イオンリテールがOMO旗艦店を出店、DXで目指す「リアルでもネットでも買物の選択肢を増やし、1カ所で対応」の実現
2022.11.09
イオンリテールが横浜市保土ケ谷区に10月18日、グランドオープンしたイオン天王町ショッピングセンターは「世代をこえてくらしを豊かにするモノ・コトが見つかる“体験型ライフスタイル店舗”」としての位置づけを持つが、同時にさまざまなOMO(オンラインマージズウィズオフライン、オンラインとオフラインの融合)施策を組み合わせた旗艦店でもあるという。イオンリテールの店舗DX(デジタルトランスフォーメーション)の現時点での集大成であるともいえる。
総合スーパー(GMS)のイオンスタイル天王町を核店とし、42のテナントを展開するショッピングセンター(SC)で、前身は1977年にニチイ天王町店ショッピングデパートとしてオープンし、その後92年に天王町サティ、2011年にイオン天王町店に屋号が変わった店舗であることから、もともと地域になじみがある。
約43年間の歴史を持つ店舗をスクラップ&ビルドし、箱型ではあるものの同社の最新フォーマットとデジタル要素を結集した売場、サービスを導入。衣食住を取り扱うGMSとして、①食と生活必需品がワンストップでそろう「フード&ウエルネス」、②地域の生活にフィットする「ライフスタイルファッション&カルチャー」、③生き生きとした暮らしを応援する「キッズ&ファミリーファッション&スポーツ」のくくりで売場を構成。
さらにそこに④物販、飲食、クリニックなど42の専門店というSC機能が加わる形で地域の需要にワンストップで応える機能を実現しようとしている。
店舗で実現する「シームレスな買物体験」
一方で、OMOでシームレスな買物体験を提供する他、従業員のオペレーション面、働き方についてもスマート化するなど、デジタル技術をリアル店舗の運営に生かす取り組みを積極化している。
象徴的なコーナーが、「“ネットでも、リアルでも”自在に注文・受け取りできる“シームレスな買物体験”を提供」することを目指す1階のOMOを実現するスペース。
イオンリテールとしては通信端末の普及やライフスタイルの変化に伴い、買物の仕方も多様化していると捉え、「ネットと実店舗の垣根を感じることなく注文・受け取りができる仕組みの展開」を目指している。
例えば、ネットスーパーでは横浜市保土ケ谷区全エリアを中心に配送区域を設定した店舗出荷型の「イオンネットスーパー」を展開。
これについては、10時~20時までのお客指定の時間帯で配送する他、指定時間内であればお客の都合の良い時間に店頭で受け取れる「ピックアップ!」として、店内専用カウンター、もしくは店内に設置されているロッカー、さらには車に乗ったままでも商品を受け取れる環境を用意するなど、選択肢を増やす施策を実施。
今回、1階のOMOのコーナーにカウンターとロッカーを設置。また、タッチパネルでネットスーパーを説明するサイネージも設置。あまりネットになじみのない人にアプローチする拠点とする。なお、ロッカーについては、スペースの反対側となる入口にも設置している。
また、今回の特徴はOMOのスペースで、あらゆる買物スタイルに対応することを目指していること。イオンリテールではネットスーパーだけでなく、「イオンスタイルオンライン」や「イオンショップ」など複数のEC(電子商取引)サービスを展開しているが、今回、それらの受け取りについて、大型商品を除いて極力、このスペースで行えるように集約した。
「ネットスーパー、オンラインショッピングが1カ所で集中して受け取れるのは当社初。ストックと受け取りを融合することで、ここで受け取れるという認識を持っていただければ、2階、3階までわざわざ行かなくても済む」(中野公現・イオンスタイル天王町店長)
これまでは、商品分野や注文のチャネルによって受け取り場所がばらばらになりがちで、それがお客にとって負担になっていると考えた。今回、新店ということもあって1カ所で受け取れることを想定して設計できた。
さらに同スペースでは買物をした商品を配送するサービス「即日便」の窓口もこちらに設置している。
ネットで注文したもの、リアルで買物したものなどそれぞれが入り組む形で、お客が望むようなサービス提供をできるようにすることがその狙いだ。
調剤、家電、情報提供をDX
その他、DXの取り組みではイオン薬局で調剤ロボットを3台導入。錠剤、粉薬、シロップ剤の調製を自動化することで服薬指導の充実を図る。処方せんの写真をスマホで送り、薬の出来上がりの連絡を待つ形の「ポケットファーマシー」も導入し、お客が調剤を待つ間に買物ができるなど時間を有効に利用できるようにしている。
さらに接触を避けて任意の時間にお薬が受け取れる「お薬ロッカー」を設置。店舗の営業時間内はいつでも受け取れる態勢としている。一方で、薬や健康の無料相談会を定期的に開催したり、在宅訪問やオンラインでの服薬指導なども展開しとりとサービス面も充実、お客は「即日便」と組み合わせることで自宅にいながら薬を受け取ることもできる。
また、2階の「ライフスタイル&カルチャー」のフロアでは、モバイル端末やIoT(モノのインターネット)家電、AI(人工知能)家電をそろえる他、さらにリフォームとも連動させ、デジタルの長所を取り入れた次世代の暮らしのトータルコーディネートを提案する複合型売場「スマートライフコーナー」を新たに展開。
端末を買いに来て、連動した家電などを見つけ、試し、それによって関心を高める売場を目指す。
