高い店であったこともあって、今回のリニューアルオープンに伴う売上目標は1割増と控えめ。それでもヨークとしても売上げ上位に位置する重要な店となる。
壁面側の惣菜売場では「洋風」商品を拡充し、日々の食卓に彩りを添える「冷製オードブル」や「マリネ」などを品揃えする他、米飯では大ぶりの切り身を48時間以上熟成させて作るこだわりの「漬け魚」を使用した魚系弁当を強化。
売場づくりでは、レイアウトで中町店の考え方を踏襲したことの他、ヨークマートがここのところ取り組み、成果を挙げてきた新規MDを随所に導入。店内で製造するハンドメイドサラダやフルーツデザート、鮮魚部門の素材を使った魚惣菜など「目的買い」につながるような即食商品を、相対的に値頃で展開することで集客と売上向上を目指す戦略だ。
一方の内食需要への対応としては、生鮮食品の鮮度や量目の幅にこだわりながら品揃えを強化。SMとして重要な生鮮食品を「改めて磨き上げた」(岡田執行役員)という。
青果のオリジナル商品「三ツ星野菜」は、必要な時に必要な分の養分を与え、じっくりと時間をかけて栄養を蓄えながら育てた野菜で、土物や葉物を中心に 16 アイテムを展開。グループのヨークベニマルで古くから取り扱っている商品だ。
また、鮮魚では支持の高いマグロを強化し、量目や部位にこだわって品揃えする他、精肉では生産者指定のブランド和牛で5等級の「北の恵み黒毛和牛」を訴求。肉の部位別に種類豊富に品揃えし、最適なカットをインストア加工にこだわって提供する。
また、簡便商品として、『「時短」×「簡単」×「本格的」』をキーワードに商品開発した店内加工のミールキットをコーナー展開。惣菜とは異なり、調理が必要な商品だが、材料が一通りそろっていて簡便に料理が作れるセットとして、日常使いの他、パーティやキャンプなど、持参する食材をコンパクトに済ませたいときにも最適なキットとして売り込む。
イトーヨーカドー食品館時代は、精肉、鮮魚でアウトパックも活用していたが、ヨークフーズ化に際してインストア加工を強化。例えばヨークマートでコアカテゴリーとして重視していた牛肉ではインストア加工で鮮度感・シズル感を訴求する態勢にかじを切った。インストア加工を強化しているため、従業員数は食品館時代と比べ増加している。
酒売場近く、精肉と日配売場に隣接した平冷蔵ケースでは、家飲みの際に便利なつまみをコーナー展開。精肉からはローストビーフや生ハム、サラミ、日配からはチーズといった形で、つまみとなる商品をまとめている。
隣接する酒売場ではワイン売場を1.4倍に拡大。「産地別」の陳列から「味わい別」の陳列へ変更し、POPで食シーンに合わせたお薦め品を提案する。
同店がターゲットの中心に据えるのは、特に週末においては近隣の20代~40代の若いファミリー層となるが、一方で近隣には事業所も多い。そのため、近隣で働く人の昼食需要、あるいは忙しい日の食卓の需要に応えるために、お湯や牛乳などを注ぐだけで完成するフリーズドライ商品やスープなどをコーナー化し、拡充を図った。
また、イトーヨーカドー食品館時代から、上質の商品の需要が高かったことから上質商品を強化。特に保存などの観点でメリットの多い冷凍食品で品揃えを強化し、こちらも在宅が増える中での家飲みやこだわりの食事を楽しみたいといった需要を想定し、高級店や専門店を冠した冷凍食品の品揃えを強化。「帝国ホテルキッチン」などを展開している。その他、ワインやスイーツなどでも上質商品を強化。
都市型立地ならではの品揃えとして、アジア系を中心とした諸外国で親しまれている調味料も拡充し、コーナー展開している。中国、韓国、タイ、ベトナム、メキシコなど、アジアを中心とした各国の本格料理を簡便に作ることができる調味料を強化。内食の需要が高まる中、レシピの幅を広げることで、「家にいながら海外の本格的な料理を楽しめる」ことを意識した売場づくりだ。
売場づくりにおいては店長を中心に商圏の状況を見直し、それぞれの売場で、地域に合わせた品揃えを組み立て直しながらの実施となった。結果、例えば、売場面積が変わらない中にあっても加工食品のゴンドラの台数を約1.4倍に増加している。
1号店のちはら台店では買上点数、客単価が全社平均を上回る
その他、売場ではデジタルプライスカードを導入したり、陳列棚を引き出し式にして作業をしやすくするなど生産性の向上を目指す。デジタルプライスは日配、加工食品などで全面的に導入されているが、紙のPOPの場合に必要なスキャンチェック作業がなくなる。「心理的な負担も含めて、具体的な工数がなくなることで、より商品に向かって仕事をしていくことができることは効果だ」(岡田執行役員)という。
一方、加工肉を含む精肉など生鮮部門には、デジタルプライスカードは導入していないが、「部門の仕事の仕方を変えることになるので、その辺は1つずつ慎重にやっている」(同)とも語る。特に生鮮はインストアでの商品化も多く、仕入商品とは異なる事情もあり、複雑な要素もあるが、今後、生鮮にも導入していく可能性は否定しない。
新宿富久店のアイテム数は精肉350、青果340、鮮魚290、惣菜270、ベーカリー60、デイリー食品1700、加食・雑貨6800、合計で9800となる。
新宿富久店に先立ってヨークフーズ1号店としてオープンしたちはら台店は好調だという。もともと買上点数は全社平均は11点ほどのところ、13点ほどと高い。結果として買上単価も全社平均よりも高く、計画以上で推移している。改めてフラッグシップとしてオープンした新宿富久店にも期待がかかるところだ。
ヨークフーズ新宿富久店概要
所在地/東京都新宿区富久町17‐2
オープン日/2020年6月17日
営業時間/10時~23時(通常時)
売場面積/1648㎡
駐車台数/47台
店長/中山繁和
従業員数/86人(社員21人、パートタイマー65人、8時間換算)
商圏人口(半径1.5kmの基礎商圏内)/約11万6500人(約7万5000世帯)