いなげやがイオン子会社を経てU.S.M.Hとの経営統合視野、関東SM1兆円構想目指す、コロナ後の反動が後押し

2023.04.25

イオン、いなげや、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)の3社は、「関東における1兆円のSM構想」実現を目指し経営統合に向けた基本合意書を締結したと発表した。

経営統合の方針を会見で発表したイオンの吉田昭夫社長(左)、いなげやの本杉吉員社長(中央)、U.S.M.Hの藤田元宏社長(右)

イオンは2002年5月に秀和からいなげやの発行済株式26%を取得したが、いなげやの自主経営路線を尊重し、持分保有比率を15%以下に引き下げることに合意。

その後、イオン保有のいなげや株式の一部をいなげやが取得する覚書の締結などを通じながら首都圏におけるSM事業の商品面、店舗開発面、その他分野における業務提携に関する契約書を締結するなど長年にわたって信頼関係を深めてきた。現在、イオンはいなげや株式の17.01%を保有し、いなげやは関連会社となっている。

今回、イオンといなげやの関係強化を図るため、いなげやがイオンの連結子会社としてイオングループに参画し、さらにいなげやがU.S.M.Hと経営統合する方向で合意した。「関東における1兆円のSM構想」を進めるとしている。

U.S.M.Hは15年3月の設立。「売上高1兆円、1000店舗体制」を構築することで首都圏ナンバーワンのSMを企業となることを目指し、首都圏地盤のマルエツ、カスミ、マックスバリュ関東の3社が経営統合する形で発足した。イオンは間接保有を含めU.S.M.H株式の53.59%を保有し、連結子会社としている。

イオン、いなげや、U.S.M.Hの3社は資本関係の強化と経営統合を通じてデジタル、商品、人財、決済インフラなどイオングループのさまざまなアセットを最大限に活用すると共に、1兆円のSMグループとしてスケールメリットを生かした新たなビジネスモデルへの進化を進め、企業価値の最大化を目指すとしている。

今回、グループのアセットをまずはいなげやが活用することで速やかにシナジーが発揮できると判断し、第1段階としてイオンが23年11月をめどにいなげやの議決権の51%に相当する数の株式を取得の上限として、いなげやの株式を取得。いなげやを連結子会社とするための手続を実施する。

その後、第2段階として24年11月をめどに、いなげやが他の3社と同様にU.S.M.Hの100%子会社となる形で経営統合を実現する計画。経営統合が成立した場合、いなげやは上場廃止となる見込み。

なお、いなげやの連結子会社化以降も、いなげやの独立性が確保され、いなげやの屋号、経営理念その他いなげやのコーポレートアイデンティティは維持されること、また、いなげやの従業員の雇用を維持し、雇用条件を不利益に変更しないことが明確化されている。

具体的な株式取得の手法や条件などについては今後協議の上決定するということで、現在は未定となっている。

今後はまず、速やかに「統合準備委員会(仮称)」を立ち上げ、業務提携の検討に入る。検討内容は下記のとおり。

①プライベートブランド商品であるトップバリュの導入拡大

②商品の共同調達(ナショナルブランド商品、地域商品、輸入商品)

③相互の食品スーパーマーケット、ドラッグストアの活性化に向けた取り組み、地域の客層に合わせた店舗展開等

④物流センター、プロセスセンター等の機能整理と活用

⑤資材、什器、備品等の共同調達、バックオフィス業務統合によるコスト削減

⑥クレジットカード、電子マネー、ポイントカードの共同利用に向けた取り組み

⑦ネットビジネスの共同研究、共同開発等、eコマースへの取り組み

⑧イオングループの教育制度の活用、人材交流

⑨会員情報、POS情報を組み合わせた分析サービスの提供

今回、統合に向けた動きが進んだ背景には、新型コロナウイルスによる特需があったSMが直面する「反動」がある。

20年以降、コロナ禍における外出自粛や在宅勤務の広がりよって高まった内食需要を取り込み、「巣ごもり需要」の影響を大きく受ける形でSM業界の業績は全体的に好調に推移した。

しかし、新型コロナウイルスが猛威を振るってから3年を迎え、対応も進み、次第に新型コロナウイルスの影響が少なくなっていく中、社会経済活動が正常化していくことで消費者行動の内食から外食への変化なども起こるなど、SM業界は特需の反動に見舞われるようになってきた。

コロナ前からの課題となっていた少子高齢化、消費者のライフスタイルや購買行動の変化、あるいはオンラインチャネルやドラッグストアなど他業種の食品取り扱いの増加による業態の垣根を超えた競争といった要素が次第に表面化してきた。

加えて昨今の原材料価格の高騰、賃金上昇、水光熱費の高騰による運営コストの増加など業界を取り巻く事業環境の厳しさが増している。

関東に売上高9000億円超、660店超の企業体が誕生

会見したイオンの吉田昭夫社長は、「首都圏は今後も成長を見込む有望なマーケット。この首都圏においてイオングループの競争力、プレゼンスを高めていくことは大きな事業機会につながっていくと思っている。今回は志を共にするいなげやを迎えることにより、売上高は9000億円を超え、関東にSM660店舗を超える大きな店舗基盤を擁するSM企業体が誕生することになる。SM業界を取り巻く環境が厳しくなる中、これまでの延長線上ではないモデルへと進化させていく必要があると思っている。次の成長に向けた投資を積極的に行えるだけの、ある一定のスケールを有することが必要だと考えている」と今回の方向性の意図を説明した。

また、U.S.M.Hの藤田元宏社長も「SMの置かれた事業環境は、これまでの延長線上に成長を描くことが困難な状況にある」と同様の認識を示した。

同じく会見したいなげやの本杉吉員社長は昨今の状況を踏まえ、「当社単独で変革と挑戦に取り組むのではなく、志を同じくするパートナーと共に成長していくことが最適との判断に至った」とした。

経営統合が実現すれば、9000億円超という日本のSMとしては最大規模になる。改革を進める中で「延長線上にない」新しいSMのモデルを構築することができるか。藤田社長は今後のU.S.M.Hの店舗配置について、「個社」という枠組みを超えた「フォーマット」で考えていくという認識も示した。SM業態は、新たなフォーマット構築の時代を本格的に迎えている。

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