イオンリテールとして、「デジタルネイティブ」と呼ばれるミレニアル世代(00年以降に成人を迎えた世代)、Z世代(90年代半ばから10年代前半に生まれた世代)を中心に、スマホやタブレット、時計などウェアラブルのデジタル端末が支持され、家電においても遠隔での操作や呼びかけで操作が可能なIoT家電が定着してきているとみており、これを受けた形の「生活の進化を提案する複合型売場」との位置づけだ。売場では機器の実演などの「体験」の要素を用意している。
さらにこれまでの培ってきた地域のつながりもDX化。デジタルサイネージインフォメーション「わが街NAVI」で行政情報や地域情報など、地域の暮らしに便利な情報を発信する。地域情報に限らず、売場での情報発信でも約80台のデジタルサイネージを売場に設置するなどデジタルの取り組みを強化している。
さらに同社では、いま従業員の働き方についてのDXを進めている。今回のイオン天王町ショッピングセンターはこれまでの店頭の取り組みに、この働き方の要素が加わった「次世代型のスマートストア」の位置づけを持つ。
勤務計画の自動作成システム「AIワーク」を活用し、計画業務を減らしてサービスの向上につなげる他、従業員が自身のスマホから勤務希望の提出や勤務シフトの確認ができ、より快適なワークスタイルとなるという。
さらに、各階のバックヤード、計3カ所に設置された情報共有ツールの「MaI(マイ)ボード」を使い、リアルタイムの情報に基づいた適切な売場運営を行うと共に、チーム力を高め、ムリ・ムダ・ムラを減らしたスマートな働き方につなげたい意向だ。
店舗や売場、商品、天気など周辺情報も含めたあらゆる情報が集約され、ボードで掲示できるようになっている。パナソニックコネクトと共同開発したイオンリテールオリジナルのツールとなる。
「いままで情報を取りに行くのが難しかったり、見ても分かりにくかったりしたものを、使いやすく、誰が見ても分かりやすいものとして開発した」(天池志光・ストアオペレーション部長)
MaIボードは、「マルチ・アクション・インフォメーション・ボード」の頭文字を取ったもので、昨年の7月から導入を開始し、現在ではイオンリテールの334店に導入済み。
商品ライン別などでの予算達成状況、売上げ、粗利益、廃棄、売価変更、在庫、客数などの営業数値やチラシ、フロアマップ、ゴンドラ、販売計画、部門別の連絡事項、天気、勤務計画の情報などさまざまな情報を見られる。天気は1km圏内の天気まで表示できるようにした。
自店の情報に加え、自社のベンチマーク店との比較などもできるため、戦略的に今後の発注や売場づくりに生かせるようにもなっている他、ボードなどでは手書きでの記入もできるようになっているため、ミーティング時など作戦を考えたり、練ったりするときに活用できる。
「今回、MaIボードを導入した1つの大きなポイント。掲示物などではなかなか伝わりにくいので、あえてこのボードの前にみんなで集まって、『何を何個売るのか』『どこでどう売るのか』を議論して、『こうしよう』と決めたことをみんなでコミュニケーション取ると。なかなか営業時間も長くて、コミュニケーションを取るのが難しくなっているので、あえてこういう場を作った。ここでしっかり議論して、決めたことをみんなでアクションする。そういう場を作っている」(天池部長)
勤務計画は、各人の情報や売上計画などをベースにAI(人工知能)によって自動で作成できるようにした。各人がどの時間帯に、何をするかということも分かるようになっている。これも自動で当てはめるようになっている。
これまでは人が考えていた他、紙に打ち出して掲示したり配布したりするなどしていたが、それらが必要なくなる。勤務計画の作業から解放されて、より販売に集中できる態勢になる他、紙の削減は、1店舗当たり月間で3000万円ほどのインパクトになる見込み。
さらに勤務計画については、申請などがスマホででき、さらに結果も確認できるようになっている。
「まだまだ完成版ではないが、月に1機能ぐらいリリースしながら、どんどん現場に寄り添った仕組みに変えていっている。ある店では1週間に4000回タッチされるほど、使われている。将来はタブレット端末などにも対応していきたい」
導入店では紙の出力がなくなったことに加え、すでに店内の移動が激減するといった効果が出ている。「間違いなく、効率化はされている」(天池部長)
まずはあらゆる買物のタイプに対応するなど選択肢を増やし、店舗を含め各施設ではそれにより利便性高く対応するための整備を行う。そして、買物行動自体、あるいは従業員の働き方もデジタル技術によって変えていく。
デジタル技術を生かしたこれら施策からは、イオンリテールがどのような小売業の形を目指しているかが次第にはっきりしてきた。これこそがイオンリテールが考える小売業のDXの形といえるだろう。
イオン天王町ショッピングセンター概要
所在地/神奈川県横浜市保土ケ谷区川辺町3-5
グランドオープン日/2022年10月18日
営業時間/イオンスタイル天王町食品8時~22時30分
衣料・暮らしの品9時~22時
イオン薬局(調剤薬局)9時~21時
専門店10時~21時(店舗により異なる)
核店舗/イオンスタイル天王町
売場面積/約2万185㎡(直営売場約1万1385㎡、専門店約8800㎡)
建物構造/鉄骨造地上3階地下1階建て(屋上、地下駐車場)
駐車台数/約520台(屋上約290台、地下約230台)
駐輪台数/約350台
専門店数/42店舗
責任者/イオン天王町ショッピングセンターゼネラルマネージャー櫻井徳文
イオンスタイル天王町店長中野公現
従業員数/1000人強(SC計)
SC商圏/3km圏約18万6000世帯、約35万人