特別寄稿 「フードテックとスーパーマーケットの協働」 SKSJ2022

2022.10.11

2022.10.07

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス社長 藤田元宏氏
プログラムマネージャー 満行光史郎氏 インタビュー 2022年9月2日

Foodbiz-net.com 道畑富美
http://www.foodbiz-net.com/

フードテックをテーマとする国内最大級の食カンファレンス「SKS JAPAN 2022 -Beyond Community-」が、9月1日~3日に開催され、330社、約830名がリアル、オンラインで集った。

さまざまなテーマで盛り上がるディスカッション

日本では、2017年より、シグマクシスがSKSJを主催し、年を重ねるごとに、副テーマにあるように、参加者数も増え、テーマもフードテックにとどまらず、人文あるいは観光分野にまで広がっている。

小売業界でも、DX(デジタルトランスフォーメーション)やデータ、AI(人工知能)、ロボットなど、情報テクノロジーの導入は喫急の課題となっており、また食品を扱う流通業においては、代替たんぱくやさまざまな加工や包装技術など、新たなフードテックと向き合う機会が増えているのではないだろうか。

SKSJでも、スタートした時点では小売流通業からの参加社は、ほとんどゼロであったが、今年度は、全体の11%と食品メーカーカテゴリー(30%)に次ぎ、小売流通業からの参加が増加した。

スーパーマーケット業界の中でも、19年からSKSJに参加しているユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスは、藤田元宏社長が登壇し、「スーパーマーケットをつくり変える」とフードテックスタートアップやベンチャーに一緒にやりましょう、と協働を呼びかけていた。

筆者も当時、藤田社長の呼びかけを聞き、テックでどうスーパーマーケットが変わるのだろうと、ワクワク期待したことを記憶している。あれから、2年半、「新しいスーパーマーケット」のプロトタイプが、22年春、つくば市に開業した。「BRΛNDE」である。

SKSJ2022にも、藤田社長が登壇し、新しいスーパーマーケットの形「BRΛNDE」を紹介し、デジタルの仕掛けであるignicaについて、さらには、フードテックベンチャーとの協業について語った。さらに、このようなデジタルを基盤とした構造改革を、いかにスピード感をもって進めているかを、満行光史郎プログラムマネージャーが具体的に説明をした。

SKSJ2022に登壇する藤田元宏社長(筆者撮影)

顧客に最大限の体験を、それを支える情報システム

「BRΛNDE」では、本メディアでも何度か紹介されているが、1号店であるつくば並木店では、グループ内ドラッグストアのウエルシア薬局と共にウェルネスをテーマに、また2号店の研究学園店では、「食にこだわる」をコンセプトに、両店とも、買物の楽しみを最大限に提供している。

店での居心地を高め、また、カスタマージャーニーにおいて、サイネージであったり、カフェやワインバーであったりと、さまざまな仕掛けを提供している。4つの提供価値として、「突き抜け鮮度」「Enrichment」「商品との出会い」そして「繋がり創出」を掲げ、多様な「場」を提供している。

ワインを楽しむカウンターもあるBLΛNDEつくば研究学園店(筆者撮影)

顧客に見えるところだけでなく、そのバックシステムとして、デジタルの仕組み、ignica Scan&Go(イグニカ・スキャンアンドゴー)が機能している。

ignicaは、for Life、for Store、for Work そしてBI、ERP/SCM分野 と5つの領域をカバーし、顧客の利便性の向上、店舗の運営、管理だけでなく、従業員のスキルアップや教育のためのアプリも含まれるという。Scan&Goでは、決済データのプロファイルをし、次の販売戦略や販促などに反映するなど、データ活用もさらに進化を深めていくのだという。

「BRΛNDE」からの広がり、波及効果

「BRΛNDE」を開業してみると、3、4割の顧客が、自身のスマートフォンを使ってScan&Goを利用している。さらに、ネットスーパーの売上げが、つくば市全エリアにおいて1.5倍に増えたという。

つくば市において、店舗を横につなぐ配送体制で、カスミの商品もBRΛNDEの商品も同時に購入できる仕組みをつくり、顧客から支持されているという。この物流体制は、今年度3月に発表した、複数店舗で在庫と配送ネットワークを共有する「ローカル・フルフィルメント・ストア」で、つくばエリア、水戸エリア、そして3つめのエリアとして幕張にて、運用がなされている。

https://www.usmh.co.jp/wp-content/uploads/2022/03/us_20220310_150.pdf

「BRΛNDE」という名称は、いろいろなものを混ぜる(Blend)から由来するそうで、 “「人」「食」「生活」「文化」が、商品・サービスを通じて交じり合うお店を目指しています。”とあるが、それのバックシステムにある人、もの、情報のつながりが、ますます有機的にネットワークしていく様子は興味深い。

フードテックベンチャーとの協働

DX人材は、内外に求めたとのことだが、協働するパートナーとの連携も、顧客体験を高めるのに欠かせない。19年のSKSJで出会った植物工場テックのベンチャー、プランテックスとの協働でもって、22年6月より垂直型植物工場、「THE TERRABASE(ザ・テラベース)土浦」が稼働しており、日産5000株のレタスが出荷されている。

TERRABASE土浦の外観(ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス提供)

農薬を使わず、従来の農法よりも節水となるサスティナブルな農法をとなり、また高栄養価のレタスが生育する。これにより、小売りという機能だけでなく、製造小売りの機能を持つこととなり、さらには、この経験値を蓄積し、本事業、「GreenGrowers」(グリーングロワーズ)を1つの事業の柱と育てることも目論んでいる。

このようなベンチャー、スタートアップの取り組みは、国内にとどまらず、9月2日に発表した、代替たんぱくを製造する米国BEYOND MEAT, Inc.との取り組みも、その1つ。

今後、サスティナブルかつおいしいメニューとなっていくのかが楽しみである。何より、このような互いに協働するパートナー、取引先との関係性が、今後の成長に重要な鍵となると、インタビューを締めくくった。

https://www.usmh.co.jp/wp-content/uploads/2022/09/us_20220902_170.pdf

お役立ち資料データ

  • 2023年 下半期 注目店スタディ

    2023年下半期注目のスーパーマーケット7店舗を独自の視点でピックアップし、企業戦略を踏まえた上で、出店の狙い、経緯、個別の商品政策(マーチャンダイジング)まで注目点を網羅。豊富な写真と共に詳しく解説しています。 注目企業における最新のマーチャンダイジングの取り組みや、厳しい経営環境と向き合うスーパーマーケットのトレンドを知ることができ、企業研究、店舗研究、商品研究などにご活用いただけるほか、店舗を訪問するときの参考資料としてもお勧めです。 <掲載店舗一覧> ・オーケー/銀座店 ・ヨークベニマル/仙台上杉店 ・ベイシア/Foods Park 津田沼ビート店 ・ヤオコー/松戸上本郷店 ・カスミ/…

  • 2023年 上半期 注目店スタディ

    2023年上半期注目のスーパーマーケット5店舗を独自の視点でピックアップし、企業戦略を踏まえた上で、出店の狙い、経緯、個別の商品政策(マーチャンダイジング)まで注目点を網羅。豊富な写真と共に詳しく解説しています。 注目企業における最新のマーチャンダイジングの取り組みや、厳しい経営環境と向き合うスーパーマーケットのトレンドを知ることができ、企業研究、店舗研究、商品研究などにご活用いただけるほか、店舗を訪問するときの参考資料としてもお勧めです。 <掲載店舗一覧> ・ ヤオコー/トナリエ宇都宮店 ・ サミットストア/川口青木店 ・ 原信/紫竹山店 ・ ライフセントラルスクエア/ららぽーと門真店 ・ …

  • 有力チェーントップ10人が語る「ニューノーマル時代のスーパーマーケット経営論」

    有力スーパーマーケットチェーンの経営者10人にリテール総合研究所所長の竹下がインタビューを実施し、そのエッセンスをまとめています。 インタビューを通じ、日本を代表する有力トップマネジメントのリアルな考えを知ることができ、現在の経営課題の主要テーマを網羅する内容となっています。 変化する経営環境において、各トップマネジメントによる現状整理と方向性を改めて振り返ることは、これからの新しいスーパーマーケットの在り方形を模索する上でも業界にとって大変有用と考えます。 ぜひ、今後のスーパーマーケット業界を考える材料としてご活用ください。 ■掲載インタビュー一覧 ライフコーポレーション 岩崎高治社長 ヨー…